おにぎり   作:灯火011

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動く人、動く亜"神"

 ハイネケンから国境に派遣されているレイヲル。一個師団を従えさせる彼の能力は、マイネンに継ぐものがあるというのが、ハイネケン王国の貴族や王からの評価だ。

 

「右翼が全滅だと!?ええい、どうなっている!?」

 

 そんな彼は、今、その人生で一番の危機に瀕していた。というのも、彼の師団は今、夜襲を受けている。国境の魔導具の修復、そしてその調査。更には、魔導具を破壊した者の確保にと向かった彼であるが、まさに、その魔導具を破壊した者のアジトであろう国境地帯の小さな集落を攻め落とそうとしていたのだが。

 

「レイヲル様!伝令です!」

「通せ!」

「レイヲル様!左翼に援軍を!亜人の集団が攻め込んできています!」

「な、左翼もだと!?」

 

 いざ、集落の周辺に拠点を構え、いよいよ明日、攻めようかという時、彼の拠点が亜人により陥落させられそうに成っていた。運が悪いことに、レイヲルの集団には強く、主力となる亜人が居ない。これは、銀糸の探索、そして、魔導具の修復に主たる亜人が駆り出されてしまっているからに、他ならない。

 

「まずいですぞ、レイヲル殿。このままでは」

「判っている。夜襲、そして挟撃…。確実にこちらを殺しに来ている。しかし、見張りも居たはず…」

 

 レイヲルは舌打ちをし、地図を広げた。数キロ行けば、問題の集落がある。そして、ここは高見台。夜襲や急襲に備え、見張りも付けていたはずなのだが。

 

「…そうか、新月か」

 

 新月の夜。月明かりはなく、仄かに月明かりが地面を照らすだけの夜の事。そんな最中、もし、亜人が少数で攻めてきたとなれば。

 

「見張りは、責められんな」

 

 鼻から息を吐き、首を傾げた。口は一文字に結ばれ、眉間には皺が寄る。

 

「続報!亜人は両翼共に10柱!全員が剣を持ち、銀糸を纏っています!」

「何…!?銀糸だと!?」

 

 レイヲルは耳を疑った。銀糸を持つ亜人となれば、それは、すべからくハイネケンの所有物のハズだ。それが、襲ってくるということは。

 

「…嵌められたか!?」

 

 頭に浮かんだのは、王からの裏切り。いや、レイヲルがハイネケンから切られたということ。だが、それはないと首を振る。レイヲル自身、やましいことなど何もないからだ。それに。

 

「左右の陣には、王族派の貴族が頭を張っていた。ならば、王からのものでは…」

 

 ない。そう信じたいレイヲル。だが。

 

「さらに続報!やはり、銀糸の亜人がこちらの兵士を斬って回っています!そして、直線で此方に向かっております!距離、500メートル!」

「何!?」

 

 レイヲルは顔を上げ、報をもたらした伝令の顔を見た。傷だらけで、息も絶え絶えなその伝令には、誰かの血だろうか。赤い液体がべたりと付いている。これは、尋常ではない。

 

「ち、ならば、撤退だ!即刻撤退!王城まで、一人でもいい!たどり着き王にこの事を伝えよ!」

「承知!」

 

 拠点に居た貴族や副官、そして指揮官らは敬礼を行い、一気に外に駆け出していた。そして、レイヲル自身も、自慢の早馬にまたがり、設営した拠点はそのままに、一気に王城への道を駆け出し始める。

 

「お守り致します!」

「頼む!」

 

 それを囲むのは、王から遣わされ、レイヲルと行動を共にしてた近衛兵。そして、彼らを見てレイヲルは改めて思い直す。王が本当に私を嵌めるおつもりなら、近衛兵を自身の護衛につけるなど、有り得ない。

 

「ならば、これは一体どういうことだ!?」

 

 混乱するレイヲルを尻目に、その視界の端に銀の輝きが翻る。そして。

 

『甘い。甘い、甘い。我らを銀糸ごときで抑えられると、思うたか。我らが長の、積年の恨みを、思い知れ』

 

 聞いたことのない。そんな言葉をレイヲルは耳に聞きながら。

 

「あ」

 

 ぽとりと、視界が地面に落ちた。そして刹那に思う。これは、ハイネケンの終わりの始まりか、と。

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