『飛威炉、璃亞ちゃんに先越されて…まさか落ちるなんて事は無いわよね?』
『そうだよ!お兄ちゃんの事だから調子ノって問題無いとか思ってるんだろうけどそんなに世の中甘くないよ!』
『…そうだな。確かにそうだが……菟希も同じなのは分かってるよな?絮吏儕の入試はもうすぐだぞ』
『分かってるよお父さん!お母さんも“落ちる”とか言わないでよ!?受験生にはそういうの敏感なんだから!』
『あら、ごめんなさいね…ゴホッ……』
『璃亞さんとは一緒に行かないの?………えー…まあ確かにそうだけど、私だったら緊張で誰かと一緒じゃないと耐えられないよ…』
『菟希の日はみんなで行くから大丈夫よ。飛威炉が1人で行くって言うんだから心配しないであげて?』
『む~……これで「ダメだった」なんて言ったら許さないからね?お兄ちゃん!』
『勿論よ。…頑張ってきてね、飛威炉』
『すまん、私は先に出なければ……激励の言葉は、要らなそうだしな』
『いってらっしゃいお父さん!……ん!お兄ちゃんのスマホが鳴ったよ!璃亞さんからじゃない?…見せて見せて!───────…ふふ、璃亞さんらしいね』
・
・
・
・
・
・
「(ふっ……言ってくれるじゃねえか)」
解答欄に全てを書き終えた用紙を眺めていると、朝の玄関前での会話を思い出す。母さんと菟希はどこか心配そうに、父さんは普段通りに応援してくれていたが…一番に思い出すのは璃亞からの言葉だった。
『…成績No.1じゃなきゃ合格しても認めないわよ?』……、別に勝手にハードル上げないでくれとかは微塵も思わない。だってあっちは推薦入試を通過したのだ。
いつも普段の努力を示してくれるのは璃亞の方だ。…母さんが言うように多大な迷惑をかけてきたのは俺の方だ。
これで日和っていたらいつも結構な大口叩いている俺の名が折れるってもんだ。
…まあその話は置いておいて、今気になっているのはやはりこの後の“実技試験”だ。
超高倍率の評判通りに周りに並ぶ数え切れないほどの人数が今、偏差値75超の高難度試験に挑んでいるのだが…筆記試験には不安は元々無いのだからあんまり何とも思っていない。強いて言うなら満点かどうかは確信はそこまで無い事ぐらいだ。
ただし実技の方では話が違う。日本に生を受けて、不自由なく人生を謳歌していれば市街地戦闘なんて経験することは絶対に無い。小・中で行う“個性調査”で学生の身で自分の『個性』に触れるが、戦闘用途として『個性』を行使するのは普通は在り得ない。…俺は別として。
そこで来るのがこの試験だ。被害や人の眼なんて気にせず挑戦できるのだから、誰だって心待ちにしてもおかしくない。
試験内容は入試要項に記載されていたが果たしてどんなモノになるのか────────────
「STOOOOOPっっ!!手を止めろリスナー諸君ぅ!!??」
…なんて、次の試験の事を考えていたら聞き覚えのある馬鹿でかい声が会場中に響き渡った。
試験終了の指示を聞き、僅かながら騒めく受験生の反応は様々だ。安堵の声を漏らす人も居れば、絶望の声を零す人も居るし、実技への不安を嘆く人だって居る。少なくとも俺みたいに周りの雰囲気を観察するような人間は極少数派だろう。
大勢のスタッフが解答用紙を順に回収していって、会場の前方にある壇上に集められていって……待っていたアナウンスが試験監督役が持つマイクを通して轟く。
「今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!」
「「「「「………Yokosoー………」」」」」
「こいつぁシヴィ―!!受験生のリスナー!実技の試練の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!!??」
…またレスポンスを求めてきたが、当然のように反応する受験生は全くと言っていい程存在しなかった。カロリー高い筆記を終えたばかりなのだから、わざわざ声高々にリアクション出来る元気がある者は少ないのは周りを見渡さなくても分かる。
だったら元気な自分が反応しろよって思わなくもないけどこうゆーのは分からん。多分プレゼントマイクのラジオとかでお決まりの何かありそうだけど、俺は今日の試験で出るようなヒーロー史以外の情報には疎いので残念だが黙っておいた。
「入試要項通り!リスナーにはこの後!10分間の────────────
────────────って訳でぇ説明は以上だ!!分かったかリスナー諸君!!!」
…成程、大方予想していた通りだったか。
“模擬市街地演習”。文字通り造られた市街地で仮想敵と呼ばれる自律型AIロボを行動不能にすればポイント獲得、攻略難易度によってポイントは上下して各自高点数を狙う……言ってしまえば雄英においてはオーソドックスな試験内容だ。
面白い点で言えば持ち込みは自由ってとこだな。普通の受験じゃ違反行為なモノを容認してるのが流石自由を売りにしている学校ではある。でも結局は“『個性』で”ってとこがミソなので、ただ市販にあるようなサポートアイテムに頼っても意味ないのは理解しておく必要がある。…まあ俺には関係ない話だが。
他にも重要な話はあったが………それは実際に挑んでみれば実感できると思うので今深く考えないでおこう。
「…では最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう!かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!!」
「“Plus Ultra!!”……それでは皆良い受難を!!」
概要説明を切り上げた途端、それまで抑えられていたであろう盛り上がりがプレゼントマイクの激励に呼応した。
会場に居る誰もが、これから迎え撃つ“受難”に気合を引き締めたであろう。
───────緊張は無い、不安も無い……だが、俺には皆の期待がある。どんなにそれが大きくなろうが…関係ない、だって俺が目指す高みはこんなトコロで躓くことは許してくれないのだ。
………って事で、ぼちぼち気合入れていきますか。
・
・
・
・
・
・
「…珍しいじゃないかな、君が入学試験を見学したいなんて」
「珍しいと言うより初めてですね。…教師でもない私をこの場に入れて下さって感謝しています、校長」
「君たっての願いだ、それを断る程器は小さくないのさ!それにどうかな?体調が落ち着いたら君も教師をしてみないか?オールマイト」
「…今はまだ、考えさせてもらいます。…今日、私が来た理由は校長はご存知なのでしょうか?」
「単刀直入に聞くねえ。…推測はついてるさ、あの画面に映っている彼だろ?名前は───────
「……彼も人気者のようだね、あっちの部屋でも話題に挙がってるそうさ!」
「私も一度彼と会った事があります。…コンビニの立て籠もりを『個性』使わずに制圧していましたね、それも13歳で」
「相澤クンも覚えているのは半年前の渋谷ヒロイックでの件かな、メディア嫌いの彼が知っているあたり特別な存在なのは間違いないのさ!」
「…本来推薦で入学するようなレベルです、そんな彼が一般で来ると聞いて興味を持ったのです」
「確かに分かるねその気持ち………でも誤魔化さなくてもそれだけが理由じゃないのは知っているのさ」
「……そうですか」
「金の卵はどの会場にもいるけど……彼には流石に目が引くね。久悟くんが太鼓判を押すのも分かる」
「そうですね。…若い頃の私とは比べられないくらいです」
「それは謙遜しすぎじゃないかな?…まあでも前半だけじゃ分からないさ!真価が問われるのは………これからさ!…ポチっとね」
・
・
・
・
・
・
「おいおいやべえぞ!?」「でかすぎんだろ…」
「へぇー……でっけー敵…」
タイムリミットを折り返してポイントの獲得方法も減って来たなと思っていたら……何だあれは。まあ何って言えばあれは…入試要項にあった4種類目の仮想敵だろうが、思っていた以上に大きいな。目測でこの市街地で一番高い仮想ビルよりもでかい。
この試験会場が市街地を想定されて造られている以上、巨大な仮想敵ってだけで脅威だ。人を見つけて身動ぎを起こすだけで簡単に建造物が壊れていき、今自分の耳に届いている混乱の張本人と化している。
プレゼントマイクの説明にもあったように、この仮想敵にはポイントが何も存在しない。
腕を壊そうが脚を壊そうが頭を壊そうが、時間の無駄にしかならないって念を押されて言われているからこそ誰も挑もうとはしていない。
「(……ま、ただの『ギミック』ではないんだろうな。さあ…どうするか)」
倒壊していく市街地中心部から逃げ惑う受験生を無視しながら、もはや誰も正面向いて相手にしていない仮想敵に飛んで向かう。
…時間で言えばあと4分ってとこだろうか。得点の方は俺が倒した敵数とその他諸々から考えれば合格ラインにはもう届いている筈、このまま何もしなくても問題無く通過はするだろう。
だが、それで納得するのは璃亞に悪い。
だったら第4敵は無視して他のポイント稼げよって話ではあるが……賭けにはなるが次の標的にしても───────ん?あれは……
「(ヤバそうかな…?)ちょっとスマン!捕まってろ…っ!」
「うわっ!?な、何ぃ!?」
「ここなら安全だろ、気を付けろよ?…じゃ」
「ちょっと待って……え…!?あそこに居たら……!?」
仮想敵と相対していて足を止めていた金髪の女子生徒のすぐ上に瓦礫が落ちようとしていた。
気付いていたかどうか推測する前に腕の内に抱えてしまったが……後ろの方で彼女が戦っていたマシンがさっきの瓦礫に潰れてただの鉄くずになり果ててるのを知ると、意味はあったとも思える。…この場合、あの得点はどっちに行くんだろうか?別に俺は要らんけど。
──────どうでもいい思考は捨てて、まだ倒壊していないビルの屋上に降り立つ。
並行して制限時間も考慮しているが、やろうと思っている事は1つだけなのですぐ済ませよう。
まず、コアに意識を集中させて放出可能エネルギーを増幅させる。毎日瞑想ついでに方出量の限界を引き上げる為の訓練もしているおかげで、昔と比べれば1日に使えるエネルギーを増やすことが出来た。
次に、どうやって手から解き放つかをイメージする。今回の作戦はそもそも普段の『個性練』じゃ成し遂げようにも規模的に危険すぎて、たった1回の実技試験なのにぶっつけ本番のアクションを起こそうとしてる。…まあ失敗してもいいさ、雄英入学して研鑽すればいい。
ってことで、あとはイメージ通り頭部目掛けて放つだけだ。……こういうのって“必殺技”になるんだろうけど、考えてなかったな。
有名ヒーローの多くが持っているモノと言えど、俺はそこまで詳しくないし良いインスピレーションが思いつかない。
この場合は誰かに倣って………うん、俺も何だかんだ最初に思い浮かべるのはあの人なんだな。
「(何だか恥ずかしくなってきたが…気合入れるならもってこいだろっ!)
─────────DETROIT BLASTERーッッ!!!」
『WARNING!WARNI!?………』
自分でも初めて見る緋色に迸る一直線のエネルギーは、巨大な鉄傀の頭部を貫いて膝をつかせる事に成功した。
脳に描いた攻撃力を実現できて、俺の初めての必殺技が出来た。何とめでたい事だろうか………はあ……やべえ……
「ぜぇ…ぜぇ……メッッチャ疲れたー………」
・
・
・
・
・
・
───────1週間経って、合否通知が家に届いた。
ポストに会ったのに気付いたのが菟希だったから凄い見たがってたけど封筒に記載されていた『まずは落ち着くために受験者本人が見ましょう!』という注意書きを見て、えー…って言いながら通知を手放してくれた。
まあ菟希が食い下がるのも分かる。だって見る前にもう落ち着いているしな。
結局1人になった自室で封を切ると…誰かが起動もしなくても勝手に映像が投影された。
『やあ!天蟲飛威炉クン!君の合否は校長の私が教えてあげるよ!』
「(校長……改めてみると中々凄い感覚だな、この見た目だと)」
『初めて見るだろうから私の事をとても丁寧に話したいとこだけど、巻きでって言われてしまったから早速だけど本題に入るよ!』
『筆記の方は合計495点、実技の方は75Pだね!順位で見れば……全生徒で2位で、勿論合格さ!』
「(あ、2位か……やべ、璃亞に何て言うか…)」
『…まあこれは敵ポイントだけをカウントしたものだけどね!君はあの超大型仮想敵を撃破したのさ!それに10分間で何人もの受験生を救っているね!それを考慮しないと試験の意味が無いのさ!』
「(加えてなかったんかい……不安になってなんか損したな…)」
2位と聞いて「あれ?」って思ったが…杞憂に済んで一安心だ。
入試要項には記されていないもう1つのポイント獲得方法、ネットでも疾っくの疾うに話題に挙がっていたが……短い制限時間で仮想敵と対峙しているだけで時間が過ぎるんだからそこまで意識がいく訳ねえだろうが!!鬼畜試験が!!……ってコメントに多くのいいねがついていたので、知らない人も居れば気にしない人も居るのが普通らしい。
俺の場合は………理解した上での行動が多かったからこその、この結果なのかもしれない。
『“救助活動P”……、奇しくも君にはお父さんのおかげで馴染みが深いモノだね。だからこその破格な採点になるのさ!
敵Pが75ポイント、救助活動Pは65ポイント……合計140ポイントだ!…君のような聡明な生徒を迎えるのを楽しみにしているよ、雄英が君のヒーローアカデミアだ!』
「…終わったか。………璃亞と菟希、気付いてるしもう入って良いからな?」
ガチャ
「ちぇっ、感動して泣くとかすればいいのにー…つまんないなぁも~……」
「あら?そんな事言ってるのにニヤついちゃってるわよ?」
「これは違うの!…あ!璃亞さんだって笑いっぱなしだよ~ほら鏡!」
「ちょっこれはっ……!待って、見せないでよ…ねえーもう!」
…部屋に入った途端にじゃれ合い始めたな。映像が流れてる途中に扉の向こうから変な物音が聞こえた時点で何となくそんな気がしてたが………2人の様子を見ていれば、自然と俺の方にも嬉しさが身に染みてきた。
俺が合格したのだから喜ぶのは当たり前なのに、2人の笑顔を見てから実感するのは…何でだろうな。
─────────────まあ、まず言いたいのは……
「璃亞。……雄英での3年間、これからもよろしくな」
「────────うん、よろしく飛威炉」
「………いいなあ、なんか」
───────────────
…生まれて15年、出逢いも試練も様々あったけど……やっと俺の雄英生活が始まる。
次回からやっと雄英行きます。
あと言及していませんでしたが、この作品の時間軸は原作3年前の世代で進めております。緑谷世代が中学3年生の時に主人公の世代が高校3年生を迎えると考えておいてください。
ご了承願います。