一般トリニティ生の流儀 作:セイアマン
「数が…多い!」
凄まじい銃声と共に敵を一掃する。アコよりよく分からない服を着た幽霊を軒並み撃ち倒しても、終わりが見えないくらいたくさん敵が沸いてくる。
「"ヒナ!追加で敵が30体、来るよ!"」
先生のサポートもあって、普段よりは戦いやすいけど、それでも人手が足りない。
銃弾は心配ないけれど、先生の体力が心配だ。
でもこの先を抜ければヴァルキューレの駐屯地がある。あそこなら建物は頑丈だし、ゆっくり休みながら戦える。
「先生!もう少し我慢して、ここを抜ければ…!」
私の後を追う先生を励まして、ヴァルキューレの駐屯地が見えて来た所で────駐屯地は大爆発を起こして消し飛んだ。
「また、会いましたね……痛いですよね、今楽にしますから…」
「うるさいっ!邪魔!」
目の前の下手人に向かって機銃を掃射する。見たところ、敵の兵科は狙撃手だから近接戦闘で仕留める。
手榴弾を足下に投げて球の速度と同じ速さで飛ぶ。
「へえっ!?」
「まず一人…ッ!?」
銃剣で仕留めようとしたけど、横から飛んできた榴弾に弾き飛ばされる。ダメージを少し負ってしまった。
でもまずは狙撃手を……居ない?しまった、先生が危ない。
「くっ!」
「"ヒナ!"」
私の身体で先生を庇う。良かった、狙撃手の攻撃は先生に当たらなかったみたい。でも、拙い。頭にモロに食らったせいで、意識が……。
大丈夫、舌を噛んで耐えた。でも立ち上がれない……血を流しすぎた。
そういえば、さっき鴉魔キリアも同じような感じだったっけ。
先生が敵と何か喋ってる。幸い、私が地面に倒れてるからバイクの接近音を感じ取れた。
ついでにこのまま体力も回復させてしまおう。
先生にリスクを負わせてしまうけれど、この荒っぽい運転は鴉魔キリアしかいない。彼女なら先生を守ってくれるだろう。
「主要人物は斃れた。あとは貴様だけだ先生」
「…………(スッスッ)」
最悪だ…。鴉魔キリアからの報告で聞いた、他の敵の幹部たちが集合してしまった。
確か奴らはトリニティの主戦力が相手をしていたみたいだけど。だとしたら鴉魔キリアお抱えの戦闘兵器軍団も全部撃墜されたんだろうか。
「"君たちがアリウススクワッド?"」
「そうだ……我々はこれまで、不当な扱いを────」
敵…アリウススクワッドの言い分はどれも子供じみていて、それに誰かから植え付けられたような憎悪だった。
なんでも、トリニティとゲヘナをこの世から消し去るつもりらしい。そんな事、不可能なのによくそんな妄言が吐けたものだと思う。
「"!?……それが、君たちの望む事なの?"」
先生も呆れてる。というか、ゲヘナはアリウスとやらを迫害した歴史なんて無いし、元々対立関係にあったからその延長で憎悪が続いているだけなんじゃないの?
それに巻き込まれたのは本当に不幸。
「ああそうだ。だが…その前に、貴様を始末しておく事にしよう」
まずい。このままだと先生が撃たれてしまう。
動け、動け身体!今すぐに先生を救出して────!
「貴様が一番の障害になると彼女が言っていたから……なッ!?」
それは、一条の紅い光だった。彼女…鴉魔キリアは白銀の髪をたなびかせ、その眼に激しい怒りの闘志を露わにして赫く染まったバイクの前輪をサオリとかいうアリウスの腹部にめり込ませていた。
「先生に!何をしているんですの!?」
サオリは時速約300キロのスピードで飛んできたバイク分の質量を受けて十数メートル吹き飛んで咳込んでいる。
丸出しのお腹には青あざが付いていて痛々しい。
「ゲホッ!ごほっ、き、きさまは……」
「ご機嫌よう、アリウス分校の…いえ、敗北者の皆様!聡い視聴者の皆様から情報は得ていますわ。時代の敗北者であるアリウスが、先生に手を出して良いとお思いで?」
「この、トリニティがァ…!げほっ、ヒヨリ!ミサキ!」
「い、痛そうです……本当に、痛そうです…人の心とか、無いんですか…?」
「ウチのリーダーをこんな目に遭わせて……これは酷いよ?」
鴉魔キリアの煽りに反応して他のアリウスが動く。先生には今のうちに退避してもらわないと。
「酷いのはあなた方ですわ。よくも…私のお友達を………ヒナさんをよくも傷つけてくださいましたね…?」
「身勝手だ、貴様は、貴様らは!いつも自分の事ばかり!奪ってやる、貴様から何もかも!総員、先生を狙え!先生さえ死ねば我々の勝利だ!」
拙い。思考が一巡してしまった。でも大丈夫、戦えなくても盾にはなれるくらいに回復した。最悪の場合、相手の喉元を噛みちぎってでも先生を守る。
「それに……トリニティのクズめ、腕が折れているじゃないか。そんな様子で私達アリウススクワッドから先生を守れると?不可能だ!」
「………能書垂れてないで来なさいな。
「このっ!舐めるな!撃ち方構え!撃て!」
リロードした!ここだ、ここしかない!
「ああああっ!」
「な、コイツ…まだ動けて───きゃあっ!?」
「ミサキ!くっ、怯むな撃て撃て!敵は一人だ!」
ミサキとかいう人、もう少し私に付き合って。私は身体が小さいけれど、格闘術だって強い。小鳥遊ホシノだって出来たことだ。私にも出来る。出来るようになった。
「ぐっ…力、強……!?」
「離さない。それと、このまま骨を折るから。暫くは動かないでね」
「っ!ぐ───あ……!」
少し離れた所では弾丸の雨を剣一つで弾いてる鴉魔キリアが見えた。トリニティってあんなのばっかりなの?
「おーっほっほっほ!この程度、ミカ様やツルギ先輩に比べればまだまだな私でも余裕ですわ!」
いや、よく見たら剣は適当に振ってるだけで殆ど機械が自動で弾いてるみたい。後ろで機器をポチポチしてるのが見えた。
勿論、剣でも何発かは弾いてるみたいだけど。
「救急医学部、現着しました。先生、こちらへ!」
「新手か!?」
「おーっほっほっほ!先に呼んでおきましたわ!さぁ先生、私が護ります、私が撃ちます!お逃げください!」
「"でも…"」
「でもじゃありませんのよ!このダメ教師!機械の処理能力が消し飛ぶまでに早く行きなさいな!あ痛!こんのおっ!」
「"っ……!ごめん、キリア!"」
「ヒナさん!先生を守りなさい!」
「分かってる…!」
先生にピッタリくっついて弾から先生を守る。何発か当たって痛いけど、我慢できる範疇。
ランデブーポイントに着いた。あとはセナの救急医学部の装甲車に先生を乗せるだけ。
ミサキとかいう子は腕の骨を折ったから銃は撃てない。警戒するべきはサオリとヒヨリとかいう子だけ。
「ヒナさんっ!守って────!」
「!?」
声に反応して庇おうとするも、先生は車両に乗り込んでいる最中で場所が悪い。私が受けるにも、距離が足りない。
まずい、弾が──────
「"がッ…………ぁ、ヒ……ナ…………!"」
先生が、嘘、そんな、撃たれた。私が、私がまも、守れなかった。私のせいで。私が────
「あ、ああ…………」
「先生!応急手当をします!痛みますが耐えてください!車両を出しなさい!」
放心する私を置いて先生は運ばれていく。
先生は最後、私を呼んで………私のせいで、だろうか。私が力不足だから………。
もう、嫌だ。こんなの嫌だ………。
「仕事はまだ終わっていませんわよ!風紀委員長ッ!コイツらを逃してはなりません!死んでも食らいつきなさい!」
「でも、私はもう…」
「甘えるな!先生は大丈夫です、お腹に穴が空いて内臓を傷つけたとしても、きちんと縫合して適切に処置すれば間に合いますわ!今は敵を倒すことに集中なさい!」
「ごめんなさい、私にはもう、耐えられない」
「あっ逃げた!ま、待ちなさい!おいちょっと!くそっ邪魔ですわね!必殺奥義!いざ、クロス…」
逃げる。逃げる。どこに行くわけでもなく、ただ走る。仲間からも背を向けて、先生が撃たれという罪の意識からも逃れようとして、走る。
どうか、こんな私を許さないでください。
──────────◆─────────
あ、あいつゥ…!土壇場で逃げやがりましたわ!
やっぱりゲヘナッパリはダメですわね!
「くっ…そろそろ我々も退かせて貰おう。分かったら退け!」
まだですわ。まだ通信教育で習得したニンジャカラテを試せていませんもの!
それに、少女忍法帖ミチルっちチャンネルで学んだ忍術も試せていませんのよ!
「バカにしているのか?そんなものあるわけないだろう」
忍術をバカにしたらいけませんわよ!ミチル流忍法!丑の印、火遁!業火滅却ッ!
「火のない所にこれほどの炎を…熱っ!バカにして!」
「リーダー、もう帰りましょうよぉ……全隊撤退完了してて、あとは私達だけですよ…」
「ぐぬ…おいお前!やめないか!変な掛け声を上げながら殴りかかってくるのをやめろ!」
イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ………チェストォ!
「くっ!この……どこまでも人をおちょくって!なんで腹に大穴空いてるのにこんな動けるんだお前は!」
気合いですわ!ゲホッ…気合いですわ!
わた、私は…ここで、倒れるわけには、いかないんですのよ…!
せめて一人、一人でも拘束しなければ…
「フン、もうパンチの威力は無くなってい…ごふっ!こいつまだ!もういい、ヒヨリ!コイツを連行する。トリニティへの良い牽制になるだろう」
ちょ、なんですの!?変な所触らないで下さいまし!……だからと言ってお米様抱っこは違うと思いますわ!
「い、痛くて苦しいはずなのに…元気ですね……本当に痛そうです、その、死にませんよね?死んだら使えませんので…」
たしかに穴の空いた人なんて見る機会もないでしょうが、弾痕に指を入れるのをやめイデデデデデ!やめなさいな、そんな恍惚な表情をしないでくださいまし!
「わぁ……リーダー、見てください!凄く痛くて苦しそうなのに…とても綺麗です…」
「ヒヨリ。その辺にしてやれ…その、なんだ……治療はしてやるから…だが貴様は捕虜だということを忘れるなよ」
ちっ、分かりましたわよ!じゃあ私はちょっと寝てますわね。がくり。
○○○○○○○○
「おい!起きろ!」
なんですの…?行政改革案はTの机に置いてありますわよ……って、あら。おはようございますわ。
あなたは…見たことはありませんが、どうせアリウスの生徒ですわよね?
「……マダムがお待ちだ。来い」
マダム…?随分とご大層な名前を付けたものですわね。キヴォトスで大人の力がどれほど脆弱か知り得ないのでしょうか?
「……………黙ってついて来い。」
まったく…か弱くて小さな生徒を攫っておいて酷い有様ですわね。確かにヘソ出し帽子ウーマンの言った通り治療はされていますが。
しかしこの程度の治療と言うことは、私達が倒した兵士達は地獄の激痛に今だに蠢いているのでは?
「黙れトリニティ。元はと言えば貴様らのせいだ」
あら、被害者ヅラが得意ですのね!あなたトリニティに向いてますわよ?
「黙れと言っている!」
そうカッカしない事ですわよ。弱く見えますわよ?こういう時はこう─────
「がっ……あ、ぐふっ」
一撃で仕留めるのが肝要ですわよ。後学の為に覚えておきなさいな。思い切り首を殴れば人を気絶させられる、と。
さて、見張りを片付けましたから…早速逃げるとしましょうか。その前に追い剥ぎですわね。ガスマスク以外の装備を奪っておいて…と。
ヨシ!完全武装ですわ!
「おい、何か物音が…なんだ貴様!?」
一般トリニティ生のお通りですわよ〜っ!
度重なる政争による暗闘で身につけた戦闘術をとくとご覧あれ!
閃光弾、投擲!嘘ですわ、本命は蹴りですわよ!
「ほぐわっ!つ、強…」
魔法でも見ている気分でしょう?全部蹴りですわよ!エクスペリキック!アバダキック!コンカッセ!
「銃使えよォ!はぐあっ!」
「くそッ、スクワッドを呼べ!勘弁しろ、本当に!」
「ま、マダムーっ!た、助けを……」
これ以上戦うの…やめましょうよ!弾薬がもったいだいっ!弾薬一粒一粒に…作ってくれた人がいるのに……!!!
正義のない生徒に使われて…!まるで、馬鹿じゃないですの!
「やかましい!それが言いたかっただけだろ!」
「第一お前弾薬使ってないだろ!」
「お気軽に関節を外してくるな!痛いんだよ!」
うっ、うるさいですわね!私だってたまには燥ぎたいんですのよ!
「はしゃぎ過ぎだバーカ!」
なっ!バカはそっちでしょう!?勝ち目とない戦いに身を投げるなど!
「一々言葉が鋭いんだよトリヤロウ!羽無し!ペンギン女!」
はー?こいつ気にしてる事言いましたわね!頭蓋ひしゃげるまで殴りますわよ!
「洒落になってねェんだよ!」
見知らぬアリウス生と殴り合いつつ、撃ち合いつつ、凄絶な口喧嘩を続けていますと、廊下の奥の方から悍ましい気配がやって来ましたわ。
その瞬間、私とそのアリウス生は硬直し、私は全身が戦闘態勢になり、アリウス生は首を垂れて平伏しましたわ。
「ワタクシの庭で…何をしているのです?」
「も、申し訳ありません!マダム……」
「不要なモノは要りません。連れて行きなさい、このゴミのヘイローを破壊しなさい」
待ちなさいな。マダムとか言いましたわね?貴女のしようとしている事は許されざる事ですわ。
人殺しなど禁忌中の禁忌。トリニティの旧い言葉には「汝人を殺すべからず。殺人者は永遠の咎を負う────」とあります。
永遠の咎とは、一体なんなのでしょうね?
「生徒がワタクシに意見する事など、それこそ許されざるコトです。先に貴女から殺してしまいましょうか?」
あら、そんな事で脅しになるとお思いで?随分と幼稚ですのね、それと覚えておくといいですわ。
あまり強い言葉を使わないように───弱く、見えますわよ?
「……子供の戯言ですね。大人ではない子供の発言の何たる軽さか」
おっ逃げるんですのね!良かったですわ、私、貴女に勝った事を永遠に忘れませんわね!SNSにも投稿しておきますわ!
それと────子供を舐め過ぎると、痛い目を見ますわよ?
「…………!この無礼な子供を今すぐ連れて行きなさい。ああそうです、この子供を拷問する様を動画に残してインターネットに流すように」
「で、ですが………」
「何か?」
「っ、はい。了解です!」
「拷問の内容は任せます。ではワタクシはこれで」
そういうと、マダムは行ってしまいましたわ。
残されたアリウス生達も気まずそうな顔をしながら私を囲んで連れて行こうとしましたわ。
私もそれに抵抗せず、拷問室に連れて行かれましたわ。
拷問…楽しみですわね!
少女忍法帖ミチルっちチャンネルでは日常的に使える忍術をご紹介!
「先生殿〜!見て見て、火遁・鳳仙花!きれーでしょ!」
「"人に向けちゃダメだよ"」
「人に向ける様のやつは開発済み!業火滅却って言うんだ」
「"ぜっっったいに人に向けないでね!?"」