一般トリニティ生の流儀   作:セイアマン

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不知火カヤ

 

D.U.内に位置するサンクトゥムタワー。そこで治安維持などの警察組織の管理を任せられている防衛室。

その室長である不知火カヤはひとり優雅にエスプレッソを片手に、窓辺から地上を眺めて楽しんでいた。

 

「ん〜……!やはりコピ・ルアクの独特な香りと味わいは最高ですね!」

 

呑気にコーヒーを堪能するカヤは、今し方謀略を巡らせていたところだ。

人材研究科の役員を追い出し、自分の派閥の役員で埋め、FOX小隊を用いて自身の敵対勢力を叩いて潰した。

 

「おや……?誰ですか、こんな時に電話など。はい、防衛室長の不知火カヤです」

 

『遅い。私からの電話は3コール以内に出ろと、そう指示したはずですが?』

 

「っ!?お、お久しぶりです、MORGANA。本日はどうされましたか?」

 

『遅い遅い遅い。不知火カヤ、貴女は何をするにも遅いんです。FOX小隊の一件……私が揉み消していなければどうなっていましたか?』

 

「それは……!しかしですね、MORGANA。私はもう、貴女の協力者ではないのです。カイザーと手を組んだ私は、もはや貴女の助けなど必要はない!」

 

『………育てた恩を忘れるとは、見下げた人ですね。宜しい、では預けたものを返していただきますわね』

 

「へ?」

 

突如として、防衛室のオフィスは爆発した。それと同時に飛び込んでくる幾多もの影たち。

彼女達は思い思いの仮面を被り、賊の衣服を身に纏い、銃口から青い炎を撒き散らしていく。

 

「なっ、何者です!」

 

『私の部下が到着したようですわね。さようなら、不知火カヤさん。あなたの利用価値はこれにて……終わりですわ』

 

「あっ、ちょっ────!誰か、いませんか!侵入者です!」

 

カヤが待機中のヴァルキューレ生を呼ぶも、既に打ちのめされてしまっているのか、返事はない。

カヤの前に賊が立ち並び、銃口を向ける。

 

「……望みは何ですか!」

 

「そんなもの、貴女はとうに知っている筈ですわ」

 

弾が発射され、カヤの平衡感覚を奪い、カヤは転倒する。慌てて起きようとして周りを見回したカヤは、自分が包囲されていることに気がついた。

 

「ま、待ってください!話を、話をさせてください!」

 

「……あまり時間が無いわ。早く決めて、ファントム」

 

「そうですわね……では、少しだけなら」

 

ファントムと呼ばれた少女が銃を突きつけながら会話に応じる。

カヤには自信があった。この賊を必ず言い包められると。何故なら、カヤは自前の政治力と併せて、トリニティ全ての闇仕込みの高度な駆け引きを学んでいたからだ。

 

「あなた達怪盗団の望むモノ……それらは実は、今D.U.内に存在していないのです!」

 

「……ほう?」

 

「私があなた方の依頼主が出した命令である、ハイランダー鉄道学園の権利書の奪取に関しては、無駄であると、そう言っているんです!なぜなら、その権利書は既に私が売り払ってしまったからです!」

 

チラリと賊の様子を見ると、仮面に隠れているのもありまるで表情が読み取れない。

だが、どこか浮ついた雰囲気は確かにカヤに感じ取れた。

 

「ん、嘘。突入時に盗んでおいたこの紙が権利書」

 

「嘘、ついてたんですね〜☆」

 

「やっぱり連邦生徒会は信用出来ないね〜…」

 

「その価値も分からないような奴が、その紙にさわるなっ!」

 

カヤは先ほどまで見せていた弱々しい演技をかなぐり捨てて狼耳の賊に飛びかかる。歴戦の銀行強盗とはいえ、油断していたシロコはあっさりと権利書を手放してしまう。

 

「随分と御執心ね。ならこれはどう?」

 

「な……二枚目の、契約書!?いけない、これでは!」

 

それと同時に、オープン回線で交通室から連絡が飛んでくる。

モモカは鉄道運営部の権利者が二人以上存在し、尚且つそれによって発生した損失諸々の責任の所在を負わされそうになっていた。

 

『防衛室長!どうなってるの、ダイヤが崩壊───そんなんじゃない、全ての路線が運行停止状態!権利者間の対立で動けてない!』

 

「ふふっ♪私の依頼者様が上手くやってくれたようですわね」

 

「謀りましたね……!MORGANAぁ!ですがこんな時に備えて用意してあるのですよ!さぁ、現れなさい!AVALON連隊!賊を討ち滅ぼすのです!」

 

カヤの号令と共に、旧型のAVALONが複数体現れ、今度は逆に怪盗団を包囲する。

しかしその頭目と思わしき少女は薄く笑うと、ただ一言だけ「ブレイン」と呟いた。

ブレインと呼ばれた少女はタブレット端末を操作する素振りを見せた。その次の瞬間にはAVALON連隊は機能を停止してしまった。

 

「ばか、な……!キリア先生から譲ってもらった戦闘兵器が……!」

 

「お〜っほっほっほ!そのキリアとかいうの、大した事ありませんのね!私達には手も足も出なかった……そういう事ですわ」

 

「だと、しても……!私には、やらなくてはいけないことがあるんです!このキヴォトスから、犯罪を無くすためなら、私は自分の立場、尊厳、命だって捨ててみせます!」

 

「───皆様、ここは一度引きますわよ。この者の覚悟……少なくとも私達の一人と刺し違えてでも秘密金庫を守り通すつもりでしょう」

 

「うん、賛成。ファントムの意見を支持する」

 

「ん、それにルートはもうサーチ済み。好きな時に盗める」

 

「おじさんの時にあの子みたいな燃えるような若い子が居たらな〜。私たちの学校も……」

 

カヤの耳はホシノの発言を聞き逃すことはなかった。

カヤは「陰謀の天才」だ。故に損益の絡む交渉に関してはその右に出るものは居ない。

 

「でしたら!私があなた方の学校に融資しましょう!幾ら必要なんです?」

 

「提案はありがたいんだけどさ〜、そのお金の出どころが怪しい以上、受け取るわけには……」

 

「私のポケットマネーは30兆円を超えています。それら全ては株式や経営によって得た利益であり、決して汚い金では無いということを説明します。長くなりますが、お聞き願えますか?」

 

「良いわよ別に。あなたがこの場でウソをつく人間でないことは分かったわ!ねぇホシ……スター先輩。この人のこと信じてみようよ!」

 

「キャッツアイちゃんがそういうならそうしてみよっか。でももし裏切ったら……その時は、お金じゃ済まないかもね〜」

 

その瞬間、カヤは勝ちを確信した。カヤの最終目標は連邦生徒会長代行の座に着くこと。

その為には「一つの学校を救った」という実績は大きなものとなり、なおかつカヤのポケットマネーの一部を渡し続ける事でそれが成し遂げられるのだから、カヤにとってはこれが最善策であった。

 

(ふふ……渡りに船、とはこの事ですね!これならキリア先生も認めてくれるでしょう!ゆくゆくは、私とキリア先生でキヴォトスを……!)

 

カヤがそう思っていた時だった。突如として現れた複数の学園の生徒からなる連合部隊がその場を襲撃した。

その生徒達はどれも、シャーレの腕章をつけており、一目で先生の指揮下にあるのが見抜けた。

 

「"やっと見つけたよ、怪盗団"」

 

「あら、これはこれは……初めまして、先生?」

 

「"君たちが何でこんな事をするかは分からない。でも、私は負けず嫌いでね。君たちにゲームで勝ちたいんだ"」

 

「ふふっ、それは何とも────先生が来るのが予定より早かったですわね。欲しいものは手に入れましたし……ウルフ、撤収しますわよ」

 

「ん、分かった。行くよみんな」

 

「………はぁ?ちょ、ちょっと待ってください!待って、行かないで!お願いします!まだ話は終わってません!」

 

「なはは、ごめんね〜?先生が来たら逃げるって作戦なんだ。今回の件は無かったってことで」

 

やってきた戦闘ヘリに乗って飛び去っていく怪盗団を何もすることが出来ず、カヤはただ見守るだけだった。

後から来た先生は、少し悔しそうな顔をしながら「"引き分けか……!"」などと宣っている。

 

(おのれ……シャーレ!前々から邪魔だとは思っていましたが、本格的に邪魔しにくるとは!潰します、絶対に、何が何でも潰します!)

 

カヤはポーカーフェイスを保ったまま、怪盗団を撃退したことを喜ぶ先生に向き直り笑顔で応対する。

 

「御助力感謝します。先生?」

 

「"カヤは無事だった?"」

 

「ぶっ……!じですよ、ハイ。お陰様で……!」

 

カヤはキレて発砲しそうに疼く右手を理性で押さえつけながら、和かに話す。

そんなカヤの安否を心配する生徒達の顔をカヤは全て覚え、絶対に復讐してやると誓った時、カヤのスマホに着信が届いた。

着信元は─────鴉魔キリアである。

 

「っ!はい、もしもし!不知火カヤです!」

 

『ご機嫌よう、カヤさん。見ていましたわよ、今回の件』

 

「そ、んな………!?私の、失態が……見、見られて……」

 

カヤが膝から崩れ落ちる。その様子を見た先生が慌てて駆け寄るが、最後の力を振り絞ってカヤはその内容が聞かれないようにスマホの電源を落とし気絶した。

 

カヤの心労を、先生は知る由もなかった。

 

 

 ──────────◆──────────

 

 

あら?カヤさんとの電話が切れてしまいましたわ。

中々良い表情をするようになった、と言おうと思っていたのですが。何か急用でもあったのでしょうか?

 

「いや〜、それにしても残念だったな〜。作戦通りとはいえ、あの提案を蹴っちゃったのは」

 

カヤさんは私の直弟子ですわよ?燻っていた昔ならいざ知らず、今は理想の為に邁進する熱い子ですのよ。

 

「先生に邪魔された形ね。それにしても驚いた、キリアなら先生に真っ向からぶつかると思った」

 

「ああ、それなら私が説明出来るわ。キリアは飽くまで『謎の敵対者』としてある事を選んだのよ」

 

「というと?」

 

ここから先は私が説明しますわね。

私の本来の目的はまず、カヤさんに貸していた資産の回収の他に、先生の目につかないような問題解決でしたわ。

その問題とは、シロコさんに持ってきてもらった書類ですわ。

 

「これだね、『連邦生徒会解体案』」

 

予めシロコさんに調べておいて貰ったカイザーの計画。即ち、連邦生徒会の解体と新体制構築の為の作戦立案書。

カヤさんのスタンス的に、利用するだけして捨てるつもりだったのでしょうが……根は深くまで浸透してましたわね。

 

「つまり、弟子を助けたかったって事?なら初めからそう言ってくれれば良いのに〜」

 

「う〜ん、それだと私達アビドスが協力しない可能性を考慮したのではないでしょうか?」

 

アヤネさん、鋭いですわね。

私は疑り深い性格でしてね、実利を伴わない交渉はしないんですのよ。

ですからこうやって、報酬を用意したんですわよ。

 

「その件に関しては本当にありがとうございます……でも良いんですか?これだけの為に2億円も用意して貰っちゃって」

 

いえいえ、この程度端金ですわよ。むしろ、これだけの額で一面六臂の活躍をして下さり感謝しかありませんわ。

 

「それで、次はどうするのかしら?」

 

そうですわね……これ以上はアビドスの皆様を巻き込んではいけませんわね。

リオ、ヒナさん、私はそろそろ余暇から戻ります。じきアリス殺害未遂事件の熱りも冷めたでしょう。

 

私は、私の使命の為に動きますわ……いてっ!

ひ、ヒナさん……それにリオまで!どうしてチョップで私の頭を……!?

 

「キリア、水くさい」

 

「一人で抱え込まないで。私達はその……友達でしょう?」

 

あ、あなた達……!えいや。

 

「痛っ」

「あう」

 

お返しですわよ。ですが、その気持ち、ありがたく受け取らせていただきますわ!

では、私の作戦を説明させていただきますわ───

 

 

 ──────────◆─────────

 

 

「おはよう、不知火カヤ防衛室長」

 

目が醒めると、私の嫌いな声が耳朶を震わせてくる。

七神リン、連邦生徒会長代行の座に居座る無能。

 

「………代行。何の用ですか」

 

「賊に倒されたと聞いたわ。貴女の私兵も倒されてしまったそうね」

 

「私を笑いに来たんですか?賊に入り込まれた挙句、重要書類を盗まれた私を」

 

そうだ。この女は性格が悪い。どこからか私の野心を嗅ぎつけて、こうして牽制しに来たに違いない。

こういう時、キリア先生ならどうするだろう?

 

「違うわ。ただ、貴女が心配で来たのよ。先生も貴女を心配していたわ」

 

「先生……先生、ですか──────」

 

私が師と仰ぐ人はただ一人。その人を除いて「先生」だなどと烏滸がましい。

シャーレの先生。アイツさえ居なければ私も、怪盗団の学校も全てが上手くいっていたのに。

 

「どうしたの?震えているようだけど、寒いのかしら」

 

七神リン。やはり腹芸は苦手なようだ。

見え見えの挑発に乗るほど私は落ちぶれてはいない。

不知火カヤ、大人になるのです。

 

「少し、冷えてしまいましたね。では私はもう少し寝かせて頂きますね」

 

「ええ、早く良くなると良いわね」

 

そう言って七神リンは退室していきます。

それを確認したと同時に、カイザージェネラルに連絡し、シャーレ襲撃計画を実行するように通達します。

シャーレはその強い権利の為により多くの闇を生み出しているという事を、先生とやらに痛いほど教えてあげましょう。

 

「FOX小隊に通達。シャーレの"先生"を確保し、例の独房へ。抵抗する、または早期に気づかれた場合は死なない程度に発砲も許可します」

 

『ラジャー。多くの障害が予想されますが、別に倒してしまっても構わないのでしょう?』

 

「吉報、お待ちしてます。では」

 

見ていなさい、シャーレ。

必ずあなた達が間違っていたという事を、突きつけてやります。




番外編は一旦終わりです。
次回から最終編です。
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