世界最強の男。生物全体で言えばポセイドンと答えるだろう。人類と言う枠組みで言えば白髭と答えるかもしれない。だが白髭もまた人類とは言いがたい巨漢。ふつうサイズの人間ならば? ある者はガープと答え、ある者はレイリーと答えるだろう。殊更に世界最強の剣士と聞かれた時はレイリーと答える者が多い。
そのレイリーはビッグロックに来ていた。以前、ポセイドンに話しかけるために立ち寄って以来だ。その目的は、やはり若い女。と言っても今回はまぐわるというわけではない。珍しくも自ら助け、修行をつけたハンコック。100では足りないほどの女を抱いたレイリーにとってもお気に入りの彼女が捕らえられ、再び奴隷にされているという。その彼女をハンコックを奪還するべくガーディの武道大会に参加するのだ。
レイリーは自分が世界最強とは思っていなかった。彼はケンカでロジャーに負けていたし、そのケンカもガープや白髭ほど拮抗していなかった。引退した今では白髭やガープにはさらに差を付けられているだろう。だが、それでも。選ばれた極一部の強者だという自負があった。海軍大将くらいの強さはまだあるはずだ。いくらガーディが最強国家と言っても平均は中将レベル。自分とは実力に開きがある。
武道大会は本線の前に予選が行われる。予選は全部で16ブロック。AからNブロックまではビッグロックからの参加者のみで構成され、OとPは外部からの参加が許される。予選は残り4名となるまでサバイバル。4名となった時点で予選トーナメントに進出する。
レイリーはOブロックに参加した。外部からの参加者達がわらわらと会場に集まってくる。新世界の最深部というだけあり、ここに来るだけでも相応の実力が要求される。参加者は全員が強力な覇気を持っていた。そして、驚くべきことにハンコックも予選会場にいた。
「君は捕まったと聞いていたが」
「もう解放されておる。じゃが、九蛇の船がポセイドンに壊されてしもうてここまで来れぬのじゃ。それに何より、やられっぱなしというのは性に合わぬ」
「ほう、海賊の血が騒ぐか」
「レイリーも何故ここに? 引退したと聞いておったが」
「いや何、たまには運動でもしようかなと思ってね」
「ふっ 余裕じゃな… じゃが、そなたであっても油断は大敵じゃぞ」
「肝に銘じておくよ」
予選会場でむさ苦しい男達とイキリあったりせずに、美しい娘と談笑する。レイリーのペースだ。心落ち着く。
「へっ、レイリーじゃねえか。まだ女のケツをおっかけてんのか」
「むっ 君は…」
レイリーに話しかけたのはダグラス・バレット。かつてロジャー海賊団として同じ船に乗っていた。最強を目指すと言ってビッグロックに向かったことは知っていたが、まだいたとは思わなかった。
「俺はこの国に住んでいるからな。今回はBブロックに参加している。ロジャー海賊団の副船長だったんだ。俺の元上司として予選落ちなんて無様は晒さないでくれよ」
「ふっ ずいぶんな上から目線じゃないか。よほど自信をつけたようだ」
「まあな。今のお前じゃ相手にならねえよ」
「……」
確かにレイリーは老け込んだ。今のバレットには勝てないだろう。だが、いい勝負はできる自信があった。実はこの島に来る前に鍛えなおしてもいたのだ。2年ほど。全盛期程ではないが強さはそれなりに戻っていた。
色んな波乱がありつつ、予選が始まる。
「うおぉおおおおおおお! 俺が世界チャンピオンだぁああああああ!」
世界チャンピオンを自称する男、ジーザス・バージェス。彼は開始早々、レイリーにショルダータックルを仕掛けてきた。レイリーは見もせずに片腕でバージェスを受け止めた。
「え……っ!」
「その意気やよし!」
「ぐは…っ!」
そして得意の流桜を拳で鳩尾に叩き込む。バージェスは一撃で白目をむいて崩れ落ちる。
「さすがはロジャー海賊団…っ!」
「伝説の男か…っ!」
Oブロックの参加者達が、ぴたりと動きを止めた。レイリー相手に隙を見せたくなかったからだ。だが、2人。悠然と近づく者がいた。
「ふむ、君の話はシャンクスから聞いているよ、ミホーク君だったかな」
「俺を知っているのか 光栄なことだ」
「そちらの君は知らないな… 誰だ?」
「オラァ、クイナってんだ あんたに勝てば最強の剣士を名乗れるのかい?」
「どうだかな…」
「できれば1対1でやり合いたいが…」
「俺もサシで頼むぜ…」
「ふむ、ならば勝った方と戦ってあげよう」
「へっ、しゃあねえな…」
ミホークとクイナが剣を構える。会場の空気が一変するほどの濃密な覇気が両者を包む。そしてクイナの姿が変化した。美しい女へと。
「むっ」
驚き、油断。ミホークの剣を握る力がゆるむ。
濃密な覇気は、悪魔の実の力を押さえ込む。クイナは悪魔の実の力で男になっていたということだろう。
「ちっ」
一瞬の隙をついてクイナが切り裂く。ミホークはなんとか剣で受け流すが、体勢を崩してしまった。
「あーあー、やめだやめだ…
お前も女は切りたくないって口かよ…」
クイナは追撃を止め、剣を納めた。満足のいく戦いはできないようだ。
そして、クイナの姿が再び男に戻る。
「どういうカラクリだ?」
「さあな、覇気を込めると女に戻っちまうんだ せっかく強くなるために男にしてもらったってのによ」
「悪魔の実の力か? 確かカマバッカ王国のイワンコフ?」
「正解」
クイナはミホークに背を向けて歩いていく。
「いいのか? 俺を切らなければレイリーとは戦えんぞ」
「しゃあねえだろ。手を抜かれた相手を切っても最強の証明にはならねえ」
レイリーが声をかける。
「正直助かる… 私も女性とは戦いたくない…」
「けっ なんだよそりゃあ…」
その後、レイリーとミホークの一騎打ちが始まった。
激しい攻防の末、勝ったのはミホークだった。これ以後、ミホークは世界最強の剣士と呼ばれるようになった。ただし、彼は女性に攻撃できなかったので、ハンコックとクイナには勝てなかった。かと言って無様に負けたくもなかったので、レイリーに勝った直後、自分から予選会場を去った。
最終的にこの予選サバイバルのベスト4は、クイナ、ハンコック、デン、ヒグマの4名。予選トーナメントは一回戦でクイナとヒグマが当たり、クイナの辛勝。二回戦はデンとハンコックの戦いとなり、デンが女性は攻撃できないと言って不戦敗。決勝はクイナ対ハンコックとなった。クイナは元女性であり、濃密な覇気を持つ。ハンコックの美しさに目を奪われるも、能力にかかるほどではなかった。ふつうに近接戦闘を行い、クイナが勝利した。
そのクイナだが、本戦では一回戦でダグラス・バレットとぶつかった。当初は互角の勝負を繰り広げたが、パワーがやや足りず、徐々にバレットが有利となった。そしてクイナは地べたに横たわった。
「おい、お前、女のままの方が強いんじゃねえのか?」
「はぁ、はぁ、はぁ… 言うなよ、気にしてんだから…」
「ふんっ 無駄なことをしやがって…」
ダグラス・バレットはこの戦いを経て気になることがあった。かつて自分と互角に渡り合ったライバルの見るも無残な姿。あれも、性転換が原因なのではないか?
「おい、お前を性転換したやつに会わせろ」
「なんで俺がそんなことしなくちゃならねえ」
「黙って従え、敗者は勝者に従うもんだ」
「くっ しゃあねえなあ」
バレットは本戦3位という優秀な成績を収めた。本戦が終わった後、バレットは3位の報酬に船を貰い、クイナ、クロコダイルを連れて、イワンコフを探す旅に出かけた。