入学して約1ヶ月、浮足立つ俺たち新入生も雄英での生活に慣れ始めたであろうこの頃………気付けばもうこんな時期だ。
春風も止み始めて心身共に落ち着きを求めるって筈なのに、この学校に居ると普通には生きられないようだ。その証拠に放課後だってのに教室の外を見渡せば………
「…騒がしいな、外」
「1年だけじゃなく先輩方も来てそうね。誰が目的なのかしらね?」
「俺目当て………とでも言わせたいのかよ。…まぁこの時期にもなればギャラリーが増えるのに納得は出来るか」
「それもそうね、これじゃ帰るのも一苦労かしら」
「もう1週間を切るって事だな。土曜には来る大行事の───────……
『雄英体育祭』。ヒーロー科に籍を置く者として絶対に忘れ得ぬ行事であり、“ヒーロー”としての今後を占う日になると言っても過言でもないだろう。
…俺としてはKURI8との約束もあるし色々な理由で負けられない因果を背負っているが、ソレ抜きでも特別なイベントに変わりない。
そんなビッグイベントが今週末に控えてるのもあって廊下の盛り上がりにも納得がいく。
他の科の生徒の感情良し悪しは置いておいて、体育祭の中心に成り易いのは俺たちヒーロー科に違いない。時期が近くなれば同世代の注目の的を見物したくなるってのが一般的な思考だしな。
「とは言え残る理由も無いし、居座って解決する問題でもないんだからさっさと行こうぜ?」
「それはそうだけど……仕方ないわね」
「じゃあ行くか。…すまん、そこ通っていいか?」
「ねえキミ?君が噂の天蟲くん?」
「体育祭応援してるよー!!」
「写真撮ってくれない?!」
「…ほら、言った通りじゃない」
「(俺に怒る事じゃないだろ……)…時間を取らなければ」
ただ賑わう廊下を抜けようと一声掛けただけだってのにこの始末だ。
恐らく普通科だろう女子生徒に囲まれて応援交じりの質問攻め。…拗ねた璃亞を見れば客観的な視点での俺への人気が見て取れる。
人気の如何は俺の及び知らない事なんで拗ねないでほしいけどな、俺たちにとっては今更の事なんだし。
「体育祭が終わるまでコレに付き合わないといけなそうね」
「俺も面倒だって言いたくないけど………いや、俺に限った事じゃないかもな」
「ん?」
「ちょっと良いか?瑞銀璃亞……だよな?」
「聞いてた以上だわ!メッチャ可愛いじゃん!!」
「連絡先交換しない?」
「……な?」
「…すみません、そう言うのはお断りしてるので」
思った通りだったな、“今更”だって。璃亞も当然人気なんだから同じ目に遭うのは想定内だったろ?
見る限り俺と違って学年問わず声を掛けられてるし。
多分だが科を無視すれば上学年においての話題の挙がり易さで言うと実力以上に見た目方面の話であって、イベントごとの前段に恋仲を期待して………ってトコロか。
丁重に断ってる辺り、慣れたもんだけど。
「(昔より減ったとは言えやはり人気だな、体育祭だったらどーなるモノか……)」
「…はい、そうですが───────……貴方は?」
「“普通”科の六埜勘世。知ってる訳ないよな?」
「まあ、初耳ではありますね」
「…取って付けたような敬語は辞めろ。何だ?眼中にないとでも言いたいのかよ?」
「いや別にそういう訳じゃないんだが」
急に話し掛けてきたのは切れ目が特徴的な男子生徒。服装的に同級生だと思うがそれ以上に気になるのが醸し出してるその雰囲気、如何にも俺を嫌ってるような口調と態度だな。
普段の登校とクラス内での話題で他科の生徒がヒーロー科の生徒を目の敵にしてるのを聞いた事があったが、このタイミングで当人に表現されるとは驚いた。
周りに居るギャラリーの大半は先程の写真撮影組みたいに面白いモノが目当てだろうけど、こー言うタイプの奴も居るだろうな。
普段は互いに干渉する事も無く軋轢も生まないようになってるが今週は違う。体育祭を口実にこうやってヒーロー科の有名どころ見つけて………、間違ってなければ大体コイツの目的が予測できるな。
「…で、用件は?挨拶しに来ただけではなさそうだが」
「宣戦布告」
「………へぇ」
「俺達普通科には存在するんだよ、結果残してヒーロー科に転入を狙ってるモンが。今回の体育祭でお前等ヒーロー科………特にアンタみたいな有名人を打ち負かせば評価も一変するだろうな」
「そうだな。…重々承知してる」
恨み混じりに放ったのは予想通り、俺達への挑戦状を突きつけてきたか。
唐突に喧嘩が勃発しそうな空気を察して辺りの生徒の注目がよりこちらに向いてしまったが、俺としても穏やかじゃない発言を受けて対処に困ってる。
俺の立場で言うと誤解を招きそうだが下剋上と言ったトコロか?確かに体育祭の構造を考慮すれば特に評価を高めやすいだろうな、その仮定が現実になれば。
だが、ただ帰りたいのに急な揉め事なんて俺だって望んでる訳じゃない。それこそ体育祭始まる前に因縁生んで不必要の敵作んのはお巫山戯にもならねぇだろ。
「まるで余裕って感じだな。分かってるんだろ?この場に居る人間がさっきみたいな軟派な奴だけじゃない、体育祭への品定めが目的なのが居るって」
「品定めって……もう少し穏便にいかないか?」
「ハッ!仲良しこよしを示す為に来たとでも思ってんのか?」
「…体育祭をそこまで敵対する程に差し迫ったモノにしたくないんだが?折角こうして同級生になった訳だし」
「そうよ、仲良くとまではいかなくとも現時点で因縁生む必要は……」
「分かってないんだなぁ。…ヒーロー科かそうじゃないかの差を」
…ここに来て一番空気悪くなる発言だなオイ。
他の生徒も流石に察したせいか顔色も曇って、もう面白とかで沸いていた廊下に嫌な緊張感が奔ってしまったじゃないか。
他科を巻き込むような発言だったが………はっきり言って俺に言われてもなんだが。
目の敵にしたい気持ちは解らんでもないけど、自分が籍を置くクラスと比べるようなモノは悪評を増やすだけだぞ。現に六埜の後ろに居る普通科だろう生徒数人が同調して1-A&1-Bに睨みを利かせ始めてる。
まぁー……、六埜の眼を見れば本気なのは間違いなさそうだ。
実力も『個性』も知らないし敵視するぐらいなら何故直でヒーロー科に入らなかったのか、とか気になる部分もあるが喧嘩売る程の敵意に似た戦意は認めよう。
「天蟲飛威炉、言っておくが───────……チヤホヤばっかされてきたお前等とは覚悟が違うんだよ。ソレを体育祭で見せてやる」
「分かった………肝に銘じておこう。先に言っておくが評判だけで俺を視てるのなら相手にならないぞ?」
「ちょっと、わざわざ喧嘩売るような事言わなくても…!」
「今更だろ。コイツは無意識に敵作るような奴だぜ?」
「…仰木か、邪魔するならさっさと帰れよ」
話してたら面倒臭い奴が絡んできた。
ただでさえ丸く収まりそうだったのに無駄口を……、まず状況見て判断してほしいんだが?ココで俺への減らず口を叩いても矛先が増えるだけだと言うのに。
…仰木が首突っ込んでくるともっと話が拗れるんだから俺達無視して帰ってほしいんだけどな。
「ほら見ろよ。言った通りじゃねえか……じゃあ気が済んだら通らせろよ、ろく……何だっけ?」
「チッ……土曜、覚えておけよ」
「じゃあな、楽しみにしてるよ六埜」
「うるせぇよ……馴れ馴れしくすんな」
帰り際に恨み節残して教室の前を後にした。
本当はもう少し円満な敵対関係と言うかライバルと互いに意識できる位に話を決着したかったのに名前聞いてない阿呆のせいで………いや、もう遅いか。
ギャラリーもこの口論が終わったのが理由か人も減って、肌を嫌に差していた好奇の視線も多少マシにはなった。
結局、A組とB組の奴等には悪いが勝手に他科との溝が存在するのを証明してしまったようなモノだ。
…俺としてはやるべき事を再確認できたか。
「どうしたその顔?多分璃亞も倒すべき相手に認定されてるぞ?」
「口に出さないでよそういう事。まだ周り居るんだから……余計評判悪くなるじゃない」
「評判も何も、体育祭で勝てば結局何も変わらんだろ?」
「…ホント、怖いもの知らずには何言っても無意味のようね」
「何だ怖いのかぁ璃亞?実力考えて予選ぐらい問題ねぇだろ?」
「アンタ達みたいに馬鹿正直な自信家じゃないのよ。初めての体育祭なんだし私が可笑しいみたいな謂れは許さないんだけど?」
確かに正論だな。大衆の面前で実力披露なんて緊張するのが普通だし、全力が出せるかどうかの不安を考慮してない思考の方が馬鹿げてるか。
…その点では俺と仰木の事を同類だと考えてそうだな。全く納得いかんが。
「馬鹿は余計じゃね?まー良いけど。じゃあ先帰るわ~」
「…ああ」
「またね仰木くん」
「……天蟲、言っておくけどな」
「何だ?」
「優勝すんのはオレだ。…体育祭でケリつけてやる」
いつものにやけ面を掻き消す面構え、六埜と同じように去り際に決着を望む台詞を残していった。
仰木も似たような事言うのか………正直そんなタイプとは思わなかったな。
アイツは実戦形式の授業でさえ余裕ぶった態度でヘラヘラするような奴なのにわざわざ言うんだから、余程本気だって訳だ。
…気に食わない奴だが体育祭には真剣になれる位には性根曲がってないようだな。
「また好敵手作っちゃったんじゃない?」
「…アイツとはいずれ決着つける予定だったんだ。体育祭ならお互い文句は出ないだろ」
「珍しいじゃない?飛威炉が誰かとの勝負にこだわるなんて」
「別にアイツだけを特別視してる訳じゃない。雄英に入る奴は強敵ばかりだ、ヒーロー科普通科とか関係なくな。……勿論、璃亞も含まれてるぞ」
「あら、そうなの?」
「とぼけるなよ。…俺にとって1番手強い相手は璃亞なんだよ、手の内も知られてる訳だし。もしかして璃亞の方は俺の事眼中になかったか?」
「……そんな訳ないじゃない。貴方に勝てなければ優勝は絶対に無い、そう言い切れるわ」
帰路の途中で立ち止まり俺の方へと眼差しを向けている。
当然俺の方もリップサービスでもないが、璃亞の覚悟も一目瞭然だ。互いに体育祭においての最大の障壁であると認識できていたのは良かったよ。
今までの年月、常に一緒に過ごしてきたんだ。
俺が璃亞がどのようにして今に至ったかを知っているように、俺の癖や得意不得意も理解して筈だ。そして2年を経ての初の直接対決………、どう転ぶかは予測できない。
…この体育祭に圧し掛かる責務が在ろうが無かろうが一番の楽しみは間違いなく、璃亞と戦える可能性があるって事だ。
「飛威炉、提案があるの」
「提案?」
「今回の体育祭、どういう形式で開かれるかは分からないけど直接対決自体はあると思うの。もし、私達がそこまで残ってどちらかが勝ったら……負けた方は相手の願いを聞く、と言うのはどうかしら?」
「良いけど……別に何か頼みがあるなら聞くぞ?」
「…あのね、根底覆さないでくれる?こういう時は『俺が勝ったら何でも言う事聞いてくれるんだな?』とでも言って素直に了承しなさいよ」
「俺、そんな調子良い事言うかよ。…了承はするって」
『勝った方の願いを聞く』……か。
随分と気合入ってるな。頼みの匙加減によるかもしれないが、それ程今回の体育祭への想いが強いと言う事だろう。
…関係あるかは分からんが、栗衛さんとの約束では本人的には不服そうだった。
俺の場合は父さんの伝があっての話で、そこが認めないとそもそも成立しないようになってる。だが璃亞の方も同じ条件にするのはお門違いだ。折角将来有望な生徒と対面したのに過度な要項を付け加えても悪印象なんだから、栗衛さんとしては素直に唾つけておきたかった筈だ。
しかし、璃亞としては少し舐められたと思ってるのかもな。
持ち掛けた内容は同じでも条件は差があるのは本人的には嬉しくない対応だったかもしれない。…栗衛さんには罪は無いし、だからこそ今みたいに自分に発破掛ける位璃亞の心に灯を点けたって事だ。
「フフッ♪また頑張る理由が出来たわね」
「じゃあ良かったよ。栗衛さんとの件もあるし俺の方も負けられないんでな、手加減無しで挑ましてもらう」
「当たり前じゃない。手加減アリは今までで散々受けてもらってるんだからね?そろそろ弟子が師匠を超えても良い頃かしら」
「…遥か昔に師弟関係は終わったと思ってたんだけどな」
───────……もっと楽しみになってきた。
こんぐらい勝つ理由があった方が身が引き締まるってもんだな。雄英に来て生まれた因縁の為、俺の将来の為、そして………璃亞と戦う為。
初めてかもな、こんなに週末が楽しみなのは。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
───────………で、来る体育祭。
早朝だと言うのに実況席に居るプレゼントマイクの轟く大音声で会場をオンステージへと創り返る。
「仰々しい口上だな……俺らを緊張でもさせたいのか?」
「全くね。…いや、もしかしたらそれが狙いかしら」
「え?ど、どういう事……?」
「大人数の注目の中、普段通りの実力を出せるか………って事か?まー雄英らしいって言うか……」
…蝗賀の言う通りだな。
実際は稲生のような反応が正しい訳で普通の学校ならどの科でも平等に扱うべきだが、ヒーロー科有利のイベントともなると入れ込み様も眼に見えて理解できてしまう。
ソレが理由か後方に居るであろう他科の生徒も受け入れ方は様々で……。
普通科の生徒とすれ違った時に分かりやすく睨まれてたし、少なくともこの待遇に納得がいってるような雰囲気では全くなかった。
「ってか後ろの幽里は大丈夫そーか?あれ大分ナーバスになってそうじゃね?」
「ん?………あー忘れてた」
「静観してないで助けなさいよ……ねぇ大丈夫、芳乃?」
「皆に見られてるぅ……ココで笑われるんだぁ……もうダメだぁ…」
振り返ってみたら最後尾に場違いに暗い顔した幽里の姿が。
どうせいつものネガティブモードに入ってるんだろうが当日に俺がフォローできる事も無いんでな。もう腹くくってほしんだが…。
璃亞が話し掛けても変わらずだが、俺としてはこれから野暮用があるし任せておこう。
「こりゃ駄目そうだな。まぁ始まったら多少マシになるだろ」
「仲良いんだからもうちょい手心と言うか何と言うか………おっ始まりそうだぜ」
『静かにしなさい!開会式始めるわよ!!』
会場の中心に選手が集合して壇上にミッドナイトが立つ。
…テレビで観た時も思ったけど人を選ぶ………と言うよりは性別と年齢を選ぶタイプのヒーローだと言うのにこの人選は良いのか?いや、俺の偏見かもしれないが。
事実、特に男子生徒が彼女を見て興奮に近い感嘆の声を上げている。
ヒーロー科に籍を置く者としては普段も教師として現役ヒーローを見知っているが、周りの反応を見るに一般的な生徒からしたら新鮮な感覚なのだろう。
客席にも有名ヒーローも多数居たし、科を問わずに雄英においてヒーローと密接に関わるイベントとしては一番かもしれないな。
『長ったらしい説明は視聴者も萎えさせるだけだから手短に行くわよ!まず、選手宣誓!!』
「(…主審はミッドナイトか。校長は確か3年生ステージだっけか)」
『選手代表、天蟲飛威炉!!』
「……はい」
「アイツって……ドクターヒーローの息子だろ?」
「ドクターヒーローって言ってもホントはヒーローじゃねぇんだろ?強いかどうかは別だろ?」
「聞いた話じゃ入試でぶっちぎり1位だったらしいぞ!」
「でも推薦じゃないんだろ?思ったよりなんじゃね?」
「…“ヒーロー科の”入試だろ」
…そして、“用”と言うのはコレだ。知ってはいたが入試1位に課せられた最初で最後の仕事が選手宣誓らしい。
人混みを抜けてミッドナイトの方へと向かうが………豪い言われ様だな。
俺のことを知って勝手に期待値を高める者。
推薦じゃないとか、父さんはヒーローじゃなくて只の医者だとか言って詰まらない謂れを飛ばす者。
科の違いに苦言を呈す者。
そう言うのに一々反応するのも馬鹿らしい。
……だが、このまま清く正しい生徒代表を演じて体育祭に挑むのは嫌だな。
入場する直前にイレイザーヘッドに呼び止められて任されたこの厄介ごと、先生も「何言うかはお前が決めろ」と言って雑に投付けられた様なモノだしな。俺の一存で何言うかは勝手に決めて良いだろ。
…折角だ、やるならとびっきりの奴をくれてやろう。
俺に喧嘩を吹っ掛けてきた分と、栗衛さんが望むスポンサーとしての意味をこの場で示して見せよう。
「宣誓、私達選手一同は雄英高校の一員として清く正しく体育祭にする事を誓います。…そして───────
……天蟲飛威炉が優勝する事をこの場で宣言させて戴きます」
『~~~ッコレは大胆不敵ィッ!!?入学試験トップによる宣戦布告だぁーっ!!おいマスコミ&スカウト共!このセリフ絶対忘れんなよ?!』
「“外野”に言われっ放しだったんでな。…これ位言っておいた方がお互い気合入るだろ?」
『挑発も欠かさねー!?聞ぃてたか皆!!』
「ん?ここも撮られてんのか。…別にいいけど」
まずは、コレが俺の『覚悟』だ。
この体育祭………今の俺を試す舞台にしてみせる。