一般トリニティ生の流儀 作:セイアマン
「『真実』を、教えにきたの」
そう語るリオの顔は、私にはどこまでも冷徹に見えた。必要とあらば、何だってする。そんな顔。
そういえば────似たような表情を、どこかで見たような……。
「真実……」
「そう、真実よ。アリス、貴女の正体に関する事……詳しい考察や実証はMORGANAが一晩でやってくれたわ」
「"確か、トリニティの闇そのもの…だっけ?"」
「よく知ってるわね。そうよ。彼は私の協力者で、同じ目的を持つ同志よ」
MORGANAについては良く知っている。キリアが度々話してくれる、トリニティのフィクサーにして、キリアのスポンサー。
キリアはそんな人と手を組んでいる自分を恥ずかしがっていたけど……。
「彼については良いわ。アリス、貴女が分かり易いように説明してあげる。アリス、貴女は───世界を滅ぼす、魔王なのよ」
「"リオ、それ以上は許さないよ。アリスは魔王じゃない、私の生徒だ。訂正してほしい"」
脳裏にセイアから聞いた嫌な情報が流れる。決してそんな事は無いと、アリスが世界を滅ぼす終焉だと認めたくないのに、ノイズになって私の思考を掻き乱す。
「甘えた事を言わないで!一人の生徒が怪我を負っているのよ。むしろこういう時に率先して動くべきは先生、貴方ではなくて?」
「"………っ!"」
リオの、言う通りだ。でも、私はあの事件がアリスのせいでは無いと信じている。
決して、アリスが「アトラ・ハシースの箱舟」ではない事を信じている。
「あ、アリスちゃんは魔王なんかじゃない!勇者なんです!」
「そ、そうですよ!アリスちゃんは、心優しくて、純粋で、私のゲームを楽しいって言ってくれた、勇者なんです!」
ミドリとユズが反論する。そうだ。アリスは心優しい子だ。そんな子が魔王だなんて、絶対にない。
「それに……アリスちゃんには光の剣が…!」
「光の剣……?ああ、あの聖剣の成り損ないの事ね。良いわ、なら証明してあげる」
リオがタブレットを操作すると、光の剣スーパーノヴァが一瞬にして機能を停止する。
アリスの輝かしい勇者の証は、ただの機械に────
「"リオ!これ以上アリスを虐めて、何になるの!?"」
「あ、ああ……アリスの、ゆうしゃの、あかしが……」
「これで分かったわね。アリス、貴女は魔王よ」
「ああ、ああぁあ────……!」
「"リオ……!"」
柄にもなく、リオを睨みつけてしまう。こんな小さな子を泣かせて、そのアイデンティティを打ち砕いて、そんな事に何の意味があるというのか。
しかしリオは何とも思わないような顔で、「全てが終わったら、きっと理解してくれるはずよ」とだけ呟いた。
でもその時だった。
「おいチビ!何諦めてんだ!まだアタシはテメェにゲームで勝ってねェぞ!」
「"ネル!来てくれたんだ!"」
「クソが、事情はコウモリから聞いてるぜ。良いか会長。アタシんダチに手を出したらなァ、ただで済むと思うなよ!」
「そう。貴女は私を裏切るのね。なら良いわ───トキ」
ネルの到来で見えた希望は、一瞬で握りつぶされた。トキと呼ばれた生徒が、一瞬にしてネルを制圧してしまったのだ。
リオの操るロボットがアリスに近づく。
「くそッ!離せ!離しやがれ!」
「暴れないでください、先輩。骨が折れてしまいます……強化外装を付けた私に勝てる存在などありません」
「おいチビ!抵抗しろ!諦めんな!テメェならコイツら一掃出来んだろ!」
「"アリス………!"」
しかしアリスは、フラフラとリオの方へ歩いて行く。
アリスを止めようにも、リオのロボットが邪魔をしてアリスの元へ行くことができない。
「………あの時、キリアは私にすぐに銃を向けました。ほとんどあの時の記憶はありませんが、それだけは覚えています」
「アリスは、もう……勇者では、ありません。光の剣が無い勇者など、勇者では……ありません」
「アリスは……魔王、なんですよね。世界を滅ぼす、魔王なら。」
「アリスはここで、消えるとします」
「"アリス!駄目だ、ちゃんと話し合いを───"」
「先生。アリスは……今まで幸せでした。さようなら、先生、みんな……」
アリスはリオに連れられて、どこかへ行ってしまう。
私たちはそれを、無力感と共に見るしか無かった。
──────────◆──────────
「キリア、あなたはアリスをどう思ってるの?」
や、やっべ〜ですわ!私の悪い企みが全てモモイさんにバレていましたわ。
モモイさんは手負い。故にここでもう一度三日間寝かせる事は出来ますが、ヒマリ様がシャーレに滞在している今、それは難しいでしょう。
「答えて。もしアリスを傷つけるつもりなら、容赦しないよ!」
………何か、勘違いされていますわね。
別に私はアリスさんを傷つけるつもりなどありませんわ。
世界を救えるのなら、どんな手段でも使う──それだけですわ。では逆に聞きますが、情や愛で世界が救えましょうか?
「救えるもん!どんな物語も、最後は愛と勇気が勝つんだよ!」
ですがこれは現実ですわ。貴女には分からないかも知れませんが、モモイさん。世界は一つしかないんですの。
その大切なものを守る為なら、私は自分の命だって捨てて見せますわ。
「キリアはテイルズ・サガ・クロニクルをプレイしても、その言葉が吐けるの!?」
確かに、あのゲームは愛と勇気と信念が勝利する素晴らしいお話でしたわ。
しかし、ゲームはゲーム。私は愛などと言う不確かなものではなく、圧倒的な力と知略のみによって世界を救ってみせますわ。
そろそろ頃合いですわね。
私は待機させておいたスケバン部隊に襲撃の合図を出し、その時を待ちますわ。
「愛を捨てた人に、世界は救えないんだよ!だから────きゃあっ!?な、何者……!」
ガラスが割れ、私の配下のスケバン達が完全武装で医務室に乗り込んで来ましたわ。
「へっへっへ!悪いな話途中に。おい鴉魔キリア!MORGANA様がお呼びだ……悪いがテメェを拉致させてもらうぜ」
くっ……!私は、まだ消される訳には行きませんのよ!世界を救う、その時まで!決して私は諦めませんわ!
「へェそうかい。ご苦労なこって」
正義は必ず勝つんですのよ!あうっ、ばたんきゅ〜……
演技はこんなもので良いですわね。そのままエリドゥまで運んでいってもらうとしましょう。
さよなら、才羽モモイ。貴女と過ごした日々、悪くありませんでしたわ。
さて!面倒事も済んだ事ですし、後は手筈通りに進むはずですわ。
スケバン隊の隊長…星晶ナゴンさん、お手伝い感謝しますわね。良い演技でしたわ。
「あ……はい。ありがとうございます…これで普通の学園生活を送れるんですよね」
学生課に行って、私の名前を出して私との契約書を提出していただければ即座に復学出来ますわ。貴女の身分はティーパーティーが保証させて貰いますわね。
「あ、ありがとうございます!」
優秀な部下には恩赦を。ムチばかりでは回らないのが組織ですものね、キチンと適切な飴を与えなければ。
また、MORGANA名義で実行中のカイザーグループに対しての工作や連邦生徒会へ送り込んだ傀儡の件も何とかしなければいけませんわね。
……きっと、どれも先生を悲しませてしまう結果になりそうですわね。
赦されることは望みませんが、せめてミカ様は巻き込まないようにしなければ。
「あの、着きましたよ。エリドゥです」
ありがとうございますわ。では、ナゴンさん。ご機嫌よう、貴女の人生により多い幸運がありますように。
「あ、はい。では…」
エリドゥについた私は、リオ様の待つ夜のスカイタワーへ足を運びますわ。
そこには、拘束されたアリスさんと、システムの最終チェックを行っているリオ様がいましたわ。
「あ……キ、キリア……」
「あら、もう来てたのね。じゃあ始めましょうか、貴女の言う『可能性』の実証を」
リオ様が私の頭にダイブ装置を付け、スイッチを押しますわ。
すると、私とアリスさんの精神が同調し、私の精神はアリスさんの精神の中へと入り込んでいきましたわ。
アリスさんの精神の中は、広い場所にポツリと椅子があるだけの殺風景な場所ですわね。
その中央にはアリスさんが寝ており、それを守るようにして赤い目のアリスさんが立っていましたわ。
「無駄です。即刻立ち去りなさい」
ご機嫌よう、赤目のアリスさん。
私は鴉魔キリア。アリスさんのお友達ですわ。
突然ですが、世界を滅ぼすのをやめていただけませんか?
「王女の邪魔をする者ですか───消えなさい」
おおっと!急に攻撃してくるだなんて危ないですわね。ですが無駄ですわ。こと精神世界に於いては、心の強い者の方が強いのですから!
「………理解不能。E-S0Dの現所有者が何故王女に干渉する意図が不明です」
理由は簡単ですわ。このキヴォトスを終わらせない為ですわね。
その為ならば、たとえ何を犠牲にしても良いですわ。私自身の、存在そのものでさえも!
「……………似て、いますね。」
ですから、私とお話をしませんこと?
似た者同士なら、きっと分かり合えますわ。
「拒否します。あなたと話し合うことは何一つありません。それに……私には、する事がありますので」
互いに、譲れないものがあるのですわね。
理解しましたわ。私もそうですもの。ならば───私はここで、失礼するとしましょう。
またお話しましょうね、従者さん。
「二度と来ないでください。さようなら、運命の従者」
○○○○○○
「成果はどうだったのかしら?」
結果から言いますと、ダメですわね。しかし交渉の余地はありますわ。
やはりプランBをやった方が良さそうですわね。
「プランB……それでは貴女に犠牲を強いる事になってしまうわ」
ですが、視野に入れておいてくださいまし。
世界の為ならば、私は自らであろうとも捨て石にする覚悟はできていますもの。
それに……私のお友達に1人で抱え込ませる訳にはいきませんわ。
「そう………ごめんなさい。でも、途中まではプランAで行かせてもらうわよ。それが成功すれば、貴女は犠牲にならなくて済むのだから」
ええ。全く────良い友人を持ちましたわね、私も。
──────────◆──────────
アリスが拐われ、打ちひしがれていた先生達の元に突然、オープン回線で電話がかかってきた。
「"誰からだろう……?ヒマリからだ。もしもし"」
『先生っ!キリアさんが、キリアさんが拐われました……!恐らく、MORGANAの手の者による犯行です!』
「"キリアが!?"」
『突然キリアさんの叫び声が聞こえたかと思ったら、駆けつけた時には既に……!それと、モモイさんがそちらに向かっている筈です』
「"モモイが……?"」
「先生、お姉ちゃんがどうしたの!?」
ミドリがモモイの安否を心配していると、ミドリは後ろから肩を一つ叩かれた。
「みんな!キリアと会長に、愛と勇気を叩きつけに行くよ!」
「お、お姉ちゃあんっ!」
「えと……会長に叩きつけるのは良いんだけど、どうしてキリアさんに…?」
「妹よ、そう結論を焦るでない。私は知ってしまったのだ───真の魔王はキリアだって事にね!」
「……どういう事?なんでそうなるの?お姉ちゃん、色々援助してくれてたキリアさんを疑うの?」
「うぐ……!で、でも私は聞いたよ!キリアが確かに『アリスを消す』って言ってたのをね!」
「"俄には信じがたいね……相手は本当にリオだったの?"」
「そうじゃなくても、アリスを消そうとするなんて……!何とかして説得できないかな。きっと今は会長のところにいるんだし」
その会話を全て聞いていたヒマリは、誰もいなくなったシャーレ、そこに存在するキリアが使用していた部屋で一つの手紙を読み、絶句していた。
「そう───そういう、奸計だったの、ですね……」
手紙には、キリアが考案した『対厄災作戦プランB』の概要だった。
ヒマリはクシャリと音を立てて紙を握りつぶし、歯を食いしばる。その目には薄らと涙が浮かんでおり、その表情は怒りと哀しみに包まれていた。
「やらせはしません………やらせはしませんよ!キリアさん!」
ヒマリは車椅子を発進させ、エリドゥへと向かう。
その頃、先生達も全てを確認する為C&Cと共にエリドゥへと向かっていた。
キリアはエリドゥの屋上で独り嗤う。
勝つのは自分だと言わんばかりに驕り、遠く見据える。
「さぁ、世界救済を始めましょうか」
狼煙はキリアの掌の中で上げられた。
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