緋色の英雄   作:kozmo78

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第30話 最終種目ー“嵐を穿つ”

 

 

 

 

~~~~……こりゃトんだサプライズだァ?!!』

 

『これまでの種目全部ゥほぼ危なげなく突破してきた天蟲飛威炉ォ!!』

 

『遂にやって来た準決勝! 優勝候補の一角、楓馬とカち合ってぇーーー………

 

 

「……っ…痛……ぇな」

 

「──────………」

 

 

~~~……これ程までに苦戦するとは誰が予想したァ?!!』

 

『服共々ボロボロに! 波乱を極めるこの試合ィ一体どうなっちまうんだァ?!!』

 

 

 …またかよソレ。そもそも俺、結構どの種目でも苦戦してるんだけどな。大それた約束だったって決勝行く前に見限れてる可能性もありえるか?

 

 なんて、考えても血に滲むこの腕が癒される訳もないな。

 

 季節外れの台風が俺を襲ってこの様だよ。試合の流れを掴んでるのがどちらか、誰が見ても一目瞭然って状況だ。

 

 俺が放つエネルギー弾は楓馬の“風”に悉く阻まれている。…いや実際はアイツが大概の弾を避けて命中したのも数え切れる位なんだが。

 これまで放ったモノじゃあの風は貫けない、しかし威力重視で行くと簡単に避けられる弾幕を張るだけで無駄な体力を消費するのみ。

 

 ……全く、骨が折れる相手だな。

 

 

「(幸い………遠距離攻撃無いってのは助かるな。近接主体って事で良さそうだ)」

 

「痛がってるトコロ悪いがまだ終わってないんだが……?」

 

「フッ、五月蠅い位に風吹いてるのに視えてるもんだな」

 

「…減らず口は変わらないのか。あんなに揉める割には仰木と似てる」

 

「それは────……とても嬉しくねぇな!」

 

 

 馬鹿みたいに挑発に乗って距離を詰める。

 

 遮蔽物も無しに速度で勝る相手に特攻を仕掛けようと、脈絡も無い只の蹴りがスカされるのは当然だよ。

 

 渦巻くその膜にすら掠らず得られた見返りは首を掻っ切ろうとするその手か

 

 …致命傷に至らずとも完全な回避は出来ない。既にボロボロになった服越しに肩を切傷は生まれてしまう。

 

 

「痛……(っ蹴り掛かろうが無駄か。不意打ちでもないとな)」

 

「初めて戦った後からどう倒すか考えてきた。…この術は最大出力を当てでもしない限り破れない、勿論………当てられるかは別だが」

 

「ハッ、そりゃ同感だ」

 

「今の俺なら天蟲にだって止められない。…そう証明してやる」

 

 

 温度差も感じるその声はコンクリートで地面を削って出来た砂塵を巻き込んで景色に溶け込んで消えた。

 光学迷彩が如く、自身の姿を透明化させたって事ではない。楓馬が隠れた小さな竜巻は風切る音を残して俺の周りを旋回している。

 

 目視で追えなくとも聴覚を研ぎ澄ませば────……で補足できるなら俺の身体は今ほどボロボロになってない。

 

 

「(幾ら音で追えるっつっても戦闘中なんだから限界がある。歓声が煩いってのもあるし)」

 

「(速さは……俺の人生トップだよ、現役ヒーローにだって引けを取らない)」

 

「(第一な問題は身体にも触れさせない風の密度。生身で近接挑むのは自殺行為だ)」

 

「────……“風遁 樺舞裁かまいたち”!」

 

「くっ………!?(ッチィ…右か! もうジャージがボロボロなんだがな)」

 

 

 人間の指なら楽に千切る風を纏った腕が刃のように俺のすぐ横を振り払われる。

 間一髪だった。運が悪ければ命奪られる一撃だったぞ? …『殺す気で挑む』ってのは嘘じゃないらしいな。

 

 ……兎も角、何か手を打たなければ。

 

 

「(しかし結局、最大出力を食らわすにも溜めと緩急の無さを考慮したら当たる筈もない。さてどうするか?)」

 

「(あの風のせいで掴めない。機動力頼りの場外勝ちは不可能だ)」

 

「(『触れもしない相手に大雑把なエネルギー弾を真芯に当て、風を貫いて威力そのままに場外勝ち若しくは戦闘不能を狙う』……加えて現状は俺より速いって事もあるか。厳しい条件だな)」

 

「(……まぁ、そういう無理な道を意地でも進む為に頭使ってみるか!」

 

「…逃げ回っても無駄なこと!」

 

 

 カウンター狙いの身構えを解き、楓馬がやってきたみたいな空中旋回へと俺も飛び立つ。

 

 戦闘可能な空域も定められてるのだから追う必要も無い。…だとしても楓馬が俺の後を追うのは判っていたさ。

 地上で待ち構えるよりもスピードで劣る相手を追い掛け回す方が有利に運べるもんな?

 

 

『オイ速すぎんだろ!? 眼で追えねぇぜ?!』

 

『しかし楓馬の方が速いっぽいな! 飛行アリの鬼ごっこも鬼有利に進むのかァ?!』

 

「(加速し続えてもなら追いつかれんのは判ってる。背中を一刺ししようって時に………今だ!」

 

「っ!?────……甘い!」

 

「糞っ、こんな緩急じゃ無駄だったか!)」

 

 

 減速もせず足のブーストを手の放出で逆らって急転回、隙を突いて“Detroit BLASTER”を食らわそうと振りかぶって────……狙い定めようとも即座に視界から姿を消していた。

 

 間一髪で真上に居るのに気付いて避けはしたが、俺が出来たのはソレだけだ。

 

 策を講じても不作に終わる。今のままならいずれ体力尽きてお陀仏だな。

 流石に死にはしないだろうけど………未来予想図に描かれた俺の想いとしては死にも等しい結果が待ち受けている。

 

 

~~~……やるしかないか、切り札・・・

 

 

「(………仕方ない。本当は決勝に取っておきたかったんだがな)」

 

『正に防戦一方ォ! 準決勝で優勝本命が潰えてしまうのかァ?!』

 

「(…控えてたのは手抜きなんかではない。短時間でも負担がキツい)」

 

「もう反撃も無しか? 天蟲ならその程度の傷で……諦める訳が無い」

 

「(楓馬だって俺を見くびってる筈ないもんな、不完全燃焼で終わらせないようにしっかりと痛めつけてくれんだろ?)」

 

『~~~……何だァ? 天蟲が場内中心で立ち止まってんぞ?』

 

 

 一度空を見据えて、楓馬と目を合わす事無く目を閉じる。

 

 …この技は母さんのあの一件から考案はしていた。

 

 俺達が持つ“コア”は身体機能の一部に過ぎないのだ、急に火力を高めて発動しようものなら他の臓器に悪影響を及ぼす。

 しかし溜める準備動作は予断を許さない戦闘においては命取りになりかねない。

 

 

 ならば……この『個性』を“常に”発動しておけばいい。

 

 瞼の裏で心臓に帯びる熱を身体中に張り巡らすようにイメージして………──────

 

 

──────……“Energy-FullCowlエネルギーフルカウル!」

 

「っ何だ………?!」

 

『ちょっWhat's!? どっかの漫画みたく光り始めたぞ?!』

 

「“纏う”のは楓馬だけの専売特許じゃない。…さぁ行くぞ!」

 

 

 淡くだが肌から朱白い光が放たれる。加えて、本来は放たれるだけだった熱源エネルギーが手足を覆うように留まり続けている。

 

 観客席からは面白いモノ見た!と言わんばかりのどよめきが広がっているが……当の俺自身はコレを維持するので精一杯なんだよ。

 扱っている量は全体の10%、“Detroit BLASTER”1発にも等しいのにこの状態を我慢するなど身体に害ある行動に変わりない。

 …突っ立ってるだけだとただ辛いし反撃へと移るか!

 

 1つに、常時放出することで飛行ではなく浮遊。即ち重力は無視できる。

 

 プラス、強引に心臓バクつかせて身体強化。血液が沸騰したみたいに熱くなって脳も冴えてきたよ。

 

 ってな訳で───────………

 

 

「………っく…!」

 

「…まず速さは追いついたぜ?」

 

 

 もっと空に逃げようたって許さねぇよ。今の俺なら二度と置いてかねぇからな?

 

 そして……“Energy-FullCowl”で得たのは速さだけじゃない

 

 

「その風で受けた分、倍返しでくれてやるよ!!」

 

「────……ぐぅ…っ!?(風を貫いて……!?)」

 

~~~……っと、もう俺も斬られねぇよ?」

 

『ッッッッ天蟲渾身の拳がクリーンヒット! 勢いそのまま場外に叩き付け……いや地面にキスとまでは行ってねぇみてーだァ!!』

 

 

 俺越しに見下ろしてた地上へと引き摺り下ろしたつもりだったがまぁそう簡単にはいかないか。上手く風を逆噴射して勢いを殺したようだな。

 

 しかし、見返りは十分あった。

 

 生身で纏った風に突っ込んでも切り裂かれるだけ、そこを乗り越えるには俺自身も防御策が必要だった。

 “『個性』の常時使用”。楓馬と全く同じ考えだからこそ難題を覆す数少ない手段に成り得たんだ。

 

 

 …俺の拳が腹に重く入ったお蔭か、立場が逆になったで済む状況でもなさそうだ。場外を回避したアイツを渦巻く風が当初のモノよりも霞んでいるように見える。

 

 

「………!」

 

「…その風、一度綻ぶと密度が落ちるって感じか?」

 

「っ……どうだろうな」

 

「なら勝ち筋が────……視えてきたな!」

 

「……っぐ…ぅ……!」

 

 

 有無を言わせずに追撃だ、また隙を見せたら何を仕出かすか堪ったものじゃない。

 

 楓馬からの反撃はあれど万全な状態とかけ離れた鈍さでしかない。防御に備えるか弱い腕であれば簡単に無視できる。

 

 

 …恐らく、“自分を渦巻く風を生み出す”んじゃなく“全身の神経使って風を操作し続ける”技だろ?

 

 だからこそ負荷が掛かるとズレが生じやすい………まぁ魔法じゃあるまいし完全な防御って難しいよな。世の中魔法染みた『個性』も在るっちゃ在るけども。

 

 

 殴り合えば反射速度に勝る俺の方が軍配が上がる、次第に肌に感じる風圧も弱まってきた。

 

 だが試合が優勢に進むだけじゃ終わらない。

 

 ……終われないよな? 死に物狂いで俺目掛けて振るう風の刃が証明だろ

 

 

「……“風遁 樺舞裁ち”!」

 

「そう何度も斬られるかよ! “Texas BLASTER”ァ!」

 

……はぁ……っ…………っまだだ!!」

 

 

 痛った……顔まではエネルギー出せないから防げねぇんだよ。

 

 しかし、互いに致命傷を避けて戦っても決着はつかないな。もうそろそろ終わらせようぜ?

 

 

 …回避された未来なんて考えるな。

 

 この身を駆け巡る血液に意識を集中しろ、脚のブーストだけじゃなく全身で加速を生み出すんだ。

 

 

 目の前の楓馬は────……正に竜巻の如き威圧感だな。

 

 これまでで一番だ、吹き荒ぶ烈風が甲高い音を立てて向かってくるこの俺を食い散らかそうとしてる。

 

 

 

──────………さぁ、勝負だ。

 

 手練手管も必要ない。正面突破で決着つけようか

 

 

 

 

 

「“Carolinaカロライナ BLASTER”ーーー!!」

 

「“風遁 天狗颪てんぐおろし”!!」

 

 

BOOOOOOOOOOOOM!!!

 

 

『っ軽い天災じゃあねーかァ?!!』

 

『あーーっとォ実況が自暴自棄になっちゃいけねーな!!』

 

『勝敗分ける一騎打ち!! 砂埃舞う中でどっちが立ってるか~~~~

 

 

 

 

 

 

────────…………一瞬じゃあ確信は出来ないな。

 

 

 

 だが、十字に重ねた両腕に確かな感触は残っている。

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……───────

 

 

 

『~~~……楓馬くん場外! 天蟲くん、決勝進出!」

 

 

 

 

 

 はぁ~~~~………まぁ…何とか勝てたな。

 

 

 少なくとも、約束の有る2人……強いては因縁のアイツに顔向けできるトコロまでには辿り着けたか?

 

 …ちょっと想定以上に無様な姿になっちまったけど。

 

 

 

 

 

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

 

「おお、暫くぶりだな」

 

「………おめでとう。飛威炉」

 

「どうも。お先にってとこか」

 

 

 …1回戦終わり以来だな、璃亞が迎えてくれるのも。

 

 あの時と違うのは璃亞の試合がもうすぐに迫っていること。

 現に先程対戦相手である奴とすれ違ったんでな。珍しく気迫の籠った雰囲気を醸し出してたし、次の試合は仰木にとっても思うトコロあるだろうな。

 

 そして、璃亞の視線が向かう先に………まぁ誰が見たって万全な状態だとは考えないよな。

 

 

「…顔もそんなに傷増やして、ちょっと腕見せなさいよ」

 

「腕? ほら」

 

……よく勝てたわね」

 

「ホントな。次の試合前に1回着替えといた方が良いか………」

 

「まずその怪我直してもらいなさいよ。外傷は無理でもリカバリーガールに見せて、コレは命令だから!」

 

 

 うーん……そりゃ勝ったからって許しちゃくれないか。

 

 振り返ってみればかつてない程に死闘だった。

 

 楓馬を侮ってなど微塵もしちゃいなかったが、試合が終わった後の互いの状態で比べれば勝敗の判断も出来ないんだろうな。

 俺の人生で傷のせいで歩くのにも苦労するのは今日が初めてだ。

 

 そう促されなくとも治療には行くけど………気懸かりはあるんで話の種としては二の次の話題だ。

 

 

「判ったよ……だが手短に終わらせるさ。試合はちゃんと見たいし」

 

「そうね────……やっと、ここまで来たのね」

 

「何だ? …今になってまた実感し始めたのか」

 

「煩いわよ? ナイーブなタイミングで一々冷めること言わないで」

 

「ハッ、そりゃ申し訳なかったな」

 

 

 医務室で会った時よりかは幾分かマシな顔つきになったな。

 

 冗談でもついてリラックスさせようと思い至ったのは無駄だったようだ。璃亞の瞳に宿した戦意は他人が心配する程には濁っちゃいない。

 

 

「…仰木とさっきすれ違った時に話してたけど、何言われたの?」

 

「いや別に……気にする程の事じゃねーよ。詰らない言い掛かりみたいなもんだ」

 

「ふーん………あっそ」

 

「もう俺と話してる場合じゃないだろ? まだ不安なら手前まで付き添ってやるぜ」

 

 

 オイ、返答も無しに去るんかい。

 

 

   『先越されたのは癪だが~……首洗って待ってろ』

 

 

 …次に戦う相手に向けたモノでもない挑戦状なんて伝える必要も無い。

 

 

 今日ずっとそうだったが個人戦である以上、俺の望みの為でも璃亞を信じるしか出来ないんだ。

 

 だから────……光が差し込む先へと向かう背中に呼びかける。

 

 

 

「璃亞! ………頑張って来いよ」

 

 

「───────………うん」

 

 

 

 頷く声も歓声に搔き消えて再び離れ離れになる。

 

 

 …また会えるその時に、笑顔で帰ってくる事を願って。

 

 

 

 

 

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