おにぎり   作:灯火011

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あしどりもすすむ

 クマを先頭に、私、マイネン、サクナ、カキサ、そして大狼の順で致死の森を進む。空にはまだ陽があり、さあさあと風が囁く、良き日だ。各々が木の実や蓮の実を持ち、クマなどは魚をたっぷりと携えている。そしてマイネンの服はまぁ、それなりに見れる姿になってはいる。私の服についても。

 

「…流石にあの格好では街に連れ出せません」

「そうか?」

「あれでは娼婦か、痴女の類です」

 

 そこまで言われてしまっては、ということで布を一枚羽織っている。大きな前開きの布で左右から前を閉じる形だ。それを腰で帯で押さえる。刀を出しやすいよう、左の肩だけは露出してあるが。

 

「あの隠してないんだか有るんだか、よくわからない布よりはマシです。街に付いたら、いの一番に姉様とマイネンの服を手に入れますからね」

 

 そう言っていたサクナの顔は真面目だった。こういう時は、大人しく従うに限る。とはいえ、今までよりはどうにも動きにくい。いざとなれば、脱ぐ他は有るまい。

 

「なぁ、サクナ」

「はい、なんでしょう?姉様」

「そういえば聞きそびれていたのだが、あの銀糸がカキサの体に入った時、やたらと筋骨隆々になっただろう?」

 

 あれは一体何だったのであろうか?そう問いかければ、サクナはああ、と頷いた。

 

「あれは銀糸の能力です。一時的に力をあげる物ですね。ただ、私も詳しくは」

 

 首を横に振ると、サクナの美しい髪も一緒に揺れる。銀糸もである。一時的に力を上げるもの、か。ただ、その代償があの有様なのであれば、御免被りたいところだな。まぁ、幸い、こちらにはいくつかの蓮の実、木の実があったからなんとか始末出来たが。

 

「マイネンは知らんのか?」

「ええ。彼も、最終手段と聞いていただけと言っています。やはり、このあたりの秘密は王家に聞かないと判らないものですよ」

 

 ふむ。まぁ、それならそれで仕方なし。に、しても、そういう物を纏っていると認識すると、少々恐ろしい気もしてきたな。一見は美しいものなのだが。

 

「…それにしても姉様」

「ん?」

「姉様は本当、1000年前よりお美しいままで。銀糸も、腕輪も、そして耳飾もよくお似合いです」

「建前を言うな」

「いえ。マイネンも、カキサも同様の意見ですよ。まるで、漂う銀糸が天女のようだと思います」

 

 天女。この未熟な女の亜人が、か。それはそれは。

 

「はは。面白い冗談だ。サクナ」

「冗談ではないのですよ?」

「はは。で、あれば。天女の接吻を受けたマイネンなどには、幸運でも舞い降りるか?」

 

 拷問にと行った、口移しの接吻。ああ、そういえばと思う。あれは、私の初めてであったかなと。少々もったいないことをしたような、していないような。

 

「幸運は舞い降りたでしょう。殺されずに済んだのですから」

 

 サクナは苦笑を浮かべつつ、肩を竦めていた。

 

 

 私達は泉を抜けて、ランドリー国と呼ばれる国に向けて歩く。少なくとも、ハイネケンに行くよりは王城に楽にたどり着ける、という算段にすぎない。ただ、驚いたのはクマと大狼が同行してくるという点だ。

 

「お前等も?」

 

 そう問いかければ、クマと大狼は頷いて、大量の魚を抱え始めたときには、目が点になったものだ。ま、私よりも強いコイツらが居れば、百人力、鬼に金棒と言える。それに、良い死合いの相手だ。旅をするにしても、死合いは欠かせん。

 

「まだまだ、鍛と錬の最中」

 

 一日たりとも欠かせはしない。まだまだ、刀の道は途中なり。何、この布一枚…そうだな、適当に着ているから着流し、とでも名付けようか。

 

「着流しを付けていようとも」

 

 刀を自在に操れるようには、なりたいものだ。サクナなんぞはもっと分厚い布を纏って刀を振るうのだから、やはり、才能というものは羨ましい。

 

「姉様」

「ん?」

 

 そんなサクナが、マイネンの肩越しに声を投げた。さて、なんであろうかと、首を軽く撚る。

 

「先に言っておきますが。何者かが切りかかってきたとしても、いきなり殺さないでくださいね?」

「承知している」

 

 何を言うかと思えば。そんな人を殺し屋みたいに言うもんじゃあない。今までだって、切りかかってきたから切り返し…。

 

「…いや、まて、切りかかって来たとしても?」

「そうです」

 

 む。そうか、そうか。ふーむ。そうか。

 

「なぜ?」

「此処から先、我々に接触してくる奴らは、何がしか情報を持っている事でしょうから。絞り出してから殺します」

「承知」

 

 そういうことか。ならば、気をつけねばなるまいな。反射的に抜刀、大袈裟泣き別れでは洒落にならん。そうだな…。

 

「肩口で留める」

「…まぁ、それでいいです」

 

 サクナ、そんな諦めたような顔で、首を横に振るな。まるで話が通じない奴みたいな扱いではないか。殺しはしない。

 

「サクナ」

「はい。姉様」

「ここから、どのぐらい歩く?」

「おおよそ4日。我々だけならもっと速く抜けられますが、マイネンがおりますからね。遅いものに合わせます」

「そうか」

「それに、マイネンは他国に顔が知られています。暗殺の危険もありますから。不本意ですが我々が、守ってやらねば」

「ああ」

 

 その通りであろう。貴族が何がしかに巻き込まれているわけだ。よく思わない奴らが命を狙うということも有り得るであろう。我らであれば、まぁ、自衛は出来るが。人間では難しい。それに、この森にサクナやマイネン、カキサらが入ってから暫く経っている。様々な国より、何がしかの手が伸びていても、不思議ではない。

 

「父に」

 

 感謝はしておこう。才能は継げなかったが、ある程度の政の学は身につけてくれた。こういう場面で役に立つとは、思わなかったが。

 

「疑い、信じ、託し、喜び」

 

 政とは、面白いものだぞと告げていた父の顔が久しぶりに目に浮かぶ。お前もいずれは、などと言われた時期もあったような気もするが、私はその前に刀一本でこの森に入った身。

 

「まぁ、出来れば」

 

 父の顔ぐらいは、もう一度拝みたいものだ。どこかで、生きていてくれるだろうか?

 

 

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