もはやn番煎じと化したヤンデレ小説ですが、暇つぶしにどうぞ。
解釈違いがあるかもしれませんが、それはこの作品内での設定ということでお願いします。
小さいころに見ていたドラマで、僕はこんな言葉を聞いた。
『愛ほど歪んだ呪いはない』……と。
当時の僕はなんだそれと特に気にしていなかったけど、大学生になった今になって気づいた。
「なんで一人でお出かけなんてしたの!」
「この間勝手に家を出ないって私に約束してくれたのは嘘だったの?」
「ねぇ、もう私と一緒に暮らすの嫌になっちゃった?」
「ご、ごめん……どうしても大学の授業に出席しないといけないから……」
僕は呪われている。もうどうしようもないぐらいに。
「大学はオンラインでも授業受けられるよね? わざわざ学校に行く意味あるのかな?」
「で、でも対面で授業を受けた方が、分からないところもすぐ質問できるし……人との関わりも増えるから……」
「それで他の女の子と知り合うつもりなんだ?」
「違う! ただ人付き合いが減ったら何かあった時に誰かに頼れないし……」
「頼る? 私に頼ればいいじゃん。それとも私なんかじゃ頼りにならない?」
「そんなことない! アイにはいつも助けられてる!」
「じゃあなんで勝手に家を出たの?私が嘘が大嫌いってこと、康太は知ってるよね?」
「……それは」
こんなはずじゃなかった。僕とアイとの間に生まれた愛は、こんな歪なものなんかじゃなかったはずだった。
「ねぇ康太。そんなに私と一緒にいるのが嫌なら……別れちゃう?」
「い、嫌じゃないっ。今度からちゃんと連絡してから出かけるから……」
「違うよ? 連絡するしないじゃなくて、一人で家から出るなって言ってるの」
「で、でも……」
「でも……なに?」
「……わかったよ」
初めはなんだかんだうまくいってたはずなのに、いつからこうなっちゃったんだろう。僕はどこで間違えてしまったんだろう。彼女と恋人になってから? それとも彼女に恋した時から?
あるいは、彼女に出会ったこと自体が、間違いだったのか?
「ならいいの! ごめんね? 怖がらせちゃって」
「いや、別にいいよ……」
「でも康太も悪いんだよ? 私が少し見ないうちにひとりでふらっとどこかに行って、それで綺麗な女の人と知り合っちゃったりしたら……」
「そ、そんなことない。僕はいつだって君一筋だから」
「知ってる。だからしっかり行動で示して」
そういって彼女は僕に抱き着いてくる。僕も彼女の背中に手を回して抱き返す。
「大好きだよ……康太」
「……僕もだ……アイ」
目が濁り切った彼女……星野アイと抱き合いながら、僕らは愛を伝え合う。けれどそれは愛というより、あなたを逃がさないという呪いのようにも思えた。
それでも僕は、アイのことが好きだ。いつも誰かに、そして自分自身に嘘をつき続ける日々。そんな彼女に少しでも嘘のない時間を過ごさせてやりたい。僕のこの想いは、アイとこうして恋人同士になってからもずっと変わらず抱き続けている。
「でも、康太」
「ん……?」
「私に黙って家を出るのは許せないなぁ?」
「……それは」
「お仕置き、しないとだね?」
そう言って僕から離れたアイは、次の瞬間僕の右の頬を思いっきりビンタする。
「うっ……」
「ごめんね? 痛いよね? でもこれは私に嘘ついた当然の報いだから……我慢してね?」
「……」
「……っ!」
何も言わない僕が癪に障ったのか、今度は力強く左の頬をビンタしてきた。張られた頬の痛みは、彼女の怒りがどれほどのものかを分かりやすく教えてくる。
(……なんでこうなっちゃったんだろう)
そうしてアイに何度もビンタされる中、僕は昔のことを思い出していた。アイと初めて会った時のことを。
~~~~~~~
「さぁ星野さん。みんなに挨拶して」
「星野アイです。みなさんよろしくお願いします」
彼女と初めて出会ったのは、小学二年生の頃だった。当時からアイは、その美しく艶やかな紫の髪と星のように輝く瞳で、クラスのみんなを虜にしていた。
(……なんか、お高くとまってそうな奴だな)
当時の僕は家庭内の環境が劣悪過ぎたこともあり、周囲に陰口や悪口を言われまくる日々を過ごしていた。そんなこともあって、僕はすっかりはみ出し者になってしまい、僕自身もそんな好き放題な周りの奴らにイライラする毎日を過ごしていた。
そんなときに彼女がこのクラスに転校してきた。なんでも家庭の事情で転校してきたらしい。
(僕なんかと違って、すごく愛されてるんだろうな)
当時捻くれていた僕の中での彼女の第一印象は、『周りにちやほやされまくる可愛い子ぶったお嬢様』という、分かりやすすぎるほどに最悪なものだった。
「じゃあ星野さんの席は……ってあそこしか空いてないわね」
「……はっ?」
突然クラスの視線が集まったので、僕は怪訝な表情になる。当時僕のクラスで空いている席は、僕の隣の席しかなかったからだ。
(マジかよ……)
「じゃあ星野さん……川西君の隣に座ってくれる?」
「はい。分かりました」
担任に言われて、アイが近づいてくる。僕は特に気にもしなかったのでそのまま机に突っ伏して寝ようとした。しかし隣に座った彼女が、それを許さなかった。
「星野アイだよ! 君の名前は?」
「……川西康太」
「川西君かぁ……。よろしくね!」
「……」
「むぅ……反応が薄いなぁ? もっと元気出して~!」
「……うるさい」
それから僕の隣は、しばらく転校生のアイに質問攻めするクラスの連中でいっぱいになった。いつもは近づかないクラスの連中が隣のアイの席に群がるせいで、僕はその日の放課後まで居心地悪い時間を過ごす羽目になった。
(さっさと帰ろう)
僕は帰りたくもない家に帰るために、手早く支度して教室を出る。しかし教室を出た途端、ある人物に呼び止められる。
「まって川西君! 一緒に帰ろう!」
呼び止めてきたのはアイだった。けれどその日の僕は半ば彼女のせいでイライラが溜まっていたこともあり、ただ一言、「いやだ」と口にした。それを聞いたアイはたちまち拗ねた表情になる。
「なんで!? いーじゃん一緒に帰るぐらい!」
「ひとりがいい」
「……ふーん? なら勝手についていっちゃうから!」
「はっ? なんでだよ。僕と君とじゃ帰り道が……」
そう言って僕が帰路につこうとすると、アイもまた同じようについてくる。
「どうやら一緒みたいだね?」
「……嘘だろ」
僕は辟易しながら、とぼとぼと歩き出した。アイも横にぴったりとくっつきながら歩き出す。僕の家は学校から少し遠い場所にあるため、しばらくはアイと一緒に歩き続けなければならなかった。
「ねぇ……」
「……」
「もう、無視しないでよ~」
「……なに?」
「君ってなんでそんなに元気がないのかなって」
「……別にあんたには関係ないだろ」
「ふぅん……?」
アイはそう言って俺の顔を覗き込んでくる。
「なに」
「ううん、何でもない。ただ……」
「……ただ?」
「なんだか寂しそうだなって思って」
いきなり訳の分からないことを言い出したアイに、僕はイライラする気持ちを抑えながら聞き返す。
「いきなり何言ってんの? 僕が寂しそう? そんなわけないだろ」
「……」
「……何か言えよ! さっきからなんなんだよお前!」
何も言わずに僕を見続けるアイに、僕はつい我慢ができずに荒い口調で問い詰めてしまった。すると突然アイが僕の顔を掴み、ただ一言呟いた。
「噓だよね、それ?」
「……っ!?」
僕はアイの言葉に一瞬恐怖を感じて、サッと距離を取る。特に変わった様子はなさそうだったが、アイから一瞬感じた威圧感は、今までの人生で味わったことのないような恐怖を感じさせた。
「本当はみんなと仲良くなりたいんだよね?」
「ち、違う……」
「本当は悪口や陰口を言われ続けて悲しかったんだよね?」
「違うっ……!」
「本当は……」
「違うって言ってるだろっ!!」
まるで何かを暴こうとしてくるアイの言葉に、日々の生活で積み重なっていた負の感情がついに爆発し、僕はアイを思いっきり突き飛ばしてしまった。
「きゃっ!」
「あ……ごめん……」
「ううん……こっちこそごめんね?」
アイは気にしてないような素振りを見せる。でも僕は内心でこう思っていた。僕に突き飛ばされたことをこいつがクラス中に言いふらしたらどうなるんだろうって。今日の彼女のクラスとの交流を見るに、アイは相当気に入られている。もし言いふらされたら今よりももっとひどい生活が待っているかもしれない。
「大丈夫」
しかしそんな俺の気持ちとは裏腹に、彼女は優しく僕を抱きしめてきた。
「私は君の敵じゃない」
「……え?」
「君が思っていることにはならないよ。私は……君の味方だから」
「…………」
「だからもう……自分に嘘はつかないで」
「……う、うぅ……ぐすっ」
彼女が僕に投げかけてきた言葉が、頭にスッと入り込んでくる。その言葉の意味を理解した途端、僕は涙が止まらなくなって、みっともなく泣き出してしまった。アイはそんな僕をただただ優しく抱きしめてくれた。そんな彼女の優しさが、当時の僕にすごく響いた。
『私は敵じゃない』『私は君の味方だから』……周りに敵しかいなかった僕にそんな言葉を言ってくれたことが、僕はすごく嬉しかったんだ。
それから少し落ち着いてから、僕とアイは近くの公園に寄り道して、僕は彼女に自分の身の上話をした。
僕の家族は父と母の三人暮らしで、父と母がいつも僕のいる家の中で喧嘩していること。父が会社で失敗して借金まみれになり、浮気相手に金をせびっていること。母が父からの暴力に耐え切れず、他の男に逃げていること。そして僕が一年前から両親のネグレクトに合っていること。
他にも色々アイに話をしていくうちに、僕はふと気になって尋ねてみた。何故今日会ったばかりの僕にそこまでしてくれるのかって。
「何故って……理由なんてないよ。だって私たち、もう友達じゃん!」
「……え?」
「私、クラスの子から聞いたの。君が家族からいらない子として扱われてるって。君に近づいたら何されるかわからないって。でも今日こうして君と話しているうちにわかったの。君はただ……誰かにわかってほしかっただけなんだって。ただ言い出す勇気がなくて、お互いに分かり合えてないだけなんだって。だから私、君の口から直接聞きたかったの」
「……」
「それに川西君……なんだかんだ優しいし! 今日だって私と一緒に帰ってくれてるじゃん! これはもう友達って言ってもいいよね!」
「……なんだよそれ」
アイの素っ頓狂な言い分に、僕はつい笑ってしまった。僕が笑ったのはいつぶりだろうか。両親が育児放棄してから、ついぞ笑うことなんてなかった。
「あ、やっと笑ってくれた! その笑顔、すっごく素敵だよ!」
「……うるさい」
「照れちゃって~! このこの~!」
「うるさいって言ってんだろ!」
その時の憎たらしいほどのアイの笑顔は今でも鮮明に覚えている。あの時の彼女の笑顔は何かをくっつけたような笑顔ではなく、ただただ同年代の子供が照れているのを見てからかう、
「……ありがとう」
「ん?」
「……星野さんのおかげで、僕は自分に素直になれた気がする。時間はかかるかもしれないけど、クラスの子とも分かり合えるように頑張ってみるよ。……家族のことも」
「……うん! 君ならできるよ!」
僕とアイは、揃って笑う。僕に面と向かって友達だと言ってくれたこの子に、僕は救われた。なら僕もいつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
「それじゃそろそろ帰ろうか。遅くなって両親がうるさく怒鳴ってきたら面倒だし。どうせ僕のことなんか気にもしてないだろうけど」
「……うん。私もそろそろ帰らなきゃね!」
「また学校で! バイバイ星野さん!」
「バイバイ! 川西君!」
そう言って僕達はそれぞれの家路についた。帰宅している最中、僕は心の中で思った。きっと彼女は、僕とは違って両親の愛をいっぱい受けてきたんだろうと。彼女の優しさはきっと、両親から受けた愛に影響されているんだろうと、当時の僕は本気で思っていた。
だけど、そんな僕の考えがまったく見当違いだったこと……そして彼女が僕とは比べ物にならないぐらいに大きな闇を抱えていることを、僕はこれから先の人生で嫌というほど味わうことになる。
パッと思いついたネタなので、余り続きません。
肝心のヤンデレ要素が少ない気もしますが、作者自身がヤンデレを書いた経験がほとんどないこともあって、こういう形になりました。
推しの子は最近知ったばかりですが、ストーリーの怒涛の展開ぶりに驚かされまくってます(笑)