一般トリニティ生の流儀 作:セイアマン
アナザー・プロローグ
「───物語は、崩壊した。」
赤い空の下、一人の男が高らかに宣言する。
「 」に語りかけているその男の名は『フランシス』。
彼は哄笑するように告げる。
「全ての脈絡、ジャンル、必然性!それらをこの世界は全て失ってしまった。」
「それでも貴方はまだ抗うというのか?」
その問いに応えるものはいない。
一人の男の無業の問いが闇へと消えてゆく。
闇から微かに、音が漏れ出る。
「"─────。"」
「ふ、フフフ!それがあなたの答えか、先生……いや、主人公よ」
男は満足したのか、身を翻して赤い空を見上げる。
その目は厳しく、その視線の向こうに存在する敵を見据えていた。
「期待しているとも、主人公よ」
次の瞬間、フランシスは背後から撃ち抜かれる。
深淵から這いずり上がってきた使徒は、その手に持つ「剣」でフランシスを刺し穿つ。
「………ここに居ましたのね。」
「予測は、していた。しかし───貴様はこの世界の変革者ではない。運命とは収束するものだ」
「そう、ですわね……では、さようなら」
深淵は「剣」を振り上げ、フランシスを断ち切る。跡には、塵が少し残るだけであった。
─────────◆───────────
夢を、見た。
キヴォトスの正しい
回避しようのない災厄。黙示録には存在しない
「きゃああーーっ!?せ、セイア様!?」
そうか、ここは現実だ。であれば、私のすべき責務は……ただ一つ。
クズノハ様からせっかく貰ったチャンスだ、必ず使命を果たさなくては。
「ミカと、先生を呼んでくれるかい……?」
「聖園ミカですか!?………っ、分かりました!」
全身から血が流れて止まらない。息が苦しい。
今にも眠ってしまいそうだ。でも、これを伝えるまでは眠れない。
「セイア様!?私が分かりまして!?鴉魔キリアですわよ!」
まったく、この子は……いつも、主人よりも先に来る癖は治らないみたいだ。
でも、ちょうど良かった。先生やミカには伝えられないことがある。キリアと私で決めた、とても辛く、悲しいこと。
「いいかい、よく聞くんだ。キリア……」
「はい!」
「責務を、果たす時が来た。覚悟を決めてくれ」
酷な願いだというのは分かっている。
少数の犠牲で大義を取るやり方なんて、私は認めたくはない。しかし、保険は取っておきたいのも事実だ。
「────っ、わかり……ましたわ。私の責務を、全うしてきますわ」
「すまない、君を……巻き込んでしまって。じき先生が来る。君は行くんだ、頼んだよ」
そういうと、キリアは揺れる瞳を湛え、拳を小さく握りしめて外へ出ていく。いつもより、その背中は小さく見えた。
先生とミカが到着して、私が見たものを話す。
この厄災は、キヴォトスの全てが協力しなければならないものだ。
だから、私は悪魔にだって魂を売る。
それで世界が救えるのなら。
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……GoTubeの皆様、ご機嫌よう。
皆様の鴉魔キリアですわ。本日、私はどこにいるでしょうか?
《元気ない?》
《もう生存隠す気ないね?》
《良かった!無事だったのね!》
突然ですが、私から皆様へ伝えねばならない事がありますの。
私──────配信を、これをもって引退させていただきますわ。
《おファッ!?》
《ウッソだろお前》
《いかないで》
皆様のご声援、今まで本当に励みになっていましたわ。本当はもっと……もっと、皆様、と………居たかったですが。
私は、やらなければならない事がありますの。
《泣くくらい嫌なの?それは》
《なかないで》
《辞めちまえ!そんなもの!》
悪い子でごめんなさい。
私は────鴉魔キリアは、責務を……果たす為!
この命に代えても、ミカ様や皆様、ヒナさんやリオがいるこの世界を!必ずや守り切ってみせますわ。
《どういう意味?》
《まって、詳しい話を───》
………さて。支度を、しましょう。
『黒服』様に電話をしまして……もしもし、鴉魔キリアですわ。
『会議中です。後でに────いえ、鴉魔キリアでしたら問題ありませんね。計画を実行に移すのですね?』
その通りですわ。「武装」の用意と、位置の確認をお願いしますわ。
それと……先生にもし会う機会があれば、私から「申し訳ありませんでした」と伝えておいてくださいまし。
『…………分かりました。ではアビドス第四地区、研究所でお待ちしております』
電話が切れ、私の周りには静かな喧騒だけが残りましたわ。
私はただ一人、ここにいる。
後でなんと言われようとも構わない。
きっと、先生にはまた心配を掛けますわね。ナギサ様は怒るでしょうか。ヒナさんは泣いてしまうかも知れません。リオは、きっと悲しい顔をするのでしょうね。
ミカ様は──────きっと私を、許さないでしょう。
ごめんなさい、ミカ様。私は……犯した罪の数々が、毎日のように背筋を這うのには、耐え切れませんの。
ですから、これをもって、精算とします。
悪事の対価を支払う時が来たと、そう思ってくださいませ。
さようなら、ミカ様。
私の愛するひと。
──────────◆──────────
先生がセイアから話を聞き、その事実を七神リンに伝え、リンの命令で各学園のトップ陣が集められた頃────。
不知火カヤは、鴉魔キリアから新たな命令を受けて行動に移っていた。
その命令とは、即ち「シャーレ襲撃」。本来ならばもっと戦力が揃ってからやるはずであった計画を、キリアが早めたのだ。
「キリア先生の意図は分かりませんが……既に先生はFOX小隊が捕らえています。ジェネラル、各学園の首脳が出て行ったのを見計らって、このままサンクトゥムタワーを占領してください」
「なぜ、出ていくと?マトモに話し合う可能性は?」
「万に一つも無いでしょう。無能の代行に、相席するゲヘナとトリニティ。話の通じないレッドウィンターまでいるのですから、すぐにでも解散して帰っていきますよ」
「ククク……流石は不知火カヤだ。分かった、そのように手配しよう」
カヤは一息つき、ついでに自分も気絶させておくように厳命する。
アリバイ作りのための工作にカヤは余念がなかった。
暫くの時間が経ち、各学園の首脳が帰った頃、ジェネラル率いるカイザーPMCはシャーレ含むサンクトゥムタワー周辺を占領、現場に急行したプレジデントと共にキヴォトスを掌握した。
「七神リン、連邦生徒会長代行だったかな?」
「カイザーグループ。これはあなた達の策略ですか?」
会議室でリンとプレジデントは向かい合う。
プレジデントを睨みつつも、その目的を聞き出さんとするリンにプレジデントはあっさりとその答えを言った。
「違うな。これは────鴉魔グループとの共同作戦だ。奴らの並外れた科学力と、湯水の如く湧き出る資金力……それを利用したのさ」
「鴉魔グループ……!?」
「そうだ。知っているだろう?世界を焼き尽くし、汚染する兵器を作り、このキヴォトスから追い出された者たちだ」
「その彼らが、なぜ連邦生徒会を……」
「鴉魔グループの経営者が持ちかけてきたのだよ。キヴォトスを『企業都市』にしないかとね。私はすぐにOKを出したとも」
「そんな事をすれば、どうなるか分かっているのですか?」
「ああ。理解した上での行動だ。彼女も、世界が滅ぶぐらいならと快く……いや、むしろ自分から協力してくれた」
「彼女……?」
「知らないのか?動画配信サイトで有名だろう、トリニティの行政官、鴉魔キリアは」
リンが目を見開く。
以前よりリンとキリアの間には事務的ではあるが交流があり、リンはキリアに仕事人としての好感を感じていた。
互いに仕事に追われる毎日を送る、仲間であるとも一方的にだが、思っていた。
「馬鹿な……!彼女は、トリニティ内でも唯一と言っていいほどの連邦生徒会への協力者で………!こんな事をするような人ではありません!」
「残念だな。それは君は彼女の本音を聞くに値しない人物だった、という事だ。彼女……鴉魔キリアは、本気で世界を救いたいと思っていた」
「世界を………?」
「そうだとも」
プレジデントは鷹揚に頷き、どこか遠い目をしながらキリアの使命について語る。その内容は、リンの知るキリアとはかけ離れたものであった。
リンは話を最後まで聞き終わると、僅かに俯き、大人しく牢へと連行されて行った。
部下が全員持ち場へ移動した後にプレジデントは独りごつ。
「責任など、馬鹿馬鹿しいと思っていたが……フッ、存外、悪くないな」
誰もいない会議室で、プレジデントはただ一人、空を見つめる。
空は青く、プレジデントの心を引き締めるようだった。
「鴉魔キリア。この場所の護りは任せておけ。だからお前は気兼ねなく、責任を果たしてこい」
柄にもないな、と笑い、プレジデントは椅子に座る。しかしその瞳は真剣そのものだった。
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「では、会議を始めます────本日は、ゲストとして鴉魔キリアにお越し頂いています」
司会進行役のゴルゴンダが場を取りまとめるように話し始める。
その背後にはキリアが澄まし顔で立っており、それをベアトリーチェは憎たらしい顔で見ていた。
「何故!何故、鴉魔キリアがここにいるのです!騙されているのですか、黒服。ゴルゴンダ!」
「マダム、客人に対して失礼ですよ。確かに鴉魔キリアは貴女と競い合ったかも知れません。しかし今は、『色彩』に対抗するためにこうして集まったのですから────」
「黙りなさい?良いですか、ワタクシは『色彩』のチカラを持っているのですよ?ワタクシに逆らえばどうなるか、分かりますね?」
「………マダム。」
「黒服、貴方もです。そもそも貴方は何がしたいのです?先生に何度も助言をしているらしいではありませんか。それに、そこな鴉魔キリアにも強化を施したとか。これは裏切りでは?」
黒服はため息をつき、ベアトリーチェを諭すように「仕方ありませんね」と言いながら研究結果とその応用力について書かれたレポートを読み上げる。
「鴉魔キリアは小鳥遊ホシノで行った実験の結果生じた、『神秘強化実験』の成功例です。成功の鍵は本人の強い意志の力でした」
「だから何だというのです?先生も、鴉魔キリアも!敵なのですよ!?今、今消さねばなりません!」
「話は最後まで聞くものですよ、マダム」
ゴルゴンダに諭され、ベアトリーチェは強く睨むも渋々と話を聞く事にしたのか、机に肘をついて大人しくし始めた。
「この実験が失敗すれば、鴉魔キリアはその存在を変質され、鴉魔キリアでは無くなっていたでしょう。しかし現に、こうして存在強度以外何一つ変わらず存在しています。鴉魔キリア、何か自分のアイデンティティをお願い出来ますか?」
「ご機嫌よう?そしてお久しぶりですわね、マダムさん?」
「こいつ………!」
「と、このように自己連続性は保たれています。この主な要因となった鴉魔キリアの意志。それは『滅びからキヴォトスを救う』、その一点のみでした」
「成程。詰まるところ、鴉魔キリアは"色彩"の打倒を現在目標としている我等と目的は同じ───取引は成立する、そう言いたいのだな?」
「その通りです、マエストロ。鴉魔キリアは私との取引に応じ『聖剣』の解析を承諾して頂きました。私はその代価として、鴉魔キリアの持つ『兵器』、その改良を頼まれています」
「マダム、聞いていましたね?納得はしましたか?鴉魔キリアはもはや我らの敵とはなり得ません。利害が一致している上に、取引相手でもあります」
理論で説得されても、理詰めで宥められても、ベアトリーチェはその怒りを、その狂気を捨てられずにいた。
理屈では分かっているはずが、ベアトリーチェは本能でそれを認められずにいた。
(これは………何だと言うのです!先生を消すのは兎も角、もはや鴉魔キリアはワタクシ達の味方ではありませんか!なのに何故……!)
「………あるでは、ありませんか?」
「何がです、マダム?」
「最初からこうすれば良かったのです!ええ────『色彩』は既にこちらに向かっている、と言えば分かりやすいでしょうか?」
「………………冗談は好みませんよ。」
「これであれば、『シャーレ』も、『箱舟』も、『名もなき神』も、『鴉魔グループ』も、全て消え失せる。いかがでしょうか?」
「その場合、『色彩』はキヴォトスまでもを滅ぼすだろうな」
失意のため息と共にマエストロが漏らす。ゴルゴンダもそれに同調するように不満を漏らす。
それを意にも介さず、ベアトリーチェは笑う。探究などどうなっても良いと。自身が至高に到達すれば問題はない、と。
「破壊と創造の権限を掌握せねばなりません。誰からも理解されず、侵入されないこの方策こそ────あの先生を消し去る方法です」
「……何という体たらく。探究者にあるまじき事だ」
「そうですか、マダム。貴女は憎悪に飲まれてしまったのですね」
「………口を慎みなさい。何度も言うようですが、私には『色彩』のチカラが宿っているのですよ?」
「そうですか。ではゴルゴンダ、彼女を送り届けてください」
デカルコマニーが何かの装置を起動すると、ベアトリーチェの周りだけの次元が歪み、キヴォトスの外へと繋がる孔が発生する。
本性を剥き出しにして襲わんと飛びかかってくるベアトリーチェは孔に吸い込まれ、その存在をキヴォトスから抹消された。
「さようなら、マダム。鴉魔社長に運良く拾われることを願っています」
「さて、では始めましょうか。本来の議題、対アトラ・ハーシスの方舟戦の最終作戦。その精査を────!」
空いてしまった席にキリアは立つ。
大人と生徒を超えた会議が始まったのだった。