おにぎり   作:灯火011

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旅の道中、マイネンの剣

 アマノの街を後にして、私達はようやく、タカアマの国の街を往く。タンドリーとはまた違う風景が広がるこのタカアマ。行き交う人々の表情は柔らかで、国が良く発展している印象を受ける。

 

『それにしてもマイネン様。タカアマからの護衛の申し出、断ってしまってよろしかったのですか?』

『ああ。状況が状況だ。部外者とは同行したくない。お前も判るだろう、狐』

 

 母とマイネンは何やら話しながら街道を往く。護衛は誰も居ない。正確には、タカアマの王より申し出あがったらしのだが、マイネンが断った、とのことだ。ま、理由は判る。誰が味方なのか、誰が敵なのか、誰が銀糸の影響を受けているのか判らぬこの状況。見知った連中とならば、ある程度は安心して旅ができる、と、言う事だろう。

 

「ところで、クマ」

「ヴ?」

 

 私は今、クマの背に乗っている。アマノからこっち、どうもクマは私を過保護に見ているような気がしてならない。

 

「別に、私は疲れていないが」

「ヴ」

 

 気にするな。そう言われた様な気がした。ふーむ。そして、チラリと横を見ると、私と同じ様に、大狼の背に乗るサクナが居る。端から見れば、変なものだ。主であるはずのマイネン、そして顔を知られている母が歩き、見知らぬ亜人が魔獣に乗って歩いている。

 

『まぁ、狐殿。マイネン様は我々亜人が囲っているのです。これ以上は過剰戦力というものでしょうな』

『それは、そうですが』

 

 ちなみにカキサは殿だ。曰く『まぁ、その、変に間に入って藪蛇を出したくはありませんのでな?』とのことだ。一体、どういう事だ。藪蛇などどこにもあるまいよ。

 

「…ん?」

 

 そう言えばと、一つ、思い出した。

 

「クマ」

「ヴ?」

「マイネンの頭より、銀糸は完全に除いたのか?」

「ヴ」

 

 そうだ。と頷くクマ。ふむ。ならば、別に良い。と、同時に一つ気になってしまったことが一つ。

 

「ヤることはない、と前置きを言っておくが」

「ヴ?」

 

 私の顔をちらりと見たクマが、首を傾げた。おそらく、こいつのことだ。これから言う事の答えも持っている事だろうと、確信めいて、クマに言葉を投げた。

 

「この私の回りの銀糸。もしや、一部を」

「ヴ」

 

 ぐい、とクマが体を揺らした。それ以上は言うなと言わんばかりだ。つまり、これは。

 

「思案は、正しいか」

「ヴ」

 

 此方を向かずに、クマはただ一鳴き。そうか。ならば、やろうと思えば、私はこの銀糸を使って、奴隷を作れるということか?ふむ。それはそれは、厄介事であろう。

 そして、これは気を引き締めなくてはなるまい。もし、この銀糸を使おうとなどと思えば、それは結果としてハイネケンと同じ物になってしまう。それは、願い下げだ。

 

「まぁ、クマよ」

「ヴ?」

「私が、銀糸に溺れ始めたら、殺せ。堕ちる気はない」

「ヴ」

 

 フン、と鼻息荒くクマはそっぽを向いた。んなこと、お前はしないだろう?と言っているな。ま、刀を振る事が私の出来る唯一のこと。それ以外、興味はない。

 

 

 次の街まではどうやら、徒歩で2日は掛かるらしい。ということで、今日は日が暮れる前に野営を行う。幸い、食料は魚、実がある。…というか、この宝石魚は随分と日持ちするものだ。既に相当な日が経っているが、まだまだ腐っていない。

 森での生活では、日々、魚をクマからもらっていたからか、気づくことは無かったことだ。それでいて旨い。なるほど、城一つが買えるというのも理由が判る。

 そして実。木の実、蓮の実も未だにその瑞々しさを保っている。道中で資金確保のために何個か手放したが、それでもまだまだ数もある。

 

「食料は十分」

 

 うむ。良いことだ。それに加え、街で仕入れた塩や砂糖、香辛料、そして干し肉や野菜。これがあるだけでまた、腹を満たすことが楽しみになるというもの。ちなみに、馬車も購入している。引手はクマが担っているから、クマには少し多目に干し肉が与えられている。

 

「調理は…」

 

 ちらりと視線を移すと、そこにあったのは、仲睦まじい母と娘の姿。サクナも、母も、どうやら料理は得意な様子だ。阿吽の呼吸で食材を処理し、それを鍋に放り込んでいる。どうやら今日は汁物で腹を満たすらしい。

 

「旨そうだな」

 

 焚き火に焚べられた鍋から良い香りが漂う。肉と野菜の旨味が詰まった汁物。実に腹が減る。

 

「まぁ、まだまだ」

 

 時間は掛かるであろう。ならば、この鍛錬はまだ続けて良さそうだ。

 

『く、ビクともせん!』

 

 片手一本。私が相手にしているのはマイネン。例の賊が持っていた剣を携え、私に挑んできている。それを見るのはカキサ。危険な時は介入する手はずに成っている。

 

「甘いな」

 

 それを刀で受け止め、拮抗させる。やはり、鍛えられているとは言え、人間であるマイネンと私では地力が違う。左手一本で、容易にマイネンの剣は弾き飛ばせる。

 

『うおっ!?』

 

 ぐっと腰を入れて、マイネンを剣ごと押す。筋骨隆々な男が、細腕で簡単に後ろに下がっていく。これはこれで面白い。さて、では、そろそろ稽古を付けてやろうか。

 

「せっ!」

 

 左手に力を込め、マイネンの刀を軽く弾く。体幹がズレたマイネンの脚を引っ掛け、体を倒す。そして、首元に刀を突きつけてやる。

 

「甘い、甘い」

 

 口角を上げ、鼻で息を吐いてやる。すると、マイネンの目に火が灯る。ふふ。いいね。それでこそ、男…というものだろう。

 

『せぇい!』

 

 と、軽く油断を見せてみると、見事に刀を弾かれた。ほう。その隙にマイネンは立ち上がり、一歩後ろに下がる。そして、剣を腰に戻すと、左足をすっと引き、腰を落とした。

 

「これは、これは」

 

 マイネンに隙はない。ならば、私もお相手仕ろう。抜き身の刀を鞘に仕舞う。そして、マイネンと同じ様に、自然体で立ち、左足を後ろに下げ、腰を落とす。

 

『勝負。鬼姫』

「来い」

 

 静寂。お互いに、お互いの呼吸を見ている。マイネンは、口角が上がる。どうやら、マイネンも本来は、このような荒事を好む奴のようだ。ならば。こちらも。軽く口角が上がる。

 

 そして。

 

『っ!』

 

 先に動いたのはマイネン。右足が踏み込まれ、そして斜め下からの抜刀、左足を引き付けながらの切り上げ。私の呼吸の一瞬の隙を付いての見事な一撃。だが。

 

「届かん」

 

 右足を踏み込み、その刃が腰から抜ける前にマイネンの胸に当身を食らわす。

 

『ぐっ!?』

 

 マイネンの驚いた顔が眼前に迫り、そして、その体が一気に後方に飛んだ。

 

『そこまでい!鬼姫殿の勝利ですな!』

 

 同時に、カキサが大声を出しながら私達の間に割って入る。どうやら、決着のようだ。吹き飛んだマイネンのところに歩み寄れば、顔を歪ませながら、此方を睨んだ。

 

『ええい。抜刀勝負と思ったのだが。一本盗られた』

『はは、マイネン様。この鬼姫の剣に届こうとは、いくらなんでもまだまだ』

『判ってはいるのだがな、だが、やはり、亜人とは言えこの、見た目麗しく、若い女性に負ける訳にはいかんのでな』

『ほう。それはそれは、マイネン様』

 

 なにやら、カキサは仕方ないと言わんばかりにマイネンを見ている。一体、どのような会話をしているのだかな。

 

『男の意地、という奴だ。そこに種族は関係ない』

『ははは!左様ですか。ま、今日のところは致し方ありませんな。負けを認めて、ひとまずは飯を致しましょうぞ』

『…承知した』 




※少々夏バテ気味で体をいわしておりまして、体力回復のため、お盆明けまで一時、更新を不定期に致します。申し訳ありません。

 皆様も、夏の熱さには気を付けて頂き、ご自愛下さいませ。暑すぎるんよ今年の夏。
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