服を着てマイネンの元に戻ってみると、そこにいたのはシグネルという家の主。私達の姿を見ると、情緒溢れる目が私達姉妹を舐め回した。流石にと、マイネンはそれを静止し、街に繰り出す算段を取ってくれたようで。
「姉様。こちらへ」
「ん」
妹の手が私を引く。結局、マイネン、カキサ、そして妹と街へ繰り出した。クマと狼は流石に城に留守番だ。…それにしても、このように街に出かけるなど、本当、何時ぶりになるのだろうか。閑静な石造りの町並みを眺めながら、頭の片隅でそう思う。
サクナの服は、あの女性の手で情緒溢れるものとなっている。黒の布だが、体の線が非常にわかりやすい。それでいて胸元が大きく開かれ、太ももには大きく切り込みが入っている。なかなか、美しい。
「お似合いですよ、姉様」
無論、私もやられている。私は対象的に白のドレス。あの、丈の短いフリルのドレス。背中は大きく空き、胸元は広がり、そのスリットが臍の下まで伸びている。薄いフリルの手袋なども付けろと言われ、そして靴はハイヒールというもので、体幹が鍛えられそうな装具だ。そして、薄い布で足先から腿までを覆っている。それを、下着から伸びる紐で止めているのだが…まぁ、まるで娼婦ではないかと抗議の1つも入れたのだが。
『マイネン様の奴隷なら、夜も激しいのでしょう?そのぐらいの格好はしなきゃダーメ!それに、安心なさい。それだけの銀糸を纏わせながら、あなたたちを襲う勇気のある男は、このランドリーのヨルミにはいませんもの!』
…などとサクナは言われたらしい。いや、複雑だが。とはいえ、刀を抜きやすいという点においては優秀な衣服と言わざるを得ない。…まぁ、抜く度に、やたらと過激な下着が周囲に見えてしまうのが玉に瑕であろうか。
そして、そんな情緒で街中を闊歩しているせいか、やたらと視線をくらう。ふーむ、まぁ…この服ではなぁ。仕方ないと思いながら、そういえば奴隷として、マイネンの横を歩いているだけでいいのだろうか?と頭の片隅で考える。
『いやはや、同じ亜人ではありますがな。この様な美女を侍らせるなど、役得に思いますなぁ。マイネン殿も悪い気はしないのでは?』
『…まぁ』
『まぁとはなんですか、マイネン…様?。私とねえ…銀髪の亜人が貴女のために着飾っているのです。立場はわきまえておりますが…もう少し、喜んで頂かないと』
何がしかを言いながら、サクナはマイネンにしなだれかかる。ふむ。奴隷らしい行動をする、ということであろうか。ならば。サクナの逆側の腕を取り、マイネンにしなだれかかる。
「あ」
サクナが何かを言おうとしたが、目配せで黙らせる。何、立場は理解しているとも。200年の年月で、人間の常識から言えば我々はこういう存在に墜ちたということなのであろう。ならば、堂々としているという方が怪しいというものだ。それに、このマイネンは比較的、外見だけをみれば好印象。しなだれかかるぐらいは、お安い御用。
『…剣姫。私は何も言っていないぞ?』
『存じていますよ。マイネン様。…まぁ、この亜人は気ままなところがありますから…』
『そのようだな。しかし、いつまでもこうでは、困る』
『ご心配ありません。夜の帳が下りた後、たっぷりと教育致しますので』
わざわざ周囲に聞こえるぐらいで話すサクナとマイネン。そして、明らかに街中の耳の注意が此方に向いている。なるほど。ある意味これは印象を操作しているわけだ。
「姉様」
「ん」
「今日はそのまま、マイネンが主ということで突き通してください。暑苦しいでしょうが、少々」
「気にしてない。むしろ、これで良かったか?」
「はい。十二分です。まぁ、ただ、胸をそれ以上押し付けるのは、おやめください」
ふむ。付けていたほうがより、奴隷らしいと思ったのだが。
「承知」
サクナから言われれば、大人しく従う他無いだろう。少ししなだる力を緩めて、胸を腕から離す。
『助かる、剣姫』
『いえ。いえ。いくら我々が奴隷であろうとも、所構わずではただの猿。マイネン様に付き従う常識を教えたまでのこと』
『…助かる』
…青筋が浮かんでいるぞ、サクナ。マイネンの顔が引きつっているではないか。ま、それはともかく、良い感じで奴隷と主という関係を演じられていると思っていいわけか。
と、マイネンの足が、一つの店の前で止まる。…ふむ、店の名前も読めん。サクナに目を配らせると、頷いて、口を開く。
「酒場です」
「承知」
なるほどなるほど。酒場と来たか。確かに、腹は減っている。それに、ここ1000年、魚と実しか口にしていない。現世の食事を喰えるというのであれば、それはそれはとても楽しみだ。
「サクナ。現世の飯は、旨いのか?」
「…そうですね。少なくとも、森の姉様の食事よりは美味しいですよ。ただ、ここヨルミはあまり新鮮な食料が手に入らない場所ですので、あまり期待はせずに」
「承知した」
そういうことならば、楽しんで食うとしよう。ああ、まぁ。奴隷として、だがな。
「サクナ」
「はい」
「マイネンに酌などしてやったほうがいいのか?」
「…ええ。ああ、でも、この様な場での主へのやりとりは手慣れていますので、基本的に私に任せてください。姉様は、見ているだけで結構です」
「む。そうか」
「マイネンからも、新しい亜人だということを吹聴してもらいますから。たんと、お食事を楽しんで頂ければ幸いですよ」
「承知した。楽しむとする」
「ええ。ぜひ。…ですので、まぁ、私とマイネン、そしてカキサが行う行為については」
サクナは私の目を真っ直ぐ見て、強くこう言った。
「ここからは情報収集も兼ねますので、知らぬ存ぜぬ、見ておらぬを貫いて頂ければ、幸いです。」
…幸いです、と言いつつ、その口調は『記憶せずに忘れてください』と雄弁に告げている。ふーむ、つまりこれは、碌でもないな?
「そうしよう」
ならば、そのとおりにしよう。サクナとマイネンが何をしていても、気にしない。