一般トリニティ生の流儀 作:セイアマン
うごご……頭がクソ痛えですわね。
自業自得とはいえ、ヒナ委員長は容赦というものを知らないんですわね。
まさか全治三日の怪我を負うなんて思っても見ませんでしたわ。何より、オートバイを粉微塵にされた時は心が折れかけましたわ!
アレ高いんですのよ、私の一ヶ月分のお小遣い全てを注ぎ込みましたものですから、値段にして凡そ1.7億円ですのよ?
それを…粉微塵に………。よよよ、泣き出してしまいそうですわ。
「あの、キリアさん……」
あら、どうしましたのセリナさん?私の話に何か?それとも何か重大な怪我でもありましたか?
「そうではなく……あの、病院は確かに退屈だとは思いますが、スパコンを持ち込むのを辞めてもらっても良いですか……?」
セリナさん、これはスパコンではありませんわ。飽くまで小型化されていますし、二世代前の骨董品ですのよ?
とても廉価だったので繰越分のお小遣いから300万円で買ったんですの。もしよろしければ、セリナさんも如何です?
「使わないです……。というか完治したのですから早く出ていってください………他の患者さんが待っているんです」
おっと、これは失敬。では私はこの辺で行きますわね、ではご機嫌麗しゅう〜っ!
……さて、どうしましょうか。
暇ですのでミカ様のところへ遊びに行っても良いのですが、ミカ様はここ最近何やら街の方へ向かわれているようで消息が不明な日が多々あります。
私としては、ミカ様の私物を漁るチャンスではあるのですが、いつ帰って来るか分からない以上、下手に弄ればバレてしまいますわ。
こういう時は頼れる仲間に相談するとしましょう。モモトークのグループにミカ様の消息を訊ねまして……おっ、帰ってきましたわね。
『ミカ様なら先生と外に歩いてたよ』
『うわーん!あいつら██したんだ!』
『やめやめろ!』
先生とミカ様がおでかけ……まさかデートでは!?やりましたわねミカ様!進展ですわ!
そうと決まれば話は早いですわね、モモトークのグループに「ニンジャ装備で集合ですわ」と打ち込み、忍術研究部から教わった早着替えの術で隠密服に着替えます。
ドーモ。キリア・カラスマ=デス。
ミカ様と先生はすぐに発見できました。
進行方向からして、トリニティ近郊の夕陽が綺麗なスポットへ向かっていますわね。確かにあそこならデートスポットとしては最適ですが……。
少し妙な噂があるのを私は知っています。
『ザザッ───こちらアルファ-1、ターゲットの付近に超大型エネルギー反応が!』
やはり……現れましたわね。というのも、この場所はデートスポットとしては良い場所なのですが、夜中になると生徒の失踪事件が多発する地域でもあります。
私たちパテル分派……というより、トリニティの情報機関や"そういったもの"に精通していらっしゃる方々の中では有名な話ですのよ。
さて……。私たちは私たちの責務を果たすと致しましょう。
超大型エネルギー反応であろうと、形ある以上は打倒し得るものですわ。ですので、パテル分派の総力を挙げてミカ様のデートを護りますわよ!
『了解ですキリア様。全兵力投入してオッケーですね?』
やっておしまい!この世に生まれ落ちたことを後悔させてあげるのですわ!
「ゴオオォ────!」
エネルギー反応のところにミサイルをおぶち込みましたら、悲鳴をあげて気色の悪いカバみたいな生き物が出てきましたわ。
たしか……ペロペロ様とか言いましたか?
『なんだこのキモい生き物は!撃て撃て、こんなキモいマスコットなんか叩き潰してやれ!』
さて、私も何かしなければなりませんわね。いえ、現在進行形で弾道を機械に予想させて最高効率で弾をばら撒くようモニターで指示を行ってはいるのですが。
「スケバン隊、現着したぜェ……ってはァ!?ンだあのキメェバケモンは!」
おや、呼んでおいた私傘下の暴走ぞ…もとい、走り屋の皆さん。ご機嫌よう。
今日は他でもない貴女方に乗っていただきたいものがあるんですの。
「オウ、そりゃわかったケドよ。アレどうすんの?」
ええ。だからこそ貴女方を呼んだのですわ。
ご覧ください、これが新開発の汎用人型決戦兵装『AVALON』に乗り、あのキモい化け物を退治してほしいんですのよ。
出来ますわよね?出席日数オーバーの皆様?
「クソが……ガキみてえなツラしてエグいことしやがって!だがまァ、嫌いじゃねえ。お前ら!ガン○ムだ、暴れっぞ!」
ガ○ダムではありません、どちらかといえば新世紀の方ですわ……ああ、行ってしまいました。仕方ありませんね。
私も従来の3倍の速度で動くことを可能にした赤いモデルのキリア専用機で行きますわよ!
○○○○○○○○
配信ボタンを押して───と。
ご機嫌よう、ニヤニヤ生放送の皆様。鴉魔キリアですわ!
私は今、どこにいるでしょうか?
《どこだろう、コックピットっぽいけど》
《ガンダ○うおおおおおお!!!!!》
《○ヴァうおおおおおおおおお》
だいたい正解ですわね。正しくは、トリニティ総合学園の叡智を結集して造られた秘密兵器『AVALON』のコックピットですわ。
ちなみにこの機体は私専用機ですのよ!
《楽しそう》
《道理で亜音速の機械が中庭を通り過ぎたと思いました。キリアさん、後で話があります》
《おはナギサ。割れたガラスの請求しとくからよろしくね》
もうっ、皆様!見てくださいまし、このドラテクを!亜音速で敵を翻弄していますでしょう!?
ほらっ、こっちですわよ!掛かりましたわねーっ!
《キリアが楽しそうでよかったよ》
《武装が拳だけって兵器舐めてんの?》
《他の子見る限り機関銃はあるけど、この機体が弾より速いんでしょ》
《キリアさぁ、ミレニアムに来ない?歓迎するよ》
お言葉ですが、遠慮致しますわ。
だってミレニアムに行ったらミカ様を観察……もといお世話できないじゃありませんの!
ミカ様のいらっしゃらない生活なんてクソですわーっ!
《あ、怪物の土手っ腹が謎ビームで消失したね》
《いい奴だった。安らかに眠れ》
《ああああーーー!ペロロエル様ぁーー!!!》
あのキモいカバ、そんな名前だったんですのね。報告によれば、ミカ様と先生は私達の戦いに気がついていない様子ですので、このまま撤退しますわよ!
やりましたわ。先生とミカ様のデートを護る事に成功いたしましたわ!あとは成り行きを見守るだけですわね。
あっ、先生の手がミカ様の手に触れて───そのまま引っ張って抱き寄せて……あら?どうして先生はこっちを見ているのでしょう?
「"あなたは何者なのかな"」
おファッ!?せ、先生が見たことない顔でおブチ切れなさってますわ!怖いですわね…な、なんでですの!?
《先生ブチ切れてる…》
《こっわ……》
な、何故………。私はコッソリとAVALONの光学迷彩で隠れていただけですのに!
気付かれるはずもありませんし、赤外線レーザーも無効化しますのに………。
「先生?誰かいるの?」
「"ミカ、このままトリニティに帰って。"」
「いるんだね……敵が。先生、私を頼って。私結構強いんだよ?特に誰かを守るときはね」
「"ミカ……ありがとう。さて、姿を見せないあなたが何を目的としてるかは知らないけど、何をしていたかは分かってるよ"」
分かっていたのならばこんなに睨まれる筋合いは無いのですが。大方、先生は先程私たちが倒したキモ鳥と私たちを誤認しているのでしょう。
先生はどうやら、何かしらの手段で危機を察知できるらしいですので、それが偶々壊れてしまったのですわね。
「"………返答は無し、か。でもあなたがもし、生徒達に手を出すなら……私にはこれがある"」
先生はそういうと黒色のカードを取り出しましたわ。これが大人のカードって奴ですのね、これで多くの生徒を手籠にしているとか。破廉恥ですわね。
仕方ないですので、ここは退かせて貰いましょう。ごめんあそばせ、先生。
《あっコイツ亜音速で飛んで逃げたぞ!》
《逃げるな卑怯者ぉおおお!戦ええええ》
《おいなんか追ってきてねぇ?》
亜音速ですわよ!?まさか先生が追って来れるわけ……ぬわっ!う、撃ってきましたわ!ビーム砲を飛ばしてきましたわ!
アレに当たったらまぁ死にますわね。弾幕をばら撒きつつ撤退行動ですわ!スケバン隊、私の援護を。
《うおっ凄え弾幕。雨かな?》
《先生を殺す気か?あれ弾が避けてる?》
《キリアたんガチの顔してないかコレ》
仕方ないでしょう!?ここ高度500mですわよ!しかも先生からの攻撃は一撃必殺ですし、この高さから落ちたら大怪我じゃ済みませんわ!
嫌ですわ!またつまらない病院生活は絶対嫌ですわ!
《お、一機落ちたな。ありゃ死んだろ》
《よく見ろ、ちゃんとパラシュートで逃げてる》
《キリアちゃんの変態機動でも当ててくるビーム砲の子は何なの?》
《ユウカでも乗ってるんでしょ》
何で亜音速で飛んでますのに平然と当ててくるんでしょう。お陰様で私のAVALONの耐久値はボロボロ。このままだと墜落しますわね。
仕方ありません、ここは地上に降りて脱出するとしますわ。
《キリアーっ!後ろ!》
《終わったな。来世で会おう》
えっ、あっ!ぬわぁああああああっ!
─────────◆─────────
私には、ずっと一緒の従者がいる。
私がどんなにイタズラしてもスンとしてて、でも私がちょっとやらかしちゃうと全力で尻拭いをしてくれる。そんな従者。
毎日毎日、私が愚痴を聞かせているというのに嫌な顔ひとつせずに付き合ってくれる。
この間だってセイアちゃんのお小言に文句を言ったばっかりだ。
その子の名前は鴉魔キリアちゃんって言って、小さくて、とっても頼りないけど。私の心の支えでもある。
ある時、私がナギちゃんにした事やコハルちゃんに酷い事を言った事、色んな人の信頼を裏切ってしまった事を打ち明けた。
その時はまだ聴聞会は始まってなくて、私の罪もバレてなかったけど、キリアちゃんならずっと信じて着いてきてくれると思って打ち明けた。
そしたら、
「知っていましたが、今それを私に言ってよかったんですの?」
と言って、「どのような理由であれ着いていきますわよ、ミカ様」と言って私を抱きしめてくれた。
その後、キリアちゃんは私にナイショで調査してたらしい情報を教えてくれた。情報の中には、セイアちゃんがまだ生きてるって情報も含まれてた。
私が先生を部屋に連れ込んだ時も、人払いを済ませてくれてたのを後で知って少し恥ずかしくなったけど。
それでもキリアちゃんはずっと一緒で、私を支えてくれるんだと思ってた。
「うそ……嘘だと言ってよ、キリア、ちゃん……」
先生とデートした日の事だった。
謎の赤いロボットに襲われた私と先生は、先生との協力で赤いロボットの集団を撃退することに成功した。
それまでに沢山の被害が出た。駆けつけてきたゲヘナの風紀委員長が手傷を負ったり、飛び出したツルギちゃんが榴弾を先生の乗るヘリに当たる前に受けて一時戦闘不能になったり。
それでも最後は、ミレニアムから来た可愛い子がレーザービームでロボットを破壊して、私たちはなんとか辛勝できた。
でも、赤いロボットが破壊された瞬間。私の中で何かが切れてしまったような、大切なものを壊された時みたいな感覚が出てきた。
「───っ、先生!ちょっと行ってくるね!すぐ戻るから!」
逸る気持ちを抑えられずに、直感に従ってただ走る。
そして"それ"はすぐに見つかった。
「いや……嘘、そんな……」
そこには、お腹から血を流してうつ伏せで倒れているボロボロのキリアちゃんが。
誰が、どうして、なんでキリアちゃんなの?そんな疑問が頭に浮かんでは消えていく。
「しっかりして、キリアちゃん!私のことが分かる!?」
「…………天国…ですの?」
「良かった…生きてる……。キリアちゃん、大丈夫?傷は……」
「ひどい、お顔……そんなに、泣き腫らして…綺麗な、お顔が……台無し、ですわよ………」
「そんな事…どうでも良いよ。キリアちゃんが無事なら、私はそれで良い」
そういうと、キリアちゃんは微笑んだと思ったらゲホゲホと咳をした。血が、キリアちゃんの小さな口から吐き出される。
とても顔色が悪い。今にも、死んでしまいそうで、儚いような寂しそうな瞳を私に向けてくる。
「ゲホ、ああ……私に残された時間は、そう多くない見たい、ですわ……ミカ、さま……あなたに、伝えたい事が………」
「いやっ!そんなの聞きたくないよ!また元気になって、その時に改めて伝えてよ!」
「ふふ、ええ……そう、ですわね……でも、これだけは、言わせて……くださいまし……」
「………………………。」
「ミカ様…私は、貴女に────ずっと、おし……」
キリアちゃんは言葉を途中で止めた。いや、違う。止めたんじゃない。キリアちゃんは、今、この瞬間に─────………………。
私は、これからどうやって生きていけば良いんだろう。
ティーパーティーは辞めさせられちゃうし、先生は私を生徒としてしか見てない。ナギちゃんは私なんかに構ってる時間もないよね。
あれ、もう私……隣に誰もいないのかな。
そっか…………なんか、疲れちゃったな。
もう…………良いよ。私は
「あーーーーっ!!!!見つけました!!!!」
「………何?あなたは…えっと、救護騎士団の子…」
「鷲見セリナ、キリアさんの担当医ですっ!そこで寝てる患者さんを引き渡して頂けますか?治療後暫くは激しい運動はダメと言ったのに!」
「治療?患者?……一体何のこと?それに、キリアちゃんはもう……」
「よく見てください。ヘイローが消えていませんよ」
「えっ………あっ!」
私が気づいて声を上げると、ビクッとキリアちゃんの身体が跳ねる。その顔からは冷や汗がダラダラと流れてきていて、表情も気まずそうな顔をしてる。
まさか。私の反応を楽しんでたの?
「キ〜リ〜ア〜ちゃ〜ん!」
「お、おはようございます……?」
「説明、してくれるよね?」
「いえその、違うんですの。私は────」
「説明」
「ヒッ……さ、さん──────」
「三十六計逃げるに如かず、だよね。キリアちゃんが書類仕事サボる時にいつもそう言うよね」
「はわ、はわわ……」
キリアちゃんの事なら何でも知ってる。
定期的に私の私物を持って行って私の前では見せないような蕩けた顔をしてるのも、たまに勝手に私のベッドに潜り込んでジタバタしてるのも、キリアちゃんの机の中に500重のロックがかかった黒色のノートがあるのも。
「その……優しく、してくださいまし?」
「出来ればね」
その日はセリナちゃんに同伴してキリアちゃんを病院に運んで、夜通しキリアちゃんから情報を搾り取った。
『AVALON』
トリニティの歴史とミレニアムの科学が融合した傑作。
スポンサーとして鴉魔キリアは現金換算21兆円の支援を行った。
開発段階でエンジニア部に手を加えられ、通常の3倍の機動力を得てしまったのがキリア専用AVALONである。
エンジニア部の部長曰く、「こんなものを扱えるのは人間をやめている」とのこと。