緋色の英雄   作:kozmo78

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第29話 最終種目ー“願いと因縁”

 

 

 

~~~……決まったーーーッ!!!』

 

『反撃すら許さない猛攻で蟻明を撃破ァ!! 仰木が準決勝進出!!』

 

『これで準決勝の椅子は1つゥ! 鎬を削ってきたこの大会の終わりが見えて来ちまったなーーっ!!』

 

 

 …会場内部から聴こえてきたのは実況の勝者を告げる声。

 

 入場してから10分も経たないでこの結果。

 蟻明くんと仰木はヒーロー科でも屈指の実力を誇る、その2人の試合と考えれば……合点がいかない終了時間の筈ね。

 

 しかし、控室でも観れる画面には想像に違う一方的な戦いが映っていたのは事実。

 

 

「(……終わったようね)」

 

「そっか~……あ~璃亞ちゃーん……じゃあ行こっか?」

 

「そうね。お手柔らかに頼むわ」

 

 

 …簡単に頷いてしまったけれど、婭夏葉の気持ちを想うと気を悪くしてしまったんじゃないかって勘繰ってしまう。

 

 蟻明くんと婭夏葉は親がヒーローと言う共通点を持った幼馴染。

 私と飛威炉の知り合った時間よりも、遥かに長い時間を共にした仲だと婭夏葉は教えてくれた。

 

 そして、今回が2人史上一番の舞台だろう。

 この場で結果を出せば……嫌な考え方かもしれないけど“ヒーロー2世”って生まれながらの重荷に応えられる、そんな想いも有るかもしれない。

 …いや、それ以上に互いに二回戦を勝ち上がって戦いたいって方が強いよね。私が正にそう・・なんだし。

 

────……でも、その想いがハッキリと打ち砕かれてしまった。

 

 …勝負の世界は常に背負わせ続ける話など疾うの昔に理解はしていても、私が同じ境遇に立ったとしたらなんて考えたくもない。

 

 

 

「よォ、2人共」

 

 

 ………と、考えていたら通路の先に戦いを終わらせたばかりのアイツが居た。

 

 熾烈を極めるって考えたその予想を嘲笑うかのように彼の姿は崩れてない。顔に少しの掠り傷を残しているだけで、まるで強敵と拳を交えたようには見えない。

 

 

「仰木くんじゃ~ん。準決勝進出おめでと~」

 

「試合があるから……長話する気は無いわよ」

 

「ホントつれねぇなぁ」

 

 

 …驚いた。私の横に居る彼女は微かに眉を動かすことなく仰木を褒め称えている。

 

 たとえ関係値のある仰木だとしても……仇敵だとも言える相手に笑って話せる?

 

 私なんて勝手に配慮しようと話を切り上げようとしてるのにね、何故だか無性に恥ずかしくなってきたわよ。

 婭夏葉の方が私なんかより女優の娘に相応しいんじゃないかしら?

 

 

「…邪魔する訳じゃねぇしオレからは1つな」

 

「何よ?」

 

「勝ったどっちかとの勝負、楽しみにしてんぜ? ……じゃあなァ」

 

 

 発破を掛けるような、そんな事を言って私達の後ろへと歩いていく。

 

 …どっちかなんて言っておいて、アレは私に向けた挑戦状ね。

 

 何時にも増して仰木の瞳は面倒な方向に燃えている気がする。その訳が飛威炉への闘争心によるモノか、……単純に私を狙ってのモノか。試合の前にわざわざ考える事じゃないし一旦置いておこうかしら。

 

 だって横の婭夏葉の気持ちを考え………──────

 

 

「……こーくん」

 

 

────……ボロボロになって帰ってきた蟻明くんを見ればそうなるよね。

 

 でも、勝たなきゃいけないの。私もね。

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあドンドン行くぜェ?! 準決勝第四試合ッ!!』

 

『ココで推薦入学生同士の勝負になったな! A組の瑞銀 バーサス B組の蝶野ォ!!』

 

『誰が最後の枠を勝ち取るか?! READY~~~……

 

 

 

~~~……STARTッ!!!』

 

 

 試合が始まると婭夏葉はその美麗な翅を生かして空へと飛び上がった。

 早さこそそこまでだけど、柔らかに羽搏く様を見れば捕らえるどころか触れることすら一苦労だと判る。

 

 …そして、問題の鱗粉だ。

 

 雷咲も苦しめられた薄紫色の霧、初めて体験するけどやはり脅威ね。

 視界も悪いし……特に呼吸器への悪影響が凄い。鼻でも口でも息を吸ってしまうと咳が引き起こされてしまう。

 

 ちゃんと対策は考えてきたけどね?

 

 

「ん~何そのマスク。綺麗な顔隠しちゃうの?」

 

「だったらその鱗粉止めてくれないかしら?」

 

「え~じゃあー……無理ッ!」

 

 

 急造だけど、顔の下を薄い膜で覆ってみせた。婭夏葉が例えたようにマスクに似せて窒息しないように小さく空気穴を創ってある。

 

 激しく動けば苦しくなりそうな圧迫具合。…でも存外何とかなりそうね。

 

 

 鱗粉が濃くなる一方で、私の頭を掻き回すように旋回する婭夏葉。

 

 ……思っていた通りに金属製の手を避けられる。生半可な追跡じゃあ楽に往なされるってことは判ってても難しいのは変わりない。

 

 婭夏葉側からも私の防御を崩す手立ては無いからこその膠着状態。

 

 あっちの理想な流れは鱗粉で体力削って長期戦を仕掛けたいってこと、それを私がマスクで逃れてるのだから互いに戦いながら次の手を模索してる時間になってしまった。

 

 

 …そんな時に、婭夏葉がいつもの感じで話し掛けてきた。

 

 

「………ね~?」

 

「どうしたの? 試合中だけど?」

 

「勉強会の時のさぁ、やっぱり怒ってる?」

 

「…怒ってるって何よ」

 

「あの時は皆の雰囲気でそうなっちゃったってのもあるけどさ~やっぱり不躾な聞き方だったと思っちゃうんだよねー」

 

 

 突飛な質問すぎないかしら? 誰もが注目する二回戦の最中に訊く事ではないけど……

 

 あの日の記憶は今でも忘れてないわよ。

 だって……まざまざと教えさせられたもの、私の飛威炉への想いがバレバレだってのが。

 

 隠し通せるって入学前からの目論見が甘かった訳だし婭夏葉が気分を悪くするのは可笑しいのだから、内心を探る位の事で友達を嫌に考えるのは最悪でしょ?

 

 …そうね。こう・・答えようかしら。

 

 

「気にしないでよ婭夏葉、怒っては無いわよ」

 

「…だったら良かったよ~」

 

「でも、言っておくことが有るわ」

 

「んー?」

 

 

 “怒って”はいないの。起こる筈がないじゃない。感謝してるのよ貴方に。

 

 …少しは吹っ切れたその恩を返すには今日のこの舞台、相応しいに決まっているじゃない?

 

 

「……婭夏葉がけしかけたんだから、覚悟してよね」

 

「あれ~? …マズっちゃったかも?」

 

「恩返しよ、受け取ってくれるかしら? “流銀鳥宴るぎんちょうえん はやぶさ!」

 

 

 今回の技は数羽の鳥の群れじゃなく1羽のみ。けど、意識を1つに集中することで操作範囲と速度を伸ばしたモノだ。

 

 “隼”なんて名前は大袈裟だとしても………飛威炉と戦う為ならまだまだ不完全なんだから。

 

 

「ちょっ…ちょっと~手厳しいなぁ……!」

 

「貴方が言ったその人、貴方より速いの」

 

そうだねぇ……!」

 

「私じゃ追いかけるのもやっとなの。でも……追い付かなきゃ駄目なのよ」

 

 

 ひらひらと舞い上がって隼を躱してる。

 

 …見慣れた彼女の微笑みを崩してるのは事実。逃げ続けられるのも時間の問題よ。

 

 肩を目掛けた突撃を間一髪で避けたものの私の隼はすぐに急旋回、その鮮やかで余りにも薄弱な翅を貫かんと飛び掛かり………───────

 

 

────……当然、形を変えて翅を包み込んだ。

 

 翅を奪ってしまえば空を飛び回るなんて事は出来ない。

 

 …勢いを失ってそのまま地上へと堕ちていく。

 

 落下直前で勢いは殺したけど地面に磔にしておいた。芳乃の時の教訓でね、何か隠していようと指先一つも動かせないようにガチガチに固めさせてもらったわ。

 

 

「う~ん……やっぱ流石だね」

 

「芳乃のお蔭でもう油断は無いわ。…降参してくれるかしら?」

 

「ふふっ私も奥の手があったら良いんだけどねぇ……も~こうさーん」

 

『蝶野さん降参! 瑞銀さんの勝利!!』

 

『勝負ありィ!! 最後に準決勝進出を決めたのは瑞銀璃亞だァ!!』

 

『これでベスト4が天蟲 楓馬 仰木 瑞銀に決まりだぜェ!!』

 

 

 ……ふぅ、今回ばかりは素直に決着ついてくれたわね。

 

 

 やっとこの景色まで辿り着いた。

 

 次、勝てば願いは叶うのね。

 

 

 …そう。……“次”勝てば、だけど。

 

 

「(────……ほんの少しで手が届く今が一番息苦しいとはね)」

 

 

 壁って目の前に立った時が一番高く見えてしまう。

 

 …そんなことは生きていれば誰だって実感する筈の真理なのに、歓声浴びるこの瞬間でちゃんと正しいんだなって思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

 

「何だかんだ馴染み深い面子が揃ったなぁ?」

 

「運が良いことにな。……二回戦以前にお前と戦ってたらココには居なかったんだし自分の運に感謝しろよ」

 

「お前がだろ? 相手に普通科引き当てたんだし」

 

「その慢心が鼻につくんだって自覚してないのか? 周りが皆優しいだけってことを1回頭に叩き込んでおけよ」

 

「あ?」

 

「…揉めるんだったら置いてくぞ」

 

「楓馬くんの言う通りよ、折角誘ったのに喧嘩するなら審判に失格にしろって私から言いに行くけど?」

 

 

 璃亞にそう言われちゃ仕方ないか、2人に免じて黙ってやろうか。

 

 …本当に馬鹿だなコイツ。

 六埜との試合を観た上でその思考なら、よくここまで勝ち上がって来れたものだよ。

 

 

 本日5度目だろうか? 控室に戻ってきて準決勝の支度に勤しむこととなる。

 

 実際、全員揃ってこの部屋に来る必要は無いんだけどな。

 まぁ「こうやって同じクラスの4人が勝ち上がったんだし一緒に話しながら行きましょ?」なんて璃亞に誘われたら断る筈が無いんだが。

 

 壁に掛かった時計を見ると………おっと、そろそろ時間も近いな。

 

 

「まぁ最初は俺らだ。楓馬、宜しくな」

 

「…再三に亘るリベンジだ。鬱陶しいと思ってくれるなよ」

 

「勿論だ。ってか純粋な1対1はまだだし一度も決着ついたとは思ってないな」

 

 

 第一試合は俺と楓馬。

 …どういう巡り合わせか基礎学でも体育祭でも楓馬と勝負する場面が多いんだよな。

 

 どれも苦戦した記憶しかないのだから、俺が経験してきた中でも“難敵”なのは明白だよ。準決勝のマッチアップとして不足ない相手だな。

 

 

「んで、次はオレ達だな。楽しみだぜ? 璃亞」

 

「ハイハイ……挑発は受けてたんだから容赦はしないわよ」

 

「挑発ぅ? へっ、そんなつもりは無かったんだけどなぁ?」

 

 

 第二試合は仰木と璃亞。

 判ってはいるだろうが……璃亞にとっては誰よりも厳しい相手だろうな。

 

 アイツの評価してる部分は戦闘能力だけ、しかしその評価を他の糞みたいな要素で濁る程に生半可な話じゃないってのは嫌でも理解してる。

 分があるのは────……いや考えないでおこう。勝負なんて第三者が展開を占っても意味ないからな、戦ってる本人が全て変えられるんだよ。

 

 

 ってか聞き捨てならんことを口走ってないか?

 

 

「……何があったんだかな」

 

「別に大したことじゃないわよ?」

 

「“大した”ねぇ、オレにしちゃあお前らの方が何か隠してるようなもんだけどな? なぁ楓馬?」

 

「…いや、部外者が詮索するような話じゃないだろ」

 

「おぉ楓馬ってそんなノリかぁ。思ったより理解・・があるようで、ハハッ」

 

「面倒な絡みしてんじゃねぇよ。もう試合だし行くからな?」

 

 

 どうせこの話を続けてもそのにやけ面を辞めないなら遮った方が良いな、試合前に選手の気分を悪くするんじゃねぇよ。

 

 念願叶って璃亞が叩きのめしてくれるのか、将又………どんな未来を迎えるかは判らないしそもそも俺がココで勝たなきゃならんな。

 

 勝てば決勝、負ければ約束を破って仰木からも笑い者にされるってとこか。

 

 …気合入れるには十分だよ。

 

 

「決勝で誰と戦れるか見物だなァ? オレの理想は白髪の阿呆が泣きじゃくる姿だわな」 

 

「無いな。たとえ負けようが晴れ晴れとした顔で帰ってきてやるよ」

 

「飛威炉? 試合前に負けることを考えないでくれる?」

 

「そりゃそうか。…よし、お互い頑張ろうぜ楓馬」

 

「あぁ」

 

 

 挨拶を残して、さぁ戦場へと向かおうか。

 

 俺以上に緊張してくれてる璃亞の為にも早い内にその肩の荷を下ろしてやらないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

『来たぜ来たぜェ準決勝!!』

 

『残り試合はあと3つ! 決勝への切符は誰が掴むのかァ?!』

 

『まずは準決勝第一試合、組み合わせはコイツらだーッ!!』

 

『天蟲飛威炉 バーサス 楓馬康長ァ!!』

 

『2人ともォ準備は良いかァーー?!!』

 

『…プレゼントマイク、仕事取らないでよねー?』

 

『おーーっとソーリー?!』

 

 

 本来主審であるミッドナイトの仕事を実況が奪ってしまったようだ。まぁ俺らからすれば誰がしようと構わないか。

 

 正面に立つ楓馬は……普段以上に殺気立った雰囲気だな。

 

 古傷に塗れても尚端正な顔立ちに、隠した勝負に懸けるその熱情を知っているからこそ。

 …何を仕掛けてくれるんだって期待してしまっているトコロもあるな。

 

 

『じゃあ行くぜェ? READY……~~~~

 

 

~~~……STARTッ!!!』

 

「…“楓馬流 櫛風迅籟しっぷうじんらいの術”」

 

 

 何かを唱えたと思ったら────……まるで蜃気楼のように景色が霞み始めた。

 

 楓馬を渦巻くように纏い始めた風、それ自体はいつも通りだが今回のはが余りにも違うな。

 形容するなら人間1人を小規模の竜巻が包んでいるようだ。

 

 初っ端から奥の手か? …受けて立つさ。勿論な。

 

 

「……古い時代、忍者としての楓馬一族は“伏せて疾く”が家訓だった。…隠密に、そして一瞬で敵を屠る為の修行は当たり前………」

 

「ってことは負けたら俺は死ぬって訳か?」

 

「手を汚すつもりは無い。…殺す気でやらねば勝てないと言うだけだッ!」

 

 

 時代は違えど手練れの暗殺者とかを敵に回すとこんな感覚なんだろうな。

 

 纏った風で朧気にしか姿が見えなくとも、研ぎ澄まされたその眼差しと全てを切り裂きかねない圧力が………俺の首を奪りに来たか。

 

 俺を殺す気の相手と戦るのは久し振りだなオイ。

 中学生の時のあの記憶が何故だか懐かしくなってしまうよ。

 

 まぁ……そんな殺意を寄越してまで狙う程に楓馬との因縁を作ったって思えば良いのかもな。

 俺も昔と比べて変わったものだ、ここまで勝負にこだわってくれる友達クラスメイトが出来るなんて。

 

 

 

 ………………ん? あぁアイツも居たか。

 

 …仰木も倒すべき相手だってのは一応認めておいてやるよ。

 

 

 今は誠心誠意、目の前の相手と戦わなきゃな。

 

 

 

「三度目の正直、許してやるもんかよ! 楓馬ァ!」

 

 

 

 

 

 

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