フィッシャー・タイガーによる、聖地マリージョア襲撃事件。たった1人で世界に挑むという無謀な挑戦。だが、良心を痛めた海兵達が消極的ながらフィッシャー・タイガーに協力したことで、奴隷解放は達成され、タイガーも逃げ切りに成功する。
だが、天竜人は諦めなかった。逃げ出した奴隷を追いかけるべく莫大な財産をつぎ込み、人員を動かす。次々と市民は捕まり、奴隷に戻っていく。あるいは海軍に狙われ、そのまま命を落とす。奴隷解放の英雄、フィッシャー・タイガーも海軍によって殺されてしまった。絶望する元奴隷達。彼等は希望を求めた。絶対的な強さ、最強による庇護を。
だが、世界政府に対抗しうる四皇は、みな新世界にいる。新世界への航海は困難を極める。一般人に辿り着けるものではない。ポセイドンやエルバフも同じ。一方で、エルバフやポセイドンから逃げた、古代巨人族(笑)。彼等は世界各地にいた。ポセイドンに咎められないように、それほど大きな犯罪は犯さず。一方で、その腕力で人間達を従えて、自堕落な生活を過ごしながら。
彼等古代巨人族は、奴隷達の希望になった。図体は大きいし、人間を従えて威張っているから、目撃情報はいくらでも手に入る。その気になれば、彼等の庇護下に入るのは簡単だった。
また、世界政府に参加していない非加盟国。彼等もまた、この大海賊時代で、大きな戦力を欲していた。ある程度の、出血も覚悟しながら。一度は世界政府を滅ぼしかけたという、オーズの残滓に目をつけた。
古代巨人族(笑)が、奴隷達の王として、祭り上げられていく。非加盟国で、軍の隊長や王の一族に迎え入れられる。そして、次々に新たな国が誕生した。古代巨人族(笑)を戦力とする56もの非加盟国。特に大きいのが、魔の三角地帯(フロリアントライアングル)を拠点とする海底国家、オールドンだった。元々ここは、ドンの国から出た古代巨人族(笑)が、住処にしていた地域だ。サイズの違いからチビ人間との共生を諦めて、自分達だけで生きていたのだが。性欲は誰にでもある。徐々にチビ人間と血が交わり、平均身長が下がったり、海で呼吸できない子供が増えていたこともあり、人間と共存しようという動きが生まれた。多くの人間は海底で生活できないので、その辺の大岩を引っ張ってきたり、巨大な船を島に見立てたりして、国土とした。ゲッコー・モリアのスリラーバーグもひっそりと国土の一部として紛れ込んだ。
一連の事件は世界政府を震撼させ、56皇革命と呼ばれた。
世界政府は荒れた。56皇とオールドン。まるでかつての宿敵、ドンの国の再来のようだ。しかもドンの国とは違い、本拠地が海底にある。ウラヌスの光が届かない。霧が深くて海上の視界もよくない。捉えようによってはかつてのオーズ軍団やロックスより厄介かもしれない。
対抗策は、七武海の増員。科学研究の前倒し。四皇の懐柔。いろいろと案が出たが、ポセイドンの懐柔も案の一つだった。
「もし、もし… よろしいかしら?」
「おお、これはこれはかわいらしいお嬢さん こんな新世界の奥地まで何か御用ですか?」
「私、あなたのような強い男性が好きですの。一緒にお食事でもいかがかしら?」
「もちろん! あなたのような美しい女性なら大歓迎です!」
CP0やCP9の女性達が、オーツーに擦り寄ってくるようになった。
オーツーはすぐさまスパイと察したが、それも含めて楽しそうなので追い出そうとはしなかった。遺伝子を狙われていると察しつつ、子作りもやった。たいてい子作りが終わったら女はいなくなった。少し空しかったが、追いかけはしなかった。
そして、オーツーの元に訪れたのは、美しき女ばかりではなかった。
革命に触発され、強さを求める漢もまた、オーツーの元に訪れた。
「ううっ うっ ううっ」
チビ人間よりほんの少し大きな魚人。ギザギザな鼻が特徴的。
「おいおい、いきなり現れたと思ったら、何を泣いている?」
若者ともおっさんとも言いがたい男の泣き姿。見ていて気持ちのいいものではない。
「大兄貴が… 俺達の最高のキャプテンが… 人間達に殺されちまったんだ…」
「そうか。それは残念だったな…」
だが、親しき者の死に同情するくらいの感性は持っている。
「くううっ やつらめ! 汚らわしい人間の分際で! 我々崇高なる種族である、魚人を奴隷にして…っ! 許せませんよね!」
「……まあ誰であれ奴隷にするのはよくないな」
魚人は感謝感激という顔になった。
「はうぅ…っ! なんたる慈悲深きお言葉…っ! あなたが神か…っ!」
「いや、俺はただデカいだけの合成生物だよ」
「いいや、あんたは神に違いない! だってそうなんだろ! 海の神、ポセイドンよ!」
魚人が両腕をこれでもかと広げて演説する。
「大げさに言わなくていいから、早く用件を言ってよ。何しに来たの?」
「……!」
魚人は、絶対失敗したくないという感じで、言葉を貯めた。
「俺を…! あんたの弟子にしてくれ…!」
期待と恐怖が混じった目で、オーツーを見つめる。
「……まあ多少なら」
「……! 本当か! ありがとう! さすがは魚人の神だ!」
「もう何でもいいよ… 海の神でも魚人の神でも適当に呼べばさ…」
この魚人、名をアーロンと言った。
件のフィッシャー・タイガーの同郷にして、幼い頃から世話になっていたらしい。フィッシャー・タイガーが海賊団を立ち上げた時は、もちろん傘下に入った。だが、近日、間近で彼の死を目撃してしまった。人間の裏切りと卑怯な襲撃による死。その復讐のために、力が欲しいらしい。
「俺は世界政府をどうこうしようとは思わない。好きでも嫌いでもない。だが、復讐したいのであれば止めない」
「なんでだ! あんたなら、あんなやつら簡単に海の藻屑に変えられるだろうに!」
「面倒臭いんだよ、いちいち蟻を探して潰して回るのはな… 俺が戦えば他の人間も巻き添えになるし…」
「……っ これが神の言葉か…っ 人間など蟻同然だと…っ」
「いや、いちいち言葉覚えなくていいから…」
オーツーの言葉はアーロンに届かなかった。オーツーが何気なく発する不遜な言葉。後に神の言葉として出版され、世界中に出回ることとなる。
さて、アーロンに修行を頼まれたオーツー。オーツーとアーロンではサイズも実力も違いすぎる。直接指導するのは難しかった。そこで、アーロンにはルンルンやエルバフの子の遊び相手をしてもらうことにした。遊びと言ってもチャンバラや相撲が基本。戦いの修行にもなりうるだろう。
「わーいオーツーだー!」
「高い高いやってよー!」
「船さんごっこやってよー!」
早速エルバフに移動するオーツー。子供に囲まれる。そのほとんどが自分の子供や孫やもっと遠い子孫なのだが、オーツーが血筋を覚えている範囲は少ない。
「今日はお前たちにお友達を紹介しよう アーロン君だ」
「え? お、お友達っすか?」
興味深そうにアーロンを囲む巨人の子供達。
アーロンは巨体に囲まれてタジタジだ。
「あひゃひゃっ 変な鼻ぁ!」
「おじさんみたいーっ! かわいくないー!」
「コラ! そんなこと言っちゃダメでしょ! よろしくね! アーロン君!」
「あ、ああ… よろしく…」
苛立ちはあるが、オーツーの手前表に出さないアーロン。
「ね? 何して遊ぶー?」
「また相撲でいいんじゃないの?」
「そうだね! 相撲! 楽しそう! アーロン君もそれでいい?」
「ふんっ 俺は構わねえが、お前たちこそ大丈夫か? 魚人の腕力は人間の10倍!」
「うーん、難しいこと言われても分かんないよぉ」
「ふっ ぷぷっ」
自分より頭の悪そうな子供を見つけて、笑ってしまうアーロン。ちょろいな、とか思っていた。
「はっきょい!」
「それ!」
「ぐわぁあああ!」
だが、結果は惨敗。一撃で吹き飛ばされ、全身を近くの岩に打ち付けた。
「ぐっ くううっ」
「大丈夫! アーロン君!」
「くっ なんて強いガキ達だ…」
アーロンは自分を心配そうに見つめる、巨人の子供を見上げる。
そして不意に、ハッとなった。
「そうか! これが修行なのか!」
アーロンはオーツーの方を見る。オーツーはゆっくりと首を縦に振った。
「ふっ、上等じゃねえか!」
アーロンは大きく息を吸う。
「おいガキ共、俺はまだまだくたばっちゃいねえぜ! 相撲、どんどん来いや!」
「すごーい! こんなに怪我してるのに元気いっぱい!」
その後、アーロンは30回近く相撲を続けた。全身ズタボロになり、死にかけたが、目は最後まで死んでいなかった。むしろこの生命の危機に、本能が呼び起こされた。
「す、すごい! アーロン君! 腕が黒くなってる!」
「こいつは、一体…」
アーロンは見事、たった一日にして武装色の覇気を身につけたのだった。