おにぎり   作:灯火011

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ゴルチゾの宴

 ゴルチゾ。昨日の夜、私が倒した商人だ。その拠点で用意されていた食事を口に放り込む。サクナは毒かもしれん、という心配をしている。確かに、亜人転がしのような毒酒が混じっていれば、イチコロであろう。まぁ、だからどうしたと思いながらそれを喰らう。

 

「ヴ」

 

 クマも皿から、エビやらなにやらを摘む。ま、それにだ。この場でもし毒などを入れれば、このクマやサクナ、カキサあたりがあの商人を殺すことだろう。あの商人、いくらなんでもそのような愚は起こすまい。

 

「クマ、旨いな」

「ヴ」

 

 ふむ。エビはぴりりと辛い。そしてこちらの揚げ物、これはタンパクで実に良い。この隣の黒いツケダレ。少々とろみがあるそれを付けて食うと、まぁ、よく合う。出来うることならば、白い米がお供にあると良しだ。

 と、そうやって私とクマが舌鼓を打っていると、部屋のドアがゆっくりと開いた。マイネンやサクナ達の視線がそちらに向かう。

 

『これはこれは!銀髪の亜人様、楽しんで頂けているようで何よりです!そしてマイネン様、お待たせいたしました。お料理はお口に合いましたかな?』

『いや、口は付けていない』

『ああ、これは失礼を。初対面な上に、ただただ料理だけを置いていては、怪しまれても当然というもの』

 

 ゴルチゾはいそいそと席に座り、皿から料理を取ると、すぐさまそれを喰らい始めた。

 

『いやはや、実は皆様との食事を楽しみにしてましてね。気持ちだけが逸ってしまいました。さ、ぜひ、ご一緒に』

 

 どうやら、ゴルチゾは毒は入っていないぞ、と言っているようだ。笑顔で頷いている。それを見たマイネンが、1つ、エビを口に放り込んだ。

 

『…ほう、これはなかなか。新鮮なエビを、甘辛く。良い取り引き先をご存知のようだ』

『これはこれはマイネン様。お目が高い。こちらはヨハムの漁港より取り寄せたイセエビなる珍味です。ただのエビよりもとてもとても甘みが強く、料理しても美味しいのです。いや、いや、偶然とは言え、お出しできるとは思いもしませんでした』

 

 にこやかに、屈託なく笑うゴルチゾ。ふむ。どうやら、この食事には毒は無いようだ。マイネンの顔色も変わらない。

 

『ああ、そしてこれが昨日お伝えした内容をまとめた書類でございます』

『ほう。これか。随分分厚いな?』

『ええ。口頭でお伝えしますと齟齬が出てしまう懸念がございますので』

 

 そして、ゴルチゾから何かの書類を受け取ったマイネンが、それをじっくりと読み始めた。サクナに目配せをしてみると。

 

「賊の情報などが入った書類、らしいです」

 

 と、小声で伝えてくる。なるほど。賊のか。ま、ということは私はまた蚊帳の外であろう。ひとまずは、この旨いエビを再び口に…と思ったときだ。何やら、視線を感じる。

 

『…ンフフ』

 

 その先に居たのは、ゴルチゾだ。なんであろうかと、首を傾げてみると、何やら笑顔で頷かれる。

 

『いやはや…やはり貴女は美しい。マイネン様。やはり、この亜人。私にお譲り頂けませんか?』

『………ん?それは無理だ。銀糸、輪、耳飾。その全ては、ハイネケンの所有物だという証拠に他ならん』

『左様ですか。いや、いや。真に残念でございます』

 

 何やら肩を竦ませるゴルチゾ。なんだ?碌でもない会話をしているような、そんな気がする。

 

『…ゴルチゾ殿。この書類の情報源は?』

『言えませんな。と、言いたいところでありますが、お約束致しましたので。各国の重鎮との太いパイプがございます。ハイネケン、タンドリー、タカアマ、ヨハム。そして、()()()()

『…亜人国家?それは、200年前に滅びた、ものでは?』

『ええ。その通りでございます』

 

 何やら驚愕の表情を浮かべるマイネン。対して、ゴルチゾは涼しい顔をしている。

 

『しかし、国は滅びたものの、私と彼らとの間にはパイプがございます』

『…にわかには信じがたい。そもそも、亜人はハイネケンがほぼ所有しているのだぞ?国家など、あり得ぬだろう』

『ええ。表向きは。しかし、事実は小説よりも奇なりと申します。―と、若造が申せるのは、此処まで。信じるか信じないかは、マイネン様次第とさせて頂きましょう』

 

 パン、とゴルチゾが手を叩く。と、扉が大きく開かれ、今までの料理以上の、豪勢な料理たちが所狭しとテーブルに乗せられた。ほう、ほう…。これは1000年前にはなかった料理たちだ。思わず、腹が鳴る。

 

『さ、マイネン様。その資料はお持ち帰り頂いてかまいません。あ、もちろん、無くさないで頂きたい』

『無論だ』

『ありがとうございます。そのうえで、もし、私の言葉が多少なりとも信じて頂ける、と感じて頂けたのであれば』

 

 コホン、とゴルチゾが一息を入れる。マイネンとの腹のさぐりあいも佳境を迎えているようだ。言葉が判らんのが、なんとも少々勿体ないような気がする。ま、あとでサクナに聞けばよいか。

 

()()()が発行され次第、タカアマにお向かいください』

『タカアマ?』

『ええ。タカアマです。質の良い毛皮を持つ狐が居るそうなので、おすすめですよ。ただ、ヨハムは最近、生きの悪いエビを贈ってきますから、あまり、おすすめは出来ません』

 

 マイネンは静かに頷きを見せていた。ふむ、どうやらひとまずは決着と言ったところであろうか。状況としては、マイネンが少々分が悪と見る。なんせ、ゴルチゾが余裕綽々だ。

 

「サクナ」

 

 小さく呼べば、静かに頷くサクナ。

 

「話しは、ついたのか?」

「はい、姉様。とはいえ、状況は混迷としています」

「そうか。で、これは喰うのか?」

 

 眼の前の、豪勢な食事を指差し、そう聞いてみる。すると、少々微妙な顔をされた。

 

「…おそらく、マイネンはこのままここを去るつもりですが」

「む、それはそれは」

 

 勿体ない。ならばと、早速更に手をつける。これは…でかいエビの姿焼きだ。

 

『おお、これはこれは、麗しの亜人様。イセエビに興味がございますか!おい、給仕!殻をむいて差し上げろ!」

 

 と、すかさずメイドが私が取ろうとしたエビを奪い去る。ふむ。どうしたことか。もしや、これはマイネンに出したものか?などと思っていると、なるほど、甲羅を外されて私の目の前に置かれた。ふむ。甲羅は喰わない、訳か。いや、しかし、これはご丁寧にと感謝の意を込めて、メイドに頭を下げておく。

 

「では、早速」

 

 白い身にがぶりと喰らいつけば、舌に伝わってきたのは濃厚な甘みと旨味。ほう。掛かっているタレも、少し酸味が効いていて、このエビの生臭さを消し、後味が非常に良い。

 

「旨い」

 

 森の魚、実。あれらも実に美味かったが、はやり、このように、上等な料理をされた食事というのもまた別格の旨さ。昨日の酒場ともまた違う、実に良い、旨さだ。

 そうやって、舌鼓を打っていると。マイネンが呆れたようにため息を吐いていた。

 

『…ゴルチゾ殿。我が亜人が申し訳ない。まだ、捕獲して間もなく、躾が成っていないのです』

『いえ、いえ。お気になさらず。むしろ、美しい亜人様に美味しそうに食べていただいているだけでも幸せというもの』

『左様か。我々も、頂いてもよろしいかな?』

『もちろんですとも!おい、給仕。マイネン様にご用意して差し上げろ。そうだ。一品づつ。頼んで頂けるように、だ』

 

 何がしかのやり取りの後、マイネンも食事に口を付けていた。うん、うん。それでよい。お、クマにも一皿用意されている。なんと気が利くことか。

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