アクセル・ワールド・Another――灰狼の咆哮―― 作:刹っちゃん
帰り道を歩きながら、地図アプリで自宅までの経路を
「なあ、ぼん……」
少し変わった口調の問いかけは、一瞬よく聞き取れなかった。しかし……。
「ひっ……」
と思わず声を上げてしまう。予想していた姿は、放課後に散々痛めつけられた。あの三人組とは違っていた。
三十センチほどに迫った眼前の女性は、その姿と背格好。華奢な体つきから察するに中学生だろうか……。
背の高さは僕と同じぐらいだが、
首から下には、ブレザーにリボン。ミニスカートに学生鞄と、いかにもな格好で風をはためかせながら立ち居出ている。
そう、首から下だけなら……。
首から上と言えば……紫という変わった色で綺麗に染め上げられた長い頭髪は、左右の中央あるいはそれより高い位置でまとめ、両肩に掛かる長さまで垂らしてツインテールにするのかと思いきや、
その位置からクルクルとドリルのような形に巻き留めている。
細い淵の黒い眼鏡の淵には、ラメがコーティングされ、目元には泣きボクロが目尻に一つ。その
「そう、ぼん。あんたや、なあちょっと話 ええか~?」
なんだろう。この人は一体、よもやあの不良グループの五十嵐に与する彼女か何かだろうかと、一瞬だけ想像して、でももしあの中の内、誰かの彼女なら一人僕に相対するということもないだろうし、その興味を持った眼付きは、僕を
「あ、あなたは……一体」
考えるまでもなく、自分の疑問を声に出すと弁解するという仕草も見せずに返答される。
「んー……イマはちょっと素性を明かせないんやけど、ちょっと話があるんよ」
「ま、悪ぅ話やないから、それだけは保障する」
……怪しい。いかにも怪しい。関わらない方がよいのだろうか。
僕は少しだけ早く歩き始めると、向こうも歩調を合わせてくる。
「なぁなぁ、話聞くだけやし~」
という一言が注いだ前後一秒程度の隙間の時に追随してきた紫髪の少女に、突然がばっと背中から抱きつかれた。
う、うわ……。と、驚く間もなく衣服から漏れ出す葡萄のような甘酸っぱい匂い。
それとあわせて、耳元をふぅ~っとなぞるように小さく言った。しかしその一言は、想像していた誘うような甘い一言とは一線を画していた。
「……ぼん。あんた。苛められ取るやろ?」
……――!
なぜそれを、と告げる前に少し
「ぼん……――あいつらに、仕返ししたいと、思わんの?……そのままでいいん? なぁ、いうてみぃ――」
その眼差しは――まるで悪魔のような
「正直に……」
――そう告げられた時には、もう居ても立っても居られなくなり、つい見知らぬ人にも関わらず僕は……。
「そうです。貴方の言う通りです」と告白せざるを得なかった。
心の内を見透かされているように思えた謎の女性は、ようやく種明かしをした。
「まあ、あんたのこと見てたしなー」
「ど、どこから……」
彼女は僕の問いかけには答えずに、快活なボイスで言った。
「ほんじゃ、乗り気みたいだし。ここで立ち話もあれやから、アソコでゆったりしながら話でもしよかー」
そういって、やや馴染みのあるコーヒーチェーン店を指差しながら僕を煽動した彼女は前へ前へとぐいぐい先導する。
衛星上のGPSからなる僕の現在位置は、いつの間にか指先で描写していた地図のルートから大幅に脱線していた。