緋色の英雄   作:kozmo78

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第26話 最終種目ー“開戦”

 

 

 

「どうしたの芳乃? 私の顔じっと見て?」

 

「ううぇ!? いやっあのごめんなさいぃ気にしないで下さいっ床見てるので……」

 

「そこまで言ってないし試合ちゃんと見てなさい」

 

 レクリエーションも終わって後は最終種目を待つのみ、って時に隣の芳乃がちらちら顔を向けたり急に私をじっと見つめたりとするのが気になってしまった。

 …私の顔に埃でも付いてるのかしら。

 

 意味も無く頬を探ったりするが挙句気掛かりなのは先程の空き時間について。

 元々は行く予定無かったけど心変わりして雷咲たちと会場に向かう、眼を離した隙に気付けば芳乃の姿を見失ってしまった。連絡手段もなく参加を強制する気もなかったから探さずにおいたけど……結局何があったのだろうか?

 

「…でも、気になるわね。お昼ご飯の時は出るって言ってたのに急に居なくなって……心配したのよ?」

 

「その節はあのっ…試合の方で緊張しちゃってトイレに……」

 

「緊張? あぁ私と戦うからか。……手加減しないからね?」

 

「はっ、はいぃ……精一杯頑張りますっ」

 

「芳乃と戦うなんて初めてだから私も楽しみよ」

 

 理由を聞けば合点がいった、そう言えば組み合わせ発表の時の芳乃の表情は印象深い。アレは安堵も心配も覚悟も入り混じったような面構えだった。

 

 …でも、私と戦うってなって『頑張る』と答えてくれたのは嬉しいな。

 飛威炉は例外として、私が戦うのを楽しみにしてる一番の相手は芳乃だった。

 人の目も極度に引き摺ってしまう臆病な子が、今日も一緒に死線を乗り越えて……上から目線に聞こえるがホントに頑張ったんだな、としみじみ思ってしまう。

 

 

 とは言っても、心残りはまだ在るわね。 

 

「だけど飛威炉と一緒の居たのは何故?」

 

「え!? 何でソレを……」

 

「理由はそうね……勘? 当たってたみたいだけど」

 

 借り物競争の途中に席を見渡したら件の2人だけ姿が見えなかった。芳乃はともかく、飛威炉はちゃんと観戦するって約束じゃなかったかしら?

 

 レクリエーション自体、“KURI8”など錚々たる企業が提供しているのもあって期待以上の楽しさだった。

 借り物競争ではドローンやAI搭載ロボで撹乱されたフィールドから指定された内容……“『絶対優勝だ!!』と記された鉢巻”だとか“校長の等身大のぬいぐるみ”だとか、奇天烈なモノを探し出したり。

 大玉転がしでは触れる人数の上限超過や指定された選手の『個性』使用に反応してオイル塗れや質量変化をペナルティとして引き起こす大玉を使用したり。

 

 正直レクリエーション目的で扱うにしては勿体無い仕掛けもあって、休養を取止めて参加する価値は十二分にあった。

 …だからこそ、飛威炉には観戦をサボってほしくなかったのだけど。

 

「いやそのぉ…席に戻る途中に会いまして……」

 

「観客席見たら飛威炉も居なかったしもしかしたらって思ったけどやはり一緒に居たのね。…飛威炉は如何して観てなかったのよ、戻ってきたら問い詰めようかしら」

 

「すみません……璃亞さんの勇姿をこの目に焼き付けなくて…」

 

「良いわよ別に、芳乃は仕方なかったんだし私としてはリフレッシュみたいなモノだったから……っていうか芳乃は知ってるの? 飛威炉が居なかった理由」

 

「りっりり理由って?!! ししし知りません!?!」

 

「あからさま過ぎないかしらその反応」

 

 『知ってるけど絶対言いません!!』って口に出さなくとも顔見れば一目瞭然だ。

 芳乃が嘘が苦手なのは理解してる、心優しい性格だからこそ私や飛威炉に誤魔化そうとするその行動自体に体が拒絶してる位の体質だ。

 

 だからってやけに強張って言い逃れようとしてる、と言う事は私には話せない程の要件かしら? …一応聞いておくけど。

 

「変に怒ったりしないから言いなさいよ」

 

「………あの、っさっき…飛威炉さんと仰木さんが揉めてて…」

 

「えーまたあの2人喧嘩してるの? いつも決着つかないで終わるから余計めんどくさいのよね」

 

「それで何を話してるか…気になっちゃって……」

 

「どうせ決勝で勝負決めるみたいな話でしょ? 私も居るってのに…」

 

「あっあの、飛威炉さんはそこも言及してたので許してあげても……」

 

 馬鹿2人が揉めるのはいつもの事だ。

 何故あれ程までに馬が合わないのか理解に苦しむが……私もそもそも仰木と打ち解けてるとも言えないし苦言を呈す権利は無いか。

 

 仰木とは………初対面の時点で“そんな”視線を送ってきたせいで、結構な時間喋ってきたのに苦手意識が抜け切れない。嫌な奴とは認識しちゃいないけどね?

 とは言え、一々突っ掛かる飛威炉も飛威炉ね。煽り癖もあるせいで外野が止めないと罵り合いにも発展しそうな口喧嘩を始めてばかり、もしかしたら今日みたいな決着の場は良い機会かも。私がそうはさせない予定だけど。

 

 しかし疑問は残る。

 2人の揉め合いなんて日常茶飯事なのにわざわざ私に隠す必要も無い。

 …もしかして、まだ芳乃の方に隠し事があるってことかしら?

 

「まぁいいわ。ねぇ、他には何か………

 

『~~~ッ待たせたなリスナー共ォ!! そろそろ最終種目の時間だぜー!!!』

 

…あら、遂に始まるのね。まぁ試合終わって説教がてら飛威炉に聞こうかしら」

 

「(………ほっ)」

 

 もう一度尋ねようとしたトコロでタイミング悪く実況のアナウンスが轟く。

 大方仰木による私絡みの話が原因だろうし、試合終わってじっくり聞かせてもらうから芳乃は一旦詰めないでおこう。折角盛り上がり始めるって時に余計な話は野暮ね。

 

『第一試合出場の天蟲と潟岩は準備しておいてくれー!!』

 

「…トップバッター引く辺り、飛威炉ってホント目立つ運命にあるわよね」

 

「たっ確かにそうですね…もし私が最初だって考えたら……」

 

「誰でも初戦は緊張するわよ。さっきまでは選手も多かったり団体戦だったりでイマイチ実感が湧きにくかったけど、いざ1対1の状況になれば否が応でも注目を集めるからね」

 

「飛威炉さんの方は……」

 

「する訳ないわね。アイツは緊張とか不安とかの感情何処かに捨てた人間だから」

 

「あははっ……」

 

 私たちの初戦はどの選手よりも遅い筈なのに、また意識すれば自ずと握り始めた拳の中に手汗を感じてしまう。緊張で汗を肌に感じるのは人生史上初めてかも。

 観衆見守る中、優勝目指して戦うなんて………今更になって背筋が凍る程に怖くなってきた。

 

 …飛威炉だったら絶対そんなことは無いな。

 勝手に首突っ込んで爆弾処理するような変人が体育祭なんかで浮つく思考の持ち主じゃない。…今、想い描いているのは目の前の敵をどう打ち負かすかだけだろう。

 

「今回の相手、潟岩くんは……確か体を岩に変化させるような『個性』だったかしら」

 

「潟岩さん凄い大きいですもんね。…基礎学で発動した姿はまるで寓話のゴーレムみたいでした」

 

「騎馬戦では仰木が放置して飛んでたから印象薄かったけど防御面では進出者の中でも随一ね。多少の攻撃じゃビクともしないんじゃないかしら」

 

「ってことは飛威炉さんとの相性って……」

 

「…悪い筈ね。機動力命の飛威炉としては速度に対応できない相手なら対応楽だけど潟岩くんみたいな防御特化の人となら関係ないかも、攻撃耐えられて反撃を貰って……も無くはないわ」

 

 飛威炉にとって一番戦いやすい相手は自分より遅く攻撃型の『個性』持ちだ。該当するのは進出者で言うと……近いのだと婭夏葉とかだろうか、蝶と成る『個性』は柔軟性に長けてもいるがスピードに差がある以上不向きな守備が際立って攻められやすい。

 しかし潟岩くんは完全なまでの防御タイプだ。弾幕を受けられて持久戦に持ち込まれる可能性も高い。

 

 …実のトコロ、飛威炉がその堅固な防御を打ち破る火力を持つのは知ってる。

 口では『相性悪い』とは言ってみたが消耗無視した攻撃使えば苦戦もしないとは思う。だけど、飛威炉なら雑に戦ったりはしないでしょうね、準決勝・決勝目指してより効率的に挑む筈。

 

「あの飛威炉さんが苦戦するかも……

 

「あら、心配してるの?」

 

……璃亞さんは心配してないんですか?」

 

「負けないわよ。飛威炉がこんなトコロで躓く筈がないわ……むしろ私は感謝してるぐらい」

 

「え?」

 

「もし一回戦で当たったら、早い段階で戦うことになったらって考えてた身としては別のブロックになって安心したの。…ちゃんと勝ち上がって今以上の大舞台で戦える状況なんだから、気合入れなきゃね?」

 

 発表の時、飛威炉と別のブロックに分かれたのが判って………安堵した部分も、不安が募った部分もある。

 

 想定じゃあアイツと戦うステージしか描いていない。それも、出来るだけ大きな舞台で。

 だからこそ条件自体は叶った……で、私の前に立ちはだかる壁がより高くなったのも事実。誰がどう勝つとか予想するのは調子乗り過ぎだけど婭夏葉や蟻明くんや蝗賀くん………そしてあの仰木も居る。

 

 正直目標に届く確率は低い。希望的観測も含みたいぐらいだ。

 …ここで怖気づいて理想を低くする考えは飛威炉から教わってないってだけよ。

 

「………やっぱり、2人共素敵です」

 

「褒めても何も出ないわよ? ブースのドリンクとかなら全然奢るけど」

 

「だっ大丈夫です!……私も頑張んなきゃって思いました」

 

「…そうね、一回戦で戦う相手には無粋な話だったかしら」

 

 観衆の注目集まる会場中心へと目線を戻す。何の心配も無いとは言え、あと数分と迫った次の試合の行く末が気になるのに変わりない。

 私はアイツと違って、大事な親友が頑張ってる姿は目に収めておきたいの。

 

 

 

 

 

 

 

『サンキューセメントス! 最高の舞台が用意できたみてーだぜ!!』

 

『今日も色々とやってきたが、結局最後決めんのはガチンコ勝負だな!!』

 

『ヒーローやってりゃ大事な場面は常に己の身一つで乗り越えなきゃならねー! 艱難辛苦を心・技・体全て使って乗り越えろ!!』

 

『ってことでお待ちかねの~~一回戦やっていこうかァ?!!』

 

『ここまで成績圧倒的トップゥ! ヒーロー科 天蟲飛威炉!!』

バーサス

『デケー体の割に目立った活躍無し! ヒーロー科 潟岩堅護!!』

 

「準備は良い? 2人共」

 

「いけます」

 

「…問題無い」

 

「点呼オッケー! 良いわよプレゼントマイク!!」

 

 主審となるミッドナイトの確認を終えて指定位置に足を延ばす。

 

 どの種目でも異様な盛り上がりを見せてきたが、やはりと言うべきか観客席も今日イチの熱気が立ち昇る。国民行事でもあるこの体育祭、視聴者もスカウトも目当てにしてたのは1対1この種目って事は前評判を知らなくとも実感できる。

 

 相手は潟岩……『個性』の想定と戦闘スタイルは把握してる。

 懸念点は、何らかの隠し玉と突破方法。

 

 …まぁ、イレギュラーな場面は柔軟に行こうか。

 

 

『じゃあ早速始めよーかぁ! 一回戦第一試合、レディ~~……────

 

……START!!』

 

 開始宣言の合図とともに、出方を窺う程度の弾幕を張る。

 

 威力で言えば常人食らうと怯むどころか5m程度は吹き飛ぶモノ、範囲・速度は潟岩ならどうやったって避けられない規模とした。

 赤白く光を放つその弾幕に対して、飛んだ先の大男は微動だにしないようだ。

 

「(『個性』俺命名“岩殻”、体表から生み出した岩に近い物質を殻のように纏う。例えば馬鹿正直にエネルギー弾を放っても……!)」

 

「……っ! …効かん、そんな攻撃」

 

「(こうやってダメージを受けずに弾かれる。一応電信柱とかだったら粗方砕く威力はあるんだが、強度はそれ以上ってことだな)」

 

 思惑通り避ける事も無く着弾、しかし全くのダメージを通さずに立ち尽くしている。

 身長で言えば2mを裕に超える高さだろうか? 無骨な顔に俺より一回りも広い肩幅、そして……断崖絶壁の岩肌を想起させる屈強な身体。彼の『個性』を纏えばまるで小さな山にも見える。

 …中途半端な攻撃は意にも介さないってのは明白だ。

 

 確認を取ってない以上、ハッキリとは敵の能力を判断し切れていない。

 潟岩の『個性』が想定通り岩を纏う“岩殻”か、体の各部位を岩に変化させるモノか、岩に近い性質に肌を変化させる硬質化の類か………今上げた3種のどれかだろう。

 一応2つ目として岩程度の強度なら今の攻撃食らった時点で致命傷だろうし、3つ目なら重量は変わらず衝撃を殺し切れない筈だから……岩を幾層にも纏う『個性』だと仮定した。

 

 …どちらにせよ、俊敏性には欠けるってのは誰だって思い至る。

 

「…だが後ろはガラ空きだなっ!」

 

「────……っ」

 

「痛っ……蹴った俺の方が痛いじゃねーか」

 

「…はぁ!」

 

「おっと、思ったより反応は早いんだな」

 

 素早く背後に回り、人間にとっての駆動部……首を狙って廻し蹴りを食らわす。ワンチャン関節には発動できないかもと期待したがガキンッと鈍く響いた音と鋭い痛みが無駄足だと告げてくれた。

 俊敏に立ち回れなくとも近接戦闘なら話は別と言わんばかりに丸太のような腕を薙ぎ払い、再び距離を離す羽目に。

 

 さぁ……どうするか。

 

 何度か初撃と同様に弾幕を放ってみるが、俺1人が公転かの如く飛び回るだけでダメージを受けたような素振りも見せない。状況だけなら潟岩の防戦一方だと捉えられるし今の時点で俺に負ける要素など微塵もない。

 …このままの戦況が続くなら、そうも言ってられない。

 

 

「(あちら側から攻める気無し、だな。俺の攻撃いなしてカウンター狙いってトコロか)」

 

「………かかってこい」

 

『予選トップの天蟲飛威炉っここに来て苦戦! まるでゴーレムみてーな潟岩にダメージを与えれねぇーのか!?』

 

「(始まって1分しか経ってないんだが言ってくれるなぁオイ。まぁ間違いでもないし甘んじて受け入れようか)」

 

 相手方も賢いようで、一方的な展開を嫌って無理に攻めてくるパターンもなさそうだ。

 

 結局、今のまま膠着状態が続くならガス欠を起こすのは俺だろう。無駄に飛んで、無駄にエネルギー弾は浴びせても“焼け石に水”かもな。

 …そんな例え思いつくんなら“雨垂れ石を穿つ”だって思いたいけど甘い思考でしかない。

 

「(上限無視してぶっ放せばイケるか? Detroit-BLASTERなら………いや外して反動食らった時に攻められたらヤバいか)」

 

「…我、勝利する手段これ以外に無し。許してくれ」

 

「許すも何も、だな。…おかげで手間取ってるよ」

 

 そりゃ入試の時のアレ、“Detroit-BLASTER”なら破壊力・推進力共に丁度いい打開策になる。

 人相手に食らわすのも気が引けるトコロだったが潟岩相手なら無用の心配、岩の鎧なんて貫いて向かいの壁まで一っ飛び………だがあの技は反動が凄まじい。使えば10秒程度のオーバーヒート、最悪の場合その隙を狙われてノックアウトも視える。

 ってか隠し技で更なる防御策を秘めてる可能性だってあるな。持久戦を怖がって過剰な放出、ソレは避けたい。

 

 折角の自由度高いタイマン勝負なんだから目指す勝ち方はもっとスマートに………おっ、良いの思いついた。

 …ってことで早速、仕掛けさせてもらおうか。1発目は騎馬戦でも使った奴だ。

 

「二番煎じだ! 文句なしで頼む!」

 

「っ!?」

 

『おっと!? コレは騎馬戦でも見せた天蟲のフラッシュか!?』

 

「(怯んだ隙に、後ろから……持ち上げる!!)」

 

 さっきとは違って無闇矢鱈に攻撃はしない、俺の思惑が悟られない内に潟岩の下半身へと腕を回す。

 俺との身長差もあって屈めば丁度持ち上げやすい体勢で固まってくれた、この状態なら巨岩に等しい重量でっ…も………っ!

 

「…また後ろ、かっ!」

 

「(おんもいなぁ! だがっNew Humpsher-BLASTERで……!)」

 

「(浮い………っ?!)」

 

『何とォ!? 騎馬戦の一幕を思い出す閃光放たれた一瞬に2人が空に飛び立ったァー!!』

 

 余りの重さに足のブーストを慌てて発動したがお蔭で俺の得意なフィールドまで連れてこれた。

 

 2人揃って観客と目線が合う高度に、脚を落ち着かせる場所はもう何処にも無い。地上に居た時は巨岩でも宙に放たれれば………自分じゃ動けない小石も同然だ。

 

「……離せっ!」

 

「オッケーオッケー離してやろーか。…もう目的も済んだんでな」

 

「くっ……空に…っ!」

 

「どんだけ堅かろうが空中ここなら推進力は掻き消せないよな?」

 

「っ!!」

 

「不完全燃焼かもだが受け入れろ。……じゃあな!」

 

 名残惜しいがサヨナラだ。

 どんだけ防御が堅かろうが、どんだけ衝撃掻き消す重量だろうが、…空なら無意味ってことだよ。

 

 右の掌を前に掲げて場外へと突き放す。俺のエネルギー弾を土手っ腹に食らおうがコレまで通りなら効く筈もないのに、顔を窺えば苦虫を嚙み潰したような表情である。

 

 地面に辿り着くまでのほんの一瞬、無理に足掻くのも諦めて仁王立ち……いや飛んでんだから表現違うか? まぁ良いや。

 俺が肌身に感じた重さ相応の落下音を鈍く響かせて、この勝負の決着を教えてくれる。

 

「…ふぅ、こう言うタイプの対処法も考えないとな」

 

『潟岩堅護くん場外! 天蟲飛威炉くん、二回戦進出!!』

 

『二回戦進出!! 天蟲飛威炉ォーーー!!!』

『初っ端の膠着状態も何のその! 相手の弱点を一瞬で突き早々に決着してみせたァー!!』

 

 

 

 

 

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

「ねぇ何でさっき観ててくれなかったの?」

 

「一回戦終えた奴に会って早々言うことか?」

 

「誤魔化さないでよ」

 

「待てって、ちゃんと話すから。な?」

 

 試合を終えて入場口に戻ると、どうしてか拗ねた様子の璃亞が出迎えてくれた。

 こういった場所は普通部外者不介入だと思ってたが問題無いようだ。

 

 別に労いの言葉なんて求めちゃいないが久し振りの対面でまずソレ言われてしまったか……。歩きながらの釈明で何とか誤魔化せそうか?

 

「…まぁ一旦席に戻ろうぜ? 俺、体育祭始まってからずっと立ちっ放しなんだよ」

 

「貴方がちゃんと椅子に座って変にどっか行ったりしなかったら休められたわよ?」

 

「だからゴメンて。一応理由はあるから……」

 

「仰木と揉めてたんだって?」

 

「知ってるのかよ」

 

 誰にも何も聞かないで俺への説教待ってたみたいな雰囲気なのに大概は知ってるのかい。

 

 多分幽里に確認してそこの情報は教えてもらったようだな。仰木と揉めたってのは納得できないが。…アレは奴が変な言い掛かりでダルい絡みしてきたんで俺に罪は無い。

 ってかソレも込みで今の状況なら仰木との話で終わり、ともいかなそうか。賢い璃亞に隠し通すのはいつも骨が折れるな。

 

「じゃあわざわざ迎えに来てまで詰められてもって感じだな」

 

「何隠してんのよ」

 

「ん?」

 

「芳乃は隠そうとしてたけどさ、日常茶飯事を大っぴらに打ち明けられても無理があるわよ」

 

「俺と仰木をそんな風に見てたんかい」

 

「黙ってなさい」

 

「はい」

 

 小さな話題で済まそうと軽口叩こうとするも即時に制される。

 俺と仰木を見る眼が嫌に冷ややかだったのは理解してるんでな、日常茶飯事だと称されようが気にしないさ。問題は……俺がどう弁明しても言葉の裏を見透かされそうってトコロか。

 

「で、どうなの?」

 

「…んー、あんま言いたくないなぁ」

 

「何でよ?」

 

「まぁ白状するか、幽里と一緒に席に戻ってきたのは知ってるだろ? その途中に俺が余計なこと言ったんだよ」

 

「余計なこと?」

 

「『璃亞の対策教えてやろうか?』ってな」

 

 勿論………全くの嘘だ。

 

 確かに幽里と璃亞の勝負、どちらに分があるか考えてしまうと自ずと答えは脳裏をよぎる。

 …だからってなぁ、流石の俺でも1対1の勝負に水差すような事しないな。双方の『個性』や精神性も理解してるからこそ“幽里がコレやったら……璃亞も嫌がるんじゃないか?”的な作戦も当人からすればお節介にも成り得ない邪魔だと思った。

 

 …なんて考えると余りにも無理なこと喋ってるが、もう口に出した以上は辻褄合わせないといけない。

 

「幽里にとって厳しい戦いになる、俺が勝手に決めつけて……今になって思えば糞みたいな確認だった」

「何でだろうな? 気味悪い言い方するなら親心のような心情とでも言っておこうか、まぁつい……な」

「でも! そん時の幽里が格好良かったよ。『誰かの助けじゃなく、自分の力で璃亞さんに戦うことが恩返しだと思います……』なんて、ある意味幽里らしいとも言えるよ」

「ってことでな? 俺に気を遣って幽里が隠してくれたってのが真実だな。…自分で恥ずかしい話したって事で許してくれないか?」

 

「……………」

 

 一応、無駄に長かったがそれっぽいのは言えたな。

 張本人の俺自身が笑いそうになるけど自嘲の笑みとして誤魔化した。

 

 しかし、実のトコロ嘘だらけでもない。俺が控室に戻る直前に………

 

 

『…飛威炉さん、頑張ってきてください……』

 

『ありがとな。…幽里も頑張れよ、応援してるよ』

 

『はいっ……。璃亞さんに真正面で戦えることが、1つの恩返しだと思うので』

 

『…フッ、面白い事言うなぁ。それ璃亞にちゃんと伝えてやれよ?』

 

『いっ、いや…です……おこがましいですよソレは…』

 

『オイオイ………じゃあ俺が後で教えるよ。…またな』

 

 

 …と、幽里の名言はほぼそのまんまだ。アイツは友達想いに加えて義理深いと言うか、人情味ある奴だってことがより判ったな。ソレ聞いてもっと1試合目の気合が入ったよ。

 

 やっとこさアリバイの説明終えて璃亞の反応を見ると………ヤバそうだなこりゃ。

 不機嫌だし訝しんだ顔だし、粗削りな嘘じゃ厳しいは厳しいか。

 

「なーんか、長ったらしく弁明してたけど」

 

「おう」

 

「無駄足だったわね。…そんな詰んない嘘つかれて」

 

「いや、噓じゃないって……」

 

「ホント残念。面白くもない作り話をベラベラ喋られて、付き合わされる身にもなってほしいわよ。勝利した人間に失望するのも可笑しい話ね」

 

「…あぁソレでいいよ。…お? 稲生たちも来てくれたのか」

 

「おめでとー飛威炉くーん!!」

 

 観客席がすぐそこって所で運良くいつものメンバーが降りてきた。お褒めの言葉を頂く立場にもあるが、今回は勝手に俺が生み出した窮地も救ってくれたようだ。

 まだ試合も遠いし緊張も無さそうな稲生と蝶野や、何処となくバチバチな雰囲気醸し出す蝗賀と蟻明とか、やっと俺関係ない試合を観れると思うと少し気が楽だなー……

 

 

────……なんて考えながら手を振り返してたら隣に並ぶ璃亞から呼び掛けられた。

 

 俺にしか届かない程の彼女の声。喧騒飛び交い囁き声なら聞こえもしない筈なのに、俺の耳はしっかりと聞き取ってくれたようだ。

 

 

「……約束追加しなさい? 私が決勝で勝ったら白状する、拒否権無しよ」

 

「嫌だし嘘じゃないけどな? …了解した」

 

 

 ………また勝たなきゃいけない理由が出来たな。

 

 

 

 

 

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