おにぎり   作:灯火011

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黒装束の言い分

「まず、手並みはお見事、と言わせていただきます。しかし、なりませんね。しかりと逃げおおせた貴女達が、このような場所に攻め入るなど言語道断」

「あ、いえ、その、そのような意図は無く」

「言い訳無用。そもそも我らは貴方達に逃げおおせ、そして何よりも今後、我らに関わるなと申し伝えたはず。お忘れですか?」

 

 母が黒装束2人を正座させ、説教を垂れている。その言葉に端々からは怒りと、どこか失望を感じられた。会話の内容から察するに、200年前の銀糸による制圧。そのときに母らがなんとか逃した亜人、といった具合だろう。さて、こちらはこちらで。

 

「キリンジ。端的に事情を話せ」

「はい」

 

 す、と佇まいを直すキリンジ。いやしかし、銀糸の効果とは恐ろしいもの。これほどまでに素直に言葉で操れてしまうか。…となると、私の回りの銀糸も厄介なものである事は間違いはないのだなぁ。

 

「200年ほど前、そなた様の母君、巫女姫、そして主様である御屋形様より、銀糸から逃げおおせよとの命を受けて、我ら一族は隠れ潜んでおりました。15年前の乱も、我らは関わらず、存在を消しておりました」

 

 ふむ。なるほどなるほど。母や父らのはからいで逃げおおせた奴ら。察した通りか。

 

「しかし、我らとて亜人の復権を望んでいます。この度、マイネンの畜生が巫女姫、そしてその子を連れて一人旅をしていると、亜人の仲間より連絡があり、居ても立っても居られずに」

 

 と、そこまで言ったところでキリンジは頭を垂れた。なるほど、それで先程の行動に繋がったわけか。一人ひとり、我らの相手をし、正気を取り戻させようと言う話であろうな。

 

「銀糸はどうするつもりであったのか」

 

 ただ、疑問はある。銀糸を取り払う方法など我々とて知らん。クマが唯一の知識だが、奴であろうと母やサクナについた銀糸は取れぬという。

 

「…銀糸は、月光の光る夜、泉にて解けると伝えられております」

「ほう?」

「ですので、今回は巫女姫様方を拘束し、我々が致死の森の泉へとお連れする手はずとなっております」

 

 脳裏に思い出されるのは、マイネンの銀糸を取り出したクマの姿。確か、マイネンの銀糸を取り除いた時、月光が降り注ぐ夜であった気もする。

 

「…しかし、このように皆正気であったとは思いもしませんでした。ご無事で、なによりでございます」

 

 キリンジから出る言葉には、安堵の雰囲気が漂う。うーむ。となると、早いところ銀糸を取って起きたいが。と、待てよ?我々が、泉へとお連れする手はず?

 

「もしやキリンジ。他にも、仲間がいるのか?」

「はい。既に泉に向かっている者がおります」

「む」

 

 それはそれは。あの致死の森にか。いや、それは不味い気もするが。何せ、クマはおらんが鴉が居る。奴に狙われれば、まず、亜人とて無事では済むまい。

 

「ならば…」

 

 そうだな…。どうするか。

 

「クマ」

「ヴ?」

「ちょっと」

 

 未だ部屋の隅でくつろぐクマを手招きして、その耳に口を寄せた。

 

「実は、このキリンジに銀糸を仕込んでしまった。取れるか?」

「ヴ!?」

 

 え、本気かお前、そんな返答が帰ってきた。仕方ないだろう。裸一貫で切られかけたのだ。

 

「いや、何。お前に言われた通り、唇を塞いだら銀糸が勝手にな?」

「ヴ…?」

 

 いや本気か?と言われた気がする。まぁ、そうだな。確かに最近、出会う奴ら全員に口を付けている気もするが。ではなく。

 

「で、どうだ。銀糸は?」

「ヴ」

 

 首を振られた。無理だと。ふむ…無理か。

 

「どうしても?」

「ヴ」

 

 駄目である。銀糸は取れないと。と…なると。

 

「もしや、泉に行き、月光が輝けば取れる?」

「ヴ」

 

 それならば、と言わんばかりに頷かれた。キリンジの言葉と一致するな。…ふむ。ついでに聞いておくか。

 

「私の銀糸は」

「ヴ」

 

 それは無理。と、首を振られる。ふむ。私のものは相変わらず無理なのは変わらんと。仕方ない。さて、それはそうとキリンジは…どうするか。銀糸を取ろうにも泉まで行くしか無いと。それは少々骨が折れる。

 

「キリンジ」

「はい」

「黒装束2名を連れ、しかりと理由を説明しに仲間の元へ向かえ。その後、そなただけ戻ってこい。ああ、それと、我らに敵対せぬならば、自由にしてよし」

「はい、承知しました。姫様」

 

 キリンジは頭を下げると、さっと立ち上がり、未だ説教を受けている黒装束の元へ歩み寄る。

 

「巫女姫様。説教はほどほどにしていただくと助かります」

「キリンジ。そなたにも説教が残っていますよ?そこに直りなさい」

「いいえ。巫女姫様。残念ながら、我々は急がねばなりません。貴女が意志を正しく持ち、そしてハイネケンの王城に向かおうとしている。その事を仲間に伝えなければ。急ぎ伝えなければ、無駄な争いが起きてしまうのです」

「無用な争いですか?」

 

 母が眉をピクリと動かした。私も、思わず目を開く。なんだ、その話は。

 

「はい。無用な争いにございます。もし夜明けまでに我らが戻らぬ場合、我らの兵力が、ハイネケンに攻め込み、王城より耳飾だけでも奪う、という段取りなのです」

「なぜそのような」

「…最高戦力である巫女姫様達が王城におらぬ間に、我らを苦しめる元凶を一つでも破壊しようという、作戦でございます。なにせこの200年。巫女姫様、そしてサクナ様、そしてカキサ様が同時に城を離れるなど、有り得ぬことでした。故に、今が千載一遇の時だと」

 

 ほう。そうであったか。サクナ、カキサ、そして母上のヤマツ。この3人はやはり、ハイネケンにおいても特別な戦力であったということか。

 

「しかし、このように3人様、そして、姫にお会いできて確信致しました。これからは我々も、巫女姫様達と足並みを揃える所存にございます」

 

 キリンジはそう言って、跪いて、母に頭を垂れる。ふむ。銀糸で縛り付けていてこの言葉が出るのならば、まぁ本気であろうか。母もその本気は感じたようで、ひとつため息を吐くと、改めてキリンジら3人に、言葉を投げていた。

 

「…承知しました。であれば、キリンジ。そなたがしかりと我々のことを、一族に伝えなさい。ただし、味方を誤らないように。よろしいですね?」

「は」

 

 キリンジは頭を上げた。そして、首で合図をすると、一瞬にして部屋からその姿がかき消えた。ふむ。やはり、なかなかの手練のようだ。

 

「母上」

「ナガヒメ。どうやら、味方がまだ居たようです」

「そのようですね。しかし、いきなり襲いかかられるとは」

 

 そう言うと、母はくしゃりと表情を崩し、私の頭を撫でていた。

 

「彼らは我らの忠臣です。1000年以上前より、我らに仕える亜人。我らより意志を奪った、この銀糸を特に忌々しく思っていることでしょう」

「左様か」

「はい。故に、今回の行動は水に流すとします。ですが、まぁ」

 

 母の瞳が鋭く光る。

 

「もしやすれば、キリンジの仲間、という連中の中に斥候が入り込んでいることも考えられます。明日からまた、先を急ぎますよ。ナガヒメ」

「承知」

 

 マイネンやカキサらは、こちらを呆然と見るばかり。そして、サクナは目を瞑り、部屋の隅で行く末を見守っている。さて、まぁ、少々混乱してしまったが、とはいえ、今日のところはまず飯を喰らおうではないか。せっかくの旅路、このぐらいの楽しみはあっても良い。 

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