「…なんだ、お前も出てないのかよ」
「っち、このタイミングで何でテメーと会わなきゃいけないんだ?」
「気分転換に人目の少ないトコに行こうと思ったら……これじゃリフレッシュにもならないな」
「こっちの台詞だ」
最終種目発表も終わってレクリエーションの時間に。
俺は休憩も兼ねて参加を見送り、人込みを避けるようにマップを入念に調べて昇降口も出店も少ない空間を見つけて………と期待して来たら仰木と鉢合わせてしまった。
俺と同様に決勝進出しているとは言ってもだ、レクリエーションにも出ず隠遁する思考が被るなんて………気分転換目的の時間が苛立ちを加速するに早変わりである。
「璃亞はどうしたんだよ、ご執心のテメーが一緒に居ないとは珍しいもんだな」
「あいつは一回戦が遅いから稲生たちの誘いを受けたんだよ。…仰木も時間大して変わらない筈だが何故暇を持て余してるんだ?」
「ハッ、勝手にハブられてると思ってるようだがオレから断っただけだわ。決勝が控えてんのに面白味の無い出し物に参加する気は無いんでな」
「付き合いの悪い奴だな」
「テメーが言うな」
璃亞も休むのに付き合う話だったんだがトーナメントの組み合わせ発表で一転した。
前評判ではヒーロー科一色と目されていた最終種目、普通科1人とサポート科1人含む想定通りと想定外入り乱れる決勝進出者の組み合わせが………──────
────……と、記憶が確かならこうだった筈だ。
俺は初戦で相手が潟岩と当たる。話した事少ない……いやそもそも潟岩自身口数少ないタイプだから接点こそ少ないが、傾向と『個性』ぐらいは把握している。
そして璃亞だが、なんと相手は幽里。お互いの仲も深いし戦り辛いとも言えるし幽里視点から勝手を理解してくれるから緊張しないで済むとも言える。
…で、目の前の面倒が人の形してるこの男は別ブロックで………いやわざわざ振り替えんのも面倒だから一旦置いておこう。
組み合わせ上璃亞の試合は最終戦ってのもあり稲生たちに再度レクリエーションに参加しないかと誘われた。
第二種目における璃亞と俺の消耗具合は同じ程度で休むって考えも正しかったのだがこうも試合が空くとコンディションにも影響が出る。実際過度に体力を必要とする種目がある訳ではないし参加しても気分転換にはなるんじゃないか?………と背中を押した結果、俺が独りになったってだけだ。
…コイツと会うんだったら参加しとけばよかったかもと薄々後悔し始めている。
「…実際、第一種目と第二種目じゃ俺の勝ちだ。今のトコロなら直接戦わなくとも勝敗は決してるようだが?」
「巫山戯んな、あのレベルの種目なら優劣つく訳ないだろーが。もしかしてアレか? タイマンじゃ勝てないからってみみっちい勝敗を勘定に入れたいって事か?」
「馬鹿言うな。このまま完全勝利を遂げたら立ち直れないんじゃないかと思って先に教えてやってんだよ」
「寝言は寝て言え、叶わねーこと口走るぐらい寝惚けてんのか?」
「寝惚けてても勝てるからソレで帳尻合ってんじゃないか?」
「調子乗るなや。…ちょうど持ってる水、眠気覚ましに掛けてやろうか?」
「…はぁ、お前と話すと疲れるから何処か行ってくれないか?」
「その言葉、そっくりそのままテメーに返すわ」
…ホント時間を無駄にしてると思える言葉のラリーだよ。話せば話すほど俺とコイツは判り合えないんだなって再確認する、それだけしか実りも無い。
如何して仰木はここまで俺を忌み嫌うのだろうか? 俺も勿論嫌いだし、理由を挙げろって問われたら片手じゃ収まり切らない分のモノは溢れてしまうな。
「…オレはテメーが嫌いだ」
「今更どうした?」
「いけ好かない態度の癖して無駄にモテやがる、加えて超有名人の息子ときたもんだ。疎まれない理由が何処にあるんだよ?」
「モテるかどうかで人を判断してるお前よりかはマシな人間なはずだが?」
「オレが言いたいのはそこじゃねーよ。女侍らかしといて気にも留めてないトコが気に食わないって言ってんだよ」
「変わってないだろ言ってる事。あと何だ、女侍らかすって」
「璃亞のことだわ。自覚無いのかよ?」
…仰木と相対するとその名前ばかりだな。
璃亞が俺にも影響出る程にモテるのを知っているとしてもここまで面倒でねちっこい野郎は記憶に無いな。大概がアタック続けても無駄だと理解し始めると言うのに……。
あとな、俺と話すならまず言葉遣いを直してほしい。聞くに堪えない表現を耳にしていつも気を悪くしてる身にもなってほしい。
俺と璃亞が話すようになったキッカケでも事細かく説明しなきゃ脳にセリフが伝わんないのか? 馬鹿が女癖に頭乗っ取られるとデリカシーの塩梅も分からなくなるようだな。
「何でテメーみたいな無頓着野郎に璃亞が靡いてるかが分からねーなぁ。璃亞もとんだ物好きって事か?」
「…何が言いたいんだよ」
「彼女でもない奴が璃亞の横に居るんじゃねーって事だよ」
…普段コイツの売り文句にはウンザリしてきたがこの発言に関しては一概に否定も出来ない。
俺自身誰かに告白するとか、恋愛感情に準ずる行動をとった事など全く無い。
色恋沙汰に関わるパターンはいつも受け身の場合、当然と言うべきか仰木の思惑など読み解けそうにない。
しかし、“好きな人の横に男が居る”と言う状況が当事者にとって迷惑この上ない話なのは流石の俺でも共感できる。
下らない事ばかり口にするコイツのにやけ面拝んでると反射で「ふざけんな。邪魔だ引っ込んでろ」と答えたくもなるが理不尽にも近い判断なのでぐっと堪えてやろう。
「オレがアイツと付き合おうと思ってるのは解ってんだろ? 今までの人生で璃亞ほどの女は初めてでな、天蟲さえ居なかったら疾っくの疾うに告ってるわ」
「別にやればいいじゃねーか、俺がその告白を止める義理は無い」
「馬鹿が、勝算あるならやってんだよ。テメーも見てたろ? 初対面の時点でオレに壁作ってんのは見え見えなんだよ」
「ヒーロー人材育成を主とする雄英に色恋沙汰ばかり企む男が居たら警戒するだろ」
「…あのなぁ。1つ言っておくがテメーみたいにヒーローになる事しか目に映ってない視野狭人間が雄英に通ってると思うなよ? ヒーロー目指そうが学生生活棒に振る気は毛頭無ぇな」
誰が視野狭人間だ、女子と他人に喧嘩売ることしか頭に無いダチョウほどの極小脳味噌鳥野郎が言える台詞じゃねーだろ。
…ってか勝算とか無駄なのに計算して璃亞に喋りかけてるんだな。
璃亞も飽くまでクラスメイトとしての距離感を保っていて、推薦入試もあって入学式以前から顔を合わせながらも微妙に嫌そうな感情を滲ませる程度に留まっている様子だ。
まぁ俺よりはマシってトコロだろう。
恋は盲目と言う諺もある中で距離感見極められてるのは褒めてやってもいいけどな? …実際、好きな相手に格好良い姿を魅せれる舞台としてはお誂え向きとも言える。
「じゃあ……丁度良かったな」
「あ? 何が?」
「俺に勝てば璃亞も少しは興味持つんじゃないか?」
「ハハッ! 面白い事言うじゃねーか! 自分から女を譲るなんてホント酔狂な奴だなぁ!」
「…言っておくが璃亞は誰のモノでもないからな」
「『俺に勝てば』とか調子こいてる奴が何言ってんだよ。まるで自分が認めなきゃ……みたいな口振りだなぁオイ?」
「それとだな、そもそも対決するかどうかも決まってない。組み合わせ的に俺より先に璃亞と戦うんだよ、惚れた相手に負けるような男なら眼中に無い筈だよな?」
妄想ばかり垂れ流しているトコロ悪いが遠い将来ばかり考えないでほしい。
俺と戦うには決勝戦でその前に璃亞との準決勝がある、勿論今揚げた3名が順当に勝ち上がった場合に限るけどな。加えて対抗馬なんてそっちのブロックでも蝗賀や蝶野と言った強敵が何人も存在する。
言わずもがな、俺だって決勝戦で戦るなら璃亞とが良い。
望むのなら本日の最後の舞台を2人で迎えて最終的に栗衛さんとの約束と璃亞との勝負を決着できる………出来ればそんな夢が叶ってほしい。
「へぇ、オレが璃亞に負けると?」
「少なくとも俺がどっちを応援するかは明白だ」
「『璃亞の方が強い』とは言わないんだなぁ? 流石に実力を理解してないで提案する曇った眼はついてなさそうだな」
「俺はお前の実力“だけ”は評価してる。…ただそれだけだ」
本心では納得のいかない回答だが嘘は出来るだけつかない信条だ。
…仰木だって腐っても推薦入学生だ。俺以外の誰かに力負けしてる場面を見たことは無い。
璃亞の雄英に入ってからも一段と成長してる部分もある。
伊達に日本最高峰のヒーロー科に居るのもあって1ヶ月にも満たない基礎学での特訓で揉まれて発動限界も応用力も鍛えられているように感じる。
願いを実現するのなら仰木は邪魔だ。…だとしても、簡単に敗れてくれる相手だとは大変腑に落ちないのだが認めてやるよ。
「じゃあ文句は無ぇーな? これでオレに負けた後『やっぱり返してくれ~』とか言うなよ? …まーオレとしてはそんな無様な姿が見れるなら言ってくれて構わないぜ?」
「心配するな。万が一俺が負けたらお前が璃亞に告白するのを精一杯サポートしてやるよ、どうせ玉砕するがな」
「要らねぇよ、俺が欲しいのは璃亞とテメーに勝ったと言う愉悦感だけだ。…男に二言はねぇからな?………じゃあ決勝で会おうぜ」
望んでもない捨て台詞吐いて仰木は会場へと戻っていった。
…改めて聞くと本当に嫌だな、アイツが璃亞を欲しいって言うの。歴代の璃亞への告白挑戦者の中で断トツトップで気に食わない男だよ。
万が一、いや億が一仰木に負けたら璃亞が告られるのか……。
う~ん絶対無いけどな? 負ける気も圧倒的に無いし璃亞が受ける可能性なんて1ミリも………雄英1年次最強にもなればありえるのか? いや~………──────
「(…俺が今悩むことじゃないな。十分休憩できたし俺も会場に────……
────……幽里、聞いてたのか」
「いやっ……トイレの帰り道に飛威炉さん見つけて気になっちゃって……」
会場出口の物陰から現れたのは……稲生たちと共にレクリエーションに出ると言っていた幽里。
仰木との会話を覗き見されていたのも少し驚いたが、急に予定切り替えてこの場に来てるのも気になるな。…約束ドタキャンするような奴じゃない筈だが。
「レクリエーションに出てたんじゃないか?」
「そっその予定だったんですけどぉ…トーナメント表見たら急に緊張してお腹痛くなっちゃって……」
「あー、確か試合が璃亞とだったか。ソレは緊張もするよな」
懸念はしていたがそんなすぐダメージ負うか……。
振り返ってみれば発表の際に何人かの選手とはすれ違っていて、それこそ関係の深い蝗賀と蟻明の対決など興味深いマッチングに沸き立つ空気感だったのに1人だけ明らかに困惑した表情だったな。
恐らく幽里にとって雄英における一番親交の深い存在、授業でも可能性があるがこんな公然の場で勝負しろと言われても切替は難しいか。
…ソレは置いといて俺を呼び止めた言葉が気になってきた。この場に居る理由を考慮すれば及び腰にもなりそうなのにやけに切羽詰まって………
「相手が知ってる人なのは助かったんですが……あっそんな事より! 仰木さんとの話は……?」
「…ホントも何も言ってた通りだぞ? ってか仰木が璃亞を狙ってるなんて気付きそうなものだが……」
「っち違います! 聞きたいのはそのっ……何で認めたんですか…?」
「認める?」
「仰木さんが璃亞さんに告白するのを……です」
「…? いや俺が認めると言うのも可笑しい話だがさっきも言ったように俺が口挟む話じゃ……
『ふざけんじゃねぇよ!!』
………ッどうした?」
突然カクリヨと入れ替わってキレ始めた。…俺が『個性』の内情知ってるから理解が追い付くけど人通りが少なくて助かったな。
“認める”との言葉には引っ掛かるが何処か勘違いと言うか何と言うか……、兎に角誤解を解かないとな。
『お前どう考えたって璃亞のことっ……自分に嘘ついて何言ってんだよ!!』
「嘘って……前に言ったじゃないか付き合ってないって、ソレは本当だぞ」
『そこが気に食わねぇんだよ!! 自信満々な顔しといて日和ってんのか?!』
「…日和ってるだって?」
『好きな女の告白を自分から許す奴なんて日和ってるどころか男失格じゃねーか?! あぁ?!』
「何だ急に……」
言わせておけば随分と勝手を……通常時の幽里とは真逆の性格だとしても何故ここまで喧嘩腰になるんだよ。第二種目の俺の作戦、内心では納得いってなかったのか?
…いや違うな。
精神を交代した状態になると髪も逆立ち、眼に殺意にも似た精気を宿す。この状態自体は幾度か経験してるからこそ、ただ理不尽に苛立っているようには思えないな。
カクリヨとの切替は能動的に出来る筈、そして幽里はたとえ気に食わない相手だろうとクラスメイトにキツく当たるような奴じゃない。
手厳しいその発言も俺に訴えたい“何か”があるのだと確信できる。…納得するかはまた別の話だがな。
「まずな? 璃亞が俺を好きな訳が……」
『は!??』
「そんな驚く事かよ……?」
『嘘だろ!? てめっ、何でそー思うんだよ!!』
「何でって……璃亞の夢の邪魔になるだけだろ。最初話す理由になったのも俺と個性練する為で……
『ブチ殺すぞてめぇ!!!』
「落ち着けって!」
…どうしたんだよ、間違ったことは言ってないだろ? 璃亞が俺が好きだなんて推測は成り立たせる方が可笑しーんだから。
璃亞が俺を恋愛対象に含む意味が分からない。確かにな? 俺にとって璃亞は一番の親友だと思ってるし彼女もそうだと思ってくれると嬉しいが、だからって恋愛感情だと勘違いするのは思い上がり過ぎだ。
璃亞の頑張りを誰よりも隣で見てきた俺だから断言できる、彼女のヒーローへの憧れは俺が邪魔していい程生半可なモノではない。
…他者に茶々入れられようが俺は今の関係性で満足だ。
「いや第一前提璃亞が負けるとも思ってないし売り言葉に買い言葉な訳で」
『まだ舐めた事を……ッ! いい加減許さねーからな!!』
「幽里に許されなくとも俺は……」
「嫌ですよッ!! 飛威炉さんが好きって認めるまで許せません!!……はぁ…はぁ…」
「ッ! ……どうしてそこまで…」
……何でだよ、幽里。
カクリヨから戻って幽里本人の意思で俺を突き動かそうとそこまで……、目に映る彼女の叫ぶ姿が理解に至らないな。
“守護霊”を発動する、それどころかカクリヨとの同化は試合直前に発動する技じゃない。数十秒保つだけでぜぇぜぇと青息吐息だった。
極度の緊張を抱えながら無駄に体力使ってでも俺に、とでも考えればいいのかよ。
…普段の引っ込み思案な幽里を知ってるからこそ、心にクるモノがあるな。
「私、生きてきてっ…友達ほとんど作れなかったんです……」
「なのに雄英に入ってっ飛威炉さんに救われて……本当に感謝してるんですっ…」
「……………」
「飛威炉さんが誰よりもヒーローへの覚悟が強いかは分かってます……」
「でもッ! 友達居なかった私でも璃亞さんを親友以上に想ってるのだと解るんですっ!」
「……そう、だな」
「せめてっ…伝えても良いじゃないですか……? 誰かに譲るとか、我慢してるのはおかしいと思うんです…ッ!」
…そんな風に思ってたんだな。俺は少し、幽里のことを侮っていたのかもしれない。
幽里が心優しい人間だってのは前々から理解していた。
臆病で意志薄弱の側面を持ち合わせながら、誰かの為に一生懸命戦える人間だってのは体育祭の遥か前から認めていた。
だが違う。…俺以上に“お節介焼き”だった、のかもしれない。
「…申し訳ないが言えないな」
「ッ……どうして…」
「言えないなぁ、言える訳がない。…俺なんかが璃亞を好きだなんて」
「……………
────……え?」
「“ヒーローになる”。それしか頭に無い阿呆がそんな幻想を抱くのはお門違いだ、絶対に璃亞の邪魔だけはしないと心に決めてる」
「ちょっ、ちょっと待ってください!? 飛威炉さんって璃亞さんのこと……!」
「俺が璃亞を好きじゃない訳がないだろ。…ってか気付いてるみたいなこと言ってなかったか?」
「!??」
俺の聞き間違いだったか? 幽里の話なら璃亞への想いに気付いているように聞こえていたのに……、俺の早とちりだったか?
最早流れに身を任せるかの如く呟いた俺が悪いのは重々承知しているが間抜けなことを言ったつもりはない。…散々聞かれてきた『瑞銀のこと好きじゃないの?』の答えをいとも簡単に白状した事実を除けば。
「あっあああのっえっと、どっううぇ、すす好きな……えぇ!?」
「落ち着けよ」
「っででも、飛威炉さんからっそんなハッキリ言うなんて……ッ!」
「知り合った期間は短いけど璃亞がどんな人間かは知ってるだろ? それ以上に俺は誰よりも璃亞と共に居るんだ、惚れてるに決まってるだろ」
「惚れっ…?!」
俺が惚れた腫れたを口にするとはな、幽里も驚きすぎて唖然通り越して混乱し始めてるし俺だって違和感を感じてる。数分前の仰木との口振りと比較したら二枚舌でしかない言動だろう。
璃亞への想い。…この感情は一言では言い表せない。
幽里の言うようにアイツを親友以上の存在と想ってるし、具体的にすれば家族……いや恋愛感情を持ち合わせてる。友愛でも親愛でもなく、恋心に由来するモノだ。
あんなに周りにヒーロー一筋みたいな態度見せてる割に仰木が「付き合いたい」とか言う度に胸糞悪い気分に陥ってしまう………心の内に留める覚悟はある癖に所詮は意志の弱い男だったんだよ。
「う、嘘じゃないですよねっ……?」
「真剣な時に詰らない嘘つかねーよ。…俺ってそんな信頼無かったか?」
「いやいやッ! 滅相もございません!!」
「オイオイ初対面の状態に戻ってんぞ」
「急に怖くなっちゃってぇ……えぇっと……その、じゃっ、じゃあ! 璃亞さんの好きになったトコロ、と言うのは聞いてもよろしいんでしょうかハイィ…」
「好きになったトコぉ? そーゆーの一々考えなかったと言うか感覚に近いと言うか……誰よりも真摯に努力してる姿が綺麗だったのがキッカケだったかな」
「あわわわわわわわわわわわわわ」
「慌て過ぎだって」
言えばすぐに顔真っ赤にして……反応面白い奴だな。
どうせ俺を運動馬鹿ぐらいにしか考えてなかったな? 仰木が言ってたのを真に受けないでほしいよ、不本意だが俺もそこまで煩悩捨てちゃいないようだ。
…仰木に唯一賛同できるのは璃亞への恋慕だけだからな。
俺だってなぁ、アイツに文句は腐るほどあんだよ。黙って約束組んでやったけどアイツが璃亞に絡むたびにムカついてんだ。上から目線&調子乗り&実力にかまけた慢心野郎なんかに璃亞が好きになると勘違いしてる辺り舐めてんだよな。
幽里もそう思うよな? ………なんて言える立場じゃないが。
俺はこれからもずっと、璃亞が好きだって事を胸の内に留めておくつもりだ。
迷惑な真似して今の関係性を崩すぐらいなら……人生懸けてでも黙ってみせるさ。親友って仲でも一緒に居れるなら、と思える程に好きってことかもな。
「(はぁぁぁ………思い違いじゃなくて良かったぁ……急に開き直り過ぎてビックリしちゃったよ…」
「声に出てるぞオイ。…出来れば今言ったのは忘れてくれないか? 忘れなくとも口外はしないでほしい、特に璃亞にはな。幽里が求めていたモノは答えたんだし」
「えっ、はっはいぃ……でもっ何で私なんかに話して……?」
「幽里から聞いてきたんだろ? まぁ無闇に他人にバラしたりする人だと思ってないから、かな」
「…信じて、くれるんですか……? 迷惑なのに内心探るような事して…」
「確かに驚いたけども俺を想っての行動さと思うからな。幽里のあんなに気迫こもった姿見たら誤魔化すのも気が引けた、そんな感じだ」
時が経つにつれて幽里も元の調子に戻ってきた。
さっきまでの覇気は何処行ったんだよ? …迷惑なんかじゃ、全くもってなかったけどな。
柄じゃないあの逆上は俺にとって価値のある仲間だってことの証明にも思えた。騎馬戦でも助けられたし今回の件も心なしか嬉しい気持でもある。
…しかし駄弁ってる内に大分時間も過ぎたな。
会場の方は借り物競争が終わった頃だろうか、歓声も鳴りを潜めて種目間の空き時間に出店へと足を運ぶ客足も増えてきた。傍から見れば生徒同士の口喧嘩でも決勝進出者であれば悪目立ちしただろうし誰も来てくれて助かったな。
もし、幽里以外に盗み聞きしてる奴が居たら………そん時はそん時だ。璃亞に話が伝わったら縁切られる位の覚悟は決めておこう。
「…長く話し過ぎた、観客席に戻ろうぜ。十分休めたしな」
「分かりましたっ……色々とごめんなさい、無理に聞いちゃって……」
「謝んなって、気にしてないから。…幽里も友達想いなんだな」
「だって私を救ってくれた人と一番のとっ友達の話なら…言っても立っても居られなくて……」
「…そうか」
“一番の友達”か、……アイツも恵まれたもんだな。
居ない所で人一倍思い遣れるんだからホント良い奴だよ。
…それ程の仲なのに俺と僻地で付き合わせちゃそれこそ璃亞に怒鳴られちまうな。俺も休むと言っても第一試合の準備の前なら少しは観戦できると思うし、さっさと応援に戻ろうか。
────……ふと考えてしまった。
…俺がもし、璃亞に一度でも好きだって言えたのなら。
璃亞はどう答えてくれるんだろうか。
『…だって私たち、ヒーロー目指してるのよ?』
『私と助けるべき人達、もし天秤に掛けられたら貴方はどちらを選ぶの?』
『ヒーローに私がなれたのなら……飛威炉は選べないわ。愛する人だろうとソレが仕事だもの』
『今のままでいいじゃない。ヒーローを夢見るのなら仕事仲間として、そんな関係を目指しましょ?』
『こう言っても諦められないのなら………向いてないんじゃないの? ヒーローに』
考えれば考える程、俺が志したモノが楔となる。
夢を叶えた俺は璃亞を愛し続けられるのだろうか? 俺の抱いたヒーロー像には彼女なんて無理な願いだ。…家族すら守れなかった自分が背負っていい筈がない。
後悔はない、自分が決めた道だ。
…成し遂げる為なら青春だって切り捨てなければ。
初めて巡り合ったあの日、2人を繋いだその夢には………甘い物語は不釣り合いだった、と割り切ることしか俺には出来ない。
……………俺と璃亞がもしもヒーローを目指していなければ可能性もあったのかもな」
「ッ………あの、約束なんですけど…」
「何だ?」
「いつでも破ってもらって、いいです ……私も皆さんも祝福しますから…」
「…まずは優勝してからの話だなソレは。俺から押し付けた約束、破る気は無いけどな」
妄想から零れてしまった俺の呟きは行き交う人混みに掻き消されなかったようだ。
…帰ってくるとも思わなかった返答をくれた彼女の表情は、何処か儚げにも視えた気がした。