一般トリニティ生の流儀 作:セイアマン
ご機嫌よう、先生。鴉魔キリアですわ……。
え?どうしてそんなに窶れているかと?ええ、それはもう……あったんでございますのよ、色々と。
事の発端は、そう。今日の朝ごろに私がミカ様を伺った時のこと。
私がミカ様に聴聞会用の資料と模範解答を作成し、それの査読をお願いしに行くとミカ様はその紙をビリビリに破かれましたわ。
そして私に「私、聴聞会には出ないから」と告げられ、私は窓から投げ捨てられてしまいましたわ。
「"ナギサからも聞いたよ。ミカはどういうつもりなんだろう?一番近いキリアなら分かるかな"」
あくまで推測に過ぎませんが、ミカ様は一連の事件は未だ収束していないとお考えなのではないでしょうか?
私が思うに、ミカ様は敵を制圧するまで止まるつもりはなく、罰を受けるのはその後であるとお考えなのでは……。
「"推測で語っても私たちにはしょうがないね。話を聞きに行こうか"」
えっ!?う、うう……わ、私はあまり気乗りしませんわ。先程怒られてきたばかりなのに、また行ったらミカ様に嫌われてしまうのではと考えると、どうしても……。
「"多分、ミカはキリアを嫌いにはならないよ。とにかく行こう"」
ちょっ、車椅子を勝手に押さないでくださいまし!半分拉致みたいなものですわよ!?
………先生、車椅子押すの上手いんですのね。結構快適ですわ!以前にもやった事が?
「"ミレニアムで少しね"」
ミレニアム………ここ最近、動きが怪しい学園筆頭ですわね。学園全体は以前とあまり変わりは無いのですが、メンバー歴12ヶ月の『早瀬ユウカ』様から「会計が合わない」とメン限雑談で溢していましたわ。
ミレニアムを率いるセミナーの会計がそういうという事は、それ以上に秘匿された出費があるという事。
主犯はおそらく──────
「"あっ、キリア。ここのお店ちょっと寄って行かない?ここのコーヒーが美味しくてさ"」
紅茶派閥の代表とも言えるトリニティ生にコーヒーを勧めるとは、先生もチャレンジャーですのね。
「"えっ!?嫌だったかな……"」
嫌じゃないですわ。私は別にコーヒーも沢山飲みますわよ。それに、お友達と飲むコーヒーほど美味しいものはありませんもの。
お友達と飲む時の紅茶は……色々な意味を含みますから。
「"決まりだね、キリアは何食べたい?"」
私は何でも……先生に任せますわ。
先生の選ぶものはハズレが少ないですものね。経費は私の口座から…え?良い?そうですか………ならここは奢られておきますわね。
「"バナナドーナツとエスプレッソのダブルショット2セットで!"」
その後、私と先生はコーヒーと甘味を楽しみつつ、ミカ様の部屋に向かいましたわ。
結局、ミカ様の部屋についたのはお昼頃になってしまいましたが、お昼ご飯にラーメンを届けてもらうように手配しましたわ。
「"ミカ。会いにきたよ"」
「先生……キリアちゃんも一緒だね。先生も、聴聞会に出ろって言うんでしょ?もう聞き飽きた。私は出るつもりないよ」
「"違うよ。私はミカと話をしにきたんだ"」
「話って?」
結局先生は本当に聴聞会の話をせず、近況報告や美味しかったお店の話、楽しそうな遊び場を見つけた……などの他愛のない話を小一時間ほど続けましたわ。
先生は多忙とお聞きしましたが、どこからこれだけの時間を捻出出来るんですの?
「"それで──────"」
「先生、そんな話をして何になるの?何が言いたいの?先生の目的は何?」
流石に不信感を覚えたのか、ミカ様は先生の意図を尋ねます。すると、先生は少しだけはにかんで「ミカと話がしたかったんだ」とだけ言われましたわ。
「……わーお。キリアちゃん、今の…」
ええ、録音してますわよ。音声データはアナログでお渡ししますわね。誰かに漏らしてはなりませんので。
「…………さすが。やっぱり先生とキリアちゃんには誤魔化せないかー。あはは」
「"セイアは。セイアはミカと仲直りがしたいって言ってたよ"」
先生?セイア様はいまだに寝たきりですのよ。どうやってセイア様と対談を……?予知夢の関係ですの?それとも……精神ダイブ装置でも使われまして?
「"まぁ、ちょっと秘密かな。だけど、セイアがミカと仲直りしたいっていうのは本当のこと"」
「セイア、ちゃんが………。そう、なのかな。私はまだ、責任を…取ってないのに」
「"責任を取るのは、大人の役割だよ"」
ミカ様、何かあっても大丈夫ですわ。私がミカ様と共に背負いますもの。約束したではありませんか、苦楽共に分かち合おう…と。
たとえ失敗したとして、全世界を敵に回したとしても、私は最期までお供いたしますわよ!
「先生……キリアちゃん………私、信じて、良いのかなあ…っ!」
「"もちろん。それを支えるのが私の役目だから"」
地獄の底までお供しますわ。
わっぷ、先生ごと抱きついてこないでくださいまし、せま、狭いですわ!
──────────◆──────────
百合園セイアはここ数日、夢の世界を終わりなき精神世界で永遠とも思える時間を彷徨っていた。
セイアの異能、即ち未来予知は万能と言っても良い能力だ。
自身の見たい未来だけを観測し、その結果を観測することで未来を収束させる事が出来る。
ただし、そのデメリットととして現実と夢の狭間が曖昧になってしまう事だ。
セイアは何度、飛べると思い込んで投身しそうになったかを覚えていないほどだ。
(しかし……この夢は、一体…)
セイアが現在見ている夢は、彼女が今まで見た事のない光景そのものだった。その琥珀色の瞳を恐怖に染め、どこまでも紅く広がる空を捉えていた。
「此れは…いや、確かに此れは…終焉だ。」
赫いサンクトゥムタワーが天空から降り注ぎ、地上を破壊していく。巻き込まれた市民たちが纏めて行方不明になり、子どもの泣き叫ぶ声や痛みによる悲鳴、大切な人を亡くした人の嗚咽で街が満ちた頃──────
本当の敵が現れ、さらに多くの死があった。
赫いサンクトゥムタワーから現れた敵は7回に分けて現れた。
青白い炎をゆらめかせ、戒律の為更なる勝利を重ねようとした軍隊が市民たちを襲った。
名もなき神々の王女の白き僕が主人の為に更なる戦争を齎し、勝利した。
多くの大切なものを喪い、復讐に呑まれた殉教者が全てを無に帰す炎によって黒い雨を齎した。
おおよそ全ての生徒が混乱と絶望の中、ひとつの漆黒が先生を襲撃し、先生はその場で命を落とした。
そこまで見たところで、セイアは絶叫しながら目を覚ました。
「セイア様!どうなされましたか!?」
「はぁ……はぁ………。先生を、先生を呼んでくれ。今すぐに、話さなくてはいけない事がある」
冷や汗を拭くのも忘れて、セイアはそう伝える。ただならぬ様子を感じ取った生徒は急いで先生を呼んできた。
先生がミカとキリアを連れてセイアの部屋へ着くと、セイアはキリアの顔を見て顔をさらに青ざめさせた。
「先生、私が今から語るのは起こり得るかもしれない最悪の未来の事だ。そして、鴉魔キリア。話がある。ミカ、君も主人として同伴したまえ」
「わ、私ですの?構いませんが…」
セイアは自身が見たことを全て伝えた。ミカは非常に嫌そうな顔をし、先生は何か思い詰めたような表情になり、セイアに話があると言われたキリアは、どこか納得したような表情を浮かべていた。
「キリア、君は──────」
「ええ。分かっておりますわ。きっとその殉教者は私でしょう。実際、私はあまり綺麗とは言えないところから大量破壊兵器の製法を入手していますもの。尤も、作れる気はしませんが」
「"キリア、まさかそれって……"」
「ええ。キヴォトスの外からの情報によると、その兵器を使用しただけでその土地一帯が数十年間住めなくなるそうですわ」
「キリアちゃん、そんなものどこで手に入れたの?」
「ドブさらいのバイト中に見つけたんですのよ」
「…………本題に戻ろうか。キリア、君にとってミカはどんな存在だい?」
セイアから投げられた質問に、ミカは顔が赤くなり、キリアは恥ずかしそうにした挙句もにょってしまった。
しかし、数秒経ってから顔を赤くして「敬愛する、お方ですわ…」と蚊の鳴くような声で言った。
「では仮に、ミカが何者かに殺されたら?君はどうなる?」
「下手人を殺します」
即答だった。先程まで恥じらいの表情を浮かべていた少女とは思えないほど冷酷かつ残忍な瞳でそう告げた。
そこに一切の驕りなく、ただ純然たる殺意があった。
「成る程。すまないね鴉魔キリア。君を試すような真似をした。此処に謝罪しよう」
「別に構いませんわよ。私がいる限りミカ様は決して死にませんもの。それで?セイア様は何が言いたいんですの?」
「君とミカはよく似ているね……まぁ良い、要するにだ。近いうちに厄災があるかもしれない。備えておくのが賢い選択と言える、と言いたかったんだ」
備えろ、と言われた瞬間にキリアの脳内に様々な破滅的な計画が過ったが、どれも即座に棄却されていった。
ミカはそれに気がついていたのか、一言だけ「止メ」とだけ呟いた。キリアはその声でハッとしたような顔になり、頭を下げた。
「"ミカ、どうしたの?"」
「ううん、なんでもない。ね?」
「っ、イエス・ユア・マジェスティ」
「"マジェ……え?"」
「何でもありませんわ、先生」
ミカに対して最上級の敬意を表したキリアは、そのまま何事もなかったかのように振る舞う。セイアは当然ながら気づいていたが、先生は後に調べるまで終ぞその意味を知ることはなかった。
その後、先生たちは具体的な作戦などについては触れず、ただ備えると言うことを念頭においた後解散した。
だが、先生は最後までキリアに差した翳を忘れることはできなかった。
──────────◆──────────
困りましたわね。
私が把握している限りでは、セイア様の予言の的中率は98.43%。つまり殆ど当たるという事ですわ。
セイア様の予言では、私が全てを奪われて復讐鬼になるとの事でしたが……既にAVALON部隊は再建済み、機体の方もエンジニア部の尽力によってアップグレードが施されましたわ。
それに、私専用機につけられた試験段階の新武装もありますわ。
私の車椅子生活もヒナさんが派遣してくれた氷室セナさんのお陰で予想より早く終わりそうですし、私が戦線復帰するのもそう遠くはないですわね。
しかし……セイア様の予言、まるで古代語の聖典のような内容でしたわね。こういう時はアレですわ!
古書館にでも行って色々と調べてみるとしましょう。
という訳で、ご機嫌よう!ウイさん!
「ひええっ……!?い、いきなりどうしたんですか?」
事情は聞かないでくださいまし。ヨハネ分派の蔵書庫に行きたいのですけれど、通してくださいます?
ちょっと。私がヨハネ分派に行こうとするのをその威嚇のポーズで止めようとするのをお止めになられてくださいまし。
「だ、だって………キリアさんは悪い噂が絶えませんし…」
悪い噂?一体何ですの、それは。
「えっと…例えば、キリアさんは政敵全員を失脚させた挙句、トリニティ内に居場所を無くさせた『日陰の帝王』ですし…」
何ですの?その痛々しいあだ名は……キャスパリーグとかの方がマシですわよ。
「うう…他には、『苛烈の魔女』とか『悪魔の遣い』ですとか『トリニティ全ての闇』とか……枚挙に暇がなくて…」
ウイさん。その噂やあだ名は全部嘘ですわ。いえ勿論、ミカ様を傷つけたり侮辱した生徒はトリニティから居場所を奪っていますが。
それでも何をしていない生徒には優しいですわよ私は。
「そ、そうなんですか……それで、ヨハネ分派の蔵書庫に何をお探しですか?あの辺りの蔵書は未解読のものが多く…」
私が探しているのは「黙示録」ですわ。近々それに類するものが起きそうですので、参考までに知っておきたいんですのよ。
「もっ、黙示録!?セイア様関係ですか…?だとすれば……少しマズいですね。奇跡でも起きない限り、どうにもなりませんよ」
奇跡、とは言いますが……私は未だ奇跡に見えていないので、そんなものに頼るよりもっと良い方法があるのではないかと思ってここへ来たんですのよ。
「……そういえば、AVALONを作った時も古書の知識を参考にしていましたね。外殻のバリア、電磁製だと言っていましたが、あれは別物でしょう?」
よくご存知で。確かにアレは古代の力を使った神秘による護りです。『聖剣』も完成に近づけたいですし。
設計図の方は───言わなくても分かりますわよね。前と同じように頼みますわ、『魔術師』さん。
「っ!?ま、まさか……あなたは、『緑の──」
それ以上は、野暮ですわよ。
では、よろしくお願いしますわね。
この古書館が、惜しいのならば。
鴉魔キリアに付けられたあだ名
・日陰の帝王
キリアが一年生の頃、毒蛇の巣とも呼ばれるトリニティの悪性部分を実質的に支配していた時期につけられたあだ名。ミカに敵対する/侮辱する発言をした者を苛烈なまでに迫害し、トリニティのスラム地区に幽閉したことからそう呼ばれている。
今もスラム街でキリアに対する憎悪は燃えている。