アクセル・ワールド・Another――灰狼の咆哮―― 作:刹っちゃん
原作文庫本だと5巻目が、この物語としてのスタートラインになります。
それにしても、能美クンっていいキャラしてますよね! こんな名悪役って、実写でもそうお目にかかれませんよ。
〝まさに外道〟という一言がここまでしっくり来るのは流石、川原先生の筆力です。
そんな素晴らしい原作の世界観をなるべく壊さないように、しっかり続けていきたいと思いますので、どうぞ今後ともよろしくお願いします。
校庭の隅、体育館の裏側から響いてくる生徒の声。
「UFOキャッチャー! ぐいいいいーん」
肩の辺りまで髪を伸ばした小柄な少年が、それとまったく対照的と呼べる大柄のスキンヘッド髪の男に右手から首許を掴まれている。
持ち上げている男こめかみ辺りにに剃りを入れた不良少年で、こんがりと焼けた褐色に、鍛え上げられた上腕筋群からも、かなりの数の喧嘩や殴り合いをこなしていることがはっきりと解る。
まるで高校生か大学生の様な体格の男はぐいっと少年を持ち上げると、薄緑で塗装された金網のフェンスがへこんでしまうほど、強く、腹部から頭部に体重を乗せて押し付けた。
「どおおおん! 捕獲した少年をナイスキャッチしましたー」
尻からぬいぐるみの人形のようにこてんっ、とした動きでしなやかな銀髪は、黄土の砂利と混ざり合った。
〝捕獲した少年をナイスキャッチ〟だなんて、捕獲とキャッチで意味ダブってるだろう。
などと、突っ込む気概も、体力も、精神も。
今の少年には残されていなかった。
頬の周りには、薄い紫に内出血した後がはっきりとこめかみの方まで広がっている。
一、二発殴られた程度で残るような傷ではない。
「おいおい、もうそのへんにしといてやれよ。五十嵐」
くすくすっ、という嘲笑をしているのは、いじめの主犯格を取り囲む取り巻きの一人で、長い横髪を金髪に染めている。
「まーた〝僕、ずっといじめられてるんです! 先生本当です! 本当なんです! 信じてください!〟って騒いで、学校来なくなっちゃうぜ?」
金髪隣では、二人の調整役を務めているらしい盛り込まれた茶色髪の男が止めに入っている。
一見この中では一番まともそうに見える彼も、右手には見かけない銘柄の煙草のようなものをぷかぷかと吹かしていた。
「おう、その《電子ドラッグ》どうなの? 結構いける?」
「ああ、まあそれなりにはな」
「あーもう飽きたわー。人間UFOキャッチャー、つまんねー、もうコインなくなっちゃったぜ……――なーんつって」
「五十嵐さんマジ受けます。それ!」
「受けるかぁー? アハハハハ」
五十嵐と呼ばれたスキンの男が肩を震わせてどっと笑い。それに吊られて後方の二人もっていた。
「おい、お前らあっちでそれ吸わせろよ」
「ああ、いいぜ。……いくか?」
「〝ぬいぐるみ〟の方はいいのかよ」
「いいよ。こんな汚ったねェ〝ぬいぐるみ〟誰も欲しがらねーって」
ぽいっ、とスキンの男が少年を放り投げると。
まるで吊るされた
まどろむ意識の中で、必死に視界や思考を繋ぎとめようとするものの、体は殴りぬかれる前にも何十回もされていたせいか、
三半規管まで遣(や)られていて、地面が滑り台のような高さで迫ってくる。
ぬいぐるみ。
それが、僕のあだ名だ。
一体いつから本名で呼ばれなくなったのだろう。友達から、いや、友達だと思っていた生徒から、女子から、先生から……。
昼休みには少ないお小遣いをコイツ等に全てとられ、叔母さんに事情を話せば、そこでまた殴られる。
惨めだ……。死ぬほど惨めである。
一体何の為に生きているのだろうと僕は自問してしまう。
もしかして…………。
――――生きる為に生きているのかな……? いや、それはなんだかおかしいけれど……でもそれを違うと反論できるほどの明快な答えも今の僕には持ち合わせていない。
こんな日が、後何日続くのだろう?
まだ中学校一年の一学期後半だというのに……こんな日々が、あと半年以上続くのか。
じめじめした天気が、そんな僕の気持ちをより一層暗くさせる。
小さめのヘッドフォンを首に掛けたような形をしている灰色の《ニューロリンカー》だけが
空に向かって輝いていた。
どれだけ科学が発展し、ニューロリンカーといった高度機器が普及し、生活のほとんどを仮想ネットワークに委ねられる時代が来ていたとしても、変えられないものだってある。
天気もそうだし、こうした人間関係も、その例に漏れることはないのだろう。
ともあれ、今は放課後だし家に帰れば、《
この弱弱しい見た目がいけないのか、それとも。まだ声変わりが進んでない子供のような声がいけないのか……。
自問自答を頭の中で延々とループさせていると、気が付けば僕の頬からは一筋の涙が零れ落ちていた。
そして――――そんな陰鬱とした表情の少年を見つめる少女が一人居たことに、僕はこの時気がつかなかった。
「みぃー、つけたでー、ウチの求めてた。理想のメタルカラー……完璧や、ようやく、人造メタルカラー計画に……」