一部名前のミスがありましたので直しました。申し訳ございません。
担任であるイレイザーヘッドに言われた通りグラウンドに集合したが………広大な敷地に白線で標されたモノには何処か見覚えがあった。
扇形の白線や陸上トラックのようなモノなど、学生なら誰もが経験しているであろう体育の一環に纏わる形跡だと分かる。
「今からするのは体力テストだ。…お前たちもやった事はあるだろ、“『個性』抜きの”体力テスト。そんなもんはヒーロー科で学ぶ人間には意味の無い非合理的な指標だ」
「雄英でなら『個性』使って構わない……おい天蟲、中学の時のソフトボール投げの記録は?」
「65mです」
「試しにこれ持ってあそこで投げてみろ。円から出なければ何やってもいい」
「…分かりました」
投げられたボールを手に持つと従来のモノよりも質量を感じる。この重さは何処飛んでっても距離を計測できるようにする為のデジタル機器と、如何なる衝撃にも耐えうる強度に起因しているのだろう。
体力テストか………。確かに各々の『個性』の向き不向きやヒーロー基準の身体能力を測るには最初にする授業として誂え向きの内容かもしれない、学校行事を無視して行っている事を除けば。
シミュレーションとして俺が駆り出されたが、遠投に『個性』を利用するのは自分でも初めてだ。皆の眼が俺に集中している以上、ショボい記録を出して恥かくのは御免なので全力で挑もう。
「それじゃ投げます」
「あいつ確か入試でナンバーワンだったんだろ?」
「天蟲くんって何の『個性』なの?」
「ネットじゃエンデヴァーと似てるってかそれよりスゲーって聞いたぜ?」
「(…全然違うわ、……回転しながら左手で放出、遠心力+リリース直前に右手のブーストで………っ)ふんっ!!」
「──────────197m」
「スゴー!?メッチャ飛んだよ?」
「独楽みたいに回ってなかったか!?」
「マジでレーザービームじゃん!昔の動画で見たぞあんな奴!」
…うーん197か、思ったより伸びなかったな。
単純に入学試験で試したDETROIT BLASTERのような高威力のエネルギー弾ぶっぱでも良かったかもしれないが、爆風に近いレベルの推進力には今日の行動すべてを捨てる覚悟が必要だった。
結果的には中学時代の記録の約3倍には達したのでまあ良しとするか。
「…自分の限界を測る、悠長な授業受けるより重視すべき教育だ。ヒーロー目指す人間に自分のやりたい事だけしたがる奴は要らない」
「(……俺に言いたいだけだろ)」
「雄英やっぱスゲー!!」
「体力テストも面白そうじゃん!!」
「ずっと緊張してたけど良かったー……」
今の今まで引き摺っていた緊張感がやっと緩みだした。俺以外がどうやって担任がイレイザーヘッドにである事を知ったのかは分からないが、気難しそうな教師による張り詰めた空気の中でやっと齎された嬉しい内容だ。
普段の学校生活では味わえない羽を伸ばす機会だ、これで盛り上がらない雄英1年生は居ないかもしれない。
…ここで見せた盛り上がりが自分たちの首を絞める事に気付くのはその後すぐだった。
「………そんな腹積もりでヒーローになれると思っているのか?今年の1年生は平和ボケしているようだな」
「「「「……………え」」」」
「ではこうしよう。……トータル成績で不十分な結果だった者は除籍処分にさせてもらう。
──────生徒の如何は先生の判断、お遊び気分はここでリタイアしろ」
……衝撃な発言を受けてクラスメイトの反応は様々だ。
真に受けて先程までのように意気消沈している者。
あまりにも無秩序な物言いに待ったを掛ける者。
元から覚悟していたからか既に準備体操に励んでいる者。
普通に考えればたかが体力テストで生徒の進退を決める事は無理な話だ。どうせ発破を掛けて当人が言ってた通りに自分の限界を試させようとしているだけだ。
…俺の視点からでは噓偽り無いモノにしか聞こえないのが本音だ。
「入学初日がどうとか関係ない。身勝手な敵、事故や自然災害………ヒーローには理不尽がつきものだ。これから3年間、雄英は常に受難を与え続ける……
────────“Plus Ultra”だ、全力で乗り越えてこい」
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──────第1種目:50m走
「うー……どうしよ~……」
「どうした稲生?」
「ウチの『個性』“静電気”でね、こうゆーの苦手なんだ~…」
「…まあ、頑張れ」
「諦めないでよ!?」
「おい、さっさと準備しろ」
「っは、はい!」
「ゴメン、ちょっと横気を付けておいてくれ」
「え?…………早っ!?」
記録 天蟲飛威炉:4秒10
稲生雷咲:7秒20
──────第2種目:立ち幅跳び
「璃亞はどんな感じだ?」
「どんな感じって……自信あるのはこれとソフトボール投げくらいよ」
「俺も長座体前屈とかは記録伸びないと思うぞ」
「大体がそうでしょ……呑気にしてたら反感買うわよ?」
「俺はいつでも本気だ。なら勝負しようぜ、それなら文句ないだろ?」
「無理な勝負はしない主義なの。…ほらやるわよ」
「はいはい……」
記録 天蟲飛威炉:352m
瑞銀璃亞:170m
──────第3種目:ソフトボール投げ
「…ああ、思い出したわ。今投げてる彼、推薦入試の時に見た事あるわね」
「あの腕が翼になってる……仰木宗嚟だっけか。記録は………おお207m、今のトコNo.1だな」
「入試でも断トツだったわ。タイムの方も飛威炉が言ってたぐらいの記録だったわよ?」
「へえ……ってかこれでお互い様じゃないか?璃亞も言ってなかった訳だし」
「お返しよ」
「知ってて黙ってたんかい………次っぽいぞ、頑張って来いよ」
「ふふっ、分かってるわ」
記録 瑞銀璃亞:126m
仰木宗嚟:207m
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───
何だかんだあって全員が体力テストを終えた。
俺の成績の方は順位で言えば2位だ。飛行を含む機動力に長けた『個性』にとってある程度の種目は対応できた訳だが………おかげで色々自分の向き不向きを知る事が出来た。
璃亞は全体5位、女子の中では1位だった。
特訓の成果で生成した流体金属を固形化し、それに乗っての移動を可能とした事が距離を計測する種目に活きた。
その他の種目でも、俺が教える前から彼女に備わっていた応用能力によって苦戦する事無く記録を残せたからこその高順位だ。…握力計測でメタルハンド(俺が今付けた名前)使って100㎏超えた時は驚いたな。
稲生の方は全体11位、苦手と言っていた割には十分な結果だったと言えるだろう。
確かに見ている感じは身体強化に扱えるような『個性』ではなかったが、自分で試行錯誤して立ち幅跳びやソフトボール投げで好成績を残していた。
女子の中でも身体能力で言えば抜けていたし、特に握力測定で全体トップの成績を出していたが………発生させた静電気で測定器をバグらせる手法にはイレイザーヘッドに認められるのかとは思った。
「急に登場ぅ!!俺から紹介してやるぜベイベー!!『個性』“静電気”、手の摩擦などで生み出す静電気を増幅させることが出来る!!入学試験の仮想敵とかの機械相手には無類の強さを発揮するぜ!!」
あと目を見張る成績を残したのは璃亞も名前を挙げていた仰木宗嚟。
アイツは俺を超えて全体1位の成績を叩き出している。鳥に例えるには余りにも大きい翼を使った飛行は俺とタメを張る速さだった。まあ超えられたと言っても合計点数で考慮すればほぼ全く同じではあったが、筋力関連の種目で差が生まれてしまったのが順位を分けた要因になった。
……俺が見ていない所で璃亞に話しかけているのは気になったが。
「『個性』“オウギワシ”、あの世界最大の猛禽類にやれる事だったら大体出来る!!握力140kg、高速飛行を可能にする爆肩と強靭な筋肉、そしてチョー鋭い鉤爪だって生やす事も出来るぞ!!ヒーローやるにはこっちもピッタリの『個性』だな!!」
他にも気になる『個性』を持つ奴は居たが、それが成績にどう影響していたかは人それぞれだ。
体力テスト自体は身体能力を強化されるモノが有利で、対人戦闘向きだったりイレイザーヘッドの“抹消”のようなルールを押し付けるタイプだったりの『個性』であれば苦戦するのは必至だ。
応用する技術がある者は伸ばせる種目でバランスを取っていたが、そうでない人達の中には一般的な高校生と変わらない記録になってしまった者だって居た。
しかし、それで何の問題も無い。
たかが体力テストだ。ここでミスしようが最初の腕試しに過ぎないのだ。
イレイザーヘッドが言ってた事なんて気にする必要は無い。どうせ最大限を引き出す為の嘘だ、皆も最初の不安を忘れてテストに勤しんでいたのに今の空気を壊す出来事など起こる訳が無い。
俺たちはただ担任からの結果発表を聞いて、これからの学校生活に戻っていくだけ……………の筈だった。
「…んじゃ結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数字だ、口頭で説明すんのは時間の無駄なんで一括開示する────────────
……因みに除籍は本当だ、ここで躓くような人間はヒーローに向いていない。って事で20位の幽里芳乃、19位の堀之内陸人、18位の須々木佑、お前ら除籍だ」
「……え」
「マジかよ………」
「おかしいですよ!?そんな簡単に…………っ!」
当たり前みたいに彼から告げられた言葉は、余りにも残酷で申渡しだった。
確かに言ってたのは事実ではあるがこの場でその言い分を素直に受け入れていた者はどれだけ居るだろうか。まず登校初日で体力テストの成績不良で除籍なんて話聞いたことが無い。
対象者となった者からも非難が止まらない。当然だが納得がいく訳が無いだろう。
最初に呼ばれた20位の女子生徒なんて、言われた瞬間にこの世の終わりのような顔になって固まってしまっている。
「…文句があるなら証明してみろよ?その程度の実力と覚悟でここに居させてもらえる理由を」
「いや、しかし…………」
「だって………」
「“いや”とか“だって”とか悠長な口言える立場じゃねえだろ。何も弁解できないのなら早く荷物まとめて家に帰れ」
「「「……………っ!」」」
泣き言も許さないイレイザーヘッドの圧に黙るしかない。
運良く被害を逃れた俺達の方まで鬱屈とした空気が流れ始めている。擁護してあげる為に声を上げるべきなのがクラスメイトなのだが……初日だからその温情も湧いてないだろうし、飛び火を食らわないようにして沈黙を貫くのも気持ちは理解できる。
…だが、俺は双方の意見なんてどうでもいい。
「1つ、良いですか?……証明するチャンスはあるんですね?」
「…お前が口出す話じゃない、天蟲」
「クラスメイトとして、ただ見過ごすのは納得できませんので」
「お前が事を急かすな。…復籍する方法はある」
「「本当ですか!?」」
「今回の成績における評点を3点分引き上げられたら、復籍を認めよう。ただしこれ以外の方法で認める事は無い、他の奴等は教室に戻ってカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」
「3点分って……無理だろそんな!?」
「僕の『個性』じゃこれが限界で…っ!?」
「ど、どうしよ…そんなの……」
除籍を取り消すって話ではなく復籍ではあるから経歴に傷がつくのに変わりないが、ただ生徒を切り捨てるだけの話ではなさそうで良かった………が、甘い話ではなさそうだ。
3点分伸ばすってだけなら聞こえのみを見れば簡単そうにも思えるが、各種目の評価点を考慮すれば急に命令されても難しい話だ。
ソフトボール投げで言えば元々男子の最低評価である30mが記録だったなら、3点分引き上げるとすると60mは越えなければいけない。説明的に各種目合計での計算できるので複数種目で伸ばすか1つの種目に絞るかは各々決められるが厳しい条件なのは変わらないだろう。
教室に戻れとの指令もあって何人かの生徒はグラウンドを後にしようとしている。…別にそれを引き留めるのは押しつけがましいのでしないが、俺は担任から目を離す気は無い。俺の後ろで誰かが静かに近付き、背中の裾を注意するかの如く掴んできた事に気付いたが質問を続けさせてもらう。
「それって……手伝ったりアドバイスしたりとかは認められますか?」
「…教室に戻れ、と言った筈だが」
「それして俺にも処罰食らってもいいんでこの後俺も残っていいですか?俺がアドバイスをすれば問題無く条件をクリアできると思いますよ?」
「さっきの話を忘れたのか?…てめえの正義を押し付けるんじゃねえ、この3人の問題を部外者が介入するな」
「これで迷惑かけるのは勝手に処罰食らって名前に泥を塗る事になる俺の家族だけですよ」
「正気じゃねえな………もういい、お前も除籍だ。それにこの3人の復籍を達成しなければお前の復籍も認めない……それで良いよな?自分で勝手に言った事だ、後悔するんじゃねえぞ」
「はい、問題無いですよ」
「…あとでタダじゃおかないからね」
「ハッ、馬鹿だろアイツ……」
「…評判通りですわね」
「ううぇ~…何やってんの飛威炉くん…」
1人を除いて、呆れた反応が聞こえてくる。
無関係な筈なのに勝手に首突っ込んで、誰もが怖がる除籍を簡単に受け入れて………傍から見れば馬鹿がする行動だ。言われてる俺だって理解できてる問題行動だ。
しかしなぁ……、ヒーロー目指すなら──────────────────
「おいお前等、さっさと戻れ。俺は残ってこいつらが雄英に値するか見極める………時間は無いぞ、1-Bもこの後テストするんだ。自分で考えて、合理的に動け……分かったな」
「「「「…………………はい」」」」
「…じゃ俺達も頑張るか。ここが正念場だぞ?……ま、誰が言ってんだって話か」
─────────無駄なお節介をやめる気は無いんだ、残念ながら。