おにぎり   作:灯火011

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※少し叡智です。苦手な方はご注意を。


媚薬は踊る

「現状ではあまり何も判らない。というのが、私とマイネンの結論です」

 

 会話を終えたサクナが、かいつまんで要約してくれた。わかりやすい。

 

「そうか。怪しさはあれど」

「ええ。今日、この日。マイネンが来た日に、各国の要人クラスがこの森の眼の前の街、その酒場にいるというのが怪しさ満点と言えるでしょう」

 

 然りだ。森の前の街。城の持ち主が犬すら飼えないということは、街中で魔獣に襲われる危険性が有る治安の悪い街ということ。この場に、要人が集まるということが、可笑しい。

 

「明日、匂わせてきた商人に会います。それ次第ではまた事態が動くでしょう」

「ふむ。カキサは?」

「彼は彼で上手くやると思います。おそらく今、要人の奥方達を骨抜きにさせていることでしょう。明日、情報を持ち帰ってきてくれると」

「そうか」

 

 ならば一つは安心、というところか。1つ息を吐いて、天井を見る。

 

「サクナ。1つ疑問」

「なんでしょう?」

「マイネンは耳飾りを付けていない。亜人の主と、判らないのではないか?」

「ああ…その点はご心配なく。耳飾は確かに主の目印ですし、持っていたほうが確実に命令を聞きます。ですが、その主から、例えば国王からマイネンに付き従えと言われれば、命令に制限がつきますが、マイネンが仮の主になります」

「ふむ」

「それを見分ける手段はありません。他国の人間からすると、亜人が奴隷のように付き従っている、というだけで、主と認識されるのです。それに」

「それに?」

 

 サクナがコホンと咳をして、改めて口を開く。

 

「ハイネケンは強大な国です。その要人、しかも亜人が守っているような要人に喧嘩を売る人間はいませんよ」

「そうか」

 

 頷いておく。なるほどな、そういうカラクリが有るわけか。ただ、そうなるともう一つ疑問が浮かぶ。

 

「で、あればサクナ」

「はい」

「やはり、この媚薬は、亜人転がしは飲まずとも良いのでは?」

 

 やはり気になるこの媚薬。それだけの力を持つマイネンなら、断ればいいじゃないかと思うのだが。駄目なのだろうか。

 

「…ああ。それが出来ればいいのですが」

「何か問題が?」

「断る、ということは亜人と寝ないということを意味します」

「ああ。そうだな。力を押さえ、理性を飛ばす、のだからな」

「そうです。そしてこのマイネン。必ず、護衛についてきた、女の亜人を抱きます。今思えば、王なのか、誰なのか。そういった糸を引く連中のナニカの策だったのでしょうが。そういう印象がついているのです」

 

 印象か。つまり、もし、今日この媚薬を使わなかった場合。その必ずの習慣が壊れる事を意味する。となれば。

 

「この城の主の面子が潰れるわけか」

「はい。お察しの通りです。そしてそれは、他国であれば、同盟国であればあるほど、ハイネケンとの関係に響きますからね。あの城は、いつも亜人の女を抱くはずのマイネンが、女を抱かなかった、警戒に値する城だ。その城を有するあの国は、ハイネケンの敵だ。などという噂すら、立ちかねません」

 

 ふーむ。厄介な政だ。もしここでそんな噂を立てられてしまっては、今後が動きづらくなる。ならば、今日の所はやり過ごすしかあるまい。

 

「状態は判った。ならばサクナ。ひと思いに呑むとしよう」

「…はい、承知しました。では、マイネンにも伝えます」

 

 

 ベッドの上では、ほぼ裸の私とサクナ、そして、完全に全裸のマイネンが向かい合って座っている。まぁ、誤魔化しの会ともいうが。

 

『ああ…目に毒だ』

『おっ立ててよく言いますね、マイネン』

 

 ぼそりと呟いたマイネンに、何かをピシャリと言いつけたサクナ。すると、マイネンが気持ち小さくなった気がする。

 

「では、段取り通り。まず、この酒を姉様が飲み干します。そして、まぁ、私に任せていただいて、このベッドを汚します。この城の目を、完璧に誤魔化します」

「うむ」

 

 頷く。マイネンも、覚悟を決めた顔だ。手はずでは、私が先に亜人転がしを呑む。そして、意識がなくなった私をサクナが手淫。ベッドを汚し、その後に拘束し朝まで放置。サクナとマイネンは、すでに何度も事に及んでいるので慣れたものらしい。ま、ごまかさずに言えば、まぐわるという話だ。無論、貫く、貫かないは今宵は無し。全員手淫、という手はずである。

 

「姉様。こちらを」

『マイネン。これから姉様が飲みます。事が終わるまで、こちらを見ないように!』

『判っているとも!』

 

 マイネンが背を向けた。そして、サクナから瓶を手渡される。よし。こういうものは一気に行くとしよう。ぐいっと。

 

「…」

 

 喉を焼くような酒だなと思う。が。特に何もない。サクナの顔を見ると、驚いたように目を見開き、首をかしげていた。

 

「姉様、まだ、意識が?何か、変化は?」

「うむ。特に、何も変化はない。強いて言えば、呑む時に喉が焼けた、ぐらいだ」

「ううん?可笑しいですね。不良品、でしょうか?うーん、何もない…のなら、私も飲んでみます」

「ふむ」

 

 サクナも私と同じ様に、瓶を一気に空けた。と、その瞬間だ。ビクリと一回はねた後、黙りこくってしまった。

 

「サクナ?」

「…」

 

 目がトロンと脱力し、口がだらしなく空き、よだれが垂れ始めた。なんだ、どうした?と、思った次の瞬間。

 

「はむっ!」

「んんんっ!?」

 

 いきなり微睡んだと思えば、急にこちらに抱きつき、唇に吸い付いたサクナ。柔らかく、甘い。ではなく!

 

「ええい!」

 

 とサクナを軽くぶん投げた。ひっくり返るサクナ。媚薬の効果という奴か。見境なしとは本当だな!ええと、確か縛り付ければ問題ないのだな!と、サクナの腕をつかもうとしたその瞬間だ。

 

「むぐ!?」

「はむっ!」

 

 私の腕をすり抜け、飛びついたサクナの唇が私の口に吸い付いた。ええい!本当に淫靡なことしか考えていない!厄介事だな!あっ!?舌を入れるなこの!

 

「やめろ!」

 

 ぐっと肩を持ってサクナを離す。幸い、私はまだ媚薬の効果が出ていないらしく、力が残っている。のだが。

 

「えへへ。ねぇさまぁ。いっしょに寝ましょうよぉ」

「やっ!?」

 

 絡み付くサクナの腕に、苦戦する。糞、触るな下半身を!ええい。本当に隙あらばどこまでも蛇のように絡みつく。マイネンは何をしているんだと視線を向けてみれば。

 

『何も、何もみていない。いや、見ない』

 

 律儀にサクナの言うことを守ってか、視線を外している。いや、いや。まて。それは不味い。取り抑える事は協力してくれ。

 

「マイネン。手伝え!うんっいっ!?」

 

 だぁ!指など入れるなサクナぁ!そして感じる。私は意識は失っていないが、かなり体には媚薬が効き始めたようだ。背筋が勝手に反ってしまう。

 

『どうされました姉殿…?な!?』

「抑えろ!あっ?!」

 

 ええい、妹とまぐわうなど何の冗談か!状況を理解したマイネンがすぐさまと妹の肩を押さえて、私からサクナを引き離す。

 

「はー、はー、はー、はんっ!?」

 

 指が抜ける。ビクリと、勝手に体が跳ねた。いかん。媚薬が良く回っている。これは、これはいかん。

 

「よらしくない。よらしく、ない」

 

 口もと回らん。確か、何だったか。ああ。多少なりともベッドを汚さねばならんのだったか。いやまぁ、サクナは問題はない。マイネンに絡みついてどえらいことになっている。

 

『マイネンさまぁ。ほら、ほらあ』

『よせい剣姫!お前意識が戻ったら後悔するぞ!』

『関係なぁいの!ほら、あ、あ、あ』

『ぐおっ!?』

 

 野獣。妹は野獣だ。剥かれるマイネンに跨がり、自ら貫かれるサクナ。いやはや、なんたる地獄。しかし、銀糸がなくともこうなるとは、媚薬とはさも恐ろしい。

 

「いやしかし」

 

 妹とマイネンのまぐあいを見ながら思う。これは、私は特に何もせんでいいな。マイネンとサクナの精で汚れに汚れることだろう。…いや、ではなく!何この状況を受け入れているのだ私は!サクナをマイネンから離すべく、体を動かす。と、先に動いたのはマイネンだった。

 

『これ以上勝手を許せるかっ!』

『あんっ!マイネン様のいけずぅ!』

 

 叫びながら、マイネンが無理矢理サクナを引っ剥がす。そして、無理矢理剥がされたサクナはゆっくりとバランスを崩し、私の体の上にのしかかった。

 

「あはっ。ねぇさまだ!」

「不味っ」

 

 時すでに遅し。三度、唇がサクナの玩具になったことは、言うまでもない。

 

 

『落ち着きましたな』

「落ち着いた」

 

 サクナをベッドの足に無理矢理縛り付け、なんとか事なきを得た。言葉は通じん。しかし、マイネンと共にため息を吐き、安堵の気持ちは通じ合う。

 

「ねぇさまぁ。寂しいですぅ」

 

 いや。心の安泰は遠いか。どうするこれ。と、私の微妙な顔を読み取ったマイネンが、口を開く。

 

「放置、が、良い」

「承知」

 

 放置か。ならばまぁ、そうしよう。さてさて、状況はまるで逆になってしまった。

 本来なら縛られているのは私のはず。なのだが、こうなると、マイネンと私がまぐわうしかないのか?と頭を抱える。

 

「無理、は、しない、良い」

「感謝」

 

 マイネン。カタコトでよく伝えてくれる。と、なると、出来ることと言えば、このシーツをぐしゃぐしゃにすることぐらいだろうか?…しかし、この媚薬は本当に効く。サクナも、私も渇き知らず。どこがとは言わんが、まるで泉かと見間違わんばかり。なるほどな。これでは相手も本気になることだろう。納得、納得。

 

「とはいえ」

 

 疼く。1000年の間にも何度がこういう時があったが、それにしてもこれは。が、マイネンの前や妹の前で亂れる訳もなし。薬が切れるまで、これは、戦いの時と言えよう。

 

「いや、しかし」

 

 こう見ると、マイネンも案外といい男のような、気もするが。いや、いや、気をしっかり持て。流されるな。

 

 いや、しかし。

 

 いや、流されるな。

 

 いや、しかし。

 

 

 ―などと問答をしていると、気づけば眠りこけてしまっていたようで、布団の中で不意に目が覚めた。

 

「ん」

 

 視線を動かしてみれば、そこにあったのは縛られたままのサクナ。なるほど、こちらはこちらで無事に夜を明かしたようだ。さて、マイネンはどうだと体を動かそうと思ったときだ。

 

「動けん」

 

 どうやら、手首というか、体を縛られている。と、いうことは、私も媚薬に呑まれたか。いやしかし、記憶は無い。む?

 

「媚薬の効果が抜ければ、記憶があるという話だったが」

 

 それともいっとき、思い出せないだけなのか。と、隣の布団がもぞりと動いた。マイネンか。

 

『朝が、来たか』

 

 予想通り。裸体の男がのそりと、布団から這い出る。が、その顔に浮かぶのは濃厚な疲れ。ふむ。これは寝れていないな?

 

「マイネン?」

『これは、起きられたか、姉殿』

 

 さらりと頭を撫でられる。ふむ。これは女慣れしている。しかし、なぜそんなにおっかなびっくり手を出すのか。

 

「ん?あああぅ!?」

 

 と、謎の叫びを上げたのはサクナ。どうやら、一発で覚醒したらしい。

 

「マイネンを、私はマイネンを!?ああ、姉様の体まで!?あ あっ!姉様!申し訳ありません!」

 

 おや、どうやらあちらは記憶がバッチリ残っている様子。バリッと手首の拘束をはねのけると、私の前で見事な土下座を決めた。

 

「気にしていない。悪くない」

 

 我ながら、自分の口から出た言葉が酷い。何が悪くないだ。回っていない頭で出た言葉にしてもひどすぎるだろう。と、サクナは土下座をやめ、マイネンに向き直った。

 

『そしてマイネン!』

『やはり、来たか』

『まず、大変、申し訳ありませんでした。我ながら油断しました。途中で止めて頂き、ありがとうございます』

『かまわない。むしろ、最初に止められなかった私が悪い』

 

 何がしかをマイネンと話したサクナ。そしてサクナから頭を下げた。なるほど、なるほど。まぁ、理性的に事を収められたのは1つ良いとしよう。しかしだ。

 

『ただ、その、マイネン。大丈夫、ですか?』

『………幸い、まだ付いている』

『なら、ええ。いや、まあ』

 

 なんだ、その微妙な雰囲気。いや、考えてみればサクナはずっとベッドの脚にくくりつけられていたわけだろう?なぜ、マイネンがここまで疲弊しているのやら。私もこの通り拘束されている。一体、何があったのか。ふぅむ。私の記憶はまだ戻ってこない。

 

「サクナ」

「あ、はい!なんでしょう姉様!」

「なぜ、その様な微妙な雰囲気なのか。それに、マイネンが疲れ過ぎではないか?」

 

 私がそう言うと、サクナは目を見開いていた。む…?

 

「…姉様?覚えておられない?」

「…うむ?」

「あ、いえ。で、あれば、思い出さないほうが良いかと存じ上げます」

「…む?」

 

 なにかやらかしたか、私が。マイネン?

 

『はははは。何を見ておるんですかな。姉殿。いや、しかし、姉殿の技術たるや、死ぬかと思うほどでしたよ』

『…あの、マイネン。姉様、昨日の、アレ。覚えていないそうです』

『ははは、はは。…そうか。なら、黙っておこう。伝えてくれるなよ。サクナ殿』

『はい。そうしましょう』

 

 …こいつら、何も教えん気だな?こちらをチラリと見ながら、ヒソヒソと話をして。なんだ、何か嫌な予感が。

 

 ―と、サクナの口元が視界に入る。ふむ。いやしかし、昨日は実に異様な夜だった。まさか、サクナの唇と4度交わる…。

 

「…4度?」

 

 いや、3度でなかったか?と、そこでとんでもない画が頭に思い浮かぶ。サクナに絡みついている私の腕。あ、いや、それどころか、マイネンの股に…。

 

「ごはっ!?」

 

 いや、いや、いや。冗談ではない。ええっ!?あ、いや、本当に私か!?この記憶は!?

 

『…サクナ殿、姉殿は大丈夫ですかな?』

『ああ…思い出されてしまったのですか…!姉様!』

 

 あ。いやいやそんなこと!?あ、ちょ、あ、サクナにそんな!いやまて私はマイネンのナニを!?馬鹿か!なんだこれは!

 

「姉様、大丈夫ですか?」

「あ、う、いや、あまり」

「亜人転がし。逆らえるものではないでしょう?」

「…はい」

 

 頷いて、肩を落とした。いや、最初こそどうやら私は効かないのか、と勘違いしたが、毒の回りが遅いだけのようだ。回ればもうタガが外れて一巻の終わり。いや、それどころか。下手をすれば1000年の欲望がぶち撒けられたと言ってもいいかもしれない。研鑽の影に隠れた、私の欲。…よく、マイネンは私を押さえてくれたものだ。

 

「これは、駄目だな」

 

 瓶を拾い上げる。そうか、よく、判った。これが亜人転がし。有る意味銀糸よりもとんでもないものだ。まぁ…ただ、記憶の限りで言えば、私が最後に行く前に、貞操は守っていただいたようなので…。

 

「感謝、マイネン」

 

 マイネンという男に、頭を下げておくこととする。

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