おにぎり   作:灯火011

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まぐわい、まぐわれ、まぐわらん

 この部屋にいるのは、マイネン、狐、そして私。サクナとクマ、そしてカキサと大狼は別の部屋で今日は過ごしてもらう手はずになっている。

 

「ふふ。お手柔らかに。鬼姫さん」

 

 どこか妖艶にそう告げる母。うむ…。なんであろうか。この不愉快な気持ちは。まぁ、単純に、親子以上の関係になるからであろうな。そして、私と母の前に置かれた小瓶。我らの意識を刈り取り、淫靡に落とす、魔性の液体。

 

「…頼む」

 

 亜人転がし。毒が効かぬ私ですらも、数刻で意識を失う厄介な薬だ。しかし…。

 

『判っていると思うが、狐』

『ええ、もちろんですとも。しかし、ご心配なさらず、大丈夫ですよマイネン様。貴方様は絶倫なのですから。私達を相手にしたとて、満足なされるかどうか。やはり剣姫もお連れしましょうか』

『いや、結構だ。まずはその鬼姫の調教を済ましたいのでな。狐に任せれば、間違いないだろう?』

『うふふ。お上手なんですから。お任せくださいな』

 

 どこか妖艶に笑う狐に、悪どい笑みを浮かべるマイネンの姿。実に、なんとも、嫌な雰囲気だ。 

 

『うむ。それならば、まずは2人でお互いを解きほぐせ。その後に相手をしてやろう』

『ふふ。承知しましたマイネン様。うふふ』

 

 ロクでもないことを話しているな。マイネンと狐は。流石に雰囲気で判るぞ。

 

 さて、実のところ、今回の作戦はマイネンはお飾りだ。大切なのは、私と母がまぐわう事。正確に言えば、口づけを交わすことにある。

 

 

「ヴ」

「キャウ」

 

 少し前。信じられぬ提案をされ、少々動じた私であるが、クマ達はそうではないと首を横に振っていた。そして、この野獣2匹は、サクナに目をやって、その耳飾に触れる。

 

「どうされました?クマ殿」

 

 くすぐったそうにそれを受け、軽くクマの手をにぎるサクナ。ふむ。どうやら、亜人転がしと耳飾は何か関係があるということか?

 

「耳飾と、媚薬?母の記憶を戻す鍵か?」

 

 そう問いかけると、クマは頷く。ふむ。だが、それだけではどうも情報が足らん。

 

「耳飾と、媚薬…」

 

 サクナも私と同じ言葉を、戸惑いながら呟いた。そして、何かを思い出すように、眉間に手を当ててながら少し動きを止める。

 

「何か思い出したか?」

「いえ、ただ…」

 

 ただ?なんであろうか。首を傾げながら、サクナの表情を伺う。どうやら、もう少しで思い出せそうな、しかし、何かが引っかかっているような。そんな雰囲気がサクナから伝わってくる。

 

 すると。

 

「ウ!」

 

 急に、クマがひと吠え。同時に、大狼が宿に備え付けられている焼き物の壺を、パキリと壊す。

 

「む。クマ、大狼。壊してはならんぞ」

 

 いい宿なのだから、そのような美品は高いのだ。と、叱ったのだが、クマ達は感せずに、その壊れた壺を改めて指さした。

 

「…これも関係あるのか?」

「ヴ」

 

 頷かれた。どうやら、関係があるらしい。耳飾、媚薬、壊れた壺。うーむ?首を傾げてしまう。このクマ達と言葉が交わせれば何も問題がないのだが、どうも、解決は難しそうだ。

 

「壊れた壺…耳飾…媚薬…」

 

 サクナがそう呟く。まだ、何かが引っかかっているようで、その眉間には皺が浮かぶ。と、目をそらした隙に。

 

「キャウ」

 

 別の場所にあった、皿の焼き物を大狼が持ってきていた。そして、誤魔化すように、壺の置いてあった場所に皿を置く。

 

「何か、関係が?」

「ヴ」

 

 頷くクマ。関係は大有りだと言わんばかりである。どうしたものか。…うーむ。

 

「整理」

「ヴ」

「壺を、壊した」

「ヴ」

「替わりに、皿を持ってきた」

「ヴ」

「そして、壺の代わりに、飾った?」

「ヴ」

 

 ふむ。どうやら、見たままの通りのようだ。…ん?そこまで言ったところで、クマがサクナの耳飾を指さした。

 

「…今の一連の動きが、耳飾と関係がある?」

 

 そういうことか?

 

「ヴ」

 

 そうだ。と頷かれる。どういうことだろうか。壺を壊して、皿を替わりに置いた。それが耳飾と関係がある。更に、そこに媚薬が…。

 

「あ!」

 

 同時に、サクナが叫んで顔を上げた。どうやら、いまの推理の中にサクナの記憶を呼び起こす何かが存在したらしい。

 

「何か思い出したか?サクナ」

「はい。思い出しました。その、この耳飾なんですが」

 

 ふむ、耳飾。それが、どうかしたのだろうかと視線をやって、首を傾げる。

 

「一度、壊れているんです。そして、その後に新たな耳飾が作られ、それが今の私の耳飾になっています」

 

 ほう。それは初耳だ。つまりは、銀糸と対になっている耳飾が壊れ…新しい耳飾に入れ替わった。まさに、クマたちが壺と皿で行ったことそのままのことが、過去に起きたらしい。

 

「…ん?と、なると…」

 

 銀糸の対の耳飾が壊れた?となると…どうだ、それは。私がマイネンから耳飾を切り離した状態と、壊れた耳飾というのは。

 

「クマ。耳飾が壊れる。これは、銀糸の縛りが消える?」

「ヴ」

 

 小さく顔を横に振られる。どうやら、そうではないらしい。だが、その直後に、顔を縦に振られた。つまり、当たらずとも遠からず。

 

「…縛りは消えずとも…影響は弱くなる、もしくは、それに準じたような状態、例えば…記憶の一部が戻る状態になる?」

「ヴ」

 

 頷かれる。なるほど。少なくとも、耳飾で直接支配している状態よりは、弱くなるわけだ。

 

「となれば。亜人が反旗を翻す前に、新たな耳飾で銀糸を縛り付けた」

「ヴ」

 

 なるほどなるほど。徐々に繋がってきた。

 

「それは確かか?サクナ」

「あ、うーん…そこがあまり思い出せないのです。壊れた直後、すぐに亜人転がしを飲まされたものですから。あとはその、王を貪った、程度の記憶しか」

 

 そうか。ならば、致し方あるまい。それ以上の言葉は不要と、サクナを静止しておく。あまり語らせるのも、私が聞くことも避けたい記憶だ。

 

「…ん?」

 

 となると、耳飾を壊した人間は、すぐに、亜神転がしで亜人の力を無効化したわけか。確か、人と同じ力しか出せない。だがしかし、それならば、亜人殺しのほうで良いのではないか?わざわざ、耳飾の入れ替えで、そんな、夜伽を指せる理由が判らん。

 

「いや、まてよ。クマ」

「ヴ」

「概ね、予想が着いた。つまり、この耳飾の入れ替えと同じことを、母にせよと言う事か?」

「ヴ」

 

 そうだぞ、と頷く。しかし、母の耳飾は今、王城の王が持っているのだろう?我が主などと申していたしな。

 

「しかし、耳飾は壊れていないようだぞ?未だ、文字通り王家の犬だ」

「ヴ」

 

 違う、と首を横に振りながら、今度は、私の耳飾を指さした。む?この耳飾が何か関係があるのか?

 

「ヴ!」

 

 その通り!と大きくクマが頷いた。ふむ。判らん。

 

「判らんぞ。クマ。なんとなく、壊れた耳飾の入れ替え、それにまぐわいが必要なことは理解した。サクナはどう思う?」

「え。ああ…。私も、概ね同じ意見です。いや…でも、あれにそんな意味があったなんて…」

 

 眉間に皺が寄ったサクナの頭を撫でてやる。うーむ、200年の間に、随分と人間はとんでもないことを。とはいえ、私は深く理由を知らん。そのあたりも、いずれは知らねばならんことであろうな。と、思考が逸れたが、今は母の記憶が優先だ。

 

「しかし、母とまぐわう…」

 

 あまり、想像したくない。まあ、我が母ながら美形ではあるが。とはいえ、親子で女どうし。全く、厄介、厄介だ。

 

「あ、姉様。もう一つ、思い出した事が」

「ん?申せ」

 

 なんだ。一体。

 

「その、耳飾の入れ替えが成されたと思われる夜のことなんですが」

「ふむ」

「その日は精を注がれなかったのです。どちらかというと、接吻を続けられた記憶が」

 

 接吻?なぜ…。クマと大狼を見てみると、大きく頷かれる。接吻…接吻!?

 

「まとめるぞ。私は媚薬を呑み、母と接吻をする。それによって、母の記憶が戻る?」

 

 少し、首を横に振られる。そして、媚薬を指さして、更に首を振るクマ。

 

「媚薬は不要なのか?」

「ヴ」

「必要なのは。接吻?」

「ヴ」

 

 頷くと同時に、私の耳飾を指さした。そうか、私の耳飾が、必要なのか。

 

「サクナの耳飾ではいかんのか?」

「ヴ」

 

 頷かれた。サクナの耳飾では母の記憶は取り戻せんということか。なんという難儀な。ただ、道は見えた。…あまり、通りたくはないが。

 

「クマ殿、狼殿。話は理解できたのですが、その、姉様と母上が接吻せねばいかんのですか?本当に?」

「ヴ」

 

 頷かれた。大狼も、頷く。どうやら、この2匹が出した結論は、なんとも単純かつ、難しいものだったらしい。しかし、接吻となると…正直、難しい。いきなり接吻をしようなどと申しても、いくら銀糸の影響下であるとはいえ、断られることだろう。怪しまれもするかもしれん。

 

「いい方法…」

 

 瓶が、目に入る。ああ…そうか。なんと合理的。それならば、確かに違和感なく、そして貪るように目的が達成できることであろう。

 

 

 服を脱ぎ、マイネンの前に、2人で肢体を曝す。そして、私は裸の母と向き合った。均整の取れた体つき、無駄な肉のない体。流石母上。鍛錬を怠っていた、とはいえ、そうそうは体の均整は崩れんものだな…。と、現実逃避は此処までにしておこう。

 

「では、こちらを、狐殿」

「ええ。鬼姫も」

 

 瓶を狐に手渡し、私も瓶をその手に持った。そして、蓋を明け、2人同時にグイと、瓶の中身を飲み干した。ぐらりと視界が歪む。体の奥底が少々、熱くなる。だが、前ほど熱くはない。どうやら、体がこの薬に多少は順応してきたらしい。

 

 と。眼の前の母の顔が、がくんと落ちた。そして、次の瞬間に母の顔が上がったと思えば。

 

「むうっ!?」

「んむっ!」

 

 母の目が、私の眼前、触れるか触れないかの位置に。唇には柔らかい、しかし熱い、ぬめりとした塊が押し付けられる。そして。

 

 視界の端では、私の耳飾が淡く、金色に輝き始めていた。

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