おにぎり   作:灯火011

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アマノの街で

 ササラが再び籠屋に現れたのは、約束通り、3日後の昼。国の通行許可証と、更には、金が不要という証明証も付けてくれたらしい。これで、マイネンが居る限り、我々一行は何をしようとも、このタカアマが金を払ってくれるという至れり尽くせりである。

 

『マイネン様。どうぞ、タカアマを堪能下さいませ』

 

 と、やうやうしく腰を折ったササラの、どこか紳士的な笑みが印象に残っている。

 

 そして、自由が保証された身でアマノの街を歩けば、1000年の年月を感じ取れる。我が街では自然と共に生きていた。石や木と土で出来た家、そして日々森の恵みを受けて喰らう日々。それが此方では硝子と呼ばれる透明な板が使われた窓であったり、コンクリ、モルタルなる建築材も使われているらしい。食料も相当な種類が見て取れる。素材を焼いた、煮ただけではなく、発酵させたり、漬けたり、組み合わせたりと実にその進歩が見て取れる。

 

 サキタマやヨルミでもそういう物があったのだが、いやはや、このアマノに入ってからそういう物が特に多い。

 

「サクナ」

「ん。ふぁい、なんでしょうか。姉様」

 

 串を喰いながら、サクナは少々楽しそうに笑みを浮かべている。ふむ。良いな、その串。なにがしかの魚の肝らしいのだが、見た目のおどろおどろしさに私は断ってしまっていた。あとで見つけたら買う…いや、私は持ち合わせて居ない。買ってもらおう。

 

「ひとまず、この後は?」

「ん。ええと。まず、状況を整理しますが、幸い母様がいますので、タンドリーのように手続き関係はまず問題ありません」

「承知している」

 

 母上がこのアマノに来て、確かにその手続回りは相当に楽に成っている。実際、タンドリーとタカアマの国境を超えられたのは、母の影響が大きい。ハイネケンとの国境を超えるための手続きも普段の半分でいいという話だ。

 

「ですので、まずは旅に必要な物を揃えます」

「ほう…必要あるか?」

 

 必要なもの。とはいえ、着の身着のままでも問題ないのだが、と思うのだが。サクナ的にも、そして、母上的にもそうはいかないらしい。

 

「ナガヒメ。我々はマイネン『様』御一行なのですよ。目立つぐらいに行動せねばならないのです」

「左様か、母上」

「ええ。マイネンは一見真面目そうに見えますが…以前から金遣いが派手、女関係がルーズ、そして侍らせて羨望の眼差しを得て悦に浸る。そういう一面がある人物でしたからね」

 

 変わって答えたのは母。ええ?マイネン…?そんな一面もあったのか。お前。

 

『…剣姫?鬼姫が何か、蔑むような目で見ているような気がするのだが?』

『気の所為ですよ。マイネン様』

 

 ふーむ。昨日の夜といい、普段の行いと言い、真面目で良い奴だと思いかけていたが。少々、考えを改めるか。

 

「ま。そういう役割を演じていた、という一面もありますがね」

「そう、なのか?」

「ええ。しかし、どこまでが本気で、どこまでが嘘か判りません。気を付けすぎて損はありませんよ」

 

 母は、鬱陶しそうに銀糸を払いながら、そう続けていた。うーむ。母も相当、マイネン…というか、ハイネケンに対して恨みがある様子に見える。まぁ、やはり、望まぬどころではない夜伽、殺陣、戦争に駆り出されたというだけでも、許す事は無くなるであろうよ。

 

「しかし母上」

「はい、どうしました?」

「なぜ200年前、人間は我らを奴隷になぞ。もともと、関係は良好だったはず。何か、心当たりは?」

 

 おそらく、私の記憶の中にある人間との関係は、良好であったはず。その後800年で何かがあった、と考えるのが自然であろう。例えば…そうさな。人間は欲深いというのは良く知っている、その欲から、我々を従えて力にしようとした…とも考えたが、それでは辻褄が合わん。

 それであれば、ハイネケン以外の国がこの様に栄えている理由が判らん。我ら亜人は、一人で人間100人以上の戦力となる。我々のような、亜人の中であっても、戦闘に特化した者であれば、10人もいればこのアマノや、サキタマの街ぐらいなら落とせるであろうからな。ならばわざわざ、他の国を残す理由が判らん。

 

「そうですね…」

 

 母は少々眉間に皺を寄せ、悩んでいる様子。うーむ?覚えがないのか、それとも。サクナと同じ様に記憶が何やら隠されている、のか?

 

「…心当たりはいくつかありますよ。ただ、この場で話すような話ではありませんので」

 

 私から目を逸らすように、ぼそりと呟いた母。ふむ。これは何やらキナ臭い匂いというか、それとも、言うことがはばかられるような、余程の理由なのか。

 

「承知。母上、今夜、改めて伺います」

「ええ。判りました」

 

 ふーむ。ちらりとサクナの顔を見てみたのだが、イマイチピンと来ていない様子。どうやら、母のように、国の根幹に近い人物で無い限り、知り得ない話がありそうだ。ま、それならば、今は気にせず、この買い物を楽しむとしよう。

 

「サクナ、母上」

「なんでしょう。姉様」

「どうしましたか?ナガヒメ」

 

 私が声をかければ、2人は笑顔で此方を向く。ならばと。

 

「旅など、用意したことがない。助言を頼む」

 

 1000年前も着の身着のまま、刀一本で森に入った。そしてここまで、着流しだけでやってきている。用意するというのならば、せっかくだ。常識を知りたい。

 

「判りました、姉様!私達にお任せ下さい!」

「ふふ。承知しましたよ、ナガヒメ。そうですね…サクナ。まずは、紅あたりを選んであげましょうか」

「はい!姉様、全く化粧に興味がありませんから」

 

 む。紅か。確かに化粧などは不要…。などと、口にするのは無粋であろう。楽しそうに話す妹と母の背中を見ながら、大人しく、ついていくとしよう。

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