おにぎり   作:灯火011

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旅立ち、道中

 明朝。我々はゴルチゾが用意した馬車に乗り、ヨルミを後にする。クマ、大狼、マイネン、カキサ、サクナ。そして私。

 シグネルは護衛を出す、という話もしていたようなのだが、マイネンが断ったのだとか。

 

『ハイネケンの亜人に手を出そうとしたのだろう?シグネル殿。―後に、然るべき連絡を致しますので』

 

 そうマイネンが告げると、顔面真っ青で城の中に引きこもった、とはサクナの談義。それに対してゴルチゾの対応が見事であった。

 

『これはこれはマイネン様。出立ですかな?』

 

 我々が徒歩でいざ、と思っていた時に、何処からともなく現れたのがこのゴルチゾ。しかも、馬と従者、そしていくつかの物資も付けてくれるのだとか。全く、耳が早いにも程がある。

 

『なぜここまで私に尽くすのだ。ゴルチゾ』

『何、先行投資でございます。マイネン様。これからも、ぜひ、末永くお付き合いを。ゆくゆくは、そちらの亜人様など頂けると幸いに感じます』

 

 ただ、別れ際。何を言ったのだか判らんが、背中がゾクリとしたのはきっと、碌でもないことなのだろう。サクナに聞いても、ついぞ訳してはくれなかった。

 

「とはいえ、一安心」

 

 というわけで、我々の馬車は、数台の規模でもって、街道を往く。クマ、大狼らがその外を固め、まず、襲撃など考えられぬような状況だ。食料も次の街の分までは十二分にあるとのこと。

 

「国境まではどうやらゴルチゾの手で快適な旅が出来るようです、姉様」

 

 少し安心したような顔を浮かべるサクナ。そうか、と頷いておく。…と、それはそうとして。

 

「これはどうした物か」

 

 瓶を、軽く弄ぶ。どうやらこれは例の亜人転がし。マイネンの性欲の噂を聞いたゴルチゾが手配したものらしい。そして。

 

「これが噂の」

 

 陶器の瓶。こちらが、噂に聞く『亜人殺し』。亜人が呑むと、人間程度の力しか出せなくなる代物という話だ。サクナに聴けば、まず使うことはないでしょうが。という答え。

 

「…まぁ、素面で夜伽、という事もございましたので…」

 

 顔を少し赤くしながら言われてしまえば、それ以上は踏み込めぬというもの。どうにも、この現代は亜人にとって生きづらそうだ。

 

 

 ゴルチゾの従者たちは非常に優秀で、食事や野営の準備などを卒なくこなしてくれる。更には、クマ、大狼の手入れなども、文句なく行うというまさに、従者のなかの従者と言える。全員、男性であるので、少し感謝とばかりに頭を下げると驚かれた。

 

「姉様、美しいですからね」

 

 お前も十二分。という話は置いておいて、男というのはなかなか単純であるらしい。人間でなくとも、美しい女には弱いようだ。私とサクナは、やたらと甲斐甲斐しく世話をされているような気さえしてくる。

 

「気、ではないですよ。姉様。マイネンとカキサは責務から、私と姉様は情念から給仕されています。まぁ…もしかすると、美味しい想いが出来る、とでも思っているのかも知れませんね」

 

 ふむ。まぁ、確かに、その従者たちの視線は情念どころか、という話。顔、胸、尻。俗に言う、女性の体をよく見ている。まぁ、別に減るもんでなし。それで旅が快適に出来るのならば。

 

「見ても良し」

 

 今日の食事番など、私の腿をちらちらと。ふむ、ならば、着流しの裾でも多少捲って…。

 

「姉様、はしたないです」

「感謝のつもりだが」

「ダメです。ああいうのは勘違いしますよ?」

「そういうものか」

 

 残念。感謝の念は、敬礼だけにしておこう。さて、とはいえ、今日の食事はと。

 ふむ。汁物。豚の干し肉、芋、そしてそこらのハーブ。塩で味付けがされたシンプルな料理。パンがついている。

 

「感謝」

 

 料理番にそう言って、腰を曲げる。と、干し肉を少し足された。ふむ、感謝、感謝。

 

『…あの、剣姫様。大変不躾なご質問なのですが、今、あちらの亜人様はなんと?』

『あ、ええ。感謝します、と。給仕殿』

『ああ、なるほど。ありがとうございます。とお伝え願えますか?』

『はい。もちろん良いですよ』

 

 

 この旅。次の街につくまでは、野営で過ごすのが常。まぁ、天幕で夜を明かすわけなのだが。

 

「マイネンと同じか」

「仕方ないでしょう。我々は立場上、従者ですからね」

 

 マイネンと同じ天幕を毎度用意されている。まぁ、そもそも、媚薬である程度は親しい仲にななっているので、ただ寝る事ぐらいであれば感情は湧かない。カキサはというと、連日夜の番だ。可哀想だと思ったのだが、本人曰く。

 

『美しいご姉妹と同じ空間で寝るのは理性が持たぬ』

 

 だとか。嬉しいやら、なんというか。そう考えると、同じ空間で寝ているにも関わらず、我々に手を出してこないマイネンの強靭さがより引き立つというもの。

 

「邪魔する」

『失礼します。マイネン様』

『入れ』

 

 天幕を明けて、横になっているマイネンの隣に、私とサクナで陣を取る。マイネンは下着姿で毛布をすでに被っている。非常に寝やすそうだ。我々もと、着流しを外して、下着で横になる。

 

『…私は石、私は石、私は、石』

『何か申されましたか?マイネン様』

『いや…何も、何もだ。大丈夫、ああ、大丈夫だとも』

 

 ふむ。なにやらマイネンは冷や汗をかいている様子。どこか、体調でも悪いのだろうか。まぁ、別に嫌いな奴ではない。体調が悪いならばと、マイネンの体に、自らの身体を寄せる。

 

『…姉、殿!?』

「多少は温い。夜は冷える」

 

 亜人の体は頑丈だ。何、多少冷えたとしても問題はない。サクナを見てみれば、何やら、悪い笑みを浮かべていた。

 

『ああ…ええ、そうですね。マイネン様。夜は冷えます。どうもご体調が悪そうですから、私めもお側に…』

『ぐ、ぬぬ』

 

 ふむ。まだ呻く。本格的に体調でも崩したのであろうか。ならばと、マイネンが被る毛布の中に入り込み、直でマイネンの体に触れた。

 

『ほ!?』

「これのほうが、温い」

 

 なんであろうか。気分は、母性というのか。そういえば、このマイネンも私に比べれば随分の年下。子供みたいなものか。ふむ。母親の気持ち、というべきなのだろうか?

 

『剣姫、少々、なぁ、判ってくれるか』

『いえいえ、マイネン様。こちらの亜人、寒そうだからと身を寄せてくれているのですよ?その親切を無下にするなど、マイネン様のすることではありません』

『そ、そうか。そうか…ならば、そうだな。感謝するとだけ伝えておいてくれ』

 

 マイネンはどうも落ち着かない。とはいえ、サクナから『感謝している』と言われれば、なるほど間違っては居ない。ならば、今日はこのまま夜を明かすとしよう。

 

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