これうまくしてゲームに出来たらと思います……がんばりますねー。
「ここ……かな?」
僕は、しばらく道なき道を歩んだ後に見つけた立派な石造りの通りの先にある立派な建物を見つけてから、そう呟く。
あまりに古さびた門構えを前に、思わず身を正しながら衣類に付いた草などを払うのにしばらく専念する。
間違いなく、相手は金持ちだ。それに対するにどれだけ労が必要なのか、今ひとつ前の経験と繋がっていない経験から僕は用意に時間をかけてしまう。
「親戚……だからそんなに気にしないでいい筈だけれどね」
そう。僕はしばらく居候させてもらる大楠の家の前で、礼を失しないようにと身だしなみを気をつけてばかり。
でも、仕方がないだろう。まさか、五重塔みたいな明らかに住居部分でない立派な建物が複数見て取れるこの家は広すぎる。
「これから、ここに住むのかよ……」
準備を終えて真っ直ぐ門戸の前に立っても未だ現実感が不足していた。
もっとも父には山そのものが彼らの持ち物なのだと、教えられていたには違いない。
だが、そんなの何時もの冗談だと思い込んでいたから、住所をタクシーの運転手に告げて近くまでと着けて貰ったのが山の入口であったのには驚いたものだ。
「はぁ」
よく分からず山道を進んで右か左かの二択に失敗した後、合流した細道を分け入り続けて日が暮れ落ち込んだ丁度先ほど着いた。
草は手を切りやすいと学べ、妙な獣の声にいくら恐れてもそうそう本体に出会うことはないとも知れたが、もし道を間違えてさえなければという徒労感はある。
僕は額を思わず袖口で擦るが、すると袖ボタンの隙間にエノコログサが刺さっていたからそれを抜いて、再び前へ。
「ノックすればいいのかな……と」
僕は明らかに電子化が遅れているだろうこの場にてどう立ち回れば最速で訪問を教えられるか不安だったが、しかし大袈裟なまでの扉は鈍い音を立てながら開いていく。
手をかけようとしてはいたが、しかしその前に開いた木製のこれが自動的な開閉機能を有していないとするならば、答えは一つ。
誰かが先に僕に気づいて、開けてくれたのだ。
「っ」
心遅れて慌てる僕。だがしかし、重そうな観音開きの門戸を開いてくれた相手が真っ直ぐ見つめていても伺えない。
普通に考えたらそれこそ厳しい大男でも現れて随分と遅く来たなと怒られでもするかと思えば、そんなことも姿形も見て取れずに。
首を傾げる僕に、かかった声は随分と低いところからだった。
「あんた、誰?」
真っ直ぐ向いていた頭を下方に。すると、そこには訝しげな表情をした少女の姿が。
そう、てっぺんに何だか
齢としては十を数えたかどうかといった幼い彼女を前に、しかし驚き続きて逆に平静になれた僕はこう返した。
「えっと……あ。僕は海山宗二。君はここの子で、いいのかな?」
「モチ! アタシは
「えっと?」
「首傾げてない! どーでもいいの。ただ、ここで私と会ったとか言っちゃ駄目だかんね」
しかし未だに重量ありそうな扉を片手で広げたままの少女は見た目通りの勝ち気な性質を持って僕に言い募る。
よく分からないが彼女はここの子であり、しかし親御さん達に僕と会わせる予定はなかったということか。
まあ、この子の明らかに異常な膂力とか気になるところはあるけれども、しかし僕の来訪にいち早く気づいてくれて迎えてくれた優しい子にわざわざ反駁するつもりもない。
素直に、僕は頷くのだった。
「まあ、分かったよ」
「うん! そうね、貴方長生きするタイプ! はなまるあげちゃうよ!」
「あはは……ありがとう」
すると、思い通りになったことが嬉しかったのか僕を凄まじい力で家中へと引きずり込みながら、雫ちゃんはニコニコ指先をくるくる。
それが空想の襞を帯びたのを理解してから、僕は感謝を伝えた。
なんとも元気で、笑窪の似合う子だ。正直な所、先の苦労で少し気落ちしていた心に、本当にありがたい。
「ん!」
そして、彼女は僕を前に。
すると高い塀からは伺えなかった家の中が凡そ理解することが出来るようになった。
いや、理解と言ってもしかし何だろうか、コレは。
僕が変わる前に修学旅行にて向かった古都の歴史的建造物が想起されるなんて、やはりあまりに立派に過ぎる。
というか、どこもかしこにも精緻に過ぎる木彫が凝らされていて、こんな田舎の山奥であっても金持ちは凄い価値のあるものに囲まれ得るのだなあ、とまで思ってしまった。
総じて広い、デカい、首が痛い、といったところだろうか。
明らかにお寺っぽい建物とか苔むした石碑とか何の意味があるのだろうと思いながら、僕は思わずたたらを踏んでしまう。
「えっと……」
どの建物に入れば大人に会うことが出来るのか。先に二択すら外した僕はそれらしき大中小の人家の中から自己責任でどれかを選ぶことすら迷う。
「雫ちゃ……あれ?」
分からない。ならば人に聞くのが一番の賢いことであるのを知っている僕は、先まで隣でふんぞり返っていた少女の方を向く。
だが、そこには誰の姿もなければ、遠ざかる小さな背中すらあたりにない。
悩みも数秒。その間に人が跡形もなく消えてしまうのはおかしなことで、まさかあれは幻だったのかと僕も自らの正気を悩んだ。
「まあ……大丈夫さ」
とはいえ、色々おかしなところはあったがあの子のあどけなさが僕の妄想とは思えない。
そして、消えた元気も、何かいたずらとかそんなものであれば気が楽だ。或いは、僕が思っていたより実は悩みすぎていたとか、それが正解なのだろうか。
「うん……と」
「こんにちは。宗二さん」
前を向き、するとそこには新たな人の影。
今度は明らかに軽そうな扉を広げきって向かっているだけの、何らおかしくない妙齢女性の姿ということを理解して、やっと微笑めた僕は改めてお辞儀をするのだった。
「はい。本日の到着を予定していました海山宗二です。はは……遅くなって、すみません」
「いえ……私は大楠の家にて女中を行っています、笹崎由梨と申します。こちらこそ、お出迎え出来ずに申し訳ございません」
笹崎さん。お父さんは何か会った時はそんな人を頼れと確かに言っていた。
でも、少し想像と違う。頼れる人といったら相当な年上を思ってしまうけれど、でも明らかにこの笹崎さんは僕より少し上な程度。
彼女と共に暮らすということに何となく気が引ける気持ちすら湧いてきたが、まあそれでも僕は再び前を向き彼女を言葉にて面をあげさせる。
「いえ。むしろずっと外で待っていらっしゃったら申し訳なかったです。それでは……しばらくお世話になりますね。よろしくお願いいします」
「はいっ!」
「っ」
すると、上がった顔は当然のように笑顔で、僕はむしろ面食らう。
歓迎の笑み。それをこんな初対面の綺麗めの年上から向けられることに、疑問すら感じるがまあ好意に驚いてばかりでは仕方ない。
取り敢えずは、リュックを下ろせるところはないかと僕は聞こうとして、視線。
柔和に緩めたその奥の鋭い観察によるのか、笹崎さんは先んじてこう言った。
「あ。遅れましたがお荷物はこちらに……それと中で奥様が待っていらっしゃいます」
「ありがとうございます……奥様、ですか。確か父は随分と年上の方がいらっしゃるから敬意は欠かすなと言ってましたが……」
「ふふ。奥様はここ
僕は女中と言うよりメイドっぽい白と黒に身を包んだ笹崎さんの朗らかな笑顔に感じ入る。
説明に喜びと確かな敬意が混じるのは、彼女が本当にその奥様とやらを愛しているからか。
フランクというのがどれくらいなのか気になるが、もし僕に丁寧さや敬いが足りなければ努力すればいいこと。
そして残った気になること。それを僕はオウム返しのように繰り返す。
「唯一、ですか……」
「……ええ。ここにお
「なるほど。分かりました。何か僕に出来ることがありましたら仰ってくださいね」
「ええ。もしお力をお借りする機会がありましたら、どうかよろしくお願いしますね! 取り急ぎ、お荷物お持ちいたしますね」
「あ……」
返事もする暇もない合間に背中の重みは失われ、代わりに上等な香気が残った。
そして、急いそと僕の重荷を両手に家の中に消える笹崎さんの背中。
本当は、このまま何一つ気にせず後を続くのが正しいことなのだろう。
でも、何となく気になった僕は閉まっている門戸を指先で押して、閉じた扉がそのくらいではびくともしない重みであることを感じる。
「またね」
でも、あの子が僕の幻でないことは信じられるから、再会を楽しみに、木々のざわめきの合間にそんな言葉を僕は零すのだった。