緋色の英雄   作:kozmo78

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第1話 ヒーローごっこ

 

 『超常現象』が全世界で発生し、世界総人口の約8割が超常能力───『個性』を手に入れた。

 

 

 体が発光するようなモノから始まり、超パワーや炎を生み出すモノ、翼が生えたりサイコキネシスを扱えたりするモノだって存在する。

 

 この人類全員……否この世の全てを巻き込んだ突然変異は、当たり前かのように未曾有の混乱をもたらした。

 『個性』を悪意を持って人々に振り翳す存在───ヴィランが社会に蔓延り、それまでの現実が覆された………

 

 

 

 そんな時に誕生したのが、“ヒーロー”だ。

 

 

 弱気を助け悪しきを挫く正義の存在が長い年月をかけて社会の安寧を取り戻していき、多くの人々が今や職業に成り得たそれに憧れを持って生活できる……、そんな『平和』を創り上げたのである。

 

 

 

 

 ────と言っても平和それ自体は表面的なモノであり、普段の生活が一つの事件で一変する、なんてことは日常茶飯事だと言えるだろう。

 何故ならたまたま立ち寄っていたコンビニに……………

 

 

 

 

 

 

 

 

「動くなてめえら!今から人質になってもらうぞっ!!」

「ひっ!?」 「キャー!?」 「何だ!?」

 

 

 

 ………強盗犯が急に襲撃を仕掛けてきても何らおかしいとは思えないのだから。

 

 

 だとしても、下校途中に妹に電話で「アイス買ってきて!」と言われた数分後にはこうなるのだから、“当たり前”とは何なんだろうかと考えさせられるとは思う。

 取り敢えず反感を買うのは危険なので素直に従うが………こんなトコロで予定が狂わされるとは思わなかった。

 

「(どんな奴らが………あいつがリーダーっぽいか?…それに持っているのは……)」

 

 気付かれない程度に犯人たちの方へと観察すると、如何にも盗んできましたと言わんばかりに“何か”が詰め込まれたバッグと、今命令を下している主犯格らしき人物が持つ小型銃が目に付く。

 銃は流石に生まれて初めて見たが、彼等の切羽詰まったような振る舞いと服装を見れば自ずとそれを持っていることに納得がいく。

 

 

「てめえらはヒーローどもに捕まった仲間の交換条件として引き渡す!」 

「あいつ等が来るまで変に動くんじゃあねえぞ!もし妙な事したら命はねえぞ!!」

 

 

 威圧するような怒声が店内に響くが─────これで何となくではあるが彼らのここまでの推測ができた。

 

 犯人たちは街の銀行かどこかで強盗を働いて逃走を図ったがヒーローと会敵、他の仲間が捕縛されたか囮になったかされたことでこの二人は逃げられていたが、彼等の自白を恐れたため今に至る………と言ったところだろうか。

 

 確かに闇雲に逃げようが現代社会で捕まらないでいられるとも思えないし妥当な策ではあるが、巻き込まれ方は堪ったものではない。ただでさえ今日は家族との約束もある訳だからこちらとしてもただ黙っているわけにはいかない…………なんて考えながら他の巻き込まれた客の一人に近付く。

 さっき悲鳴をあげていた女性客であり今も尚怯えているのが分かる、………それが普通なのだけれど。

 

「すみません、ちょっといいですか?」

「え、ちょっ、何…!?」

「あいつ等と話してくるんで、その間にこのスマホの再生ボタン押して自動ドアの方に滑らしてくれませんか?」

 

 急な提案に理解が追い付いていない様子だが、気にしないでスマホを半ば押し付けるように渡す。

 実際このまま何もせずヒーローが来るのを待った方が安全なのは人質心理として当然ではある。変に悪目立ちしても標的になるだけで、最悪状況が悪化して死傷者を出しかねないのは予測がつく。

 だがしかし、ヒーローが来たとしても下手に手を出せない状況なのは変わらないしこちらから行動を起こさないと即時解決には進まないとも言える。

 

 ───なので本当に申し訳ないけど俺の作戦に手伝ってもらおう。

 

「合図は出すんで、お願いします!…」

「いやっ、待っ………」

「何話してんだガキィ!」

 

 流石に気付いたか店員に向けられた視線と銃口が俺の方に向けられる。

 巻き込み事故で声をかけた彼女にもまた怖い思いをさせてしまい心苦しいが……ここで作戦の意図を把握されたら話にならないので、咄嗟に誤魔化す言い訳を口に出す。

 

「そこのバッグ、何が入ってるんだろうって思っただけですよ、そう思いません?」

「え、いや……」

 

「あ゛!?何で教えなきゃなんねぇんだよ?人質は黙ってろ!」

 

 そらそうだ、って返答をされたがここで会話が終わったら作戦の取っ掛かりを失ってしまう。

 そもそもは『個性』さえ使えれば面倒な手順を踏まなくて済むが解決後の面倒ごとを増やしたくないのもあるし……正直切りたくなかった手札を使うしかなさそうだ。

 

 

「俺ら人質を交換条件にするって言ってましたけど、それよりもっと良い方法がありますよ───だって自分、“天蟲久悟あまむしきゅうご”の息子なんで。」

 

「アマムシぃ?………もしかして“ヒーロー医療”の!?」「嘘ついてねぇだろうな!?」

「本当ですよ──人質にピッタリだと思いませんか?」

 

 

 俺の発言を聞いて、犯人側と人質側両方共がざわつきだす。

 

 ここで「知らねぇよ」なんて言われたら元も子も無かったが知っていたようで良かった。まぁそれのおかげでレジの方で固まっていた店員も少しだけ安堵していたが、結局のところ危険な状況に変わらないことを理解してすぐさまこちらを凝視した。……勿論「今すぐやめろ!」と告げる眼圧も俺に届いている。

 兎も角自分に興味を引き付けられたので、考え通りに入口から離れるながらレジ方へと歩いていく。

 

 

「証拠もありますよ?…ほら学生証です、ここに名前があるでしょ?苗字が同じですし、あと知ってなければ証拠にならないですけど髪とか似てません?」

 

「言葉には気を付けろよガキが!たとえそうだとしてもてめえが中坊には変わらねぇだろうが。」

「てかお前から言い出す意味が分からねえだろうが!もしかして他の人質助けて俺だけにしろ、みたいなヒーロー面しようって訳かぁ?」

 

 

 そう言いつつ犯人の一人がニヤつきながら近寄ってくる。まぁあちら側からすればより良い交換材料が出てきて且つ中学生の子供が無策で出てきたようなものだから、疑いはしても強気になっているが分かる。

 こちらとしては油断してくれればもっと簡単に済むのだが…………

 

 

「だが調子に乗るんじゃあねえぞ!お前の考えてる通りにはいかせねえんだよ、大人しくそこに立ってろ!」

「ヒーローか警察来るまで全員逃がす訳にはいかねぇんだよ!…まぁまずはパパに泣きついてみるかぁ?『1000万でも何でも用意してぼくちゃん助けて~』ってな!」

 

「あはは……そんなに用意してくれますかね…?」

 

 

 適当に愛想笑いと相槌で返してみるが、それにしても見事に油断してくれている。

 本当のところは馬鹿正直に俺の提案を受け入れて他の人質を解放──までが理想であったけれど。そうなればスマホを遠くから滑らすなんて賭けを人に任せる必要もなくなるが……、いや意味の無い仮定は要らない。

 ───まぁあの人がミスったりそもそも何もしなかったりするなら作戦変更となるが、そこは俺にはどうしようもないしそれを非難する権利もない。画面さえ見てくれれば何となくでも“何”をしたいかを理解してくれると思いたいが………どちらにせよ視界の端を気に掛けながらタイミングを計るしかない。

 

 

「へっ、自分の無駄な正義感を恨むんだな!今更言い訳なんて聞かないからな、さっさと電話の用意しろ!」「てめえのヒーローごっこもここまでだな!」

 

「スマホ………すみません今持ってないんすよね、ちょっと学校に忘れまして…」

「は?イマドキの中学生がスマホ持ってないなんて嘘つくじゃ「いや嘘でも何でもいい!下手に自由を与えれば何されるか堪ったもんじゃねえ!」…っけ、これ使え!変なことするんじゃあねえぞ!あんま時間がねえんだからな!!」

 

 

 スマホが無いことに変な詮索をされそうになったが助かったようだ。

 話している内にも店の外が騒がしくなってきたことに気付いたことで更に慌てだしているが、こちらとしては好都合だ。

 だったらここで………仕掛けてみるか。

 

 

 

『ガチャ!』

 

「あ!?すみません……ちょっと緊張しちゃって………」

「落としてんじゃねえよ!さっさと拾え!!」

「いやこんなにスマホが滑る・・・・・・なんて思わなくて…、ちょっと待って下さいっ!………」

 

 ────合図もアドリブ、作戦もただの口約束……ホントに無茶でしかない行動だったが後は人任せ、心の内で願ってみようか────

 

 

 

 

 

 ────耳を澄ましていると金属の擦れるような音が聞こえたような気がした。

 

 

「のんびりしてんじゃあねえよガキがっ!!早く拾え「待ってください!……やめといた方が良いと思いますよ?」あ!?

 

「聞こえてくると思いますよ、ほら?耳を澄ましてみてください………」

「何が言いてえ!?ごちゃごちゃ言ってるとぶち殺す────

 

『私が来たっっっ!!!』

 

────っ!!??」「オールマイトッッ!!??」

 

 

 本来居るはずのない“No.1”の声が聞こえて犯人たちは一斉にドアの方向へ振り返る。

 

 ───そこにあるのは1つのスマホだけだ。

 

 

「「あ?」」「(まず最初はっ……!)っ!!」

 

「い゛っ!?」「おいてめえ!?」

 

 

 一瞬の隙を突いて一人の手に握られた銃を払い除ける。

 目に付く危険分子を取り除いたら『個性』の対策を───なんて考えてるよりも先に…

 

「まず一人!」「がはっ!……」

 

「!?ふざけんな!ガキなんかに邪魔されて「ヴィラン“ごっこ”は終わりだよ、おっさん…っ!」

 

 すかさず一人目の顎を振り抜きダウンさせ、二人目が何か『個性』を使おうと構えていたが気にせずボディに一発叩き込む。よく見ると右手の先が電流が走っているように見えた。だったら体に触れたらアウト系の『個性』は考慮しないでよさそうだ。

 もしそうであってもそのレベルならコンビニに逃げ込むほど切羽詰まった状況に追いやられる訳がないし、この駆け引きと雰囲気で危険視するような相手じゃないのは把握した。

 

「ぐぅっっ!」

 

「……成程、手で触れたモノにちょっとした電流を流せる『個性』ってとこか………。確かに盗みには扱いやすいモノかもしれないな。」

 

「ふぅっ……ざっけ…ん………がはっ!!?」

「素直にお縄についてくれ、……手錠も何もないけどな。」

 

 

 一人目と同じようにストレートを叩き込んだら流石に黙ってくれた。

 

 緊張感が店内に張り詰めていた約10分間が静寂と共に収まっていき、次第に他の人たちが押し殺していた息や声が微かに聞こえ始めた。レジ奥の店員からは溜まりに溜まった鬱憤を漏らす者もいる。

 

 

「何やってるんだ君危ないじゃないか!」    「良かったー………っ!」

     「中学生なのかあの子………たった一人で……」

 

「まだ動かないで下さい!───まだ意識あるようだな、リーダーのおっさん。」

「ぐっ……中学生如きにぃ………!」

「その如き・・に伸されてんだよ、何もすんなよリーダー。」

 

 

 そう言いながら手放した銃を拾い、ついでに先程救いの一手である俺のスマホに歩み寄る。

 学校でも話題に挙がった『防犯ブザー代わりのオールマイトのセリフ動画』、防犯教室でも警察直々に紹介されてたが………ちゃんと効力あるんだな、多分本来の使い方と違うとは思うが。

 

 

「でもなぁヒーローの真似事でしかねぇんだよ……オレが『個性』使えて、てめえは使わない…いや!使えねえ。良いトコの坊ちゃんがルール・・・破る訳無えだろうなぁ!」

 

「大丈夫、その時はこれ使ってでも止めるんで。」

 

 まあ撃つ気は更々無いが、その時は『個性』の出番だ。

 ルールなんてと言い切る気は無いが───、最悪その後の事は何とかなるだろう。

 

「言ってろよ……こっちだってなぁ………人生変えてぇんだよっ!!

 

「っ!(仕方ない、覚悟決めるか──────

 

 

「ワ タ シがっっ来たっっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 聞き覚えのある声と共に外から突風が吹きこんだ。

 

 

 目が眩むほどの土埃が舞い、気付いた時には強靭な両腕で床に押し付けられた二人と─────何度もテレビで観てきたあのシルエットが目の前に居る。

 

 

「私が来たにはもう安心だ!………ん?これ・・をやったのは君か?少年!」

 

 

「………二度、救われるとは……思わなかったな。」

 

 

 

 

     ~  ~  ~  ~

 

 

 

 ────事件が解決したのは、犯人たちが突入してから15分後の事だった。

 

 事の顛末について聞きたかったが………当たり前だがヒーローと警察巻き込んだ大説教を食らったために図らずも知ることできた。

 「解決こそ早かったが余りにも危険な行為だ!」………と痛いほど言われたし自分自身反省しているが、実害こそ生まなかったのは幸いだった。オールマイトが来てくれたからこそ『個性』を使わずに済んだし、犯人も全員捕まったようで後に被害が増すような問題が残らなかったのが唯一褒められた点ではあった。

 …まあ唯一と言っても年齢と素性を答えた途端に目の色を変えて対応を変える人が殆どだった。

 

 …因みに手伝ってくれた女性客にも滅茶苦茶文句言われたが……何だかんだ許してくれた。出来る限り頭を下げ続けて謝罪と感謝を述べ続けたが許してくれた一番の要因はサインを書くことになるとは思わなかった。まだ・・ただの中学2年生でしかないが、拙いモノでも気に入ってくれたようだった。

 

 

 

 しかしこれで万事解決、さっさと家に帰ろう……とは行かず────

 

 

 

 

「「「プロになったら是非うちの事務所に来てくれないか!?」」」

 

「いや、そういうのはまだ………」

 

 

 学生の事件解決によるヒーロー事務所へのスカウト………稀に聞くトップヒーローの武勇伝みたいな出来事の当事者になるとは。

 

 別に受け入れる気は無いが、問題行動起こしたのは自分だと思うと無下にするのは罪悪感があるが──────

 

 

「まぁまぁ彼も疲れてるんだからそこまでにしようじゃないか!!!」

 

「うおっオールマイト!?」「まあ確かに………」「気になったらここに連絡してくれ!……」

 

「あぁはい………オールマイトもこの後予定あるんじゃないですか?生放送の対談がある筈…」

 

「そうだったっっ!すまんが私はここで!!教えてくれてありがとう少年!!!」

 

「あの!父さんには出来ればこの事内密に………「ん?父さん……と言うことは…もしや少年!?」

 

 

 

 

────申し遅れました。俺の名前は“天蟲飛威炉あまむしひいろ”、ヒーロー志望なんで……覚えておいてください。」

 

 

 

 

 

 ……こうして色々あったものの、これが俺にとっての“目標”との初めての邂逅となった。

 

 

 

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