一般トリニティ生の流儀 作:セイアマン
秘密組織「ゲマトリア」。
その定例会議室にて私、鴉魔キリアは漆黒の君───『黒服』様にお呼ばれして出席させていただいているのですが………。
「鴉魔キリア、貴女の保持している反物質エネルギー射出装置に関してですが、アレの改良案として私の所持する対恐怖用拡散パルス装置と組み合わせれば────」
「それよりも、だ。ミメシスを使用し戦列化を図った方が対アトラ・ハシースには都合が良いのではないか?」
「であれば私からも提案があります。テキスト書き換えの実行、及び重複する現存可能性の自己改変性を増したテクストの解析などが────」
ハッキリ言って、私には理解が及びませんわ!
私とて、散々キヴォトスの裏事情や神秘に触れてきたつもりでしたが、ゲマトリアの皆様はやはり私以上にソレを知り得ていますわ。
お陰様で私は先程からずっと蚊帳の外ですわ。
「鴉魔キリア、目下の課題であるアトラ・ハシースの次元改変についてですが、何か有用な対策などは思い付きますか?」
「如何に立場を得ていようと、『一介の生徒』というテクストの貴女には少し難しいかも知れませんが、知恵と神秘を司る貴女であれば何か閃くかもしれません」
「そういうこったぁ!」
そうですわね……詰まるところ、攻撃が当たりさえすれば勝てるのですわね?
でしたら、私の保有する『聖剣』を用いる……と言っても、その聖剣という存在自体を用いれば良いのでは無くて?
確か、ゴルゴンダ様はそう言ったことがお得意でしたわね?
「……成程、興味深い。つまり、『聖剣』というテクストを書き換え、『持ち主に勝利を齎す剣』、もしくは『必ず当たる剣』というテクストにすれば良い、という事でしょうか?」
児戯のような意見ですが、もし可能ならばきっと大きな可能性になると思いますわ。
そうでなくとも、何か他に可能性はあるのでしょうが。
「クックック、やはり貴女の神秘を強化して良かったと、つくづく思わされますね、鴉魔キリア」
「黒服、貴方の研究が花開いたことをここに祝福します。して、聖剣は────おや?」
「どうしたのだ、ゴルゴンダ。話の途中で別の事に気を取られるなど貴様らしくもない」
「どうやらサンクトゥムタワーがカイザーコーポレーションに掌握された模様です。鴉魔キリア、計画の進捗度について説明していただけますか?」
ああ、彼らはキチンと仕事をしてくれましたのね。流石は『大人』、責任はしっかりと果たしてもらわねばなりませんものね。
カイザーの天下も時間の問題ですわ、これより作戦フェーズ2、シャーレ奪還作戦を説明致しますわ。
「クックック……この規模のマッチポンプを仕掛けたのは、恐らく貴女が初めてでしょうね。鴉魔キリア」
作戦概要……と言っても、私が先生の行動を縛ることは不可能に等しいですわ。
恐らく現在捕えられている先生は何者かの手引きによって脱出し、その勢いのままシャーレを奪還するでしょう。
「なぜ、そう言い切れる?」
勿論、先生が変革者に他ならないからですわ。
あの人は────きっと、全ての生徒の運命を良い方向へ変えてしまう。
私ぐらいでしょう、先生の助けがいらない生徒など。
「確かに、貴女の行動録で先生の助けがなかったイフ────即ち先生の不在によるバッドエンドの可能性は無いに等しいですね」
ええ。私にはミカ様さえいれば十分……それに、少しの荷物が乗っかっているだけですもの。
本題に戻りますわね、今回の作戦で重要なのはシャーレ奪還成功までの露払い……それも、現在キヴォトス各地で発生している超高濃度エネルギーの対処ですわ。
然るに──────
「そう、そういうこと。やっぱりここに来てよかった」
「侵入者?おかしいですね、ここは招待制だった筈ですが」
「鴉魔キリアも居て運がよかった」
私が……?それより、貴女……その顔、声、瞳……!砂狼、シロコさん!?なぜ、ここに……。
それより、どうしたんですの?そのスタイルは。
制服は?マフラーは?お友達はどこへ行ってしまったんですの?
「悪く思わないで。全部貴女のせいだから」
一体何を……きゃっ!?
いきなり撃つだなんて、躾がなってませんわね!皆様、ここはお逃げを。私がシロコさんの相手をしますわ!
「マエストロ、ゴルゴンダ、デカルコマニー。ここは私に任せてください。鴉魔キリアのバイタルチェックや戦闘指揮を取らなければなりませんので」
頼もしい限りですわね、漆黒の君。
貴方に強化された私の実力、とくとお見せしますわよ!
「そう。じゃあ死んで」
「鴉魔キリア、彼女のエネルギー源が判明しました。神秘の反転によるもので、貴女のソレと相克し合うものです」
つまり、互いに急所ということですわね!
私の神秘弾、喰らってみなさいな!砂狼シロコさんっ!
「仕方ない。逃げた奴らは『女王』が始末する」
女王……?ええい、真面目に相手をしなさいな!
漆黒の君、拡張能力を使いますわよ!準備をなさって下さいまし!
「バイタル的な不安はまだ有りますが、被検体の強い望みならば仕方ないでしょう。戦術拡張、神秘開帳。神秘形態『鴉』、使用を許可します」
「何をしようとも無駄………ッ!?これは……」
お〜っほっほっほ!シロコさん、貴女の弱点が手に取るように分かりますわ!
ご覧なさい、貴女の死がクッキリと浮かんでますわね!ここを攻撃したら、どうなってしまうでしょうね?
「………アイツには頼りたくなかったけど、仕方ない。あとはお願い、『女王』」
女王がなんだって────が、は……!?
うそ、でしょう……!?砂狼、シロコさんだけでは……ない!?
その顔は、確かに──────!
「鴉魔キリア!」
「残念でしたわね、漆黒の君。ゲームはこれでお仕舞いですわ」
薄れゆく意識の中、私の心の臓を刺した下手人の顔をしっかりと脳裏に焼き付け、精一杯の力でサバイバルナイフを振るいますわ。
「刺されて尚斬り返してくるとは、流石は私ですわね」
その、声は。その顔は。
私のものだ。私だけの─────。
「さようなら、鴉魔キリア」
剣が私の喉元に突き刺さり………痛み、が
─────────◆───────────
胸と喉から血を流して痙攣するキリアを『女王』と呼ばれた少女は軽蔑するような眼差しで見つめる。
女王はキリアに完全なトドメを刺すために『剣』を振り上げ、振り下ろす。
しかしその魔の手はキリアに届かず、電磁バリアによって阻まれる。
「貴重な成功例を易々と殺されてしまう訳には行きませんからね。ゴルゴンダ達も逃げ切れたことでしょう」
黒服が何かの装置を取り出したと同時に時空が歪む。黒服は「簡易転送装置ですよ」などと宣いつつ、片手で女王の斬撃をいなす。
今も尚痙攣しているキリアの両目が青く光ると同時にタイミングよく攻撃を躱している。
「待ちなさい!逃げることは許しませんわよ!」
「そう言われましても。次は右ですね、左、上ですか。読めていますよ」
すかさず砂狼シロコの援護射撃が入り、銃弾は避け切れないのか掠る程度にダメージを抑えつつ黒服は撤退に成功する。
後には、ボロボロになった会議室と血溜まりのみが残されていた。
「逃した……!今すぐに追いますわよ、シロコさん、着いてきなさい!」
「駄目。ここで逃した時のプランは決まっているでしょ?後に覚醒した貴女よりも、私の方が優先的な命令権がある。予定通り、この世界の私を連れて行くよ」
「…………仕方ありませんわね。シャーレはどうしますの?」
「消しておいて」
「了解。最善を尽くしますわ」
女王とシロコが行動を再開した頃、キリアは夢を見ていた。
予知夢とも違う、何かと共鳴したかのような幻想。心臓と喉を斬り裂かれ、自身の生存すら危うい状況で、キリアはそれが走馬灯ではない事をハッキリと理解していた。
(この、記憶は────?)
薄暗い曇り空の中、少女はひとり歩く。
少女の小さな身体は傷だらけで、今にも倒れそうな程ふらついていた。
しかし少女の表情はそれ以上の絶望に彩られていた。
「みんな、殺した……私が、滅ぼした………」
少女は膝からへたり込むと、天を仰ぎ焦点の定まらない瞳を揺らしながら嘆く。
キリアがよく見ると、その両手には血がべっとりと付いていた。
(なんですの、この廃墟は……?柱の様式からして、トリニティ?まさか……)
何もかもが焼けこげ、そこら中に死体と血が散らばる惨状の中、少女から遠く離れたところではトリニティの旗を掲げる兵士たちと、ゲヘナの旗を掲げる兵士たちとが命を掛けての殺し合いをしていた。
「死ね!ゲヘナのクズどもが!」
「お前らが原因なんだ!ヒナ委員長が死んだのも!先生が殺されたのも!全部、全て、みんな!何もかもお前らのせいだぁぁぁ!!!」
(片方の陣頭指揮を執っているのは……天雨アコさん?トリニティ側は……知りませんわね)
ゲヘナとトリニティの戦争には小さな子供達も駆り出されているらしく、撃たれて一撃で死んでいく様子が見てとれた。
少女はその様子を見つつ、謝罪の言葉を連呼している。
「……ごめんなさい、生まれてきてごめんなさい、生きててごめんなさい、私なんかが、存在してごめんなさいっ……!」
少女は地面に頭を打ちつけてナニカに向かって謝り続けるが、その空虚な行いは何も生むことはなかった。
再びフラフラと歩き始めた少女は、とある部屋の前に立つ。その部屋は大きく破壊されており、中は荒れ放題であった。
(この部屋……ミカ様の!?私が居ながら、なぜこのような惨状に……)
「今更、どうでもいい……あんな、魔女なんて」
少女は心底軽蔑したような声で再び歩き出す。少女が向かう先は、D.U.にある病院であった。
病院に到着した少女は涙の流れなくなってしまった目を病室で一人寝る██に向ける。
「おきて、ください……あやまり、ますから……わたくしが、悪かった、ですから……!」
もはや仮面無しでは原型を留められなくなった顔を見ながら、少女は嗚咽を漏らす。
その頭に、手のひらが乗り、撫でる。
「う、そ………かいふくは、絶望的だって……」
「"──────。"」
その患者はズタボロの手足を無理矢理動かし、少女の手を握り歩き始める。
少女は泣き笑いのような表情をしながら██の杖となり、横を歩く。
暫くその時間が続いた後、██と少女の立つ場所は崩壊する。襲撃者だ。
「────さようなら。先生」
██の持つシッテムの箱が破壊され────キリアは目を覚ました。
「はぁっ……!はぁっ………!?」
目を覚ましたキリアに対し、黒服は淡々たした様子で「おはようございます」と宣う。
キリアはそれに挨拶で返すと、先程まで見ていた夢の内容を反芻する。
(あれは………未来の、私?だとしても、おかしい。ミカ様が一度も出てきていない)
「どうしました?メンタル値が乱れているようですが」
「少し、悪夢を」
「把握しています。その内容も覗かせていただきました。どうやら、同一存在が同次元に存在する事に対する共有意識が働いたのでしょう」
「他人の夢を覗き見るなんて無粋なお方ですこと。それで、何か分かりましたの?」
「ええ、恐らくあれは……起こり得た"かもしれない"未来。ゲヘナとトリニティの戦争……現在の時間軸では極めて起こりにくい現状です。さらに、鴉魔キリア、貴女の夢をマッピングさせて頂きましたが、ミレニアム地区が消滅しています。これは現在の地図と合わせても整合が取れません」
「つまり?」
「ええ、あの会議室に現れた『女王』……もとい、イフ鴉魔キリアとでもしましょうか。イフ鴉魔キリアは貴女の起こり得た可能性の一つであると考えるのが良いでしょう」
「………やはり、ですか。考えたくはありませんわね。しかし、私の神秘はそれが真実であると告げていますもの、信じたくはありませんが……」
キリアは考えるような素振りをすると、自身が全裸で緑色の液体に塗れていることに気がついた。
訝しげな目をして黒服を見るが、黒服はなんて事ないような態度を取っていた。
「あの、デリカシーというものはありませんの?せめてタオルぐらい巻いてくださっても良かったのですが」
「今更必要ですか?鴉魔キリアの感情グラフには羞恥は0%と表示されていますので、必要無いと判断したのですが。それと、着替えはシャワー室に置いてあります」
これだから研究者は……とボヤきつつ、キリアは黒服の所有する研究所のシャワー室へと入って行ったのだった。
──────────◆──────────
まったく!デリカシーがありませんわね、あの研究者は!
それにしても、面倒な事になりましたわね。
別世界線の私────おそらく、ミカ様と出会わずに先生のみに出会っていた場合の私のようにも思えましたわ。
正直なところ、私はミカ様さえご存命なら例え何を失おうとも問題はありません。
しかし、それが無い……となれば、話は別でしょう。
しかし別世界線の私の強さ……恐らくは聖剣由来のものでしょうが、まさか銃を捨てるとは。キヴォトス人にあるまじき行いですわね。
まぁ……弾速と同じ速さで動けるのなら必要無いのかもしれませんが。
漆黒の君から私に施された強化。
身体能力の向上や知能の向上などもありますが、それは一部に過ぎないようですわね。
少なくとも、あの修羅場から逃げ出す能力はあるらしいですもの。漆黒の君に詳細を聞いてみるとしましょう。
………というか、この緑のネバネバ取れませんわね!なんかヌルヌルしてますし。
えっ、今動きませんでしたか!?ちょっと!漆黒の君!?
私に何を仕込んだんですのよーーーっ!!!
黒服による鴉魔キリア強化内容
・性質強化
キリア本来の性質を強化した。
主に知能や論理的予知能力が向上。
・神秘強化
キリアに宿る神秘を強化した。
主に身体能力を強化。
・才能開花
キリアに宿っていた才能を開花させた。
主に『政』の才能を開花。