緋色の英雄   作:kozmo78

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第23話 第二種目“騎馬戦"《2》

 

 

 

 

「飛ぶぞ、気を付けろよッ!」

 

「うわっ怖っ!?」

 

 「ひぃ……!」

 

「皆離れないようにしてよね?固定してるだけだから!」

 

「オイ!逃げんなってっ?!」

 

「騎馬ごと空に行ったかっ! ヤスも行ってこい!」

 

「浮島と甲斐、追えッ!」

 

 作戦通り、騎馬を背中越しに抱えた状態で空へと飛ぶ。

 璃亞の金属で俺たち同士を離れないように固定しているとはいえ、3人の体重を支えながらの飛行はキツイな……。障害物走で燃費を気にしてたのが馬鹿らしくなる。

 

 1000万を保持する騎馬俺たちの動きに気付いた他のチームも続々と対応してきた。

 仰木と楓馬は持ち前の飛行能力活かして単騎で後を追い、六埜のトコは……アレはサポートアイテムか?玩具のマジックハンドを模した機械が浮遊してるな。

 

 サポート科は今回の各種目に個人製作のサポートアイテムの持ち込みが認められていた筈だ。ソレが飛んでくるのは………勿論、鉢巻の捕り物目的って訳か。

 

 他の騎馬は……少なくとも飛んでまで奪りに来ようって気概の者は居ないようだ。終いには見上げてる騎馬も居る気がする。

 

「(漏れなく3チーム狙ってきたか。地上とで分断できたらと思っていたが無理だったか)…そんなに欲しいかよ、俺達の座がよ?」

 

「逃げてばっかの奴等よりマシだと思うぜオレはッ!」

 

「(璃亞のお陰で騎馬を崩さずに手を使えるから……ッ)意味無く逃げてるとは思ってないよな?!」

 

「!! ……っぶねーなぁ!」

 

 …『逃げてばっか』とは痛いトコロ突いてくるな。

 他3人は迎撃してる様を見受けられるが俺だけは“逃げ”の行動が多いか。普通に考えれば騎馬なんだから役目通りとも言えるけど。

 

 飛ぶ前に騎馬の陣形を変えておいたから手は自由に使える。

 余裕そうに狙ってくる相手への牽制として最初のエネルギー弾は意味はあったようだが、それを食らってくれる程甘い相手じゃない。

 

 …何発か放って煩い鳥野郎との距離は取れたがすぐさま聞き慣れた風切り音が聞こえてくる。

 この騎馬戦において防御No.1であろう璃亞と同様に実力を如何なく発揮できる……旋風身に纏う奴がすぐ下、いや右斜め後ろかッ!

 

「…貰っていくッ!」

 

「楓馬にも渡せないんだよッ!」

 

『どーなってんだこの騎馬戦!? 空中戦始まってんぞ!! ってか下の騎馬が暇食らってんじゃねーか!?』

 

「オイ下の奴等が可哀そうじゃないかッ? いっそ一緒に来てくれた方が俺達としても嬉しいんだがッ?!」

「そーだそーだ!!」

 

「蝗賀の指示のもとだ。…文句があるならその鉢巻受け取ってからだな」

 

「じゃあ……何も言えねーなッ!」

 

 出来るだけ触れられない範囲で飛んでみせるが何分も同じ状況じゃ限界があるな……。

 

 今回が体操服ジャージ参加だったのはこの点では助かる。もし他の強敵たちに遠距離の手段が残されていたら勝ち筋がほぼ無かっただろう。

 楓馬の速度に対応するだけでも手一杯……いや使ってる部位で言えば足一杯なんだが近接戦闘だけならまだ何とかなるか。

 

 空に飛んで早々仰木と楓馬の攻撃、分かってはいたが機動力の高い2人に狙われるとなるとこの場での勝負は悪手にも思えるだろう。

 …今も尚、攻撃の手は緩む気配も無い。

 

 狙われる騎馬は少なくなったとしても相手は何処逃げても追ってくる迷惑な奴等ばっか。

 作戦じゃあ勝ち逃げ目当てのだって伝えたものの先が思いやられるな。…周りを見ても不安そうな目を向けた璃亞に気付く。

 

「…まだ、信じてるからね?」

 

「当たり前だ。残り1分切ったら降りてその後は任せる、ソレで良いだろ?」

 

「え!? あと1分も耐えられそうにないんだけど!?」

 

「大丈夫さ。俺だけの力じゃ無理だけどな……信じてるよ3人共」

 

「「ッッ………うん!」」

 

 …俺が第二種目の説明聞いた時に考えた事は何だ? 『騎馬戦はチームアップの意味を持つ』だったよな?

 手前勝手に作戦決めといて人頼みは笑い話に他ならないな。

 

 俺が保証できる事なんて何様って感じだが無いし、言えるのも無責任な「信じてる」の言葉だけ。

 …だが、己が見積もった勝算に嘘は無いと信じている。

 証明方法はこの窮地を抜け出すこと、璃亞が見過ごしてくれてる間にソレを成し遂げなきゃな。

 

 言葉にすると短くも感じるこの約2分。

 口煩い鷲に襲われようが、騎馬を割く鎌鼬に見舞われようが、厄介な機械に狙われようが……逃げ切ってみせるさ。

 …なんて考えてたら六埜たちの魔の手に寝首掻かれそうになるがな

 

「危なッ!?何……手みたいな、サポートアイテム!?」

 

「六埜のトコだ!確か騎馬にサポート科の奴が居る……ッ」

 

「多分藍が操作してるわ、気を付けて!」

 

「(視てるモノを自在に動かせる“サイキックアイ”だっけか。視界を奪えれば良いんだが……止めとこう)」

 

 地上に居る浮島たちが操ってるであろうマジックハンドもどき、コレはただ無闇に飛び回ってるのではない。

 

 まずコレの操り主は浮島だ。彼女の眼は観測する物体を浮遊させ、操作することが出来る。

 詳しくは聞いてない以上憶測で『個性』の発動条件を考えるしかないが、多分現時点で操作できるモノの規模と操作精度は今の通りだろう。簡単に人を浮かせられるならわざわざサポートアイテム経由で狙わないしな。

 

 だからってただ無策で飛ばしてんじゃなくサポートアイテムらしく面倒な性能は発揮してくれてるようで、近くに鉢巻を認識したら各指が反応して伸びやがる。

 一瞬で掠め取ろうと精密に追尾する様は如何なるヴィランでも拿捕できるかもしれない………今はヒーロー志望を襲ってるのだが。

 

 

 しかし、そんな高性能さが俺達に良いようにも働いてくれてる。

 狙ってくれてるのは他の旗手たちも対象で、囲まれると言う最悪な状況を六埜チームのによって多少は回避できそうだ。

 …もしかしたら、いやもしかしなくとも六埜の狙いはソレかもな。

 

『残り2分30秒!!未だ鉢巻の移動は無しッ!だが状況はより白熱してきたゼェー!!』

 

「ッ邪魔すんなよ?ここは1つ、共闘と行こーぜ?天蟲潰したかったんじゃないかぁ?」

 

「予選だったら俺はヒーロー科お前ら蹴落とせればどっちだっていいんだよ。特にお前みたいな調子乗りをな」

 

「ッチィ……ウザってーなぁ!!」

 

 飽くまでも1000万を持ってるだけで他の奴らが持つ鉢巻も高得点だ。ってか俺たちが他の騎馬から3つ、仰木チームが1つで元々の所持ポイントに移動が無いのだからそもそも下に鉢巻は無い。

 ヒーローに敵意を持つ奴にとっては上位勢で潰し合う中誰のでも良い鉢巻を盗んで蹴落とせるこの状況は望んでも無いモノかもな。

 

「良いよ良いよ!どんどん戦っちゃってー!」

 

「煽んなって、油断してたら狙われる一方だ………ぞっ!ほら楓馬が言った通りに来たぞ?」

 

「…喋る余裕があるならもっと攻めてこいと言う事か?」

 

 「飛威炉さんも同じだと思うんですが……」

 

「煽り癖は手遅れよ、聞き流しなさい芳乃」

 

 楓馬にしつこく迫られてるがまだ何とかなるな……。仰木チームみたく他のメンバーが狙ってくる雰囲気も無さそうだな、構成的にも遠距離に向いてるのも居なさそうだし。

 花に集る蜂の如く飛び回ろうが決定打に欠けるようで、手を伸ばそうにも静電気を帯びた稲生を俺以上に警戒している筈だ。物理的な攻撃を逸らせる楓馬の風も静電気までは防ぎきれない。

 これ自体2日目の実戦で判明してるし、クナイ所持の戦闘服コスチュームでもなければ鉢巻を守る命題の上では稲生に分があるかもしれない。

 

 嫌に長く感じる数十秒が経ち、今はまだ奪われた鉢巻はゼロ。カクリヨの指示や稲生と璃亞の守備もあって目標時間まで半分切るトコロには来れた。

 このまま被害無く進めば────……なんて旨い話には期待してないけれど、だったら早く気付けよって事態に数秒前のオレを憎みそうだ。

 

 真下に見えるは仰木、1000万を諦めて戻ってとは思えそうにも無いし……何か企んでいるとしか思えそうにない

 

「時間無ぇーんでな!強硬手段取らせてもらうぜ、彩やれ!」

 

「分かりましたわっ!!」

 

! さっきよりも数が……!?」

 

「カクリヨ、出来るだけ弾くんだ!稲生も鉢巻に付かないように常に静電気流しといてくれ!」

 

『クソッ命令すんな!!』

 

 地上から舞い上がる花吹雪が無差別に空上の選手を巻き込みだした。

 先程よりも規模が広がった為か鉢巻に付着する花弁の精度は下がったと言えど、この物量は目に映る鉢巻全てを奪りかねない勢いだ。

 

 4つも所持するとどれかはカバーできない、無差別にでも俺達から巻き上げようって魂胆か……?

 

 …いや、そんな訳ないな! 仰木がトップの座をみすみす見逃してくれる筈がない

 

「同じ轍踏む訳ねぇだろ!矢峙、花弁ごとオレを加速させろ!」

 

「(早い!?間に合わないか……っ!!)」

 

「雷咲っ!離さないでよ!!」

 

「追いつけねーだろーがっ………───よッ!!」

 

「ヤッバ!?痛っ……!?」

 

『っっ遂に鉢巻が仰木の手にィ!!意味わかんねー程のスピードで1000万を奪い取ったーッ!!!』

 

 目論見に気付いたのも束の間、通り過ぎるが如く遥か上空へと飛び抜いていった。

 だが、苦痛に声を漏らした稲生の手には持っていた筈の鉢巻は無く………翼へと変化した仰木の左手には数秒前には無かった帯状の布が見える。

 

 “広範囲の攻撃で意識を逸らし警戒を増やした1000万を相手側から示させる”

 仰木らしいずる賢い作戦にまんまと引っ掛かったって事だ。

 

 

 …こーなるって予測してなかったらな。

 

 

「ぐっ……稲生の奴で嫌に痺れるがコレで1位に…………は?」

 

『残り1分切る前に仰木チームが一気にトップに躍り出っ………いやアレは!?』

 

「違う!仰木が持ってる鉢巻は1000万じゃない!!」

 

「やられましたわ!?仰木さんが持ってるのは違う鉢巻ですわ!!

 

『ッんんん何とォ!?奪われた鉢巻は1000万ではなく違うモノとすり替えられていたァ!!こりゃとんだ演技だったなー!!』

 

「クソがふざけんじゃねぇ!だったらもう1回攻めれば……ぐっ!?」

 

 仰木の手にあるのはポイント表示的に最初の衝突で貰っていったモノの2つ目か?勿論、ソレを持っていようが俺達の得点より上に行くことは無い。

 

 加えて幸運なことに稲生が花弁を弾く為に帯びさせた静電気が仰木を麻痺させたようだ。『個性』と言えど筋肉系を駆使するモノなんだから多少の痺れでも飛行もままならないだろうだ。

 演技だけで解決させる話なのにとんだ儲けものだ、稲生に感謝しないとな。

 

 “流銀天蓋”を解除する直前に………──────

 

─────………

 

…そろそろ解除するわ『待ってくれ』……まだ何かあるの?』

 

『稲生、もし鉢巻取られそうな展開になったら“演技”してくれ』

 

『演技?』

 

『さっき付いた花弁を静電気で落とす手法は見せてる、だから奪われる瞬間に手に持った方を1000万と勘違いしてくれる筈だ。多分急を要する判断になるとは思うが………いけるか?』

 

『う~ん、がっ頑張ってみるね…?』

 

『不安だな……まぁそんな状況にならんようにまず努力せんとな』

 

『話は済んだかしら?それじゃあ………

 

 

 

 

 ………ふと思い付いたのがここで活きたか。

 

「ナイスだ稲生!」

 

「チョー怖かったんだけどー!! 奪られなくて良かった~……」

 

「まだ終わってないわよ! 楓馬くん来てるわ!」

 

「…頭に巻いてる方が1000万か、今度こそっ!」

 

「カクリヨ! 引き剝がせ!!」

 

『オレはその“風”関係ねーんだよ!! 鉢巻、頂いてくぜェ!!』

 

! 鉢巻が浮いて……!?」

 

 楓馬の“風”は物理は弾けるが、幽霊体までは干渉できない。

 相手方もそれを把握してる可能性もあったが………反応を見る限りは初めての出来事だろうな。傍から見たら心霊現象みたいに鉢巻が浮遊する様に普段落ち着いてる楓馬も面を食らった様子だ。

 

 このまま行けば新しい得点だ……とはいかず、すぐに対処しようと宙に浮かぶ鉢巻に手を掛けられる。

 

 幽里と接触してる俺達の眼にはカクリヨと楓馬の引っ張り合いに映る。もし幽里に取り憑いた状態だったら分があったが、霊体のままだったら簡単には奪えないみたいだ。

 …だとしても、作戦に支障は無い。

 

『くっこの状態じゃ力勝負で勝てねぇ……ッ!』

 

「それで良い! 楓馬をどかせば降りられる!」

 

「読み通りなんだよッ!! 浮島ァ! 視終わったか?!」

 

「(近寄ると浮かせられるようになる時間も短くなるか!だが視えなきゃ問題無いッ!)目ぇ閉じろ!」

 

「目眩まし!?これじゃ視え……っ!」

 

 もう少しで着地できる距離ってタイミングで六埜チームが阻もうと立ち塞がる。

 空中で苦しめられた浮島の“眼”に今度は稲生が巻いてる1000万が標的にされた様だ。流石に浮かせられる範囲と条件までは推測できないが、この距離ともなれば鉢巻ほどの物体なんて楽に操作する能力はある雰囲気である。

 

 来るって判ってたんだから対策も用意していたがな。ぶっつけ本番の技ではあるけれど想像通りに行動できる力は俺も身に付けてたようだ。

 

 俺の『個性コア』が生むエネルギーは光弾に近い見た目、繰り出す場所が暗闇であれば輝きを放って飛んでいくような熱源である。

 脳内では胸部で放出するエネルギーを収束させながら一瞬で霧散させる感じで使えば光だけを引き起こす、と考えたが……上手くいったな。

 

 お蔭で六埜チームも他の騎馬も僅かながら動きを止めた。

 『個性』の行使も視線集中も抑え、短くも長くもあった空での戦闘も終わりを迎え………

 

「…ふぅ、久し振りに感じるな地面が。残り時間は……?」

 

『気付きゃ残り1分切ってんぞー!!無い奴は最後まで諦めんじゃねー!!』

 

「…クソがっ時間切れかよ」

 

「むぅ……これ以上は無理そうだね~」

 

「ゴメン。もう少しで取れたのに……」

 

「いや良い……ってか油断すんな、終わってねーんだよ」

 

 「もう攻めるしかねぇ!!」

 「イチかバチか、1000万狙え!!」

 「いっそ他のでも良い! 囲い込め!!」

 

「…璃亞、任せたぞ」

 

「当然よ! “流銀廻壁”!!」

 

 「糞ッ! またコレかよ!!」

 

 「硬すぎて破れねぇッ!? 他狙うしかねーのかよ!!」

 

 …戦る前にも唱えた通り、璃亞の独壇場だ。

 役目は終えたのでこの安心感しかない金属製の隔壁の中で一息つかせてもらおうか。

 

 

 「いや~…何とかなったな」

 

 「ホっっっント危なかったよーほぼ奪られたようなもんだし!!」

 

 「稲生さんのおかげですぅ……私はついてくので精一杯で…」

 

 「芳乃にも助けられたわよ? で、あとは………私の番よ」

 

 

 外からの打撃音が暫く鳴り響く。

 焦りを滲ませる程に絶え間無く続く攻撃を受けているだけで諦めきれない奴等の攻撃だってのは見なくても想像できる。

 おそらくポイントの独占に気に食わないんだろうな………とか的外れな推測を勝手に推し測っていたら、

 

 

 

 

………~~TIME UPタイムアップ!!!』

 

 

 …俺の“勝算”は少なくとも失敗ではなかった、ってやっとホッとさせてくれたよ。

 

 

 

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