おにぎり   作:灯火011

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一歩進み、2歩下がる

『こちらのお方は、マイネン様であることは間違いありませんよ』

 

 狐。ハイネケン王国の亜人の中でも上位の存在であり、王の側近としても有名な彼女の言葉は非常に重い。となれば、国境の役人は首を縦に振る他なかった。

 

『どうぞ、お通り下さい』

『感謝しますよ。タンドリーの役人様』

 

 論議を続けていた役人達は、ただただ頭を垂れるのみであった。なにせ、タンドリーに比べてハイネケンは大国だ。逆らうことなどは全く考えられなかった。思えば、早馬の使者もそうだ。なぜあそこまでハイネケンに辿り着いたのかと言えば、事を仕損じれば極刑に処されるからに他ならない。無論、その逆も然り、だ。

 

『こうもすんなり国境を超えられるとは、流石狐です』

『いえいえ、そもそも貴女がマイネン様を守り切ってくれたからこそ。感謝しますよ、剣姫』

 

 そうしてタカアマへと無事に入国できたマイネン達は、その始めの街であるアマノへと無事に辿り着いた。そして、その日の夜。

 

『これはこれはマイネン様。お噂は兼ね兼ね。私、タカアマの主より申し付かりまして、出迎えに参りましたササラと申します。このタカアマを、どうかごゆるりとお過ごしくださいませ』

 

 やうやうしく腰を曲げた初老の男、ササラ。彼に導かれたマイネン達は、アマノでの一番の宿という「籠屋」という宿にひとまずは身を置くことになった。どうやら、タンドリーと同様、許可を得なければ国内を自由に歩けないからだ。

 そして通された部屋は、サキタマの宿と同じ様な豪華絢爛さ。いくつも部屋があり、そして、風呂場も広く、実に過ごしやすそうな宿だ。

 

『それでは、許可が発行されるまでどうかごゆるりと。3日のうちには必ずやお届け致します』

『承知した。ササラ殿。宿の面倒、そしてその図らい、感謝する』

『ありがたきお言葉にございます。かならずや主にも伝えさせて頂きます』

 

 脇に控える亜人。剣姫、狐、生き字引。この3人は王の付き人として、ササラとの面識がある。ササラが腰を折ると、3人は軽く会釈を贈っていた。

 

「知り合いか」

「ええ。そうですよ。鬼姫。貴女も会釈をなさい」

「了」

 

 一人の亜人、鬼姫は狐に促されて会釈を行うと、ササラは驚いたような顔をしながら改めて腰を折った。

 

『これはこれはご丁寧に。亜人様のほうから会釈をされるなど、初めてでございます』

『ああ、彼女は鬼姫。新入りだ。これからよろしく頼む』

『鬼姫…ああ、美しいお名前ですね。お会いできただけでも幸運というもの。真に感謝致します』

 

 そうやってササラは宿を後にしていった。残ったのは、マイネン達と、新たな同行人の狐。そして部屋の隅でくつろぐクマと大狼がいた。

 

『…さて、それでは改めてお聞きしたいことがあるのです。マイネン様』

『どうした?狐殿』

『この大熊と大狼。いずこで連れてきたのですか?…ああ、他意はございません。ただ、これだけの魔獣はなかなかおりません。魔獣としても強さがありますし、言葉も理解できる知能の高さとなれば、ハイネケン王国としても貴重な存在ですから』

 

 そう言いながら、狐はクマと大狼を指差す。その顔はやわらかな笑みが浮かんで、興味津々といった具合である。

 

『ああ、こいつらは鬼姫が従えていたものをな。確か…どこだったか、剣姫』

『え?ああ、確か、致死の森の川、それを遡ったところにある泉の周辺です。狐、どうかされたのですか?』

 

 そう剣姫が答えれば、狐の顔面は真青に染まる。気づけば震え、そして、数歩、後ずさっていた。そのさまを見て、クマと大狼がどうしたと言わんばかりに顔を向けた。

 

「ヴ?」

 

 どうしたものか。そう言いたそうなクマが一歩、その身を狐に近づけると、同じ様に一歩、狐は後ろに下がる。そして。

 

『ああ、これは、なんと、なんということ』

 

 そして、勢いよく狐は膝を突き、頭を垂れた。

 

『その身の巨大さ、そして、その雰囲気…間違いなく、あなた様方は森の守り神!』

「ヴ?」

「キャウ?」

 

 守り神。その言葉にクマと大狼は首を傾げた。なんのことだと言わんばかり。

 

「剣姫。狐は、どうした?」

 

 それを見ていた鬼姫が、首を傾げながらサクナに問いかける。と、サクナも首を傾げながら、そのままを伝える。

 

「全く…。ただ、クマと大狼を守り神、と」

「守り神」

 

 鬼姫は心当たりがあるのか、ふむ、と何か頷きを見せた。そして。

 

「おそらく、我が里に祀られていた神々のことだろうか。剣姫も古いのならば、覚えがあるだろう」

「…そう言えば。守りに阿吽の狼、三足の鴉、熊の鬼。そして、祀られるは刀の神、でしたか」

「その通り。…しかし、このクマと狼が?」

 

 鬼姫と剣姫は疑いの目で狐を見る。だが、全く気にせぬ様子で、クマと大狼に頭を垂れるのみの狐の姿に、にわかに真実味が帯びる。のだが。

 

「…ヴ?ヴ?」

「キャウ?キャ?」

 

 当の本人達は、そんなことないけどね?と、言わんばかりに首を傾げるばかり。

 

『…狐、ひとまずは跪いて頭を垂れるのを辞めよ』

『し、しかし』

『それが真実だとして、その守り神が困っているぞ』

『…は!?あ」

 

 マイネンの言葉に頭を上げた狐の目には、首を傾げているクマと大狼が映った。

 

『これは、あ、あの、大変申し訳ありません。まさか、こんな間近でそのご尊顔を拝見する事ができるなど、思いもしなかったものですから!やはり、守り神様達は実に、実にお美しゅうございます』

 

 駄目だこれは、とマイネンはため息を吐き、サクナと鬼姫は疑念を再び深め、そしてクマと大狼は首を傾げ続け、そして、狐は狐でやはり頭を垂れるのみだ。どうやら、このタカアマでの日々は短いながらも少々、騒がしいものになりそうだ。

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