おにぎり   作:灯火011

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商人と亜人と。

「これはこれはマイネン様。ご足労を頂きまして、真に感謝致します。わたくし、改めましてゴルチゾと申します」

「ご丁寧に、出迎え感謝する。ハイネケン王国に属する貴族、マイネンだ」

 

 馬車に乗せられて辿り着いた先は、このヨルミでも屈指の規模を誇る建物のひとつ。門には護衛が数人立ち、魔獣の襲撃にも耐えられそうな分厚い壁が建物を囲んでいる。

 

「ええ、ええ、存じておりますとも。ささ、では、早速中にお入りください」

「ああ。無論、護衛もお邪魔するが」

 

 マイネンが目配せをすると、3人の亜人が腰を折り、そしてクマがのそりとその脇に立った。ゴルチゾは全く動じず、むしろ笑顔で頷きを見せる。

 

「もちろん、もちろんでございますとも。さあ、さあ。もう昨日から首をながぁくして待っておりました。ああ、そして亜人の護衛様。こちらが噂の剣姫!ああ、昨日も美しかったが、今日この日の下で見るそのご尊顔がもうお美しい!そして白の君…ああ、また相見えるとはなんたる幸運か!?その銀糸、耳飾り、輪!その全てが調和して、その銀に輝く髪が更に美しい!ああ、ああ、なんたる。なんたる!神よ、感謝します!」

 

 両腕を天にかかげ、はちきれんばかりに叫びを上げた。思わず、マイネンのほうが一歩引いてしまうぐらいの勢いだ。

 

「…ゴルチゾ様。主をこの場で立たせ続けるというのであれば、我々は帰りますが?」

「おおお!?これは失礼を!では、参りましょう!ああ、お前たち、馬車の仕舞いと門の警備はしっかり頼むぞ!」

「「は!ゴルチゾ様!」」

 

 門番へと指示を飛ばしてから、ゴルチゾは建物の中へと歩みを進める。マイネンはその建物をじろりと見た。確かに、貴族らしい建物だと思った。レンガ造りに、ガラスの窓。屋根には良い木材と、焼き瓦が使われていて、なるほど金が掛かっている。

 そして、その門。おそらくは巨大な木を掘り上げた一枚板を贅沢に使ったそれを、ゴルチゾ自らが押し開く。

 

「さ、どうぞ。我が家へ。マイネン様の自宅に比べれば、もう、みすぼらしいものですが。おくつろぎくださいませ」

 

 そして腰を折ると、マイネンたちを招き入れた。まず玄関、地続きのロビーは広い。シャンデリアが飾られて、なるほど成金屋敷の体だ。しかし、マイネンは見抜く。ありがちな、粗悪品はこの家には無い。その品質に妥協は無い。剣姫や生き字引も同じ様子で、小さく頷いていた。

 

「…これほどの品を揃えられるとは。ゴルチゾ殿」

「お褒め頂き恐悦至極に存じます。マイネン様。さて、ではあちらの部屋をご用意しておりますので。ひとまずはお休み頂ければ幸いです」

 

 指し示されたのは、両開きの大きな扉。クマでも入れそうな扉だ。それを、またゴルチゾが開くと、巨大なテーブル、そして多数の椅子が並んでいる。窓からは光が入り、室内だと言うのに全く憂鬱さを感じられない造りになっている。

 

「ではわたくしめは、少々、資料を持ってまいります。テーブルの上のものは、食べて飲んで頂いて構いませんので、ごゆるりと」

 

 ゴルチゾは、一礼をして扉を締めた。マイネンは一息、ため息を吐くと、用意されいる椅子に座る。

 

「なかなかの実力とみたが、剣姫。どうだ?」

「ええ、同じ意見です。粗悪な品が1つもない。むしろ、金だけでは手に入れられない品物も多いですね。生き字引、あなたは?」

「同じ意見ですな。あの扉だけでも逸品だと判ります。いやしかし、となると…」

 

 カキサは何か引っかかるようで、眉間にしわが寄っていた。

 

「判るぞ。生き字引。一代でなした財にしては、大きすぎると私も思うのだ」

「まさに。と、なるとあのゴルチゾ。ただの商人では無さそうですな?」

 

 カキサの言葉に、剣姫も頷く。あまりに良い調度品。そして、目の前に置かれた食事。これも、この街では手に入りにくい、海産物がふんだんに使われている。と、なると。明らかに何かが可笑しい。やはり一代で気づいた財産というには、分相応ではないのだ。

 

『喰ってよいか?』

『あ、ええ、姉様。どうぞ…あ、ただ、毒が入っている可能性も』

『まぁ、その時は実を喰えばよい』

 

 と、その時だ。サクナの姉が、ひょいと食事を口に入れた。マイネンは目を見開き、それを止めようと思わず体が動く。なにせ、初対面で出された、しかも用意されていた食事。普通は毒などを考えて手をつけるものではない。

 

『む。これはなかなか。旨いな』

 

 だが、姉はひょい、ひょいとそれらを口に運ぶ。贅沢に油で揚げられた魚や、なにがしかの赤いソースが掛かっているエビ、丸い生地の上に様々なものが散りばめられ、焼かれている料理など、もぐ、もぐとうまそうに平らげていく。

 

『姉様。大丈夫ですか?』

『大丈夫だ。特に、異常はない。旨いぞ。サクナやマイネンは食わんのか?』

『…一応、マイネンはただの人間ですから。それに私も付き人なので、主が喰わねば喰うわけにも』

『む。そうか。喰ったのはまずかったか?』

『いえ。毒見、ということにすれば何も問題は』

 

 マイネンとカキサは首を傾げながら、その会話を耳に入れる。だが、古代の言葉で交わされる姉妹の言葉は、まず理解できるものではなかった。ただ、マイネンは『旨い』とだけは聞き取れたようで、少し、料理を凝視している。

 

「剣姫。何を話している?」

「マイネン様。食事は毒もなく、味も上等、とのことです。召し上がられますか?」

「…ふむ。いや、私は待つ。ゴルチゾのことは信用できん。食うとしても、ヤツに先に口にさせる」

「承知致しました」

 

 そうやって、ゴルチゾが再び部屋に現れるまで待つと決めたマイネン。と、その横では、我関せずと自由に動く奴らが居た。

 

『クマ、喰うか?』

『ヴ』

 

 サクナの姉は、エビをクマの口に放り投げる。すると、器用にそれを空中でパクリと頬張るクマ。そして。

 

『ヴ、ヴ』

 

 大きく頷いた。まるで、旨いぞ。と言っているようだ。

 

 

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