緋色の英雄   作:kozmo78

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第35話 慣れない“2人っきり”

 

 

 

 

「おぉ、来たか」

 

「珍しい、わね……色々と」

 

「色々? あー俺が先に来てるのがか?」

 

「まだ待ち合わせの30分前じゃない、飛威炉だったらもう少し遅いのに」

 

「俺だってこーゆー日もあるんだよ」

 

 

────…………まだ来ないと踏んで油断してたわね。

 

 少し慣れない服装のまま居心地悪く待っていようと待ち合わせ場所である駅前に向かっていたら、私以上に似合わない格好で立ち尽くしてた。

 

 特徴的な白髪と赤眼を隠す為の帽子と伊達メガネ、それと如何にも最近のトレンド取り入れました! みたいな春服のファッション。

 …全く興味も無い筈の人間が着込むモノじゃないわよ? 体育祭で知名度が上がった以上、互いに変装は必要だと理解してたけど今日のは何よ?

 

 あと、そもそも私より先に居るのも珍しすぎる。

 飛威炉って勝手に事件に首突っ込む以外は待ち合わせに遅れるパターンは殆ど無い。とは言え、昨日の疲労もあるだろうから多少の遅れは考慮してたのに………

 

 

「どうせ菟希ちゃんに急かされたんじゃないの?」

 

「大当たりだ。『いっつも思ってたけどデートするなら女の子待たせないの!』ってな」

 

「(デーっ………!?)」

 

「傍から見たらそうかもだが、俺達にとっちゃあ今更なのにな」

 

 

 …何よ、変な言い方して。

 

 『デート』って、え? 菟希ちゃんの台詞でもビックリするわよ。

 貴方がそんなの言う筈ないじゃない。

 

 変に戸惑った私に気付いてしまったようだ、派手に鈍いコイツでも不自然に狼狽えてたら顔を窺う程度の素振りは見せるよね。

 

 

「…まぁそうね。私としては……」

 

「何だ?」

 

「────……やっぱり入れ知恵だったんだなって」

 

「そりゃどうも」

 

 

 結局、上手く誤魔化す事も出来ずに何か期待してたみたいな口振りになってしまった。

 まぁこんなレベルなら飛威炉は触れることなく終わるんだけどね。

 

 …菟希ちゃんは大分期待してくれてる、と言うのはよく分かったけど。

 

 昨日のお泊り会、皆が“あの”電話のせいで大慌てだった。

 体育祭の疲れもあって全員ベッドに直行で良いのに………あんなエサを投下されたら今時の女子高生の集まりにとっては興奮せざるを得ない様なモノよ。

 私がまだ混乱したままにベランダから戻ると……───────

 

 

 

  『マジで!? デートじゃん!!』

 

  『急に大胆ですね』

 

  『天蟲くんやるじゃ~ん』

 

  『…私だって驚いてるわよ』

 

  『ハイ! ウチ決めたよ!』

 

   『な、何ですか……何が決まったんですか……っ?』

 

  『今夜は明日の為の対策会議を開くよ!』

 

  『『さんせーい!』』

 

  『まず服だね! クローゼットって何処だっけ?』

 

  『こっちです! いっぱい服あるから驚くと思いますよ!』

 

  『天蟲はどーゆー服装が好きなの? 聞く意味ないかもだけど』

 

  『ランチなどの店舗はお任せ下さい。会食での経験が活きるかもしれません』

 

  『いや~今日は寝れないかもね~?』

 

  『………テーブル片付けてお風呂入ってからにしましょ』

 

 

 

 …あの後、寝落ちしたのは何時だったのかしら。

 

 ソレすらも思い出せない位に今日の予定の為に尽力してくれた。

 証拠にこの服、変装も兼ねて良い感じに見繕ってもらったからね。お母さんのお節介で衣装室に揃えられた無数のブランド服たち、まさかこのタイミングで役に立つとは思ってなかった。

 

 対策会議と称して色々なアドバイスも貰ったわ。雷咲は『飛威炉くんも解ってて誘ったんだから何も問題無いじゃん! イイ感じになったら告っちゃいないよ?!』……とか言ってくれたわね。

 やる訳ないけどね? 私にそんな勇気は無い。

 

 いや“もしも”を考えてしまうのは………───────

 

────………雷咲だけじゃない、心の何処かで『私』も想像している自覚は有る。

 

 

 駄目ね。思考を現在いまに移さないと。

 

 まずは昨日の電話から感じてた違和感を解決する為に飛威炉に聞こうかしら。

 

 

「にしても、今日のチケットって久悟さんから?」

 

「あぁ。『優勝おめでとう』だってよ」

 

「ソレさ、私の推測だけど本当はお母さん達から貰ったんじゃない?」

 

「え? ちゃんと父さんから直接……そういう事か」

 

「私を気遣ってもしかしたら────……ね。わざわざ2人に確認はしないけど」

 

 

 久悟さんが今日のチケットを渡したと聞いたけど、どうにも納得が行かないのよ。別にプレゼントにケチつけるような言い方で不甲斐ないが『映画』の話が絡んでくると面倒臭い想像が出来てしまうの。

 

 …多分、私に配慮して間接的に渡したんでしょうね。

 顔合わせて渡すと私が良い顔しないで受け取る可能性を感じ取ったんだろうか。

 

 飛威炉は手に持つパンフレットを見ながら今日観る予定の映画を復唱してる。

 

 

「“VENDETTA SQUAD”か……璃亞は知ってるか?」

 

「勿論、そもそも貴方が興味無さ過ぎなのよ」

 

「一応どんなもんかは調べてるぞ。ヒーローものなのは有難いな」

 

「少なくとも今年度トップクラスの注目作品よ。楽しみにしてなさい」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すぜ」

 

「………っ」

 

 

 図星だった。やっぱり気付かれてたのね……。

 

 私にとって映画鑑賞が無心に楽しめるモノじゃないのは否定できない、だって出演もしていない作品だとしても両親の顔が過ぎってしまうから。

 

 誘われた身分で断る気は無かった、現に菟希ちゃんに誘われた時も一緒に行った事だってある。

 …たった1回でその機会は終わったのだから気付かぬ内に察せられたんでしょうね。

 

 

「俺が誘った手前アレだが……嫌だったら全然他のトコでも良いからな?」

 

「…気付いてた様だけど、だからって無下にする程じゃないわ」

 

「んー、じゃあ良いか」

 

 

 過去を清算したつもり・・・なら、この誘いを断るのは自己矛盾だ。

 

 まぁ……昔よりは混同せず観れるんじゃないかしら。

 折角こうやって肩の荷を下ろせる時間を共に過ごせるのに、私の我儘で予定に支障を来すのは面目丸潰れよ。

 親の好意を素直に受け止めるのは至極当然のことなんだから。

 

 

 …それに、ほんの少しの紳士さを示した分は報わないとね?

 

 

「飛威炉が誘った“デート”なんだし今日は貴方のプランが楽しみだから」

 

! ……璃亞もそう言ってくれるか」

 

 「えっ」

 

 

 想定外の反応に出す気の無い驚愕の声が零れてしまった。

 なんてことない私の挑発に………如何してそんなに驚いてるの……?

 

 どこか恥ずかしそうに自分の首を摩る、そんな姿は今までのどの記憶にも残っている筈も無かった。

 

 

「…おっと、あの映画館だな。行こうぜ?」

 

「あっ………うん。そっ、そうね………」

 

 

 また変に狼狽えた私を余所に、飛威炉は今日の目的地を指差している。

 

 珍しいなんて話じゃない可笑しな反応は嘘だったかのようだ。

 

 

 …同じ歩幅だった足取りを勝手に崩した私は促されたままに彼の後を追う事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

 

 

 正午スタートで上映したモノも観終わって、映画館の近くカフェで昼食がてら先程の作品について語り合っていた。

 

 

────……どうだった? 璃亞」

 

「そっちから聞くのね………結構面白かったわ」

 

 

 “VENDETTA SQUAD”。アメリカでは今年度の興行収入1位になるって既に言われてるらしいわね。

 

 内容としてはシンプルで、正に万人受けしそうな勧善懲悪のヒーロー作品。

 ココで語り合うべきは脚本よりも配役な気がするわね。

 

 

「有名ヒーローをヴィラン役にするって中々奇抜な発想だよな」

 

「しかもヨロイムシャが“落ち武者コジロー”って……今の時代もアメリカからの日本のイメージは変わらないのね」

 

「『日本ヒーロー参戦!』なんて触書であの出演って渋すぎるよな」

 

「番付に居るようなヒーローを渋いって言うんじゃないの」

 

 

 …口ではそう言っておいて、私も同感だな。

 

 国際豊かなヒーローたちが登場してたけど日本ヒーローの役回りはハッキリ言って……誰が観ても「ヨロイムシャ選ぶって逆の逆行き過ぎじゃない?」と唱える筈よ。

 有名どころなら勿論オールマイトだし、エンデヴァーやミルコでも華があるでしょ。

 

 『和』を象徴するってことで納得は出来た……としようかしら。

 

 

 ………あとさ、気になるのは飛威炉の饒舌振りね。

 

 ヒーロー無関係のエンタメに毛ほども興味ないでしょうに、多少なりとも内容に興味を持って私に話を振るのはまたもや不思議な感覚よ。

 

 

「私が見た限りじゃ、今日のが一番かもね」

 

「そうなのか?」

 

「内容じゃなくて飛威炉の反応よ」

 

「反応────……確かに、間違ってないかもな」

 

「その心は?」

 

「…共感しやすかったから、だな」

 

 

 共感か。………分かるっちゃ分かるわね。

 

 超常社会のせいで『個性』に纏わる作品が急増、前一緒に観たのも異形型の『個性』に悩む学生同士のラブロマンス映画だったわ。

 実際、飛威炉も「面白かった」と言ってたし本心だろうけど……ピックアップされた話題が一般的に身近な事よりもヒーロー主体の方が呑み込みやすかったんでしょ。

 

 

「ヒーロー目指す身じゃないと出来ない感覚よね」

 

「…まぁそうだな。現実で死ぬほどアクション見てる割には十分楽しめた」

 

「うん………昨日あんな経験してるし」

 

「ってか璃亞は身体大丈夫なのか?」

 

「ソレこそ、その言葉そっくりそのまま返すわ」

 

 

 映画がどう面白かったか、の話は兎も角『昨日の件』はお互い様でしょ?

 

 電話越しでも理解できる程度にしっかり疲れてたのは確か。

 ARC本部の病院に直行したのは知ってるんだからね?

 

 

「俺? ちゃんと検査したから問題ねぇよ」

 

「私だってリカバリーガールの治癒もあって疲労感は無いわ」

 

「日頃の鍛錬の成果もあるんじゃないか? 昔は筋肉痛が~って言ってたのに」

 

「やめてよ。怒るわよ」

 

「おっとスマン」

 

 

 …言われて思い出しちゃったじゃない、恥ずかしいんだけど?

 

 そりゃ昔と比べて身体を鍛えられたのは自覚してるけどさ、一応プロポーションの維持はしておきたいんだし気にしてる部分でもあるのよ。

 

 

 

────……さて、映画の感想もひと段落ついたわね。

 

 今の内にずっと伝えたかったことを吐露しておこうかしら。

 

 

「………あのね?」

 

「ん?」

 

「私はまだ怒ってるから。昨日の事」

 

「……………応」

 

「流石にココで駄々こねたりはしないけどたった1日で許すと思わないでよ」

 

「解ってるよ。…肝に銘じてるさ」

 

 

 自戒の念を滲ませつつ、望んでいた答えを返してくれた。

 

 とは言っても……そんな言葉だけで安堵するつもりは無いわ。

 「肝に銘じてる」って、『今後もやります』と自白したようなモノじゃない。

 

 

「ところで、この後の予定は?」

 

「話変えたわね? ……何も入れてないわよ」

 

「オッケーじゃあこの店出たら行きたい場所があるんだ」

 

「…本当に飛威炉が考えたの?」

 

「これは菟希の入れ知恵じゃねぇよ。ちゃんと自分で考えた」

 

 

 上手く誤魔化されたみたいだけど………そんな場合じゃないみたいね。

 

 飛威炉が“また”デートの予定を組んでくれたの?

 

 

 ホント────……今日はどうなってるのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

「『木椰区きやしくショッピングモール』、最近出来たらしいな」

 

「いや知ってるけど……」

 

 

 次に来たのはニュースでも話題の商業施設。

 県内最多店舗数を誇るらしいし、確か喬華が「彩グループでも出店していまして。機会があれば是非寄ってみて下さい」と教えてくれたのもあって気になってたトコロね。

 

 …2人でこうショッピングモールに来ると1年前を思い出すわ。

 

 あの日はとんでもない騒ぎに巻き込まれた(馬鹿が勝手に首突っ込んだ)せいで碌に楽しめなかったし、今回ばかりは何事もなく過ごせると良いんだけど。

 

 

「夏に合宿あるってイレイザーヘッド言ってただろ?」

 

「“個性強化合宿”のこと?」

 

「そう、ちょっと早いが生活用品とか服とか買っておきたいと思っててな」

 

 

 あぁ……そういう事ね、納得したわ。

 

 

 雄英が幾らヒーロー科としてのトップ校でも『夏休み』は在る。

 

 しかし、実情は“学業が無いだけの校舎の休業期間”。

 多くの高校で部活動があるように、ヒーロー科生徒は夏季休暇中に『合宿』と『圧縮訓練』が待ち受けているらしい。詳しい内容はそこまで教わってない。

 

 まだ5月だし早いとは思うけど………雄英に在籍してれば忙しくなるのは目に見えてるんだし、早めに備えて悪いことにはならなそうね。

 

 

「あと璃亞、多分昨日メンバーの間で夏の予定の話題とか出たろ?」

 

「よく分かったわね」

 

「稲生とか居ればそうなるだろ。男子組でも出てたぜ?」

 

「…気が早いかもしれないのにね」

 

 

 飛威炉の方でもその話題が出てたようね。

 普通の高校生、それも高校入って初めての夏休みなら浮ついたイベントばかり考えてしまうのは何処も間違ってないとは思う。

 

 ………問題は“無事にヒーロー科に居れるかどうか”だけど。

 

 残念なことに、体育祭を迎えるまでの約1ヶ月で5人が除籍処分受けてるせいで無傷のまま夏に辿り着ける自信は到底湧いてこないわね……。

 

 

「そこら辺の為のモノも含めて、色々探さないか?」

 

「良いけど……なんか調子狂うわね。そういった提案は私からするのに」

 

「俺からの祝福の気持ちだ。あぁ全部俺が払うよ、手加減無しで頼む」

 

「そんな、勝負みたいに云わないでよ」

 

 

 …そこまで言うなら有難く受け入れようかしら?

 

 一応、心配はしてないけど飛威炉の懐事情に触れようか。

 

 

「まずお金は大丈夫なの? ちゃんとお小遣い制でしょ?」

 

「気にすんな。使い道無いお蔭で貯まってたんだし」

 

「…手加減はするけど遠慮はしないわ」

 

「矛盾してないか? まぁ良いや、行こうぜ」

 

 

 嘘はついてなさそうだし………そうね、素直に楽しみましょ。

 

 今日のような日は二度と来ないかもしれないしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気苦労なく過ごす時間はあっという間に過ぎるってホントね。

 

 合宿用に何気なく“お揃いの”キャリーバッグを買ったり。

 菟希ちゃんのお土産に私たち3人でペアのアクセサリーを揃えたり。

 もし夏休みに海水浴に行けたら……の願いで似合う水着を探したり。

 

 ただ無邪気にショッピングを楽しんでいたら、もう気付けば外は暗くなっていた。

 

 

「昨日今日と、体感時間が可笑しくなってる気がするわ」

 

「同感だ。体育祭とか色々あって濃すぎたな昨日は」

 

 

 両者腕には大量の買い物袋、キャリーバッグ等の持ち運び辛いモノは郵便で後日受け取るようにしてるけど衝動買いしたパターンも多かったし短距離の移動でも一苦労ね。

 飛威炉曰く「今回も迎えが来る」らしい。

 

 日も暮れて夢中な気持ちも少し冷めていくと……何だかんだ昨日の疲労がぶり返し始めてる。

 決勝トーナメントに至るまでもそうだし、準決勝でのダメージが特に大きい。お泊りで皆がどんどん眠りに落ちる中、芳乃とカクリヨが

 

  「…明日……頑張ってきてください……っ!」

  『このオレがマッサージしてフザけた真似は許さねぇからな!!』

 

────……フフッ。お蔭であの夜はぐっすり眠れたわ。

 

 いつ意識が途切れたのかも判らないぐらいにね。

 

 

 その買い物を終えてやって来たのは………店舗の屋上。

 テラスになってて季節になればイルミネーションとかでより人気を博しそうな景観だけど、飛威炉が連れてってくれたこの景色だけでも一見の価値あるわね。

 

 

「綺麗な夜景ねこの場所……」

 

「人目の少ないスポット探したら丁度いいのがあったんだ」

 

「…何が目的なの? 変装はしてるけど別にそこまで……」

 

「出来るだけ二人っきりになりたかったんだ」

 

「────……っ!」

 

 

 …都市部のネオンを一望できるテラスよりも視線を向けなきゃいけない事態が起きてしまった。

 

 『二人っきり』なんて、聞き捨てならないわよ。

 

 真剣な眼差しでこっち観てるけど……まだ慣れてないの。

 今日1日、とても楽しかった。昨日の苛立ちとか後悔とかを忘れてしまう程だったのは否定できないんだ。

 菟希ちゃんや雷咲が面白半分で言ってた『イイ雰囲気』、ソレって今このタイミングでしかない気がするの。

 

 だからといって────……飛威炉の今日の振る舞いは良い意味で許せないわ。

 変に“期待させる”ような言い方しちゃって……。

 

 

 

 ん?………えっ

 

 ちょっ……何、そんな顔して荷物を置いて………

 

 

「飛威炉……どっどうしたの………っ?」

 

「少し良いか? なぁ、

 

「(きゅ、急に何!? …えっもしかして………?!」

 

 

 ヤバい。

 

 なんの準備もしてないのに………っ。

 

 何故か荷物を勝手に奪われてベンチに置かれたし。

 

 私を身軽にして、本当にどういうつもりなの?

 

 

 ……“もしかして”の話だと言うの?

 

 

 私が夢にまで見たシチュエーションが今ここで────……

 

 

 

 

「先に謝らせてくれ」

 

「………え」

 

「ゴメン」

 

 

 

 あっ────……あ、謝るって何………?

 

 期待をよく判らない方向に裏切られたせいで混乱してるんだけど。

 

 

 一旦整理しないと……………で、如何いうこと?

 

 まさか告白────……って時に飛威炉は深々と頭を下げていた。

 

 「先に」って文言を前置きにされたし、豪く不穏な話を私に突き付けようとしているのかしら。…緊張で胸躍らせかけてた瞬間に上げて落されたような気分よ。

 

 

「…まず、事情を説明しなさいよ」

 

「そう………だな。さっき『肝に銘じてる』とか俺が言ったろ?」

 

「うん」

 

「なんて言っておきながら、また厄介ごとに首突っ込んじまった」

 

「ちょっと?」

 

 

 謝罪を受けた瞬間に脳裏を掠めたヤな想像が現実に、ってこと?

 

 

「その厄介ごとがな……璃亞、インターンは知ってるか?」

 

「いや知ってはいるけど………」

 

「次の週の職場体験と似た訓練プログラム。違いは“時期”が今じゃないってトコだな」

 

「そうよ。第一、確か仮免が必要なんでしょ? なんでソ………まさか、

 

「誘われた。それもサーナイトアイにな」

 

「っ!?」

 

 

 …耳を疑ったわ。

 

 もう先程の胸の高鳴りは何処へやら、冷めた気持ちで何をやらかしたのかと判断しようと思ってたのに………全く嬉しくないのにまた心臓は痛く高鳴り始めた。

 

 インターン? サーナイトアイ?

 

 ……何がどうなってるのよ。

 

 

「誘われたって……──────

 

「…で、受ける事にしたんだ」

 

!? 待ってよ! 急な話過ぎるでしょ……っ!」

 

「だよな」

 

「だよな、って………!」

 

 

 余りに意味不明の白状に沸々と怒りが込み上げてきた。

 

 当たり前のように衝撃的な発言を続けることで「へぇそうなんだ。良かったんじゃない?」とでも云って思考を放棄してくれるでも思ったのかしら………?!

 

 …昨日無理やりにでも付き添わなかった自分を呪いたいわね。

 

 

 「話に出た“仮免”、6月にある試験で取る予定でな」

 

 「…合宿用の買い出ししたのもコレが理由だ」

 

 「今後の自由時間も無いだろう。生半可な特訓は出来ない」

 

 「………黙ってて申し訳なかった」

 

 「折角のチャンス、無駄にしたくないんだ」

 

 

 

 

 …昨日振りね、これ程までに怒りが限界まで来たのは。

 

 もしココが雄英敷地内なら“黒緋”ぶっ放してたかもしれないわ。

 

 

 でも、それ位しないと絶対に諦めてくれない。

 

 

 何でそんなに………同じ歩幅で居てくれないの?

 

 体育祭でも私を置き去りにして、今度は知らない内にプロヒーローからの内定を貰ってるって如何してそこまで生き急ぐのよ……っ!

 

 

 

 

────……なのに、この握り拳を無闇に振り払えない。

 

 

 

 「どうせ」

 

「………………」

 

「どうせ、私が文句言っても意思は変わらないんでしょ?」

 

「………そう、だな」

 

 

 どんなに私が納得いかなかろうと、飛威炉は折れないの。

 

 …感情の儘にアイツにぶつけても無意味に互いを傷付けあうのみ。

 

 サーナイトアイ程の有名ヒーローに評価されたのは本人の努力の賜物よ。

 決勝に進出しなかったに、実力を相応に認められた人間に対して異議を唱えようとするのは傲慢極まりない。

 

 一般論で見れば段階を踏み越え過ぎだと考えようが……只のプロヒーローじゃない、尋常じゃない高みを志す飛威炉からすれば他人の雑音など無視できるんだ。

 

 

 

 感情論と朱寧さんとの“約束”を抜きにすればね?

 

 

「ハァ~~~……だったら何も言えないわよ。勝手にすれば?」

 

「ありがとな」

 

「感謝も何も、『許した』とは一言も云ってないわよ?」

 

「そうか」

 

「荷物持ちなさい。ソレ全部ね」

 

 

 私がどう思おうと、邪魔をしたくないってのは変わっちゃいけない。

 

 荷物持ちで許す訳じゃない。…それ位のパフォーマンスを見せずに切り上げてしまったら、この暴走を無償で認めた事になる気がするってだけ。

 

 

「この役目で………そうね、私の怒りゲージの5%は減らしてあげようかしら」

 

「…寛大な御心だと思うよ」

 

「『暇が無い』とは言わせないから」

 

「…………っ」

 

「いっそ私もインターンに、とは行かないでしょ。…でも貴方を心配してる人達を蔑ろにするなら絶対に許さない」

 

 

 その台詞だけでも伝えようとしたのは私の意地。

 

 インターンに出向けばもう私の手に届かない環境よ。

 危険も当然に増えるだろうし、1年次で受ける授業以外に時間を使わないと成立しないレベルなんだろうから恐らくは飛威炉の自由時間は更に減るんでしょう。

 

 だから「暇が無い」────……じゃあ駄目でしょ。

 

 貴方の家族と仲間は自分勝手な事でなら許しちゃくれないわよ?

 

 

「………どんな仕打ちでも覚悟してたんだがな」

 

「しようかしら?」

 

「構わねぇよ。…まだ余罪・・が出来そうだし何発でも食らうぞ」

 

「余罪?」

 

  「こんばんはお二人とも。お元気ですか?」

 

 

 …急に話し掛けられたせいで変な声が漏れそうだった。

 

 背後から気配なく聞こえてきたのは天蟲家のお手伝いさん。

 

 

「明依子さんすみません、迎えに来てもらって」

 

「頼まれてますから。『喧嘩別れでもしたら置いて行って良いわ』とも伝えられていましたが特に問題は無さそうですね」

 

「フフッ危ないトコでしたね」

 

「…確かにそうだな」

 

 

 ちょっとしおらしくなってる辺りはざまあないわね。

 ほんの少しでも罪悪感を感じさせないと再犯するだろうし。

 

 

「お蔭で荷物持ちの役回りが無くなっちまったんだが………」

 

「じゃあ置いていきましょうか明依子さん?」

 

「良いですよ」

 

「………どう反応したら良いんだかな」

 

 

 流石に────……まぁ止めときましょうか。

 

 減らす筈の5%が元に戻ったからね?

 また次回に荷物持ちでもしてもらってトントンよ。

 

 

 

 

 明依子さんが運転する車に揺られて、

 

 次第に見慣れた景色を映し出す窓に頭を預けながら。

 

 

 「(………駄目ね。勝手に期待しちゃって)」

 

 「(飛威炉はいつも……ヒーローのこと第一だから)」

 

 「(もしそっちが先に────……ってのは馬鹿げた考えね)」

 

 

 …楽しかった時間を噛み締めつつ、今日という一瞬は終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 飛威炉くんは?」

 

「………何なんでしょうね」

  ガラガラ……

「席につけ」

 

  シーーーーーン

 

「…一応先に言っておくが天蟲飛威炉が除籍処分だ」

 

「「「え?」」」

 

「原因は後で教える。今回の“ヒーロー情報学”は……──────

 

 

 うん、この未来は想定してたわ。

 

 …私は何も知らないからね?

 

 

 

 

 

 

 

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