緋色の英雄   作:kozmo78

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第4話 噂

 

「待ってたわよ」

 

「おお早いな…そっちのクラスは終わるの早いんだな」

 

「ええ、そこは担任の先生の良い所ね。……じゃあ早速行きましょ」

 

 

 授業を終えて約束通りに向かうと、思っていたよりも早くに扉の前で佇む彼女を見つけた………それも動きやすいように制服を着替えている。こっちのクラスじゃ長い総括を毎日のように受けているから羨ましい部分もある。

 

 ここの使用用途は“個性練”を目的とすれば誰かと一緒に使ってもいいし、下校時間さえ守ればある程度時間ギリギリまで使ってもいいようになっている。そこは多少緩めに制約されているからこそ、今日のように二人で入室することが出来る。

 

 

「今日は下校30分前ぐらいを終わりに設定しようと思ってるけど…それで良いかしら?」

 

「問題無いぞ、今日は初めての練習なんだから一気に根詰めてやってもただ辛いだけだしな」

 

「分かったわ………私はバッグ置けば準備は出来るけど着替えるのを待った方が良いかしら?」

 

「いや大丈夫、今日はある程度見るだけだから」

 

 

 更衣室に荷物をお互いに置いて、白を基調とした空間に踏み入る。

 備え付きのリモコンを使って練習用ダミーを用意して対人練習の準備をしたりするのが自分のルーティンではあるが、今日は何も用意せず部屋の中心に立って瑞銀の方に向きなおす。

 

 

「じゃ、始めようか……と言っても『個性』の練習する前に瑞銀のことを知らないとどうしようもない。だから『個性』についてとか運動についてとか、教えられる範囲で教えてほしい」

 

「そうね。それじゃまず運動についてなんだけど体育の成績は基本的には5段階中4ってところで、普通の女子と比べれば少しは身体能力はある方だとは思うけど別に秀でたナニカとかはないわ。

 まあ見た目の為にも走ったりしているから体力は昔よりついてきてはいるけど、ここ最近は胸とか大きくなってきてちょっと走り辛くなって───────

「いやそこまで細かく言わなくて良い!」

───────冗談よ。女っ気無さ過ぎてツッコんでくれないかと思ったわ」

 

 

 そういうデリケートな話までは聞いていないからこちらから制止する。

 確かに俺から聞いたのだから本人の情報開示を止めるのも変な話だが、詳しく聞いていたらお互いに気まずくなりそうなのは目に見えている。

 

 

「そして『個性』なんだけど………“これ”よ」

 

「!……(銀色の液体?…鉄のようにも見えるが…)」

 

「私の『個性』は“流体金属”。自分の血液を使って液体のようにも動く金属を生み出すことが出来るの、分かりやすい例えで言うと…水銀に近いモノよ。」

 

 

 手を目の前に翳してみるとその掌から銀色の物体が水のように発生した。宙にも浮いているその流体金属は形を留めないで蠢いている。

 昔では体温計や蛍光灯などでも使われていた水銀なら聞き覚えがあるが実際のトコロは見覚えは全くない。

 

 

「水銀って言うと毒性がある危険な物質みたいに思えるけど私のはそんなことは無いわよ。例えで言っただけでそもそもの性質が違うと思うわ………他人に使ったことは無いから確証は無いけど」

 

「その方が健全だろ、それはここから試していくから大丈夫だろうし。…見た感じは結構使いこなせているように見えるけどどうなんだ?」

 

「そこが問題なの。4歳の時に発現して今に至るまで少ないながら練習したけど……見ての通りこのぐらいの大きさまでしか創れないし操るのも精々半径2メートルぐらいまで、それにちょっとでも使い続けてると貧血みたいな状態になってしまうの」

 

 

 僅かに悔しそうな語気を感じさせながら掌の上で飛ばして見せた。

 本人が言った通り彼女の手の届く辺りを円を描きながら飛んでいる。大きさは人の顔ほどで速さは目で追えるぐらい、別に1対1の戦闘とかなら苦になるとは思えない。

 

 

「高校に入る前に人に教えを乞う程のレベルには思えない、十分戦える『個性』だと思うぞ」

 

「言いたいことは分かるの。………でも成長曲線がなだらかに見えて仕方ないの。元々小学校卒業するくらいには同程度の質量で生み出せてるのに今もそこまで成長してない、それに操れると言っても強度は液体に近いせいでそこまでだし同時に二つ分操るとかは出来てないの。」

 

「…この時点でそこまで自分の『個性』を理解できているなら問題無いさ。こちらとしても何から解決するかは視えてきたし」

 

 

 個人で練習していると否が応でも“努力の壁”にぶつかる。

 たとえそれが周りからしたら些細なことだったりネガティブに考え過ぎたりしていたとしても、それまでの積み重ねが無に帰す絶望感に成り代わるように思えてしまう。

 

 ……あと家庭的な問題もあるかもしれないとも思う。

 

 『個性』を親から継いだのかは確認しないと分からないが、母親が相手の場合少なくとも女優とヒーローじゃあ聞ける内容も変わるだろうし、そもそも聞く時間すらないかもしれない。父親にだったらとも思うが聞いている話に挙がってこないあたりそこの望みは薄いのだろう。

 

 ───────そんな中でここまで自己分析できているなら、これからの努力次第で瑞銀が持つ不安要素ぐらいなんて事はないだろう。

 

 

「最初の段階で体を壊しちゃ元も子もないから軽いトレーニングでいく気だけど………時間が経てばハードな内容になるかもしれない、それでもいいか?」

 

「勿論よ、天蟲くんがストイックなのは百も承知なの。」

 

「オッケー、こっちも出来るだけ頑張るからよろしくな。…じゃあ早速─────────

「その前に、天蟲くんの『個性』も教えてよ。折角私の師匠になるんだから黙秘は許さないわよ」

──────────別に隠してたわけじゃないぞ。…でもそれはそうか、次はこっちの番だな。」

 

 

 言われて気付いたが、瑞銀はまだ俺の『個性』を知らなかったのか。

 

 お互いに面識が無い時に俺の名前を知っていたからもしかしたら知っているかと勘違いしていたが………流石にそこまで詳細に噂が広まっているわけではないんだな。

 

 こうなるんだったら着替えてきた方が良かったがシャツのボタンさえ外せば把握しやすいだろう。“コア”が見えやすいように少し脱いでみて、肌着越しになるが弱めに発動して光らせることで在処を分かりやすくする。

 

 

「胸にあるこれを見てほしいんだが……どうした?」

 

「…急に脱ぎだすから目を逸らしただけよ。…そこの光ってるのが『個性』?」

 

「そう、これが俺の『個性』“エネルギーコア”。ロボのバッテリーみたいな感じでここでエネルギーを生み出して手足などから放出することが出来る。こんな感じでっ………!」

「わっ……空も飛べるのね」

 

「今のところは燃費が悪くて自由が利かないんだけどな。あと…エネルギー自体は放出するだけだから放出した後に操る、とかは出来ないし瑞銀と同じで長時間発動してると負担が強くて、特に心臓にダメージを受ける……多分場合によっては発作とかを引き起こしかねないだろうな」

 

「成程………でも正に“ヒーローらしい”『個性』ね」

 

 

 自分の『個性』を教えるついでにコアと両手足に力を込めて飛んでみせる。

 5メートルほどの高さで空中静止、そして今の出来る範囲で廻ったり動いたりと………実際にここまで飛べるようになるまでこちらも苦労している。宙に浮いているのではないので、少し同じ姿勢で止まるだけでも生半可な体幹と空間把握じゃ成立しない。

 俺を師匠なんて呼んでくれてたが……結局こっちも理想には程遠い。

 

 

「ヒーローに向いてるかどうかなんて使い方で変わるだろ。…大事なのは『個性』の向き不向きより意識の切り替えだ、『個性』も特別扱いせずに体の一部だと認識できれば使うたびに生じる“違和感”が薄まるんだ。」

 

「…まず、いざ使おうと思ってもそもそも『個性』は他の器官や五感とはかけ離れたモノだ……まあモノにはよるけどな。」

 

「瑞銀みたいなタイプなら確かに難しいかもしれないな。俺みたいに分かりやすくカタチとしてあったりそれこそ異形型とかは慣れやすいけど、人体に関係無い物質を生み出し自在に操れる…なんて生活習慣に関わらないタイプならよりその力に異物感を感じやすい………だからこそ生まれたズレなんだ」

 

「詰まるところ練習し続けて慣れるって話に帰結するが…それだけじゃだめだ。日常でも負担がかからない程度にでも発動し続ければ、時間は掛かれどいずれそれが普通になる。呼吸や歩行と同じ習慣にさえできれば──────────その曲線は右斜め上に向くさ」

 

「……………っ分かったわ」

 

 

 嫌な教師みたいに長々しい自論を語ってしまったが、どうにか伝えたいことは理解してくれたようだ。

 

 加えて思うが、小・中を通して一応授業内容として採り上げてはいる。だが言う事はいつも「『個性』は危険!」の一点張りだ………、それじゃ幼少期に根付くのが過度な特別視になるのは避けられないだろう。

 

 

「習慣の方はそっちの意識次第だから俺も言葉だけ、それ以外のトコロは……一緒に頑張っていこう。目標は「天蟲くんは雄英でしょ?」………ああ、高校はな」

 

「教えてくれるあなたがそこに行くのなら………私も目標を高くしようと思ってるの」

 

「…言わんでも分かると思うが簡単ではないと思うぞ」

 

「勿論ね。でも……今の話聞いて実感したわ、ちゃんと考えてくれてるんだって。だったら中途半端な覚悟じゃ失礼な気がするの。

 それに────────弟子のモチベーションが高いのは良いことでしょ♪」

 

 

 挑発するかのような笑みと眼差し。ここ一年程度の見通しで目標を聞いたつもりが、思っていた以上の大志を抱いていたようだ。

 雄英高校への進学………自分については行けると確信しているのにそれを懐疑的に思うのは可笑しい話だが、「よし決めた!」で入れるようになる程甘い話ではない。偏差値云々の話はこの学校でこの部屋を使えているんだから無視できるとしても、実技試験の突破においては同世代より早く特訓できているとかで解決できないレベル……………

 

 ……いや、ごちゃごちゃ考えるのはやめよう。教えてくれって頼んでくれた相手が頑張るって決めたことを拒む、なんてのは指導者失格だ。

 

 

「分かった。目標は雄英に入れるぐらいになるってことで………辛いトレーニングになるのは覚悟してろよ?」

 

「想定内よ。あなたのスケジュールを削るんだからきつい指導は覚悟の上だから」

 

「俺の『個性練』にも付き合ってもらうからそこに遠慮は要らないぞ。互いに協力し合って雄英目指すんだから師匠と弟子ってより…………まあ友達ってわけで」

 

「…ふふ、そこで照れるならわざわざ言わなくて良かったのに」

 

 

 言い正そうとしてまで口に発する言葉が友達って思うと少し恥ずかしくなった。

 別に意図的に人と深く関わらないようにしてた訳ではない。しかし、冗談を言い合ったり何処か出掛けたりする相手は居なかった自分には────────分相応な言葉のようにも思えた。

 …変な空気になってしまったが張本人である自分が黙ってはいられない。

 

 

 

「まあともかく!…これから頑張ろうぜ、瑞銀。」

 

「そうね、宜しく天蟲くん。」

 

 

 

 

 

 

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 そんな訳で二人での“個性練”が始まった。

 

 放課後はいつもIEルームで集まって瑞銀の『個性』を伸ばすことを中心にトレーニングしている……といっても俺が細かく教える必要がある程のレベルではなかった、良い意味で。

 10月に始めて今が終業式を迎える3月、冬休みを挟んで約4ヶ月の間勉強に支障が無いようにスケジュールをこなしてきたが当初と比べて着実に成長していると言えるだろう。元々の『個性』の規模から2倍以上に、使用範囲は半径5メートルまでに、生み出せたモノを大雑把になら盾や棒のような形に変形できるように……………と最初の不安が嘘に思えるところまでには成長できた。

 

 何だかんだ一緒に行動するようになってからその成長を自分の事のようにも実感できるようになって、それまで“ヒーローになる”という目標ばかり見ていた人生よりかは充実している筈だ。

 

 

 こんな感じで行けば二人とも雄英に合格するのも夢ではないし想定以上の学校生活を送れると良い事尽くめの4ヶ月であった、が────────────

 

 

 

 

 

「天蟲ぃ!!隣のクラスの瑞銀さんと付き合ってるのって本当なのか!?」

「ねえ嘘だよね?嘘だよね!?あんなに誰とも付き合わないって感じだったのに………」

「それも“あの”瑞銀だぞ!?学校中の男子が玉砕した『鉄の女王』だぜ!?」

「『ドクターヒーロー』の息子と大女優の娘の交際発覚!?大スクープだー!!」

 

 

「違う、瑞銀はただの友達だって!」

 

 

 声高らかに否定するが、素直に受け入れる訳がないのは明白だった。

 終業式が終わって、もうすぐで3年生かと考えながら教室に戻ってる内にクラスメイトが変にざわつきだした。

 考慮していなかった訳ではないが……何で今になって。騒々しくなる教室の中で疑問は沸々と湧いてくる。

 

 まず第一に何故“付き合ってる”ことになってるんだ?客観的に見ればまあそう言われるのも変ではないかもしれないが………もしもう卒業してる筈の福持が噂を流したのなら、あの時に念を押しておけば良かったと後悔が残る。

 それにあいつ『鉄の女王』なんて呼ばれてたのか。あの『個性』と人付き合いから取ったのだろうが……………まだそこは良い。周りが言ってるだけだから瑞銀か傷ついていないのであれば俺が噂に口出すのはお門違いだ。

 

 だが、もっと問題なのは大スクープに関してだ。お互い親が有名人なのだから学生間の噂が下手に飛躍しかねない場合もある。

 

 

「今日も放課後一緒に帰るの?ヒイロ君」

 

「帰ってるんじゃなくてIEルームに行ってるんだ。お互い雄英行くために特訓してるだけで──────」

「二人で個室に!?学校内で大胆だなー!?」

 

「いや違う「もう高校も一緒に決めてるなんて!やっぱりアツアツなのね!!」

 

「おい待「絮吏儕イチのビッグカップルだな!先生には隠した方が良いと思うぞ!!」

 

 

 ……勢いがあり過ぎて俺じゃどうしようもない。もうこうなったら………いつも通り、黙秘を貫く事にしておくか。

 結局真実ではないのだから無理に否定し続けても、こっちから認めてるみたいになるだけだ。

 

 挨拶だけして席を立つ。周りが気付いて答えても意味のない質問が降り注ぐがそれを受け流して教室を出る………が、廊下に出ても好奇の視線が向けられている気がしてならない。クラスだけでの盛り上がりではないのが肌で感じてしまう。

 こんな状況で瑞銀に会ってしまうのも気まずいし、噂好きの学生に新たなエサをあげるだけだ。目に付かない所でさっさと連絡して今日は帰って───────────なんて考えていたら目の前に件の相手が居た。

 

 

「あ、居た居た。お昼ごはんまだだから一緒に………どうしたの?」

 

「ん、いや別に………(知らないのか?そんな鈍い訳ないだろうが…)」

 

「…あら、噂は気にしない主義じゃあなかったの?」

 

「!──────“俺”は気にしてないが。」

 

 

 誤魔化すのも考えたが彼女の雰囲気的に意味は無さそうだ。

 何も無かったみたいに尋ねてきてるけど、こちらとしては瑞銀の方を案じているだけだ。別に俺が何言われても気にしないのは変わらない………もしそれで悪い方向に話が伝播して瑞銀の悪評に変わってしまったら、こっちにだって責任がある。

 

 

「噂は噂よ。普段の学校生活と同じ、我関せずに過ごすだけよ。……そもそも春休みに入れば自然と周りは静かになっていくわよ」

 

「…そうだな。じゃあさっさと人目に付かない所で食べるか、場所は………」

 

 

 

 

 

 微かな不安は杞憂に終わって、いつも通りの日常に戻っていく。俺だけが気にしてしまったが故にまた瑞銀に後々弄られそうな気がしているが……まあ良いか。

 

 

 ────────────でも、何となく横に居る彼女が何処か心落ち着かずにに歩いている気がした。

 

 

 

 

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