緋色の英雄   作:kozmo78

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第34話 プレゼント

 

 

 

 

 …やはり、地上の方ではまだ喧騒が鳴り止まないな。

 

 今日の熱狂は夕日が差し込む位で終幕を迎える筈もない。

 校舎へと戻る道程で何人のスカウトを見掛けたか、HRホームルームを抜け出して身を潜めていた俺に気付いて後を追う奴も居た気がする。

 

 “優勝”の肩書を引っ提げた俺への称賛、有難いようなソレを切り捨ててまで俺が向かった先は………敷地内に存在するVIP用の地下駐車場。

 『この場所に来てくれ』と父さんが連絡したから来たって訳だ。

 

 

「乗ってくれ」

 

「向かう先は何処なんだ?」

 

「ARC本部だ。目的は……解ってるよな?」

 

「…………あぁ」

 

 

 呼出理由はどうせ説教と治療目的の検査だな。…普段も眉間に皺寄せたイメージだが笑顔の“え”の字も無い顰めっ面を見れば馬鹿でも心情を窺い知れる。

 一応、俺って優勝してるんだよな?

 

 まぁ覚悟はしてた。その証拠に事前に璃亞に連絡残したんだが。

 …しかし、変に誤魔化したのは失敗だったな。プロヒーローにスカウトされてるって適当に取り繕おうと賢いアイツなら解っちまうんだろうな。

 偏に、璃亞に嫌な心配させちまうのを怖がったって表れだ。

 

 

 促されるがままに黒塗りのリムジンの扉を開けたら………

 

 

「あ! 来たね飛威炉クン!」

 

「…栗衛さん、いらっしゃったんですか」

 

「そりゃ勿論! おっとまずは優勝おめでとー、だね!!」

 

 

 座席に居たのは栗衛さんだ。先程の熱気そのままに乗車してきたからか、乗り合わせるのを知ってた筈なのに俺を見るなりハイテンションで褒め称えてくれた。

 

 サポートアイテム会社の代表という立場上、俺より上の世代の若い芽に戦闘服やらの奔走した方が里のある状況。

 特に3年生は次世代のトップヒーローを輩出する可能性も大いに存在する。世間での認知自体はそこまで浸透してないとは言え、1年生の何人かに提供されたサポートアイテムで希望ニーズに沿った制作はお手の物だと証明できる。

 

 そんな贅沢な存在をある意味で独占してると考えると、まぁ頑張った甲斐があるってモノだな。

 

 

「どうも。…これで約束は果たしましたよ」

 

「いや~ホントにね! いやさ、別に疑っちゃいなかったけどさーいざ現実となるとビックリしちゃうもんだね! 先輩もそう思────……

 

  「の顔見てもそう思えるのか?」

 

~~~……は、は~いお口チャックしときま~す………」

 

 

 …上機嫌な栗衛さんを黙らせるには十分すぎる雰囲気だな。

 

 父さんは普段からずっと真面目だ、俺よりも遥かにな。

 家庭内の会話だって公私弁えたような言葉遣いで生活してる。

 

 『俺』……と、一人称を崩すパターンは大体が俺にブチ切れた時のみだ。

 

 

「飛威炉」

 

「……はい」

 

「よく頑張った」

 

「…え」「お!」

 

「頑張ったという1点“だけ”褒めておこう」

 

「………」「やっぱか~」

 

 

 一度、醸し出てる怒気を疑う褒め言葉で困惑して……逆にその台詞を聞けて安心したよ。

 

 俺と、『ヤバっ黙っておこ……』ってリアクションをしながらに口を噤む栗衛さんと、対面に座って怒りの矛先を静かに睨む父さん。

 “優勝すれば好待遇の契約”。約束が俺たち3人を繋ぎ合わせたのだ。何も知らない誰かが聞いていれば、優勝者の身内なら今この瞬間は手放しに喜ぶべきだと言うだろう。

 

 …しかし、父さんからすればソレ・・が過去のトラウマを刺激するような状況を創ったのだと考え至るのだ。

 

 

「…もしや前回取り決めた約束のせいで決めつけたのか? あの状態で戦おうとも戦闘服さえ出来れば今回限りで済むから負担を考慮せずに戦う」

 

「(そう考えるよなー……一言一句その通りだ)」

 

「『戦った相手が強かったから』……なんて言い訳は言語道断だ。人間に設けられた限界リミッター、『個性』にも当然に存在するなどお前なら理解してただろ?」

 

「(1分も経たせずに終わらせたから────……は、火に油を注ぐだけか)」

 

「…終わった事にケチつけるようで忍びないが、正直約束の件は後悔してる」

 

 

 走行音と微かな街の喧騒だけが響く車内で、父さんから冷たく告げられたのは反論しようもない後悔の言葉だった。

 

 ……そりゃそうだ。現に試合直後の俺は死に体に近い姿だからな。

 冷め切った胸のコアも気怠さしか残ってない身体も安心に足る材料に成れなさそうだ。

 

 

 

「だが、ああいうのが飛威炉だとも把握してる」

 

「……口答えできる立場じゃないけれど俺は変わる気は無い」

 

「だろうな。…本当に、誰に似たんだかな」

 

「先輩でしょ」

 

「口の留め具は何処に失くしたんだ?」

 

 

 隣に座る栗衛さんはもう開き直って口出しし始めてる。付き合いが長いお蔭か俺と同じ意見らしいな。

 母さんから何百回も父親譲りって言われた憶えしかない。

 

 仮に“あの”決勝をやり直そうと────……どの世界線だって俺は同じ道を辿ると確信してる。

 

 約束とかハッキリ言って二の次だった、今日の流れがあって決勝の舞台で仰木と巡り合ったんだったら全力を以って叩き潰す他ないだろうが。

 プロヒーロー目指す者としては相応しくないと理解した上で言うけど清々しい気分だ。

 

 表情こそ緩む素振りも無いのに今以上に叱る様子はない。

 だったら、その寛大な優しさに付け込ませてもらおう。

 

 

 ………暫く今日の体育祭を振り返っていたら、

 

 

「────……久悟様、尾けられています」

 

「誰か分かるか?」

 

「マスコミではなさそうですが……後方のカメラ映像をお見せします。画面の4番目の車両です」

 

 

 不穏な告げ口だ。そんな当たり前みたいな感じに言う事か?

 

 車に揺らされてる身としては何の実感もない。しかし……余りに急な言葉にも動じず映像に目を移す2人に現実感が増してきたな。

 俺もソレに倣って画面を見ると、確かに赤と青が基調のスポーツカーが見えるな。

 

 

「ん~~……オールマイト型番モデルの奴? それも20周年プレミアムじゃん! 余程のファンじゃないと入手すら叶わない代物、まぁ尾行目的にしては変だけど………」

 

「私め、久悟様のような“人目を集める方”の御身を保護する運び屋でございます。どの様な衆人環視や追跡なども躱す自負があります。………ですが」

 

「そんな凄腕の運転手でも追ってみせてるってこと?」

 

「恐らくですが」

 

 

 曇りない返答に少しの沈黙が出来た。

 

 …まぁ理解できない話でもないか。

 『個性』が基準の超常社会であり、高次元工業社会。困難な追跡も可能にする『個性』も工業技術も現代では可笑しくない話だからな。

 

 疑問なのは酷く派手な車種。アレじゃ誰でも目で追うだろ。

 AAmamushiRRescueCClinicの本部目指しながら追跡を躱す為に入り組んだ道を選んでも尚、一定の距離を保ったまま引き剥がせない………ってのが嫌でも目に付くからすぐに気付けるな。

 

 

「面倒なことになるかも、ですね先輩?」

 

「っ……いや、振り切らなくていい。このまま向かってくれ」

 

「え!?」

 

「心当たりがあるのか?」

 

「承知しました」

 

 

 予想外だったな、通報も無しか。

 

 普通だったらあんな身元不明の追跡車、安全執って路肩に停めるべきだ。

 …父さんの反応的には何か知ってる風だな。

 

 

「誰ですか?」

 

「後で判る」

 

「え~………」

 

「(知り合い、ってことは十中八九プロヒーローだな)」

 

 

 教えちゃくれないか、じゃあ誰だ?

 

 どうせ目的地に辿り着けば解るのに無駄に考えてしまうな。

 第一候補はマスコミか? 俺たち親子が一緒に居るってだけで集る状況ではある。矛盾点は車種との整合性が取れないってとこだな。

 じゃなきゃ俺のスカウトなんだが……そもそも何故バレた? 3人の何所かにGPS発信機でも付けてんのか────……

 

 

「あ! 飛威炉クン疲れてるでしょ、着くまで寝てていいよ?」

 

「ん、いや良いです。今寝たら起きれる気がしないんで」

 

「駄目だ。寝ろ」

 

「えー………」

 

「声掛けて起きなければそのまま検査するだけだ」

 

「…寝てる内に家に帰すとかは辞めてくれよ?」

 

「大丈夫! ワタシが起こすから、ね?」

 

 

 ……だったらその厚意に甘えさせてもらおうか。

 

 幸い、寝やすい環境は整ってるんだ。

 座席に背を預けて目をつぶってしまえばすぐに……──────

 

 

 

 

 

 

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

 

  「飛威炉ク~ン起きてー」

 

「………ありがとうございます」

 

「目覚め良!?」

 

 

 よし着いたか。

 外はもう暗くなってき……いや屋内か、ココは何処だ?

 

 駐車場ではあるんだろうが少なくとも俺が来たこと無い場所だな。奥の方見たらしっかりと“関係者以外立入禁止”と記されてるし当然ではあるが。

 暗がりでも気付く程のハイテク設備、それも医療機関には似合わないヒーローが乗りそうなスーパーカーばかりだ。

 

 …ほぼ情報も無く連れてこられたが、早くも場違い感があるな。

 

 

「一般男子高校生が入って良い場所なのか?」

 

「君にはその肩書は似合わないよ? “緋色のスカーレットヒーロー”くん?」

 

「ありましたねソレ……プレゼントマイクも気が早いというか…」

 

「同感だ」

 

「タイミングばっちしですって! お蔭でワタシの株も鰻登り間違い無しだからね!」

 

「……ここは“ARC本部 K8区域”だ」

 

 

 照明が点くと部屋全体を把握できた。…こりゃ凄いな。

 

 

「ワタシの会社の為の部署だね! 最近出来たばっかりだけど」

 

「飛威炉の帰宅はこちらで手配する。ご苦労だった」

 

「ご利用いただきありがとうございます」

 

「無視ですか?!」

 

 

 俺が見渡してる間に送迎サービスのリムジンが帰っていった。

 

 ってかイメージのモノよりも短いとは言え、あの車体の長さでチェイス専門だってのが面白いな。実際マスコミとかの心配は無さそうだから感謝すべきか。

 

 だがそうだな、先に問題のアレ・・は解決してほしいトコロだ。

 

 

「そろそろ来るか────……」

 

「結局誰なんだか……あ、来た!」

 

 

 感知センサーに反応したのか、どうやら辿り着いたようだ。

 

 気になるな、誰が乗ってるんだ?

 今日のあの俺を叱る位には慎重な性格なのに逆にここまで呼び込んだんだ。導き出せるのは父さんが信頼を置く存在。

 

 映像で見た通りの車から降りてきたのは────……

 

 見た目は普通のサラリーマン、眼鏡を掛けた緑髪の七三分けだ。

 …俺でも知ってる有名ヒーローだな。

 

 

  「…尾行など、見苦しい真似をしてすまない」

 

「え!? 貴方は……──────

 

「サー。ならば早くに連絡を寄越すんだったな」

 

「賢い先生であれば断ると“視えてた”ので。…そうでしょう?」

 

 

 “サーナイトアイ”。『個性』は確か……“予知”だったか。

 

 その特殊な能力とオールマイトの元サイドキックという経歴は疎い俺でも記憶に残る程度の知名度を博す、そんな人が尾行か。

 まぁ“予知”があるなら何処に逃げても追い付けるし謎は解けた。

 

 …近付いてきたらすぐに俺を睨んできた。やはり要件は俺か?

 

 

「君が天蟲飛威炉か」

 

「はい」

 

「体育祭での活躍、確と拝見した。所用で君に話がある」

 

「…その話は中でしよう。入ってくれ」

 

 

 威圧感ある喋りを遮って指差したのは奥の通路。

 サーナイトアイも素直に従って進行方向を曲げてくれたようだ。

 

 おっと、俺もついて行かないとな。

 

 

 しかし…………静かだなココ。

 

 ARCは24時間営業だ、負傷者が出ない時間なんて存在しないからな。

 基本的には病院所属のヒーローや医者で忙しなくしてる筈なのに、青白い壁に囲まれた通路を歩いてるこの時間でコール音ひとつ鳴り響かない。

 

 こう静寂が続くと隣りの栗衛さんは黙ってられなさそうだ。

 

 

「ヒソヒソ 先輩? 一応ココって極秘だった筈ですけど?」

 

「サーは見知った仲だ。共有してある」

 

「じゃあ言って下さいよ!」

 

「栗衛社長、御社のサポートアイテムは我が事務所でも使わせてもらってます」

 

「ホント!? いや~サーナイトアイ程の有名ヒーローに使ってもらえるなんて光栄です!!」

 

 

 チョロいな。ソレで手の平返すのかよ……

 

 国内最大手の極秘施設に来てるってことか?

 あの約束がここまで飛躍するとはな。延いてはサーナイトアイまでも絡んでくるって最早仮免すら所持してない高校生が関与していい話題じゃなくなってきた。

 

 

 

 栗衛さんが嬉しそうに質問攻めをしてる内に、また新たな扉か。

 父さんが連れて来たかったのはこの奥のようだな。

 

 指紋認証を含む二段階認証と鋼鉄の扉………余程の設備がこの中に隠されてるのは明白だ。俺の検査の為に治療室へ、とは考えてる筈もない。

 KURI8が関与するのなら約束の件か? いや出来るの早過ぎだろ。

 

 解錠を告げるアナウンスと共に扉が開き……───────

 

 

「…………っ!」

 

「まだ準備中だけど、もう作っちゃってたんだよね!」

 

「…コアの検査もやるが先に見せておこう。『個性』や身体能力などを解析して調整を重ねた結果、飛威炉が12歳の時から研究していたモノが遂に形になった。コレが────……

 

────…… “機動装甲服アーマードスーツ”だ」

 

  

【挿絵表示】

 

 

 

 無数の管が纏わりついた黒色の機械。雄英でも存在するAI搭載の自律ロボットに近いか?

 …一目見ただけでプロヒーローが装備する、一般的なパワードスーツのレベルを優に超える完成度だ。

 

 俺が被服控除で提案……いや、妄想した戦闘服コスチュームと瓜二つのモノが其処に居た。

 

 

「高性能AI & 燃料変換炉エネルギーリアクター & 4つの武力装甲 搭載! …まぁ現状それだけしか機能無いんだよね~」

 

「『だけ』では絶対にないんですが?」

 

「飛威炉が被服控除で申請した分の3割に満たない、完成するには2~3年は掛かる想定だ」

 

「…仮免も所得してない生徒に提供するレベルかどうか話は私も既に行った」

 

 

 サーナイトアイも知ってたのか。…もう気にする状況じゃないな。

 

 約束の日よりも昔に制作してた、ってのが始に驚くわ。

 俺が雄英に入学する保証も無いのに何故? 場合によってはヒーロー科の存在しない高校を選択する可能性もごく僅かに在って………いや、息子を信じたって訳か。

 

 KURI8の技術力にも失礼だが驚いたな。

 被服控除のは単なる俺の妄想だ。叶うにしても現時点の訓練で装備してるガジェット型のサポートアイテムで充分だった。

 たかが3年と少しで出来るとは、手に余る褒美だな………。

 

 

「検査後に試運転をするつもりだ」

 

「触って良いのか? ……え、マジでか」

 

「おっクールな飛威炉クンも流石に興奮してくれたかな? 開発者冥利に尽きるね!」

 

「他に話はあるが………まず先にサーの要件だな」

 

「戦闘服の話に踏む込む気は無い。手短に済ませよう」

 

 

 正直、検査をさっさと終わらせて試したい気持ちが強い。

 

 しかしサーナイトアイの存在は無視できないな。

 …何か嫌な予感もする。今日をこのまま良い想いしたままで終われないんだろうな。

 

 

「薄々勘付いてると思うが、スカウトが目的だ」

 

「…その為にここまで足を運んで下さり感謝します」

 

「雄英がスカウト目的の過度の追跡を禁止していなかったか?」

 

「校長には話を通してます。この部署の存在を把握してる数少ない方です」

 

「全然極秘じゃないじゃん……」

 

 

 項垂れてんな、子供っぽいトコあるし秘密基地に憧れでもあったのか?

 

 数少ないとは言うがまず怖くなってきた。内々の話が自分の知らない内に根津校長の耳にまで届いてるってどういう事だよ。

 

 …そんな疑問はいざ知らず、淡々と話は続く。

 

 

「次の週末にある“職場体験”。君を指名する」

 

「指名、ですか。……その為だけに来た感じじゃなさそうですね」

 

「飲み込みが早いようで助かる………仮免について、君は理解しているか?」

 

 

 仮免。正式には“プロヒーロー仮活動免許”だったっけか。

 

 現学年ではほぼ名前でしか習わないんだけどな。確か、

 

 

「取得することで学校敷地外での『個性』を使用できる点と、その試験が2年次の秋に受ける点ぐらいしか知らないですね」

 

「ソレさえ理解してれば問題無い。後者の内容が重要だ」

 

  「待て」

 

「…如何しました?」

 

「サー……私は認めていないぞ」

 

「本人との話だ先生。…返答を訊かずに終える気は無いです」

 

 

 一度、父さんの静止が入ったが関係ない様子だな。

 少なくとも……これから話すことはサーナイトアイの独断で勧めようとしているのか?

 

 職場体験は指名があったプロヒーローの事務所や救助現場に同行するのが目的であって仮免の所持は必要ではない筈だ。

 必ずプロヒーローの監視の下で『個性』を行使する、という前提の上でな。

 

 そして重要なのは“仮免試験の日時”?

 2年次の途中で受けるんだから今の俺には無関係だろ。

 

 

~~~……そうか、無関係“じゃない”んだな?

 

 

「仮免を、1年時点で取れと?」

 

!? 何で、早すぎるでしょ?!」

 

「来月のヒーロー資格試験で仮免を取れたなら職場体験後にインターンとして、私の事務所に招待しよう」

 

「来月────……っ!?」

 

「…とんでもない試練を課しますね」

 

 

 ん~疑問しか湧かないが飲み込めはしたな……。

 

 まず、サーナイトアイは俺をインターンでも誘いたいと。

 “インターン”ってのは職場体験とは別口の実戦参加、事務所に研修生として所属し一人のサイドキックのように働く体験型校外活動。

 この場合は仮免の所持が絶対条件だ。

 

 

 

 『………仮免受けんのは来年だ。2年の秋に受ける』

 

 『一応例外もあるがな。…ソレに落ちた奴は3年の時の試験だ』

 

 『あとは1年次で受けるパターンが存在する』

 

 『前者は雄英生失格の落ちこぼれ、この世代も居るかもな』

 

 『後者は歴史上他の高校含めても片手で数えられる程しかいない』

 

 『又は災害等で前倒しか後回しになる場合もある』

 

 『…今の時代そもそも1年生に認可が通ることは殆ど無いがな』

 

 『そんな調子乗った生徒、ヒーロー飽和社会には要らねェよ』

 

 

 

────……確かにな、イレイザーヘッドも云ってはいたか。

 

 

「優秀なヒーローを育てるのなら早い方が良い、実戦は授業で得られる経験値を遥かに凌ぐ」

 

「基礎学もまだ履修し終わってないんだ! 第一、学校生活を奪ってまで……っ!」

 

「先輩………」

 

「俺は構わないですよ」

 

「飛威炉っ?!」

 

 

 反感を買うのも解ってる。こんな提案、引き受ける方が馬鹿げてるし。

 

 6月の試験まであと何日だ?

 どうせ1ヶ月程度だ、本来の訓練期間を当たり前に下回る。

 

 早い方が良いからって一年生がやる事か?

 担任が知ったら却下するだろうし、世間一般でも時期尚早だと判断する。

 

 第一の問題だが、父さんが認めるか?

 俺の身体と学校生活を配慮してるってのにこっちの一存で決定していい話じゃない。

 

 

 ……先に謝っておこう。

 

 サーナイトアイの言い分を汲むなら返答は『YES』なんだ。

 

 

「オールマイトのサイドキックでもあった人がわざわざ提案してきたんだ。ってことは現時点で仮免に適う実力だと認めてくれたも同然、ですよね?」

 

「…自信家ビッグマウスは似てるな。ユーモアは全く無さそうだが」

 

「(似てる?)」

 

「話は以上だ。次週、多くの指名が来るのは百も承知だ。心変わりするようであれば早急に連絡を寄越すように……では失礼する」

 

 

 やりたい事やって、来た道を速やかに戻っていった。

 …所々が意味不明だったが一旦置いておこう。

 

 父さんの様子は────……おぉヤバそうだな。

 

 

「……………」

 

「せっ先輩……気持ちはスッゴク解るけど…」

 

「………話を戻そう」

 

「切り替え早っ?!」

 

「サーとは後々決着をつける。飛威炉とは────……」

 

 

 そう言って父さんの視線は俺を冷たく貫いてきた。

 …どれだけ真剣か見定めてるのか、子を想う親心に気持ちが揺れ動いてるのか。

 

 残念だがこの二つ返事、理由はシンプルだぜ?

 

 

「父さんは、“俺の夢”憶えてるよな?」

 

「っ………雄英に通う間は出来るだけ穏便に過ごしてほしいだけだ」

 

「ヒーロー目指すのに穏便は無理だぜ? …じゃあやろう検査、正直疲れてたけど元気出てきた」

 

「じゃこっち来て! 医療は専門じゃないけど『個性コア』については詳しいから!」

 

 

 色々遭ってやっと検査に扱ぎ付けるか。

 

 なんか、誤魔化そうと早々に切り上げたみたいになっちまったな。早くその“機動装甲服”の試運転をしたいが為に急ぎ足を抑えられないってだけなのに。

 

 …腹据えて話合えば長引くのは自覚してるんでな。

 

 

 

 

 

 

 

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

 

 

~~~……どうだった?」

 

「………想像以上でした。思った100倍は」

 

「でしょ! 良かった~」

 

「気は乗らないが、職場体験にまでに運用できるように調整する。…事情を知らないプロヒーローの前で披露する必要が無いのはマシな点か」

 

 

 いや~……ホントに凄かった。

 

 アレ・・使えば何だって出来る気がしてきた。

 燃料変換炉は革命だ。思惑通りに燃費が改善、ってか“Energy-FullCowl”を一日中発動しても負担なく動けそうなレベルだぞ?

 AIのお蔭で装甲の起動も楽だし戦い方が劇的に広がったな。

 

 試運転に熱中し過ぎた結果、今日もあと3時間で終わるって頃だな。殆どぶっ続けで稼働してきたせいもあって流石に身体にガタが来始めた。

 

 

「ってかお腹空いたでしょ? 飛威炉クン」

 

「まぁ、そうですね。昼休憩でも別にそんな食ってないんで」

 

「大体やること終わったしご飯食べに行きましょうよ先輩!」

 

「…すまないが私は後回しにしてた仕事がある。今日1日、社員たちに業務を圧しつけてたのでな」

 

「え~……じゃあワタシと2人で行く?」

 

「変装しないとですね」

 

「あ」

 

 

 外食は構わないがこの組み合わせならVIP用の店でも危ないぞ。

 

 幾らこの環境でも変装用の服までは用意してなさそうだ、サポートアイテムに長けた栗衛さんなら光学迷彩スーツとか造ってるんじゃないか?

 反応的には忘れてたらしいけど。

 

 

「栗衛、車のキー渡すから駐車場の使って飛威炉を家に送ってくれ」

 

「手配ってワタシのことですか! 高くつきますよ~?」

 

「終わったら戻ってきて機動装甲服の整備だ。駄賃は……再来週にある“例の一件”、KURI8も参加できるように話つけておく」

 

「マジ!?? 喜んで引き受けますとも!!」

 

 

 例の一件? ビジネスの話だろうし踏み込むべきじゃないか……

 

 そう言えば家に帰るの遅れるって連絡してなかったな。

 父さんも関わってるし言い訳はつくとしても、問題は大事なお叱りが待ってるんだよな。そう思うと如何してか憂鬱になってきた。

 

 

「あぁ、あと飛威炉。渡すモノがある」

 

「まだあんのか? 十分すぎる気がするんだが……」

 

「機動装甲服は飽くまでも約束の分だ。優勝祝いは別に用意してる」

 

「先輩、ちゃんと気が利くんですね」

 

「さっきの件取止めるぞ?」

 

「失礼しましたこの通りです」

 

 

 俺も良く言われるけど“ひと言多い”って奴だよ栗衛さん。

 

 しかし違うプレゼントか……言った通りに貰い過ぎじゃないか?

 優勝した甲斐があったってもんだな。

 

 ビジネスバッグから取り出して手に持つのは2枚の紙きれ。…何だろうか。

 

 

「………コレだ」

 

「ん? チケット………映画の奴か?」

 

「奴って飛威炉クン、“VENDETTA-SQUAD”だよ! 今週スタートした超人気ヒーロー映画シリーズの最新作っ!」

 

「すみません、娯楽系には疎くて」

 

「まぁ忙しかったけどこんな有名タイトル知らないもんかね~~」

 

 

 映画か……ホント偶にしか行かないし、それも菟希が『友達と観に行く予定だったのに用事できちゃったの! お兄ちゃん一緒に来て!』って感じで誘われたパターンしか無いんで興味持つタイミングは失ってばかりだ。

 あ、璃亞の母親である美麗さんの作品は数本観たな。

 

 そんな俺に詳しい筈の父さんがコレを渡すことが違和感だよ。

 何故か2枚だし。

 

 

「2枚あるけど、何でだ?」

 

「ペアチケットで用意したんだ。“友達”でも誘ってくれ」

 

「それも明日かよ。…こんな急な誘い、俺が出来る相手1人だけだろ」

 

「…………フッだろうな」

 

「笑うとこか? 璃亞に断られたらどうするんだ?」

 

「その時は菟希でも誘ってやれ。多分大丈夫な筈だ」

 

 

 サーナイトアイの一件もあってずっと暗い顔だったのに急に笑い出して、如何したんだよ。

 二枚組の時点で璃亞へのプレゼントも兼ねてるのか?

 

 璃亞って色々あったからか映画そんな好きじゃないっぽいんだよな。

 過去に菟希も加えた3人で観に行った時、まぁまぁ面白かった内容に反して帰り道のアイツの表情は俺視点でも微妙な様子に見えた。

 …多分、両親の姿がチラつくのかもしれないな。

 

 

「いや~璃亞ちゃんもホント凄かったんだけどね!!」

 

「無論、彼女に渡す分も用意してる。責任感の強い璃亞が……あの結果を引き摺っていないと良いんだが」

 

「……どうだかな」

 

 

 決勝に勝ち進めなかった事よりも、俺の決勝での戦い様に納得がいってなかったと思うんだよな。

 

 違う贈り物もあるから大丈夫────……なんて生半可な考えは出来ないからな。

 俺の身から出た錆だしこの誘いを受け入れてくれると良いんだが。

 

 

「絶対に労ってやるんだぞ。飛威炉」

 

「電話してくる。…じゃあな父さん」

 

「帰ったら母さん達にまず謝れよ」

 

「………気は乗らないけどな」

 

 

 別れを告げて研究室を出る。

 …また後日、今日くれた分の感謝はしないとな。

 

 

 また長い廊下に戻ってきた。2人だけの足音がやけに響く。

 

 スマホに目をやると何通かの通知が来てるな……璃亞からは来てないか。

 

 

「ワタシ先行ってくるから璃亞ちゃんに宜しく伝えておいてーー……

 

「はい (…こんな時間か、場合によっちゃあもう寝てるか?)」

 

 

 時間も時間だ、手短に終わらせないとな。

 

  『もしもし────────…………

 

 

 

 ……良かった、断れはせんかったな。

 折角の打ち上げの邪魔をして申し訳なかったが楽しそうで何よりだ。

 

 寝坊の可能性もあるし帰った後の筋トレ&ストレッチも少なくするか。急な予定を割り込ませた立場として、恥の無いように立ち振る舞わないとな。

 

 

「ふぅ────……ハハッ俺から誘うなんて、なぁ…」

 

 

 初めてだよ、璃亞を映画観に誘うなんて。

 

 …まぁデートみたいだな。

 二人っきりで何処か行くなど何度もやってるのに、いざ自分から誘うと変に意識するのは阿保らしい思考だよな。

 

 プロヒーローになる為に頑張ってる璃亞の迷惑かもしれないのにな?

 

 

 

 今日はずっと、大勢の中の一人だったから流れに身を任せられた。

 

 孤独に歩く“今”だからこそ我に返ってしまう。

 

 個性練に付き合ってる内に芽生えた、否定できずにいる俺への恨み。

 

 

 ………傲慢で、もう取り返しのつかない現実を呟く。

 

 

 

 「今更か。…璃亞を茨の道に引き込んだのを後悔するなんて」

 

 

 うんざりだよ、元を正せば原因は『お前』なのにな。

 

 好きな人の傷つく姿は────……これ程までに心を蝕むのだから。

 

 

 

 

 

 

 

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