「うん、勝てる気がしない」
堕黒百足は口から流れるように言葉を発した。
トトラトトラから借り受けたパワードスーツを使用しアーヴァとペアで2対1の模擬戦を行っていたが、(堕黒百足がパワードスーツに初心者ということもあるが)トトラトトラの卓越された操縦技術に翻弄され近づくことさえ叶わなかった。このパワードスーツを脱いで本気で戦えば、もう少しマシな戦いにはなっただろうがそれは今考えても無駄なことだと思考を放棄した。
模擬戦を楽しんだ後に彼ら3人はヴァラモン我央領堂のファイナルフロア内にある大広間に集まっていた。
「〜〜〜そこで上司が吐いちゃって、もうほんっと大変でしたからね。あの時は!」
「うわぁ、、、大変、そぉ、、、」
「ところで、アーヴァさんは最近仕事順調ですか?確かアーティストやってるんでしたよね。画家さんでしたっけ?」
「、、、、」
「あれ、アーヴァさん?、、、、アーヴァさん?」
トトラトトラはアーヴァの近くによるとアーヴァは頭を下に向けている状態になっていた。
つまり
「これ、、は、、、寝ている、」
「あっははぁぁ(笑) アーヴァさんらしいですね。」
ユグドラシルを遊んでいた時もアーヴァは途中で寝落ちしたりすることが存在した。
脳を直接ゲームと繋げている関係上寝落ちはあまり体に良くない、それでも彼は襲いかかってくる睡魔と戦うことさえせずに眠りに落ちる。自由奔放とは彼のための言葉だろうか
今より少し前のお話
今日、家にメッセージが来ていたのに気がついた。一昨日の晩に発信されたものだと赤文字の日時情報が教えてくれる。大事なのはその中身だ。メッセージが来ているグループはもう数年間関わっていないゲームのサークルコミュニティ、自分はそのコミュニティ創設者の1人であったがそのゲームにはもう関心が薄れてきていた。内容は「懐かしい話でもどう?」というもの。かなりそのゲームで遊んだ記憶はあるが特にこれと理由がなくフェードアウトした。強いて言えば『飽きた』だろうか。ファンタジー系の冒険ができるクオリティのかなり高いゲームだったが所詮数年前のリリースゲーム。最新のアップデートされたさまざまゲームに興味が個人的には高まってきた。
今週締め切りの作品が残っているし、何よりゲームに接続するための機械がある部屋まで移動するのが面倒臭い。
でもなぁー、、、今度会った時気まずくなるかなぁ?
これを断ろったところで仲が壊れていくとは到底思えないが、せっかくのお誘いでもある。
うーん、、、行くか行かないか、どうしようか。
彼は少しの間フリーズしてから、両手を眼前に出した。
「どちらにしようかなてんのかみさまのいうとおり、てつぽううつてばんばんばん、もいちどうつてばんばんばん」
あ、
ユグドラシルは久しぶりに起動する。数年振りのオープニング画面が脳内に流れてくる。
「、、、殿!!、、ーヴァ殿!、起きるんじゃ!アーヴァ殿!」
激しく揺らされた体の衝撃と大きな声を耳に受けて、アーヴァの瞼は光を受け入れた。
「は、はい?なんすか?そんな大声あげて?」
「アーヴァ殿!大変じゃ!ユグドラシルから出られなくなったようなんじゃ!」
「、、、、、、、へぇ?、、、、」
「ユグドラシルがサービス終了したらコンソールが効かなくなって、GMコールもダメになってるみたいなんじゃ!」
堕黒百足は激しく動揺した様子が隠せずに表に出ていた。それほどまでの緊急事態だと考えているのだろう。
「つまり?電脳世界内に監禁されてしまったと?」
「そう考えるのが妥当じゃろうな、運営のミスみたいなものならいいんじゃが、、」
それより先は突拍子もない考察が巡っていたために彼は発言はしなかった。だが可能性はないとはいいきれなかった。
「というか喋り方。それに君そんな声だったけ?何というか女性っぽい声になってない?」
アーヴァは先ほど起こされてから続く一つの疑問を堕黒百足にぶつける。
「うむ、そうなんじゃよ。ユグドラシルが終了した時からこのよく分からない喋り方と声が高くなってしまったんじゃ、、」
「むはぁはwwwww 可愛い声になってよかったじゃないすかwww、ネカマが様になってますよwww」
「笑い事じゃないわい!、、ったく、、喋り方でいうのならトトラトトラ殿も影響を受けておるぞ。」
2人の視線がトトラトトラに向く
「え、、、あ、、、言葉を、、、話すのに、、、間隔を、、、おかない、、、と、、、いけない、、、みたい、、、です。、、なんで、、、でしょう?」
あんまり変わんなくね?アーヴァ自身の最初の感想である。
元々自分から積極的に発言をする人ではないし、声を発したとしても先ほど話してくれたような特徴な喋り方をしていた。違和感がないわけではないが堕黒百足の変化に比べれば、微々たるものだと感じた。
少しの間があり、
「とにかく運営には繋がらないし、なんか体もおかしくなっている。この状況、どうしようか。」
誰もその質問に対する適切な回答が浮かばない。
「話は変わっちゃうんだけどさ、魔法って今も使えるの?」
「あぁ、おそらく使用できると思うぞ。インベントリからアイテムは取れたし、スキルなんかも発動できるとさっき分かったんじゃ」
アーヴァはユグドラシルの魔法システムと同じように規模の小さな魔法、
今回選んだのは第三位階信仰系魔法
自身に信仰系の魔法のバフを行う魔法であり、バフの効果中は特徴的な緑色のオーラを纏うので、詠唱実験に適切と判断された。
アーヴァは魔法を発動する、、、、ことはなかった。
その数秒前、ある人物が大広間に近づく足音が響いていたのだ。
アーヴァたちはその音がする通路方向に振り向く。ちょうど音の聞こえた通路はすぐ曲がり道になっており、その正体を拝むことはできない。
ただ待つことしかできず、その足音は大広間に届いた。同時にアーヴァたちは先ほどの足音の発生源を知る。
肩まで伸びた真紅の赤髪、同じく炎のような熱き赤を瞳に宿した青年である。
ギルドメンバー三人は突然現れた人物に驚愕の二文字が離れない。ビジュアル的にギルドメンバーではない。それに警報やトラップが作動していないことから侵入者ではないだろう。ならば彼は、
「あれは、、リリ クシャトリヤじゃなかろうて?」
「クシャトリヤ?NPCでしたっけ?」
「うん、、、確か、、、シャケギライさんが、、、作った、、、やつ」
赤髪の青年はギルドメンバー三人を見つけると小走りで駆け寄ってきた。
そこには気持ちに焦りが混じっている者だった。
「至高の方々、ここにあられましたか。」
青年は凛々しく、そして堅実な声で発した。
続けて、
「どうやら、このヴァラモン我央領堂の周辺一帯に変化があったようです。詳しく情報を手に入れるために調査に赴くことをお許し頂けますか?」
今まで、このユグドラシルから出られなくなって様々なことに驚いてきたが、その出来事コレクションに新たなものが追加された。
ユグドラシルのNPCは基本 命令されたことしかできない。こんな今みたいにに自主的に動いたりしない。顔の表情が動いたり、言葉を発することなどあり得ないことなのだ。中に人が入って動かしていると言われた方が納得するだろう。そのような異常現象であった。その疑いがあったためにこの言葉を発したのだろう。トトラトトラは少し怯えるような声で言った。それはまさに初対面の人に少し遠慮した気持ちを持って接している時のよう。
「だれ?、、ですか?」
「はっ、失礼しました。
赤髪の青年はトトラトトラの返事にはっきりと答えた。
「ユグドラシルから出られなくなったり、NPCが喋り出したり、どうなっておるんじゃぁ?」
「何が起こっているのかは、わからない。でも今できる限りの情報を集めようよ。
クシャトリヤ。」
「はっ、アーヴァ様」
「ヴァラモン我央領堂に存在するギルドメンバーによって作られたNPCたちを全員この大広間に集めてくれ」
クシャトリヤは少し考えてから次の言葉を発する。
「恐れながら申し上げます。アーヴァ様、ただいま、ヴァラモン我央領堂は周辺地域の変化により敵の襲撃の可能性がございます。防衛に関する任務を与えられている者たちの役割が今なくなることは敵の侵入を容易にすることであると愚考します。」
正論を返されたアーヴァはすかさず
「わかった。その通りだ。ではそれらを除いた者たちを集めてくれるか?」
「かしこまりました。直ちに招集して参ります。」
クシャトリヤは映画に登場する忍者の如くその場を後にし、任務に赴いた。
「とりあえず言うことは聞いてくれるみたいじゃの。」
「そうだね。NPCが集めてくれるみたいだけど、どうする?何を聞く?」
堕黒百足の背中から生える無数の足が装備越しに蠢いた。
「なんと!考えなしの行動じゃったのか!アーヴァ!」
「はっはぁはぁ(笑)そうだね。なんとなく。」
「NPCたち、、、には、、、自分たち、、、をどう、、、思って、、、いるか、、、聞けばいいと、、、思う。、、全員が、、、従って、、、くれる、、、わけじゃ、、ないと、、思う、、、から。」
「トトラトトラさん長くなったね。一文の時間が。それはともかくその案はナイスアイデア!。 とりあえず、それを聞くことにしようか。と言うことで少し皆が集まるまで時間があるわけだけど、この今の状況でできることできないことを確認するか」アーヴァ自身はここがユグドラシル内とは思っていない。アーヴァ自身が今匂いや触感、表情まで、ゲームでは到底再現できない要素が存在するからだ。だとすると僕たちが知るような現実の世界なのか?と言われると違うという結論にいたる。先ほど、クシャトリヤが登場する前に魔法を発動させようとした。その時に理解したのだ。自分が今、自分のMPを消費して、どの程度の魔法を使うのか、魔法強化系スキルの選択有無など、魔法を発動してこそいないが、ユグドラシルとおおよそシステムが同じであると言うことを。
「堕黒くん、あ、今はちゃんづけの方がいいかな?堕黒ちゃん。剣を貸してくれる?」
「アーヴァ、貴様ぁ、、、まぁよい。ほれ、」
堕黒百足はアーヴァに120cmほどの大きさの刀をアーヴァの前方に差し出す。
「何につかうんじゃ?」
「あぁ、これは」
アーヴァは手渡された武器を手に取ろうと動作するがまるで磁石のNSが反発するように剣は地面へと落下した。
「やっぱり、魔法職は剣とかは持てないのか。、、ありがとう。堕黒ちゃん。召喚魔法とかどうなるんだろうな?」
アーヴァは天使を召喚することのできる魔法、その中では低位の
魔法陣が地面に浮かび上がり、下から上がり続ける強い光と共に一体の剣を持って天使が誕生した。
アーヴァは天使が召喚された瞬間から天使とのいわば、精神的な繋がりを発見した。思うだけで天使に命令を出すことができ、ゲームの頃と比べかなり自由度が増した。これでまた一つの実験が終わった。天使に帰還命令を出すと光と共に消滅した。
「思うんじゃが、アーヴァ殿はこの状況に驚きは感じんのか?」
今の世界の法則をさまざまな検証を元に地道に解明していく中、堕黒百足は自身との価値観の相違を尋ねた。
「ん??、、 というと?」
「このユグドラシルから出られなくなった状態のことじゃよ。えらく肝が座っておるなと思って。お前さんならもう少しあたふたすると思っていたのじゃが。」
「そう、、かな?対して変わったことはないけれども、今の状況を打破する役に立てればなと思い。」
「そうか、妾とトトラトトラは魔法が使えん故、頼りにしとるぞ。」
「うん。おけ、、、お、来たみたいだよ。」
大広間はヴァラモン我央領堂のファイナルフロア中央に存在するファイナルフロア全ての部屋と物理的に繋がっている部屋である。その各所に伝わる通路には大小様々な影が見えてきていた。
まず初めに姿を現したのは大きな体格に鏡のように写るものを反射する銀の鱗を持ち大剣を腰に携えた直立二足歩行の龍である。身につけている服や靴、頭のシルクハットなどから紳士然とした雰囲気を感じるが見えている龍としての部分が異質さを物語っていた。その龍はギルドメンバーたちを目視するとその場でお辞儀をしたのち、近づいてきた。
「至高なる方々、フォースフロア
「あぁ、クアンタ、来てくれたことに感謝するよ。」
「はっ、ご命令とあらば何処へとも」
クアンタは深く礼をした。
その次に別の通路口から二つの影が見えてきた。
1人は先ほど皆を集めに行ってくれたクシャトリヤ、
「至高なる方々、リリ アイネを連れて参りました。最後に、サードフロア
そしてもう1人は、
「セカンドフロア
それは一目見れば、十代前半のドレスをきた少女だ、しかしそれを否定する要素を彼女は持っていた。まず彼女の頭から生えた一対の角、うねりが方向を決めず伸びていて禍々しさを増す。また、背中から生えた蝙蝠の羽や棘のついた金の尻尾、人間ではない。彼女はリリ クシャトリヤの妹という設定のリリ アイネという悪魔だ。
「ああ、至高なる御方や、今日も変わらず威厳あるお姿で、私は心と体を震わせることが止みません。」
「お、おぅ、ありがとう、、」
アイネは曇りない顔で満面の笑みを浮かべながらギルドメンバーを称賛した。
若干引きながらも最後のこの場への来訪者が到着したことをアーヴァたちは確認した。
とりあえず、みんな今は反逆の姿勢はないみたいだな。この現実とゲームが混ざったような世界で色々死ぬのは嫌だからな、、、もしかしたら死んだら現実世界に戻れるのか?
いややめよう怖すぎる。
それよりも今は最後の来訪者に目を向けるか。
来るのはサードフロア管理者 イオリア
ヴァラモン我央領堂ではステータスだけで見るなら最強の名を冠する存在だ。
コツコツ、コツコツと足音が響いてきている。ハイヒールを履いているのか?確かそんなビジュアルだった気がする。
そしてアーヴァの眼前の通路から多くの異形なるものや人々の先頭を歩く女性を視界内に捉えた。
後ろの数十人からなる大群はそのものの指示により護堂師たちの後ろに並び、その者だけが前に出てきた。外見では美しさと凛々しさを持つ白いシスター衣装の傾国の金髪美女である。
「サードフロア
とても静かに、そして穏やかにそのソプラノは空気を震わせた。そこには純粋さや堅実さ、高貴なる意志を感じることができた。
その後、クシャトリヤが代表して発言した。
「ここに
一同、至高の存在に忠義を示せ。」
そのことばの後に続いてギルドメンバーを除く全ての者たちが一斉に跪いた。
原作の二番煎じ感は否めない