おにぎり   作:灯火011

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ひとつの出逢い

 国家転覆を狙う輩がハイネケンより銀糸を奪った。その報告がランドリーの王の耳に入ったのは数日前。そして、その王命により急遽、致死の森へと精鋭が送られた。

 

「隊長。賊、というのはどこの輩なんですかね?」

 

 シダ。甲冑姿の大柄の男が、隊長に話しかける。すでに目の前には致死の森が鬱蒼と待ち構えている。

 

「判らん。しかし、それほどの大人数ではないという話だ。ただ、ハイネケンから銀糸を奪う事が出来るとなれば、国をまたいだ組織だろう」

 

 隊長であるカボンバは、少々疲れた声でそう返していた。古のヨルミ。―致死の森の近くに構えられた古の都の1つ。元々は亜人の街の1つで、ハイネケン側の古都とは同じ国であったらしい―。において、致死の森から溢れ出る魔獣を、ヨルミから先に逃さず、討伐するというのがカボンバの任務。

 ここ数日、その森がやたらと煩かったのだ。狼、鴉、熊。人間よりは少々大きい奴らが、やたらと街に入ってこようと躍起になっている。致死の森で何かが起きていたことは、間違いがない。

 

「疲れてるねーカボたいちょー。あたいたちだけでも、賊なら余裕だよ。やすんだらー?」

 

 フイリ。甲冑を被り、やたらと間抜けに喋る女性だ。しかし、その言葉の端々には絶対の自信が聞いて取れる。腰には一本、片刃の剣がぶら下げられている。

 

「いや、そういうわけにも行くまい。盗んだ奴らは少数という話だが、そいつらの仲間が森に潜んでいる可能性もある。人数は減らせん。それとフイリ。カボたいちょー、ではない。カボンバ隊長と呼べ」

「えー?いいじゃーん。知らない仲じゃないんだしー?」

 

 ため息をつきながら、軽くフイリの頭を小突くカボンバ。

 

「…冗談は此処までだ。そろそろ行くぞ。王命により、我らは賊を探さねばならん」

「判ってるよ、たいちょー」

「判ってますよ。隊長。さて、では、ここは重装甲のワタシめが切り込みましょう」

 

 そう言って、大柄なシダは、片手にタワーシールド、そして片手にメイスという、らしい格好で致死の森へと分け入っていく。その後ろに、片刃の剣を下げたフイリ、そして最後にカボンバが両刃の剣を携えて、森へと消えていった。

 

 

 クマと大狼のおかげか、誰も欠けること無く、致死の森は抜けることが出来た。丁度、泉を挟んで私の拠点の間反対側。ランドリーという国に属している古のヨルミ、という街へはあと一日もあればたどり着くという。私はまぁ、詳しくはないが、マイネンとサクナの言葉だ。

 

「いえ、姉様。1000年前は致死の森とその周囲が我が亜人の里の領土でしたよ。姉様、これは詳しい詳しくないというか…常識と言っても差し支えないかと」

 

 呆れ顔のサクナを見ながら、そんなものだったかと、古い記憶を思い出そうとするが、まぁ無理だ。そもそも身内と刀ぐらいにしか興味がない。興味がない地理など、とうに記憶の彼方。

 

「そうか。知らなんだ」

「姉様らしいです。本当、昔から刀ばかりで」

「すまない」

「いいえ。私としては羨ましいのですよ。姉様」

 

 羨ましい?首を傾げた。私としては、才のあるサクナのほうが羨ましい。

 

「ふふ。姉様はそのままで居てください。そのほうが、魅力的です」

 

 そうか。ならばまぁ、気にしないでおこう。さて、それはそうとして。

 

「サクナ。一つ疑問」

「なんでしょう?」

「我々亜人は人間に敗北したまでは判った」

「はい」

 

 そう、ここまでは良い。今、実際サクナのような強い亜人が、マイネンの言うままだった、という所からしてそういう仕組みになっているのだろう。だが。その場合。

 

「我々が隣国、ランドリーに入ると目立つのではないか?」

「ああ、それはご心配なく」

 

 気になっている点はここだ。野生が2匹。そして亜人が3人。しかも銀糸が纏わっているやつが、だ。それに人間1人。これはなかなか、悪目立ちするのでは?などと思ったのだが。

 

「ご心配、なく?」

 

 サクナの顔は涼しいものだ。チラリと、会話が聞こえていたであろう周りの面子の顔を伺うが、やはり、焦ってる者は一人も居ない。あ、いや…言葉が通じておらんか。

 

「ランドリーはハイネケンの同盟国、と申しましたよね」

「うむ」

「まぁ、そういうことです。亜人が銀糸を付けていても、確かに珍しいですが居ないわけじゃありません」

 

 なるほどな。そういう。と、言う事は。

 

「ランドリーに入ってからは、マイネンの奴隷として過ごしたほうが」

 

 良いということか。と、サクナの顔を伺えば、なんとも微妙な表情を浮かべていた。

 

「…まぁ、それが一番波風が立ちません。街に入る前には、ご説明しようとは思っていたのですが」

「承知した。ならば、それで」

「お願いします。お姉様」

 

 まぁ、マイネンも夜の伴に、などという無茶な命令は出すまい。奴はもう銀糸から開放されているわけだしな。それに、もし世迷事を言おうものなら叩き切るだけよ。

 

「ヴ?」

 

 と、先頭を往くクマが何かに気がついて、歩みを止めた。なんであろうかと、クマの背に軽くよじ登り、肩口から頭を出して前を見る。と。

 

『なんだ、あの化け物は!?』

『魔獣か!こんな時に!』

『うわー、でっか!やばくない、これ!?』

 

 …なにやら、慌ただしい雰囲気の甲冑姿の奴らが数名、狼狽えているじゃあないか。言葉は判らんが。サクナに軽く目くばせを行うと、頷いて、クマの前に一歩歩み出る。

 

『落ち着いてください。我々はハイネケン王国の使者です。こちらが我が主、マイネン様です』

『ハ、ハイネケン!?マイネンだと!?』

『いかにも、マイネンだ。名前ぐらいは知っているだろう?さて、諸君らの所属と名前を述べよ』

『あ、いや、んんんっ!失礼した。我々はランドリーのヨルミ、その親衛隊隊長、カボンバと申す。こちらがシダ、こちらがフイリだ』

 

 どうやら、いきなりの死合いは避けられた様子。サクナの言葉に続き、マイネンが何かを話せば、向こうの甲冑連中も頭を下げていた。さてさて、これはどう転ぶやら。

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