「「お邪魔しまーーす!!」」
「お邪魔します……」
「お邪魔しますー……おお広っ」
「……失礼します」
「いらっしゃい。越してきたばっかりであだ整理し切れてないけどごめんなさいね」
日曜日の昼下がり、約束通り私の家で“女子会”を開く事となった。
この家に誰かを迎えるなんて両親と天蟲家の皆以外は初めてだし、ましてや同級生と遊ぶなんて飛威炉は別として考えればほぼ初めてと言っていいかもしれない。
今日来てくれたのは同じクラスの芳乃・雷咲・彩さんと、1-Bの浮島さんと蝶野さん。芳乃と雷咲はよく話すしグループ作った仲の1-Bの2人も親しくなったが、彩さんは基礎学とかで数回話した程度だ。
…交友関係がどうとかで変に考えてしまうが、そんなの関係無く何処か緊張してしまっている。今までの自宅だったら呼べないのは当たり前だけど、まだ整理もついてない家に同級生を呼ぶのは落ち着かないな。
「いやいやメッチャ綺麗じゃん!ってか外からでも気付いてたけどやっぱ広くない?」
「一人暮らしにしては凄すぎるっしょこの家。…瑞銀さんに聞いていいか分からないけど、噂は本当なのかも」
「璃亞で良いわよ………噂って?」
「“瑞銀”って名前で気になってたけど、あの有名女優が親なんじゃないかって」
…言われてみれば自分から言わなきゃ確認取れない事かもね、“貴方は瑞銀美麗の娘ですか?”……って。
絮吏儕の頃は資産家や有名人の関係者が多くて入学してすぐには知れ回っていた。…まあそのせいで中学時代は面倒な絡みが多かったのだが。
対して雄英は血筋なんてものは不問、完全に実力主義だと言っていいだろう。場合によっては聞かれないかも、なんて考えてたけど流石に気になってしまうか。
「…確かに、クラスで自己紹介も無かったし言うタイミングも無かったわね。その噂は本当よ」
「えっホントなの!?ウチCMで出てた化粧品良く使ってるんだけど……ちょっ、ちょっと待ってマジ!?」
「(り、璃亞さんってやっぱり凄い人なんだ………私なんてミジンコみたいな存在が家に来ちゃっていいのかなぁ………」
「芳乃、口に出てるわよ?……言っておくけどそんな事で変に話し辛くなるのとかやめてよね?折角こうやって家に来てくれたんだし、ほらココがリビングよ」
リビングへと促すが………やっぱり気恥ずかしさがあるな。自分の部屋を同級生に紹介してるって改めて考えると得も言われぬ気分になってしまう。
雷咲や蝶野さんとかは興味津々って感じでリビングを見てるし他の3人も各々の荷物を空いたスペースに置いて見渡す素振りを見せてる辺り、悪い印象ではなかったようで良かった。
「お~こんな感じなんだ―……あ!これ皆で食べようと買ってきた奴!」
「あら、ありがと。…私も飲み物用意してくるからちょっと待ってて、皆の要望は?緑茶、烏龍茶、紅茶、アイスコーヒー、炭酸飲料とか……それなりにあるけど」
「じゃあウチ炭酸系で美味しそうなので!」
「もうちょっと遠慮しなさいよ雷咲。…烏龍茶でお願い、アタシのはこっちのテーブルに置いとくわよ」
「えっあっ私は水でも何でもいいです……あと私も一応持ってきました…」
「私のはコレ~こっちは紅茶でお願い~」
「アイスコーヒーでお願いします。…あと私もお手伝いさせて下さい」
「助かるわ彩さん。あと芳乃の分は緑茶にしとくわね。……皆もココ自由に使って良いから、教材とか用意しておいて頂戴」
「は~い!…ねえこのお菓子限定商品でさ!みんなはどれ食べたい?」
「一応あんたが勉強会やるって集めたんだからね?ほら準備するわよ」
「私どれにしよっかな~………」
皆からの手土産を受け取りながら彩さんと一緒にダイニングへと向かう。
今日の為に色々と買い物を済ませておいて良かった、芳乃は一旦置いておいてそれぞれの好みに合わせた分は用意できそうだ。
勉強会と言う体で集まったとはいえ、もてなせるかどうかに一抹の不安があったのだが準備自体はあるし手土産として持ってきてくれた有名なお菓子だってある訳だし何とかなるだろう。
…それよりもこの場で彩さんと2人っきりと言う状況の方が難しい気がする。話した事はあるけれど人となりを少し把握した程度で、正直冷蔵庫の前に立ってみたけれど何か話した方が良いのか憂慮してしまう。
「…1つ、聞いてもよろしくて」
「何かしら?」
「どうして一人暮らしされてるのでしょうか?」
「なかなか……踏み込んだ質問ね」
冷えたペットボトルを手渡そうとした時、私たちの関係には似合わない質問が私に向けられた。………けれど当然のモノだろう。
誰がどう考えてもこの家は高校生1人には余りにも広すぎる。たとえ廊下での質問で私の親が誰かは分かったとしても、その家族と離れて生活している理由には成り得ない。
その質問自体今日の何時かには雷咲あたりに聞かれると思ってたけど……彩さんに言われるとは想定していなかった。
「私、先程皆さんが確認するより前に確信していましたの。瑞銀さんを一目見た時からその端正な顔立ち、綺麗なスタイル、少し低めのその声………余りにも似通る部分が多く驚きすぎて話し掛けるのに躊躇してしまいましたわ」
「……ん?」
「美麗さまのファンとして、そのご子息の方から自宅に誘ってもらうなんて夢の如き幸運でしたが……一人暮らしである事を聞いて疑問に感じていたのですの。美麗さまがこの県で生まれた名女優だと言うのは周知の事実ですし最近再婚されて仲睦まじい様子もテレビで取り上げられているのに………もしかしてメディアに出ていない“何か”があるかと勘繰ってしまいまして」
「…何か……ねえ」
「当然、美麗さまが家族と不仲である事など疑っていた訳ではありません。その美貌と人格共に人々に支持されてきたのですし………ですが本人の口から娘である璃亞さんの話をされた事も少ない為、嫌な考えが浮かんでしまったのですの。…この質問自体が不躾なモノであるのは分かっていますわ、聞かなかった事にしてもらって構いませんので」
…まず、彩さんが私のお母さんのファンだった事はいいか。私のお母さんの女優としての接頭語は“国民的”だ、今更底に疑問を持つ方がお門違いだろう。先に解決してあげないといけないのはその後の質問だ。
…さて、どうするか。ここで私が『家族と上手くいかなくて一人暮らししてる』なんて言ったらどう思うんだろうか。真実は案外思っていた通りで家族間の問題が原因なのだけど、少なくとも……聞いて良い気分にはならないだろうな。
折角開いた勉強会兼女子会だと言うのにネガティブな話を伝えるのも忍びないし、理由の一端だけ伝えさせてもらおう。
「…誤魔化してる訳じゃないけど、思ってる程の話は無いわよ。ちゃんと円満に話付けて一人暮らしする事にしたんだし」
「それは………良かったですわ。嫌な事を聞いて申し訳ありません…」
「別にいいわよ、『何で一人暮らしなの?』っていつか言われるって考えてたし。…まあ、皆にこの事を言うのは色々面倒臭そうだからあまり話題にしてほしくないけどね」
「分かりましたわ」
「それにしても彩さんがお母さんのファンだとは思わなかったわね。見た目や雰囲気でそういうのに興味が無いタイプだと思ってたけど………」
「よく言われますわ。確かに美麗さま以外のそう言った作品には疎い自覚はありますが………璃亞さん、美麗さま主演の映画『英雄は何処へだって』はご存知でしょうか?」
「…勿論、知ってるわ」
“英雄は何処へだって”。
瑞銀美麗が主演で、ヒーローを隣で支える“助演女優”を描いた作品。超常社会を生きる守る側と守られる側の苦悩を様々な視点で表現し、高次元のアクションに加えた現代を投影した人間模様が高く評価されているのだけど………作品一番の特長は有名ヒーローが多数出演している事だ。約10年前の作品だけど当時を代表するヒーローと言えば?と聞かれれば例に挙がる人物も居るし、お母さんとの共演と言える程に時間ではかったが一瞬だけオールマイトがカメオ出演している。
私が物心ついた頃にこの映画が公開されてお母さんの評判を一段上に押し上げる要因となっていて、彩さんが瑞銀美麗に興味を持った作品となっても可笑しくない。
…しかし、あの作品見ればヒーロー目指すよりも女優に憧れを抱きそうだけど……そこを考えるのは野暮な話だろう。
「昔、夢も無くただ無気力に生活していた時に………あの作品は今の私がこうやってヒーローを志すキッカケをくれたのです。…大袈裟かもしれませんが職種は違えど美麗さまは私にとっての“ヒーロー”だったと思ってますの」
「そう……だったのね。…と言う事は私達って似た者同士かもね」
「え?似た者って……もしかして、璃亞さんも…?」
「ん、まあね。…用意できたし持っていきましょ?」
…似た者同士だって言ったのは色んな意味を含んでいるのだけれど、それを言葉にするにはまだ早いので口を噤んだままにしておこう。
飲み物の準備を終えて居間に戻ると4人はテーブルに着き今週の分として出された宿題を解き始めている。高校生になって初めての週末の筈なのに出せれた課題の数を考えてしまうと憂鬱になってしまう程度ではある為、先程の雰囲気のまま楽しく雑談するだけでは済まない。
あんなに菓子談議に勤しんでいた雷咲だって、ちゃんと席に座ってプリントに向き合っているのだから雄英の学業に於いての危機感は私達と同じのようだ。
「飲み物持ってきたわよー…あら、雷咲もちゃんと準備してるようね」
「言い出しっぺだしね~。昨日コレあると思って宿題なんにも手を付けられてないんだよねー!頑張んないと!」
「胸張って言う事じゃないわよ?ハイどうぞ」
「ありがと!えーじゃあ皆は?やっぱりちょっとは手を付けてるの?」
「まー流石にね、昨日忙しくてそこまでやれてないけど」
「昨日あんたと散々遊んだアタシでも少しはやったんだからね?」
「6割ぐらいはやったかな~」
「私、そっそこまで勉強得意じゃないので……先々にやっとかないと…」
「ヤバ!?皆チョー真面目じゃん!」
昨日飛威炉とのショッピングもあったし、その後のARCでの一件もあって中々忙しかったけどある程度はやっておいてある。量もそうだが内容も中学から高校へのランクアップを考慮しても厳しい質ではあるし、一夜漬けとかでは無理なモノなのは確かだ。
…忙しいと言えば飛威炉だけど、昨日もそうだし今日は家族揃っての遅めの入学祝いをしに外出してる訳で宿題やる暇あるのかとは思うけど、飛威炉の事だし心配するほどでもないだろうな。
「てか今日来たメンバー皆頭いい方じゃない?1-Aと1-Bの推薦入学生も来てる訳だし」
「確かに!璃亞ちゃんと婭夏葉っちって絶対勉強できるよね?」
「んーまぁ人並みには出来るんじゃないかしら?」
「私も苦手ではないかなーって感じだね~」
「私調べだと推薦入試は通常の試験より一段階レベルの挙がるモノだと聞いていますわ」
「喬華っちそれホント!?ウチなんてほぼ運で合格したような内容だったのに……喬華っちと芳乃ちゃんも出来そうだし、じゃあ次の定期試験ヤバそうなの藍とウチぐらいじゃない?」
「…んな事言うならテスト前の通話とか無視するわよ」
「嘘ウソ冗談だって!テスト近くなったらまたこうやって集まるんだって決めたんだからね!」
仲良さそうに2人が話してるけど、雷咲の言うように今日は勉強得意のメンバーが揃ってるようだ。自分で言うのも変だが私もそれなりに出来る方だし、同じ推薦で入学した蝶野さんも同等、いや宿題の進行度だけで言えばそれ以上だろう。
他の皆だって授業とかで躓くタイプではないとは思ってたけど……芳乃もちゃんと頑張っているようで何だか安心したかも。席近いお蔭でよく話すが今までの自分とは関わる事が無かった存在で、人付き合いが苦手でネガティブな所はあるけれどとても優しい心の持ち主だ。
多分今までの女子友達で一番かかわりの深い相手かもしれない。…菟希ちゃんは別だけど。
「また調子良い事言っちゃって、中間とかは体育祭の後すぐだし中々忙しいんじゃないの?」
「そーだけどさ~……ってか体育祭あるじゃん!!」
「声大きいわよ?…でも言う通りね。あと3週間切ったところかしら?」
「目新しい事ばっかりで実感湧いてこないけど、あと少しでテレビで観てた舞台に立つと思うと感慨深いものがあるよね」
「それに体育祭に出ればここに居る皆が敵になるってことだよね~」
「今年は何やるのかしら?マラソンとかチーム戦とか色々バリエーション豊かで予想できないのよねー、体力使う系だったら嫌だわー」
「わっ私も、です……それにヒーロー科だけじゃなく他の科の人達も出場しますし…もし予選で落ちちゃったら……」
「ああ聞いたことあるわね、体育祭で振るわなかったヒーロー科の生徒が普通科に……みたいな話。正直こっちのクラスの担任がイレイザーヘッドだし嫌でも想像してしまうわね」
「あ~そっか。こっちはブラドキングで結構優しいけど1-Aは厳しそうだよね~」
「注目度が高いのは3年生だろうけど1年の時に頑張っとかないとスカウトとかでキツイって聞くし……正直期待よりも不安の方が強いよね」
…話題が体育祭に移ったけれど何だか湿っぽい話になってしまった。
観客としての視点であれば年一の特大イベントだけど、出場者且つヒーロー科の1人として迎えると考えると憂鬱な部分が大きいのだ。初日の一件もあって特に1-A組は“予選敗退して除籍、普通科への異動……”と言う最悪の想定が脳裏から消せていない。
私に関しては昨日の栗衛さんからの話もある訳で、一層気合を入れなきゃいけないってトコロだ。話的には結果でサポートアイテム提供が無くなる事ではないけど………そんな考えで私は許したくない、やるならちゃんと自分の実力を示さないと。
…とは言っても始まったらここに居る5人とも戦うことになるし、勿論あの飛威炉との対決も覚悟しないといけない。考えれば考える程、頭に浮かぶ強敵たちを想定してしまっている。
「───────……もう暗くなりそうな話は終わり!折角高校生になったんだしもっと女子高生らしい話しようよー!」
「…良いけど、“女子高生らしい”話って何かしら?」
「………うーん……恋バナとか?」
「恋バナって……学校始まって1週間しか経ってないのに出来るかしらね?」
「そりゃそうだけどさ~」
急に女子高生が集まったらする事、みたいな話題を出してきたけど……その話するには経た時間が短すぎるわね。周りを見渡しても『別に自分に話せることは無いけど……』的な興味なさげな表情に見えるけど。
そもそも、恋愛系の話を誰かとするなんて記憶に無い。菟希ちゃんから「また告白されちゃった~……」と相談されるぐらいだし、私としても浮いた話なんて全く無い。
……だって私なんて──────────…………
「…その話なら1つ、聞いておきたいことはあるんだよねー?」
「何々?もしかして……」
「瑞銀さんって天蟲くんとどういう関係なの?」
「思った通り!さあ璃亞ちゃん、白状しちゃいなよ?!」
何度聞かれたかも分からない、飛威炉との事。他クラスと言えどこうして一緒に話すようになったら気になってしまうものだろうか。
他の皆も待ってましたと言わんばかりの面持ちで私を見てるし、雷咲なんて何故か確信を得てる感じなのは受け手からでも分かる。飛威炉と席近いんだし気なった時点で聞いてる気がするんだけど……。
…そんな視線を向けられても返す言葉は1つ、なんだけどね。
「白状も何も、飛威炉とは付き合ってないって」
「え~嘘だってー…あんなに仲良さそうなのに~」
「そこに関しては雷咲と同意見。ネットで1回話題に挙がったじゃない?天蟲くんに彼女が出来たって」
「いやまぁ……当事者だし知ってるけどね、嫌な思い出だけど」
「あっ………なんかゴメン」
空気を悪くするような事を発してしまったが、私の雰囲気と口振りを見て浮島さんも当時何があったかを察してくれたようだ。
飛威炉には出来るだけバレないようにしていたが当時は大分面倒なことが多かった。中2の時に急に飛威炉と仲良くなったのが影響して、現実とネット両方で謂れの無いバッシングや陰口が増えた。ネットの方は何故か存在している飛威炉のファンクラブ用掲示板に勝手に目を付けてしまったのも悪いけど、少なくとも女子中学生にするレベルの誹謗中傷ではなかったかしら。
現実の方は特に他校の女子生徒からは酷くて、偶に1人で下校していた時には集団で待ち伏せされて罵詈雑言を浴びせられた事だってある。…そういう時は親の肩書使ってさっさと退散してもらったけど。
嫌な思い出とは言ったけど………今では多少改善している。私も少しは有名になったからだとは思うが、それ以上に双方の親の知名度が付き合ってる付き合ってない関係なく私たちの親交に信憑性を増してくれたんだろう。
…何だかんだ生活の面では問題無いんだし、言わなくても良かったかも。言ってすぐに罪悪感が沸々と湧き始めてきた。
「とっとにかく!そう思っても可笑しくないぐらいお似合いの2人だったって事だよね、喬華っち?」
「うん、そだね~。でも少し……安心したかも」
「安心?」
「天蟲くんに彼女が居る!……って最初会った時ビックリしたけど違うなら心配する必要も無いみたいだね~」
「え!?って事は婭夏葉っちって……!」
………ん?ちょっと待って?『安心』なんて、その言い方って……
「…番組の集まりで最初に会った時にね、何か落ち着いてるしカッコイイなぁ~って思ってたんだよねー」
「えー!?そうなんだー!!」
「!?」
「………!」
素直に……驚いた。蝶野さんが飛威炉の事を……。
一度だけしか会った事が無いとは言ってたけど幼馴染みたいなモノだ。別に納得がいかない事もないし、それどころか妙に合点がいくトコロもある。ああ、だから最初に会った時も妙に馴れた感じで話し掛けていたのか。
あーそっかそっか、蝶野さんがあの飛威炉と、ね~……。
「その時以来会ってなかったし覚えててくれてるかな~って思ってたらちゃんと覚えてたし、雰囲気も変わらずって感じで再確認してね~…やっぱ天蟲くんは聞いてた通りの人なんだなって」
「あー言いたい事分かる。アタシたちの中学校でもファンクラブできるぐらいの人気なのは知ってたけどさ、いざ対面するとそりゃモテるなと思ったわ。見た目も性格も全部含めて」
「だね。特に初日の体力テストでさ!皆相澤先生にビビっちゃってた時のアレ、凄くなかった?!そりゃーウチもヒーローなる為に雄英来たけどさ、飛威炉くんってマジでヒーローじゃない?!ね?芳乃ちゃん?」
「え!?……あ、はいぃ……あの時は本当に助かりました…」
「……………」
こうやって聞いてると飛威炉ってやっぱり……人気だよね。
高校で始めて会った者からは噂に違わぬ人物像で再び注目を浴びて、芳乃視点ではピンチの状況を助けてくれた正に創作の中のヒーローみたいに映るぐらいの活躍だった。
まぁここで再確認しなくとも中学のときから知ってた事だし、今更どうもこうもないんだけどね。全く何であんなにモテるんだろうか、そのせいで迷惑被ったことだって…………
「授業でも凄い作戦立てちゃうし、マジで完璧って言葉が似合う人じゃん!そりゃ好きになるのも分かるかもー!」
「でもね~一緒のクラスになれなかったのは残念だよー。そう言う面白イベントをその場で見れないし………璃亞ちゃんって中学時代の天蟲くんの事一番知ってるでしょ?ちょっと聞いてみたいんだけどな~」
「それウチも!渋谷での事件とか何があったのか聞いてみたかったし、ねえ璃亞ちゃ……………」
「……ん?どうしたの?」
「…ねえ璃亞ちゃん、あのね……?」
「瑞銀さん、今スッゴイ怖い顔してたよ?」
「………え?」
…言われて気付いたけど、何処となく心配そうに見つめている皆の表情から段々と解ってきた。
鏡があればすぐに知る事が出来るかもしれない、私がどんな顔をしているのかを。
…でも、蝶野さんに言われて納得がいってるぐらいには人に見せるような顔は出来ていないんだろうなって思える。
「そうそう、クールで綺麗なその顔がちょっと変わっちゃうくらいにはね~。どうしたの?」
「いっいや、特に理由は………」
「…ふーん、じゃあ質問して良いかなー?」
「……何よ」
「私が体育祭で天蟲くんに告白する………って言ったらどう思う?」
「……っ!」
「ちょっ!?婭夏葉っち!?」
突然の提案に相槌の1つも出せなかった。飛威炉に告白だなんて………何でそんな事を急に私に聞くのよ。私に聞いたって『やってみれば?』ぐらいの事しか言えないし───────……言える権利も無いんだし。
飛威炉への告白を相談される事なんて今まで何回もあったんだ。その時はいつも同じように促すだけで……結局その回答が報われなかった事を後になって知る。
…自分はいつもそうやって、ただ動けないでいるんだ。
「…何で私に聞くのよ。別に勝手にすれば……」
「天蟲くんと一番仲のいい瑞銀さんに何も言わないでおくのは駄目じゃない?それに……そんな嫌な顔してるのに?」
「っ………嫌なんてそんな…っ」
「ゴメン、質問を変えようか。…天蟲くんの事、瑞銀さんはどう思ってるの?」
……嫌だって言われるのも図星だ。口答えしようとも目の前で私の心を見透かすような蝶野さんの瞳に、今の私がどう映っているのかも何となく理解している。
飛威炉を“どう”思ってるか───────………、その答えはこれまでずっと隠してきたんだ。
一言で言い表せない、この秘めた想い。もし口にしてしまったら……どうやったって否定できなくなる気がして。
「私、は………」
「…ねえ璃亞ちゃん。ウチ達ってまだ会ってそんな経ってないけどさ」
「……うん」
「言いたくなかったら勿論大丈夫だけどね?友達としてさ、もっと璃亞ちゃんの事知りたいって思ってるのは本当だよ?」
「私の事なんて気にしないでさ、我慢せずに言っちゃってみなよ。ね?」
「わっ私も……知りたい…です」
…言いたくなかった筈なんだけど、3人の言葉を聞いて揺らぎ始めている。
友達って思ってくれてるのは嬉しいし、我慢しないでって言われれば否定できないし、知りたいって言ってくれるなら叶えてあげたいって思わせてくれた。
───────……そうだ。結局のところ、私の人生には誰にも本心を打ち明けずにいたから苦しんできた経験があるんだ。
自信を持てないでいたあの時の私よりも………打ち明けられた私が間違ってなかったって今ならそう思える。
だから……集まってくれた皆に聞いてもらおうかな。
…これまで、私が飛威炉をどう思ってきたかを。
「飛威炉は………────────────