おにぎり   作:灯火011

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朝の禊

 汚れた一枚布をそのままに、城の中を歩く。全く、亜人の扱いが雑すぎやしないか、とため息が出そうになる。だが、サクナは涼しい顔だ。と、なれば、今の人間の倫理観はこの程度のもの。諦めるしかあるまい。と、そのメイドがこちらの顔をじろりと見た。

 

『あらぁ…。これはこれは。仕上がったのねぇ。ほら、早く歩きなさい?朝の禊をしてあげるわぁ』

『お願いします。ああ、マイネン様の禊も』

『もちろんよぉ?』

 

 良くも悪くも。あのねっとりとしたメイドからは認められたようで、私の顔をみるやいなや、満面の笑みを見せてきた。

 

『うん、うん。あらぁ、随分ご奉仕したのねぇ?ちょーっと臭うからぁ、歯も磨いて、あとはハーブティーも用意するわねぇ?』

『ありがとうございます』

 

 メイドは私の顔をくんくんと嗅ぐと、またにんまりと笑みを浮かべた。

 

「姉様」

「ん」

「メイドの目は誤魔化せたようです」

「承知。ならば良い」

 

 媚薬の効果とはいえ、アレだけのことをしたのだから、まぁ、ごまかされなければ困る。ただの損だ。と、思ったときだ。水浴の部屋の前に辿り着いた。

 

『じゃあ、ここからはお任せあれ。また綺麗にしてあげるわよん。あ、その前に』

 

 不意に、胸に手を当てられた。なんであろうか?と、思いきや、胸の真ん中になにやら紋が浮かぶ。その紋と、手にした瓶を交互に見て、メイドは大きく頷いた。

 

『…うん、ちゃんと間違いなく飲んでいるわね。亜人転がし。毒消しは不要ね?』

『もちろんですよ。私とこの銀髪の亜人で使いましたから』

『ええ、ええ。大丈夫ね。では、参りますわね』

 

 メイドが扉を開くと、大きな風呂桶が目に入り、そして、裸の女たちが数名。ふむ。これは昨日と同じだ。つまるところ、これから私とサクナは、体を思いっきり洗われる。

 

『さぁ、皆!お仕事よ!このマイネン様の愛玩を、しかりと磨き上げなさい!』

『『『『はい!承知いたしました!』』』』

 

 そして、彼女らが洗布と石鹸を持ち、私達の回りを取り囲む。さて、さて。では、身を任せるとしよう。

 

 

 マイネンは身綺麗に成った体で、馬車に乗り込んでいた。正面に座るのは黒と白のドレスを着込んだ姉妹の亜人。隣に控えるのは、若い亜人の男。その馬車に付き従うように大きなクマがのしのしと歩き続けている。

 

「さて、カキサ。何か情報はあったか?」

 

 マイネンは隣に座る若い亜人、カキサへと話しかけた。

 

「残念ながら特には。ただ、1つ噂がありましたな」

「噂か」

「ええ。最近、やたらと金払いが良い商人がいるとかで。何か別の商売をやっているんじゃないかと」

「ほう?」

 

 マイネンは眉毛をピクリと動かした。釣られるように、話を静かに聞いていた黒のドレスの亜人、サクナもピクリと視線を寄越す。

 

「あくまで噂ですが。その商人の名前はゴルチゾ。ここ20年で一気にこのヨルミのトップクラスに駆け上がった商人です」

「それはつまり」

「ええ。これから向かう商人、ということでありますな。いやはや、縁とは奇妙なものだと思いますなぁ」

 

 カキサはカラカラと笑いなが、そう告げる。それを見ながらマイネンは、眉間に皺を寄せ、そして背もたれにもたれかかりながら1つため息を吐いた。

 

「となれば、この誘いも罠の可能性もあるわけですね?カキサ」

「ええ。良い着眼点ですぞ、サクナ殿。しかし、昨日の奥方達も詳しくは聞かされていない、と言うに徹していたようでして。流石、要人の奥様といった具合でありましたな」

 

 カキサは残念そうに首を振りながら、1つ息を吐いた。

 

「ま、とはいえ、心配はいらんでしょうな。私にサクナ、その姉君。そして外にはあの熊の野獣。罠に踏み込むにせよ、過剰戦力とも言っていいでしょうな」

 

 悪い笑みを浮かべながら、カキサはそう締めくくる。なるほど確かになとマイネンも、サクナも思ったのか、揃って頷いていた。

 

『サクナ?何を話している?』

 

 一人、それを理解していない亜人がいた。

 

『ああ、姉様。これから向かうゴルチゾ。もしかすると、賊とつながりが有るかも知れぬ、という話です』

『む。それは拙いか?』

『いえ。特に。私や姉様、カキサ、そしてクマがいるので、罠だった場合は逆に相手が可哀想という話をしておりました』

『それは確かに』

 

 納得したように、銀の髪が美しい亜人が頷きを見せる。その腰には一本の刀。サクナ、カキサらも、刀を一本備えて、準備万端といった具合だ。

 

「まぁ、サクナ殿、姉殿、カキサ殿は私が死なぬように護衛するように頼む」

「ええ。もちろんですよ」

「無論、不埒な輩だった場合は、首を落として構わん」

「承知しております」

 

 頷き、そして表情を引き締めたサクナ。銀糸の制御が無いとは言え、今この場での協力関係はある意味、強いものがある。何せ20年を過ごした相手だ。いい意味でも、悪い意味でも。相手をよく知っている。

 

「では、頼むぞサクナ殿」

「ええ。頼まれました、マイネン」

 

 軽く握手をするサクナとマイネン。そこに、ワダカマリは無さそうだ。

 

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