ゴールド・ロジャーが海賊王となり、死に際に放った言葉で多くのチビ人間は海賊となった。世界のどこかにあるというワンピースを求めて。
俺は強い。俺は長生きしている。毎日自由だし、たいていの娯楽は遊びつくした。だから、俺もワンピースを探してみようかなと、思うようになった。そんなに真剣に探したいわけではないが、暇つぶしにだ。
だが、ワンピースとは概念のような存在だ。影も形も分からない。物であるかすら分からない。世間ではロジャーがワンピースを手に入れたと言っているが、俺は本当は手に入れていないのではないかとさえ疑っている。1000年以上生きてきた俺は、この星に宇宙船や高度な機械兵器がたくさん眠っていることを知っている。100や200ではなく、1万とか10万とかそれくらいの数だ。ほとんどはガラクタになっているだろうが、氷山を掘れば使用できる物もいくらか残っているだろう。そういう高度な物、もしくは純度の高い宝石を、ロジャーがワンピースと呼ぶだろうか? 呼ばない気がする。やつと会話を交えた時、あいつが真に望む財宝はそういうものではないと感じた。
ではワンピースとは何だ? 仲間か? 家族か? この星そのもののことか? それとも星の外の世界にあるのか?
船、というのはキーワードである気がする。ロジャーが求めていたのは誰よりも自由であること。その自由の象徴として、ワンピースの象徴が船だというのはありうる。だが、1万とか10万も存在する古代兵器の船がワンピースでは弱い。ノアの船でもまだ弱い。もっと強く、もっと偉大な船はないだろうか。
そこで俺は思いついた。実はこの星自体が、船なのではないかと。
俺達は今、自分が住んでいる場所は星なのだと思っている。だが俺は、本当はここは星ではなく船ではないかと感じることがある。グランドラインとレッドラインの歪な存在。悪魔の実のエネルギーはどこから出てくるのか。この星が人工物であれば、エネルギー問題は解決しうる。船のエネルギーを悪魔の実やそこから出現した自然現象に注いでいると考えれば。
また、この星自体が船であれば「この世の全て」という言葉に合致する。厳密には星の外にも世界はあるが、人の生活はほぼ全て星の中で完結する。「この世の全て」と表現しても問題ないだろう。つまり、船の操縦権を得ることが、ワンピースか?
だが、この星、星に似せた船がワンピースというのも、まだ弱い気がする。船は所詮船。その行く先こそが重要なのではないか? ワンピースとは船が目指すゴールではないか? とは言え、この星型の船がどこか別の星に着地することが、ゴールだとは思わない。星と星の衝突など大災害であり生物は死に絶えてしまう。ではゴールとは何だ? どこかの場所ではなく内部にあるのか? この船の星自体を豊かにすることか? 豊かさとは何だ? 愛情友情で溢れた世界か? 多様性に満ちた世界か?
俺はこのような推理、謎解きを延々と続けた。だが10年もするとさすがに疲れてしまった。もう何も考えたくないと思うほどに。だが、せっかく考えたのだから誰かに発表してみたくなった。そこで、世界政府に話を聞いてもらうことにした。
高度10kmのレッドラインの頂上。体長1km近くある俺にとっても中々の高さだ。落ちたら痛いかもしれない。覇気を纏っているのでたぶん痛くないが。だが、今回はここを上る気はない。俺が上り、上陸してしまったら、道が壊れるからな。そういう迷惑行為はできるだけやらないのが俺の信条だ。そうではなく、レッドラインの近くにシャボンディ諸島というのがある。そこに時折世界政府の人間が降りてくるのだ。そいつらに話しかけてみるつもりだ。
覇気を使えば、それっぽい気配を感じ取れるはず…。やつらの気配は独特だ。ドンの国の王族と戦えるほどの覇気を持ち、独尊的でありながら、世界の調和を求める理性もある。それでいて豪傑というわけでもなく、小ズルい手を好む。
「ん…? ん…?」
俺がよく知っている、王達の気配はなかった。だが、汚いものがあった。
「なんだえ! あの魚類は! わちしを見下して失礼だえ!」
遙か下方から、醜いチビ人間が俺の顔に向かって銃を放つ。当たらないし当たっても痛くない。いつもなら気にしないその辺のゴミチビ人間。だが、街の様子がおかしい。民衆は、この下らない人間のことを、世界政府の王族だと思っているようだ。
「おいおい、お前達勘違いしてないか? 世界政府の王ってのは、もっと理性的で理知的で頼りがいのあるやつらだぜ。こんな虫けらと違ってな」
「むきぃいいいいい! この神であるわちしに向かって、何という言葉遣い! 魚類の癖にぃ!」
俺は民衆をリラックスさせようと思って、虫けらと呼んでやったのだが、逆効果だった。民衆の緊張がドンドン高まっていく。謎だ。ワンピースに近いレベルの難問かもしれない。
「おいそこの役人! 早くあいつを殺すえ! あとこの使えない銃はもういらんえ! あいつに届くような銃を買うえ!」
「かしこまりました」
黒服のチビ人間が、俺に向かって飛んでくる。空を蹴って移動している。なかなかのスピードだ。俺には通用しないがな。
「ふっ」
「がはっ」
俺は軽く息を吹きかける。黒服のチビ人間は爆風を受けたように地上へ逆戻りし、そのまま地面に叩きつけられる。ついでに虫けらも俺の息を受けてゴロゴロと転がりまわり、近くの建物に思いっきりぶつかった。そんで気絶した。
「た、大将が来るぞぉおおおおおおおおおおおお!」
「きゃぁああああああああああああああああああ!」
虫けらが気絶するのを見て、民衆は急いで逃げ出した。大将が来るのに逃げるらしい。大将ってこいつらの軍隊のかなり上の方の地位じゃなかった? 俺と大将の話し合い、聞きたくないのか? よく分からん。
10分ほどして、センゴクとかいう大将がやってきた。
「お前がポセイドンか! 何のつもりだ!」
何か知らないが怒っている。こいつも虫けらが大事なのか? よく分からなくなってきたぞ。俺の知っている世界の王とこの虫けらが違い過ぎるんだ。
「最近、大海賊時代になっただろう? 俺も暇だから、ワンピースを探してみたんだ。そこで、俺が推理したワンピースの正体について、話を聞いてもらいたくてな」
「そんな話はしなくていい! 天竜人を傷つけた罪だ! 大人しく捕まってもらうぞ!」
「お前は聞きたくなくても俺は聞かせたいんだよ! 聞けよ!」
「聞かん!」
「しゃあねえなあ」
俺は勝手に喋り始めた。ワンピースの正体について。俺の推理を。
「俺は最初、ワンピースの正体は宇宙船じゃないかと思ったんだ。だが、それは秘宝として弱すぎると思ってな。何せ1000年前は、世界政府が隠している兵器よりヤバいもんがいっぱいあったんだ。宇宙船もゾロゾロ飛んでいた。というか世界政府自体が宇宙から来たんじゃねえの?」
「言うなと言っている!」
センゴクは巨人くらいのサイズまで巨大化して、よく分からない衝撃波をぶつけてくる。多少痛いが喋りを止めるほどではない。
「だが、船、というのは正しいキーワードだと思った。直感だな。海賊であるロジャーが宝と感じたのだから、船というのは関連が強い。であれば、一番価値の高い船はなんだ? 世界政府が持っているはずの宇宙船か? 魚人島付近に沈むノアの船か…? いずれもワンピースには弱い気がするんだ。この世のすべてと形容されるワンピースには。そして俺は思い至った。この星そのものが、実は船なんじゃないかということに」
「貴様の妄言など、誰も聞いてないぞ!」
「星そのものが船なら、ロジャーのこの世の全て、という言葉に合致する。だが、船は所詮船。まだ弱い気がするんだよな。ワンピースの正体。この星が船と認識した上で、目的地がワンピースだと思うんだよな。違うか?」
「知らん! 知りたくもない!」
うーん、反応がさびしい。衝撃波は肩こりにいい。
センゴクの反応は弱いが、民衆の反応はそれほど悪くない。何人かが聞き入っている。本当だと信じ込んでいるやつもいるな。うれしそうに騒いでいるやつもいる。
「なんかすまんな、邪魔したな。言いたいことは言えたし、俺は帰るわ」
「何しに来たぁ!」
「だから推理を聞いてほしかっただけだって…」
「くううっ どいつもこいつも勝手ばかりぃ…っ」
…………
「どういうつもりだ? センゴク。我々はポセイドンとの戦闘許可を与えていないが」
「天竜人の命令を受けた手前、形だけでも戦闘を行わざるをえず…」
「それでやつの怒りを買ってしまえばどうする? 貴様に責任が取れるのか?」
「……それでは、天竜人の命令を無視して一切戦闘を行わなければよかったのですか?」
「そうは言っていない。知恵を使って上手に切り抜けろと言っているのだ」
「知将の名が泣くぞ、センゴク」
「くううっ」
翌日、オーツーは100億ベリーの賞金首となった。