『さて今日の“ALL-MATE”のゲストは!?、あの「ドクターヒーロー」でもお馴染みの天才ドクター!“ARC”の代表取締役、“天蟲久悟”さんデスッ!!』
『天蟲クン!本日はヨロシク頼むっ!!』
『─────宜しく、オールマイト。』
「天蟲久悟」
俺、天蟲飛威炉の父親であり、「ヒーロー医療」の権威の一人である。
『個性:蚕』を持ち、若くして“救助専門の”ヒーローとして頭角を現した。
ヒーロー黎明期から救助専門自体は存在していたが、現場でのヒーローとしての立ち回りと緊急時でも完璧な対応が出来るオペ技術が高く評価され、「ゴッドハンド」「ドクターヒーロー」など様々な呼び名が生まれるほどであった。
父さん曰く「自分はヒーローではない、ヒーロー免許と医師免許を所持した“医者”である。」とのことで、いち早く重傷者の処置を行えるような活動のためにヒーロー免許を取ったと語っている。
…しかし傍から見ればヒーローと遜色ない活躍ぶりだったし『ヒーロービルボードチャートJP』にランクインしたことだってあるのだから、世間の評価は間違っていないと言えるだろう。
その後の父さんは25歳の時に立ち上げた“Amamushi-Rescue-Clinic”─────通称“ARC”がその後の超常社会に多大な影響を与えた。
敵襲撃やテロ発生時における救助活動を中心とし、日本各地のヒーロー事務所と提携し現場から最短で医療従事を行えるように救助専門ヒーローや医者を派遣する企業展開を始めた。
これによりヒーロー活動における“救助”の進化は急速なモノとなり日本の医療最大であるセントラル病院とも業務提携されるほどになった結果、テロ活動における日本の死傷率を年々減少させる、と言う「ヒーロー医療」の観点で日本の歴史に名を残すレベルでの功績を残した。
実際この功績のおかげ…?で小4の授業の時に教科書に名前が出てきて変に盛り上がってしまった経験もあるぐらいだ。
そして今日、テレビでオールマイトとの対談が生放送が放送されている。
元々テレビで特集が組まれたことは何度もあったが生放送での対談となると初めてで、それもあの“ALL-MATE”だというのも注目度に拍車をかけている。
“ALL-MATE”とはゲストを招いてオールマイトとの1時間の対談を行う生放送番組で、オールマイト自身の多忙さによって不定期で放送が決まる番組にも関わらず毎回視聴率30%を超える程の絶大な人気を誇っている。ヒーローや有名俳優がゲストで呼ばれることが殆どである中で今回選ばれたというのは、父さんがそれだけ世間的にも注目度のある存在と言えるだろう。
家族にとっても歴史的とも言えるこの対談を一緒に観よう、とのことで今日の夜に家族で約束していたが、まあ…………色々あった訳で。
別に怪我なんて無いし二次被害も起きなかったので時間には間に合ったけれど……誤魔化しておいてもバレそうだったし二人に正直に答えたが、
「どう?反省してる?」
「流石に足が…………そろそろやめても……」
「駄目よ。正座で済ましてあげるんだから文句言わないの、番組が終わるまで我慢しなさい。」
「………はい。」
「アイス美味し~♪ありがとね~」
…ちゃんと母さんに叱られて正座の刑に処されてる。帰ってきて夕飯中に懺悔してからずっとこれなのでもうそろそろ痺れが足全体を伝い始めている。
妹……菟希の方はニヤニヤしながら俺が買ってきたアイスを満足そうに食べている。こんな感じで楽しそうに鑑賞しているが俺の話を聞いて母さんと同じくらいに怒っていたのだと思うと、切り替えが早いようにも思える。
『オールマイトとは会社設立前の活動時期から親交があり、今でも多くの人命救助の手助けをしてもらっています。』
『いやそれを言うのならこちらこそさっ!!君のおかげで救われた人々は星の数ほどいると思うぞ!!』
『若くしてオールマイトとは親交が深いそうデスネ!』
『プライベートの方はそこまで知りませんがね、毎年…いやそれ以上のスパンで各地の病院訪問を行ってくれたりと昔から頭が上がりませんよ。』
『いやそれを言うのなら今度こそこちらこそさっ!!傷つかれた彼らの笑顔が守られているのは君の力があってこそさ!!!』
『だったらあなたの───『キリがありませんヨお二方!?』
「お父さんって……オールマイトと仲良さそうだよね、私は逢ったことないんだよなー………お母さんは?」
「私も……ゴホッ……お父さんと仕事で付き添った時に会っただけでそこまでなのよ。………飛威炉は今日逢えたようね。」
「短かったからほぼ見かけたようなモノだったけどな……ホントにテレビ通りだったよ。」
確かに他の人から見たら画面内の二人は見知り合った仲であるようにも見えるだろう。
あの素性不明とも言えるオールマイトが飽くまでも番組上とはいえここまで旧友みたいな掛け合いを見せることは殆ど無い。基本的にこの番組はオールマイトファンが質問攻めをするか、ヒーロー同士の討論になるかのどちらかである。
「いいなぁ私もリアルで見たい…でもさっきお兄ちゃん話したって言ってたじゃん!」
「いや対談あるから早く行った方が良いって言ったのと………父さんにはあの事言わないでくれって頼んだだけだ。」
「…バレないと思ったの?ほら見てこのニュース、もうネットじゃ話題になってるよ。」
「“銃持つ相手に中学生が他の人質巻き込んで独断で突っ込んだ”って細かいことは載ってないだろ、多分強盗犯への正当防衛で書いてある筈だからそこまで考えつくとは思いたくない、オールマイトが来たなら尚更話題にならない筈だ。………知ったら何言われるかは予測がつく。」
「本当に反省してるの飛威炉?「してます、ごめんなさい」こほっ……どうかしらね。」
………やはり今日の話題を蒸し返すと怒る話題が増えるだけだし口を閉じた方が賢明だ、ここは静かにテレビを眺めていよう。
流石に1時間の生放送番組で俺の話題を出す余裕なんて─────
『私の病院や会社じゃあなたの話題ばかりさ、流石“No.1”だよ。現に私の息子も憧れてるんだ、是非一度会ってもらいたいぐらいだ。』
「(ん?)」
『ん!?ああ!息子君か!君の息子ならとっても賢い子なんだろうな!!うん!!』
「(嘘つくの下手だな)」
『あ!そういえば息子さんの飛威炉くん!今日事件解決したそうデスネ!』
「(MCが言うのかよ)」
『ああそうらしいね。だから今日は帰って聞いてみようと思うんだ、その“賢い”頭でどう解決したんだとね。』
「………………」
「………やっぱバレてたね」
「お父さんのことナめ過ぎよ、すぐに思いつくのよ飛威炉の考えなら。」
楽しみにはしていた番組がテレビ越しでの公開説教になりそうで少し悪寒がしてきた。
普段から家に居る時間は短く面と向かって話す時間もあまりなかったが久し振りの会話は嫌なモノになりそうだな、と感づいたけど…………一旦考えないでおこう。
「菟希は放送が終わったら早めに寝るのよ「は~い」飛威炉は…ゴホッ……お父さんが帰ってくるまで待ってなさい、今日もトレーニングするんでしょ?」
「ああ……母さんも早めに寝てよ、家政婦さんも早めに帰ってもらったんだから」
「そうね、でも今日は調子良いからお父さんを待とうと思うわ。」
「じゃあ私も待ってもいい?どんな感じか聞いてみたいし「ダメ。明日も学校あるんでしょ?」…え~……」
母さんに念を押されて不満そうだったが、納得したのか返事をしたまま視線をテレビに戻した。
何だかんだ菟希でもオールマイトに興味あるんだな。実際俺たちが家の外に出ればチヤホヤされることもあるが、オールマイトなんて有名人の枠組みから外れた存在なんだから興味を持つのは至極当然の事なんだろうか。
菟希に倣って番組内容に思考を移すと、話題が切り替わっていることに気付く。
『天蟲先生はこれからどのようなことに挑戦していくのデスカ?』
『次は“ヒーロー医療”を学べる場所作りですね、雄英高校やヒーロー専門学校などでもヒーロー医療について学べるように新しい選択授業やインターンシップを創る予定となってるんです。』
『それは凄いな!ヒーローを治安維持や襲撃時の戦闘対応とは違った方向で志せるようになるじゃないか!!』
『そうだ。これは私個人の話だが……今の取り組みに至るまでに様々な紆余曲折があった。確かに“ARC”を立ち上げる前はヒーローに似た活動をしていたがあの時の立場だけでは救えない人々がいて、現代でも実力が発揮しきれていないヒーローや志はあれどその夢を叶えられない若い世代が存在する。
────それを改善するためにも早いうちに携われる環境を作ることが私の使命であるように感じたんだ。』
『素晴らしいっ!!さすがは“ドクターヒーロー”だ!!君こそ最高のヒーローかもしれないな!!!』
『…いやそれを言うならオールマ『折角良い話だったのにまたその流れやらないでクダサイ!?』
真面目が過ぎるせいで生まれた変な掛け合いにオーディエンスが湧くが………改めて父さんの凄さを実感する。
昔から仕事で忙しいせいで普通の家庭よりふれ合うことが少なかった。もっと幼い頃なんて日々の鬱憤が溜まったことで嫌いになりかけたことだってあった。
だけど小学校でも教わるぐらいに凄い人だと分かり、年を経てヒーローに憧れれば憧れる程身に染みて分かる偉大さが…………目指すべき目標であると教えてくれた。
………だが父さんに対しては1つ、ずっと気になっていることがある。
それも奇しくも今画面の横に居るオールマイトとも関わることだ。
1年前のある時期、父さんと全く連絡を取り合わないことがあった。
元々忙しいのは知っていたが、その当時は特に多忙で家に帰ることも殆ど無かった。
そんな時に学校の宿題で父親について調べる課題があり無理だと分かっていたが電話とメールを送ってみた。すぐには反応できなくても後日詳しく教えてほしいとの旨を伝えたが、「今は忙しい、すまん」としか返ってこなかった。
別にそれだけでは気になることではなかったが、問題はその後だ。
ある日の夜、深夜に目覚めてしまい自室を出るとリビングに光が点いていた。何故かと思い向かってみると部屋の奥から母さんが誰かと電話しているような声が聞こえた。
そもそもこの状況自体が異常なことで普段は体に悪いと夜遅くまで起きていることは無く、深夜の電話なんて非現実的なことが気になって盗み聞きをしてしまった。
後からそれは父さんからの電話だったことに思い至ったが──────その時に聞こえた「オールマイト」の名前が俺の寝ぼけた脳内をさらに混乱させた。
結局のところ一度もあの日のことを聞けていないが、この1年間で謎が深まった部分もある。
あの日以来オールマイトに何もなければ気のせいで済んだが、テレビで“オールマイト、一週間海外でヒーロー活動へ”と報道された。
前情報もなくオールマイトが日本を離れるニュースに日本中が騒然となったが………数日経った日には“オールマイト日本に居た!テロ組織逮捕”の見出しによって不安は一掃された。
最初の報道はオールマイトが国内に居ないと油断させるためのフェイクであった説明され、世間はいつも通り「流石オールマイト!」の声で溢れたが─────俺の視点ではそこは重要ではなかった。
推測だが………二人には“何か”あるかもしれない。
状況証拠も何も無いのに決め付けるには考え過ぎだが、もしそうだったら─────“No.1”の裏には秘密が隠されているのだろうか。
オールマイトの強さには何の疑いもない、が逆にその強さにこそ隠さなければいけない何か、よりによって医者である父さんに関わりがあるのならもしかしたら─────「ちょっと!…お兄ちゃん何考えてんの?」
「ん?ああ……雄英行けばオールマイトにまた会えるかもなってな」
「何その自信、雄英行くのはまるで確定してるみたいな感じー。」
「まあ自信はあるよ…いや自信しかないかも。」
「うわナルシストだよそれ………応援はしてるけど」
─────まあ思い違いの方が可能性高いんだから深く考える意味なんて無いかもしれない。
難しい話は一旦置いておいて、単純にこの番組を楽しもう。
「足触ったらどうなるんだろう…突っついてもいい?」
「やめてくれ」
…………トレーニング出来るのだろうか、この足で。
~ ~ ~ ~
番組を終えて、先程の煌びやかなセットとあまり変わらないネオンに輝く街並みを自家用車で駆け抜けていく。
普段は専属ドライバーに運転してもらっているが……今日は事情が違う。
局から自宅までそこまでの距離は無い為通常であればもうそろそろ帰宅できるぐらいに走らせたが、車が向かう先はヒーロー事務所が多く立ち並ぶ区域となっている。
乗る前に連絡があった事務所の駐車場に入っていくと、さっきまで対談していた彼が薄暗い空間の中で佇んでいた。
いつもの彼とは似つかないような場所に呼び出したのだが…………似つかないのは彼の姿の方だと言えるだろう。
「すまない、こんな時間に呼び出してしまって。お互いの事情を考えれば選べる場所が無くてね……調子はどうだ?オールマイト」
「すこぶる最高さゴファッ!!………こんな感じさ、前よりは良くなったけどね」
一度お馴染みのオールマイトに戻ったと思ったら、吐血と共にまるで骸骨のような姿に逆戻りとなった。
世間が知れば大混乱を招くだろう事態に驚かないでいられるのは、数少ない彼の秘密の共有者であるからだ。
「手術をしてから約1年……容体こそ落ち着いているものの『ワン・フォー・オール』が体を蝕むと言う事実は変わらないだろうな。」
「今では時間制限付きになってしまったよ………まるで昔のカラータイマーに怯える宇宙ヒーローさ」
「…だったら私が言いたいことは分かるだろ?私もサーと同じ考えなんだ」
「………………ああ」
考えていることを理解している前提で訊ねてみると、暗闇の中でも気付く程に顔が曇っていくのが分かる。
サーが病室で叫んだあの願い──────例えオールマイトが聞き入れなかったとしてもあの場に居た全員が伝えたかった想いなのは今でも変わらない。
「象徴であり続けなければ、と思う気持ちは痛いほど分かる、だがあなたも一人の人間だ。一人の命を犠牲にしてまで支える平穏は……本当にヒーローとしての理想なのか?」
「私の理想は…変わらない。世の中が私を求め続ける限り在るべきなんだ。」
「…あなたが頑固なのは知っている。でも次の“No.1”はまた現れる筈………いや絶対に存在する」
「存在したとしても私が居ない間にどれだけの人々が脅えなければいけないんだ。─────慎重な君が“絶対に存在する”と言い切る理由には気付いているさ」
そう言って彼は朧げに何処かを見据えていた視線が私に向ける。
巡り合わせか運命か………人と深く関わらない彼が偶然にも今日知り合ったからこそ私の思惑に気付いたのだろう。
「今日会ったんだろう飛威炉に。誰に似たのか無茶ばかり考える息子だが………親馬鹿でも何でもなく確信している、あの子はヒーローになる、と。」
「言いたい事は分かるんだ。若さが目立つが個性も使わずに被害無く事件解決、なんて事を成し遂げられる中学生は間違いなく将来有望だ。……………だが、それと『個性』の継承は話が別だ。」
「………自分の息子に“象徴”としての責務を押し付けるような事を考えるなんて親失格さ。だとしても…これは絶対に考えなければならない問題なんだ。
だから─────これは我儘な提案だ。」
自分でも何度も苦悩した。
この提案はオールマイトの人生を守りたいと思う気持ちと親心が入り混じったモノだ。聞き流されようが─────彼の心に少しでも引っ掛かればそれで良い。
「飛威炉が高校を卒業する4年後のその日に、私が知る全てを打ち明けようと思っている。そしてもし『ワン・フォー・オール』を受け入れてくれるなら………何て仮定は必要無いな、飛威炉なら二つ返事で受け入れるだろう。」
「……………」
「本当だったら高校入学後すぐにでも継承した方が良いとは思う。
……だが本来送る筈の高校生活を奪うことは、したくないんだ。それに妻………朱寧から受け継いだ『個性』がある。それも間違えてしまえば命を落としかねないモノだ、……現に『個性』と体が適応しなかった彼女は敵に襲われた時に無理に使用して体を壊してしまった」
「…だったら必要の無い心配だ、家族を大切にするべきだよ」
「分かってるさ。……………でも言わせてもらう、もし現在のように自分の体を犠牲にして有耶無耶にしても永遠に“象徴”では在り続けられないんだ。」
「………………ああ」
「もしこれからの4年間で相応しい相手が見つかればそれで良い。だが飛威炉は高校を卒業する頃には世間に名乗りを上げているだろう……『オールマイトをも超えるヒーローになる』とね。」
「…………信頼しているんだな、彼を」
「ああ、自慢の息子だ。─────今答えを出せなんて言わない。これからの4年、この話を忘れないでほしい。」
そう告げた後、別れの言葉を残して車に乗る。
駐車場を抜けると、静寂の中で話していたのが噓のように感じさせる騒がしい街の中を走っていくが、血の気が引く体を落ち着かせることには役立たなかった。