俺はヒグマ。世界政府が密かに新設した陸軍に所属している。本部はレッドラインの上にある。
俺はもともとベガパンクとジェルマに生み出された人造人間であり、その流れで政府に売り飛ばされた。感情を持たず、主のために武器を振るう戦闘人形。だが不思議なことに、俺は「自分を小物に見せる演技」が誰よりも上手だった。だから陸軍という役職も伏せられて、CPと似たような諜報活動をやっている。
近年の活動は56皇の戦力削りばかりだな。表立って皇帝本人を殺しちゃいねえが、組織の頭脳を狙って殺している。非力なやつが多いから簡単に殺れるし、効率的だぜ。56皇つっても元はちゃらんぽらんだからな。組織の頭脳がいなくなれば、祭り上げられたバカが図に乗ってやりたい放題になる。国民の不満が溜まっていく。ほっといても離脱、裏切り、革命が起こり、勝手に国が滅びるって戦法よ。
何の偶然か、俺は今までにムカつく皇帝の片腕を56人ほど殺してきた。全部が別の国ってわけじゃあないが、数えたらちょうど56なんだ。陸軍では56皇殺しのヒグマっつー異名で呼ばれるようになったぜ。厳密には56皇の片腕殺しだが、語呂が悪いから仕方ねえ。自分で言うのもなんだが俺はかなり有能だと思うんだぜ。そろそろ、大将昇任、なんて話が出始めてもいい頃合じゃあねえかなあ。いや、天竜人に使われるのは御免だから、中将くらいの地位がちょうどいいかもな。
そんな俺の今回の任務は、赤髪に奪われたゴムゴムの実の回収だ。もし誰かに食われていた場合は、そいつをできるだけ殺さないようにして、生け捕りでパンゲア城まで連れて行く。殺しちまったら悪魔の実はどこか別の場所へ移っちまうからな。気をつけないといけねえ。
と、見つけたぜ。酒場から赤髪の気配がする。
「邪魔ぁするぜ 俺たちは山賊だ ……が、別に店を荒らしにきたわけじゃねえ 酒を売ってくれ」
任務の流れがあるとは言え、建物を壊さず金を払う。できるだけ一般人には被害を出さないのが俺のやり方だ。こんな親切な山賊もいねえかもしれねえが、不思議と俺ァ小物な雰囲気が出せるんでな。疑われたことはない。
「すみません、お酒は今、切らしてまして…」
「悪いことしたなぁ、俺たちが飲み尽くしちまったみたいで…」
赤髪め、昼間っから酒まみれかよ。つかみ所のねえやつだな。だが、俺はさらに掴ませねえぞ。
俺は小物っぽく怒ったフリをして、酒瓶を拳で割りながらぶちまける。
「あーあー、床がびしょびしょだ」
俺を無視して、床を掃除しようとする赤髪。
俺なんて小物だから相手にしないと言いたいのだろう。へっ、完全に騙されてやがるな。
「なんでだよシャンクス! こんなやつボコボコにしちまえばいいのに!」
ん? このガキ…。
「シャンクスの弱虫!」
立ち姿勢、動き、少し違和感があるな…。何だとははっきり言えないが、妙な胸騒ぎがしやがる。こういう勘はよく当たるんだよな…。
ゴムゴムの実がどうなったが。使ったのかまだ持っているのか、はっきりとはしなかった。だが、赤髪がこの酒場の娘とガキを気に入っていることは分かった。もう一度仕込みをかけてみるか…。
俺は赤髪がいない頃合を見計らい、再び酒場に足を運ぶ。当然一般人には被害を出さない流儀だ。金を払い、小物っぽく楽しむ。
「お前なんか、ぶっとばしてやる!」
そこで、例の小僧がやってきた。ガキに売られたケンカは買うのが小物の流儀だ。軽く痛い目を見せて分からせてやろうとしたが…。
「ぐっ くそっ」
おいおい、こいつの腕、伸びやがった。ゴムゴムの実か?
「くそっ 山猿ぅ!」
その後、いろいろ攻撃を試して分かったことがある。こいつの手足はいくらでも伸びる。打撃は完全に無効化される。だが斬撃と覇気による攻撃は無効化できないようだ。こいつがゴムゴムの能力者で当たりだな。赤髪は何だってこんな小僧に重要な悪魔の実を食わせたんだろうな。不思議だぜ。実は大物の子供か? ロジャーの隠し子? レイリーの隠し子? それとも赤髪自身の隠し子か?
とかく、俺の勘はまた当たっていたってわけだ。あとは適当に小物っぽく演説して、金持ちにでも売ると伝えて、この村からおさらばしよう。
「ルフィ、お前のパンチはピストルのように強いんじゃなかったのか?」
だが、さすがにそう簡単にはいかせないか。赤髪の野郎、ずいぶん早い到着じゃねえか。やっぱりこの小僧には何かあると見た方がよさそうだな。
その辺で拾った山賊の部下、いい小物ムーブをかましたが、殺されちまった。他の部下も殺されながら、着々と小僧の奪還を進めていく。あいつらの弱さで、俺の実力を勘違いしてくれればいいんだがな。
「ちっ」
俺は小物っぽい焦った顔をしながら、煙玉を地面に投げつける。
「うおっ」
「煙幕だ!」
やつら見聞色には自信があるだろう。この状況で目が見えるのは自分達だけ、むしろ山賊こそが不利だと、奢り高ぶっていることだろう。残念だったな、俺は見聞色殺しが使えるんだ。お前達は文字通り何も見えやしねえぜ。
『おい、おい 出番だぞ 来い』
俺は小船で海に出て、しつけておいた海王類に声をかける。
だがおかしいな、来やがらねえ。クソッ、時間がねえってのに。何をしてやがるっ。
『グルルルァ』
ふっ、ようやく来やがったか。
最後の仕上げだ、一応小物ムーブかましておくか。
俺は小僧を海に落とし、連れて行くのではなく殺すつもりだと見せる。
「ふっ あばよ」
「くそっ くそっ がぼっ ぐほっ」
溺れる小僧。少しかわいそうだな。
「グルルルルァ」
「うわぁ! なんだこいつは!」
ようやく相棒の登場だ。あとはこいつに俺と小僧を食わせてから移動だな。
「ぎゃぁああああああああああ」
とりあえず俺は食わせた。後は小僧だな。
「がぼぼぼぼ! だすけでぇえええええ!」
別に殺しやしねえよ。ずっと生かさず殺さず飼われ続けるかもしれねえがな。
…! 何!? 赤髪の気配だと!
「うわぁあああああああああああ!」
俺の見聞色が捉えた。赤髪が小僧を救う姿。だが、そうはさせん!
「しぇい!」
ガギッ!
海王類が小僧を食おうとして大口を開けた狭間。俺は一瞬海王類の舌の前に出て、赤髪を切り裂く。だが、やつもさすがだな。咄嗟に身体をひねりやがった。この俺が、左腕一本しか持って行けなかったぜ…。