緋色の英雄   作:kozmo78

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第3話 頼み

 

 “個性成長プログラム”───────文字通り、『個性』の成長を促す事を目的とした教育プログラムであり、全国の中学校でも教育の一環として取り入れている機関は殆ど存在しない。

 

 普通の中学生……特にヒーローに憧れを少しでも抱くような人間であれば是が非でも受けたいような響きではあるが、ヒーロー育成を専門として教育するのは高校以上からであり、それを理由付けている────

「義務教育の間で『個性』に深く関わらせるのは危険すぎる」

と言う至極当然な考えによって厳しく制限されている。

 

 

 

 だが、中学校の段階で容認される場合もある。

 

 まず1つの条件は、「政府が認可できる程に“レベルの高い”教育機関と一人の学生であること」

 ここで良い“レベル”とは学校水準・学力・社会的評判全てを含み、基本的には巨額の入学費と中学生に求める内容を超えた学力試験を必要とする。

 この時点で大概を切り捨てるようなモノではあるが、基準を下げた結果要らぬ軋轢や事故を増やすようなことになるのなら認めざるを得ないだろう。

 

 そしてもう一つは、「将来に『個性』を必要とするか」

 どんな中学校でも進路希望は調査するが、このプログラムを擁する機関では入学して半年も経たずに調査を行う。その時点でヒーローになるか、将又『個性使用許可』が下りるような職業になるかを宣告した上でプログラムを受けるかどうかを審査される。

 

 

 

 

 ……………まあ簡単に言い換えるならば、“超進学校で将来有望だと示さなければ受けられない”モノだってことだ。

 

 

 

 人一人が使うには広すぎるこの空間を見渡しながら試行していると、天井から機械仕掛けの音声が流れる。

 

 

『IEルーム使用時間終了まで15分です。チャイムが鳴りましたら速やかに退出して下さい。』

 

 

「(…………よし、今日は早めに切り上げるか。)」

 

『室内清掃を行うAIロボが入室します。安全の為私物をまとめて速やかに退出して下さい。』

『ハイリマスハイリマス』

 

 

 退出を決めて備え付きのリモコンで操作すると、忠告音声と共に入室してきたAIロボが壊れた練習用ダミーマシーンを片付け始めた。

 個人で用意して練習するには余りにも被害損失が多い筈なのに、何も気にせず取り組めるのはやはり“個性成長プログラム”の賜物と言えるだろう。

 

 

「(今日は“ギア”少し上げ過ぎたな。まだ鼓動が速い……)」

 

 

 クールダウンを終えて更衣室で着替えていたが、誰も居ない部屋の中だと余計に自分だけが聞こえる心拍音ばかりが気になってしまう。

 

 着替えている内に自分の胸にある“コア”を見ると触れずにでも分かるほどに熱を帯びているように見える。

 両親双方から「練習するのは良いけどやり過ぎるな」と釘を刺された事を肝に銘じて、負荷を都度確認しながらトレーニングメニューを決めるようにしても燃費の方は簡単には改善されないようだ。

 

 

 

 絮吏儕わたりぜ中学校に入学して1年半……………“個性成長プログラム”目的に入学したが少しだが『個性』の練度は上がっていると思える。

 

 政府認可のあるプログラムと言えど、実際の内容は完全防備かつAI監視の強化教室“Individually-Enhance-Room”での数時間の自主練であり、雄英などの育成状況と比べればそこまで育成として秀でたモノではない。

 だが『個性』を不自由なく使える場所なんてそう簡単には存在しないのだから、そこは個人の努力次第だ。

 

 

 ……まあプログラムがあるような学校なのだから学習に関わる殆どが高水準&多量で、今日も帰ったら多めに出された宿題に取り掛かる予定だ。

 別に内容とかに気にすることは無かったので厳しい部分は自己責任でしかない日々のスケジュールだけだが、そこを嫌だと思ったことは全く無い。

 

 

 

 

 

 支度をして校舎を出てから、夕闇に一層暗さを増す敷地内を歩いていく。

 部活動に明け暮れて夜遅くまで賑わう──────なんて事も無く、誰も居ないかとも思わせる静寂に包まれている。

 毎日の習慣になっているから違和感を覚えないようになったが…………少し普段とは違うところがある。

 

 

「……いい加減にしてもらってですか?帰りたいんですけど」

「ボクの何が気に食わないんだ!?根拠を述べてくれ!!」

 

「(校門に誰か………揉めてるのか?…女子の方は見た事が……)」

 

 

 この時間には似合わない喧騒に近寄ると、校門前に言い争っている二人の生徒が居た。

 一人は相手の勢いを受け流すかのように応対している銀髪が目立つ女子生徒、もう一人は嫌な感じで詰め寄っている眼鏡を掛けた男子生徒だ。

 ……女子生徒の方は何処かで見た記憶もある。

 

 

「成績学年ナンバーワンでお馴染みの福持蓮太郎サマだぞっ!?それにあの『福持製薬』代表取締役の一人息子!どこがダメだって言うんだ!?」

 

「私はそういうのは興味ないんで。………そんなに凄いお方ならもっと良い人が居ますよ」

 

「いいや認めないねっ!ボクの彼女に相応しいのは君だけさ!!興味が無いって言うなら一緒に愛を育んでいこうじゃあないか璃亞クン!!」

 

「(面倒くさいのに絡まれてるなあの人……それもこんなトコロでだる絡みしてやんなよ)」

 

 

 相手を見れば脈無しなのは分かるのに男子生徒………福持って言ったか?の方はどんどんヒートアップしている。2年次で成績1位は俺だから多分先輩だろうが、あの態度で告白相手の女子が靡くとは到底思えない。

 

 確かに“りあ”と呼ばれた女子の方を見ると中学生とは思えない大人びた顔立ち……誇張抜きで芸能人にも匹敵する見た目だろう。

 聞いても居ない身の上話で女々しく縋る、なんて如何にも女子が嫌いそうな誘い文句を語っているが、一般的な男子の観点で相手をあの人だと考えると共感できなくもないのだろう。

 

 

 ──────でも帰るのに邪魔なのは変わらない。

 

 

 

「すみません帰るんでそこ通っていいですか。………あと福持先輩、その人に迷惑でしかないんでさっさと帰った方が賢明だと思いますよ」

「突然なんだ君は!?こっちの話なんだから……お前は2年のあ「────天蟲くん、やっと来てくれた。…待ってたわよ」

 

「………え?」「は?」

 

 

 お節介ながら見知り合いでもない相手に喧嘩を売ってみたが、思ってもない相手から考えてもない発言をされた。

 初対面………の筈だが、自分も知らない約束を取り決められていたらしい。

 

 

「一緒に帰るって話でしょ?待ちくたびれたわよ」

 

「嘘をつくなぁ!!彼氏がいるなんて話はっっ…!?さっきそういうのに興味ないってっ………!!」

 

「(…………よく分からないが乗ってみるか) って事なんで邪魔しないで下さい。……じゃあ帰りますか“りあ”さん」

 

「ふぅざけんなぁっ!!このボクを差し置いて訳分かんない話して────

 

「聞こえてないのかよ先輩、“絮吏儕”の名を汚してんだよその行動。………今すぐ帰るなら見逃してやるけどまだ付き纏うなら……少なくともこの学校では過ごし辛くしてやるよ」

 

───────クソッ、覚えてろよっっ……!!」

 

 

 啖呵を切って睨みつけると、福持先輩は流石に怖気付いたか一目散に逃げていった。

 『過ごし辛くしてやる』なんて脅迫染みた事を言ってしまったが流石にそんなことする気は無い……今のところは。

 

 ───────それはともかく、勝手に話に突っ込んだとは言え面倒ごとが変に長引いてしまった。

 無用な喧嘩を売るのが俺の悪い癖………でも治る気もしないし直す気も正直無い。さっさと要らぬお世話をしたことを謝ってしまおう。

 

 

「すみませんでした、……もしかしたら迷惑でしたか?」

 

「………何故私の嘘に乗ったの?初対面でしょ?」

 

「何故?──────困っているように見えた、って言うだけです。」

 

「敬語は要らないわよ、クラスは違うけど同じ学年なの。──────

 私は瑞銀璃亞よ、宜しくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

    ~  ~  ~  ~

 

 

 

 

 

 何だかんだあって、途中まで一緒に帰ることに。

 

 何処かで見た記憶が間違いではなかったのは話している内に分かってきた。休み時間などでもあまり他クラスに行かない自分じゃ気付くのも遅くなるのが頷ける。

 

 

「授業終わってだいぶ時間が経つけど……もしかしてさっきまでずっと絡まれてたのか?」

 

「いや“個性練”終えて帰る途中にあの人に待ち伏せされてたの。…多分放課後はIEルームに居ることを調べて見張ってたんじゃないかしら」

 

「…思ったよりヤバい話だな、他人事みたいになるけど」

 

「別に初めてでもないから。…それに他人事って言うのは嘘でしょ?あなたもそういう経験あるのは有名なんだから」

 

「否定はしないでおくけど………俺の場合はあんな面倒くさい奴は居なかった」

 

「ふふっ嫌なとこ突くわね」

 

 

 そこまで興味は無いけど掘り下げてみたが俺の“そういう”話を振られそうになった。

 確かに放課後の呼び出しなんて1年次から何度もあったが、相手にとって望ましい答えを出すことなんて無かった。…それもあってか、ある時期から青春らしいイベントからは関わらなくなったが。

 

 ────────まあそこは一回置いておいて、俺的に興味のあるワードが聞こえたのでまずそっちの話を振ってみる。

 

 

「そう言えば“個性練”してるんだな、あそこ使ってるなら知り合う可能性もあると思うんだが……」

 

「私は偶にしかしないのよ。………天蟲くんからすれば練習とは呼べないモノよ」

 

「…他の人がどうとか口出す権利は俺にはないだろ。俺は俺の人生のためにやってるだけだから」

 

「ふーん──────やっぱり聞いていた通り、『未来のNo.1』は言う事が違うわね」

 

「ん?何そのあだ名?……俺のこと言ってないよな」

 

「皮肉とかじゃなくて褒めてるのよ?この学校じゃあなたの名前とセットで有名だから」

 

 

 ………自分が普通より有名なのは自覚しているし周りの意見なんて気にしてられないから咎める気はないけど、流石に無視できない内容だ。

 『未来のNo.1』?……………俺のことを茶化しているのか過度な期待をしているのか、深く考えないでおくが正直嬉しくない呼称ではある。

 

 

「まあいいや、そんな事より……良いのか?ああいう金と要らない知恵だけある奴に嘘ついて。俺も乗った手前少し責任感じてるが」

 

「そこに関してはまず謝るのが先ね。──────本当に、ごめんなさい」

 

「…頭下げんなよ、気にしてないって」

 

「詰まるところ自分の為だけにあなたを利用したのと同じよ。……………ヒーロー志望が聞いて飽きれるわ。」

 

「へぇヒーロー志望なのか。確かにそれぐらい頭が回るなら向いてるんじゃないか?」

「それは褒めてるのかしら?」

「冗談だって。──────でもそこはお互い様だろ?」

 

 

 特に気にしてないのに頭を下げられてもこっちが困るだけだ。

 不躾な返答に悪い捉え方されるかもと思ったが………見る感じ大丈夫そうで安心した。

 

 それにしてもヒーロー志望なのか。

 “個性成長プログラム”が存在するとはいえこの学校自体が超が付くほどの進学校なのは変わらず、ここに入学する大体の生徒は親の仕事を継ぐようなタイプばかりのイメージだった。

 加えてモテるのことを自己申告しても自慢に思えない見た目の持ち主────────なかなかの変わり者とも言える。

 

 

「あ、俺ここ右に曲がるんだけどそっちは?」

 

「私は左……じゃここでお別れね」

 

「分かった。それじゃ………また絡まれたら早めに断れよ」

 

「そうね。──────────ちょっと待って。頼みがあるの」

 

「ん?」

 

 

 T字路を曲がろうとすると後ろから呼び止められた。

 さっき初めて会ったような相手に頼めることと言えば限られると思うが………何だろう?

 

 

「私に教えてほしいの、どうやったら『個性』を上手く使えるか。……この学校でヒーローになるために誰よりも努力してる天蟲くんになら、って思って。」

 

「買いかぶり過ぎだって………でも分かった、良いよ」

 

「!……………案外あっさり受けてくれるのね。…理由を聞いていいかしら?」

 

「断る理由が無いのと、いい加減一人の“個性練”に効果を感じなくなってきたから。よく聞くだろ?人と教え合うことが一番成長しやすいって」

 

「あら?あなたほどの人なら教え合えるような友達なんて沢山いそうなのに」

 

「……変に弄るなら断るぞ」

「フフッ、私も同じような感じだから気にしなくて良いわよ」

 

 

 何だかお互いに虚しくなるような会話になったが……提案は引き受けよう。

 

 今日こうして会ったのも何かの縁かもしれないのに、テキトーな理由で断るのは罰当たりだろう。

 初対面とはいえプログラムを受けられるぐらいに優秀な生徒なのは分かってるわけだから、一緒に練習できるならこちらとしてはプラスの要素ばかりだ。

 

 

「それじゃあ明日から宜しくね。放課後になったらルーム前で待ってるから…………もし黙って帰ったら恨むわよ?」

 

「そんな事するかよ。でもまあ………よろしく“瑞銀”」

 

「またね天蟲くん。──────明日から楽しみにしてるから」

 

 

 そう言って微笑みながら帰り道へと振り返る瑞銀を見送って、自分も帰路に発つ。

 

 これまでの学生生活では少なかった同級生との交流………そもそも昔から親交と言うモノに離れた生活を送り年を経るごとにその傾向は加速していったが、ちょっとした切っ掛けで変わるかもしれない──────いや普通の学生は大体そういうモノなんだから感慨に耽るのは可笑しい話だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの人って誰???」

 

「急にどうした?………俺が帰ってくる時見てたのか」

 

「うん、買い物言ってたら丁度見えてね。いっつも独りぼっちで帰ってくるのに今日は誰かと帰ってきてたから凄い驚いたんだ!それも女の子だったし」

 

 

 家に帰ってすぐに菟希に質問攻めされた。

 確かに誰かと下校なんて珍しいかもしれないが、知らず内に俺の印象ってそんな感じだったと分かるとこっちが驚かされそうだ。

 

 

「それで誰なの~?……もしかして、彼女だったりして!?」

 

「いや今日初めて会ったんだ。それも会ったのだって30分前だから期待してるほど面白い話じゃないぞ」

 

「え~ホントかな~?…でも珍しいよね!ねえどんな人なの?名前は?」

 

「どんな人かも分かりきってないぐらい会話はしてないって……まあでも名前は瑞銀って言って同学年のヒーロー志望だって」

 

「へぇー………ん?ミズガネ?聞いたことあるような…」

 

「?…ああ、もしかして親が有名人とか?絮吏儕ならそういうパターンだと思うが」

 

「うーん──────────あ!!」

 

 

 何かを思い出したようなリアクションをしたと思ったら踵を返してリビングの方へと駆けていった。

 

 後を追って部屋に着くと、菟希は母さんが見ていたテレビのリモコンを借りてザッピングしている。引っ張り出した記憶がテレビからのモノだったら相当な有名人なのか。

 

 

「もしかしたら……………あった!ほらこのCM見て!やっぱり合ってたんだ!」

 

『……肌の潤いは日常を輝かせてくれる 化粧水“マーキュリー”新発売』

 

「急にどうしたの菟希?…ああ『CHABEL』の新しい化粧水のね、女優の“瑞銀美麗”さんが出てるってことで凄い人気になったらしいって聞いたわ 《small》ゴホッ このCMがどうかしたの?」

 

 

 画面に映るその女優は長い銀髪と黒い前髪を持ち綺麗な容姿とスタイルをしている…………、何処か既視感を思わせる見た目だ。

 

 番組を切り替えた途端終わってしまったが、たった数十秒のCMだったとはいえ納得させられるには十分だった。

 

 

「……………………とんでもない人の頼みを引き受けてしまったかもな」

 

「え、マジ!?」

「……どういう状況なの?」

 

 

 

 

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