「諦めた方が良いね」
人は生まれながらに平等じゃない。
…『無個性』として生を受けた僕の最初で最後の挫折だ。
────……それは古い動画。
『見えるか!!? もう100人は救い出してる‼』
『まだ10分も経ってねーーって!!』
『見ろ⁈ めっちゃ笑ってんぞ!!!』
『もう大丈夫! 何故って⁈』
『私が来た!!!』
一人のヒーローのデビュー動画だ。
昔起きた大災害、その直後に新人だった頃のオールマイトの活躍を映している。
…何十人もの負傷者を苦にせず背負い、
…燃え盛る火炎を一払いで活路に変えて、
…泣き叫ぶ人を満面の笑みで救い続けるその姿。
幼い僕は『個性』さえ有ればこんな風に成れるって幻想を抱いていた。
「『無個性』の癖にヒーロー気取りかデク!」
かっちゃんに何度云われようと、この夢を捨てる気は無かった。
…内心では否定できないのだと理解していたんだけど。
『個性』も無ければ……常人離れした身体能力だって無い。
もうすぐ13歳になるってのに奇跡が起こる訳も無い。
お母さんが“あの日”諦めたように僕も……──────
────……なんて道を選ぶのは出来ずに居るのが僕の意地だ。
生涯2度目の挫折は認められない……認めなくない。
だって僕はオールマイトに憧れたんだ。
どんなに強い敵でも、どんなに厳しい状況でも。
彼は諦めずに笑ってみせた。
いっ、今の自分に笑える程の自信も無いんだけど……
でも! こんな僕だって叶えられるかもって!
…そう思うしか、なかったんだ。
“憧れ”と言えば………僕にはヒーロー以外にもう一人居る。
『見て下さい! 天蟲久悟氏が降りてきました!』
「えっ!? なんで………っ?」
「急にどうしたの出久……番組変えちゃって?」
「あっゴメンお母さん! 何かサーナイトアイが緊急会見開くってニュースがあったんだ!」
「へぇ~」
天蟲久悟さん。…ヒーローに興味があるなら誰でも知ってる人だ。
ヒーロー医療の第一人者であり、“ドクターヒーロー”。
僕にとっては後者の名を深く憶えている。
『無個性』って訳じゃないんだけど………“蚕”という決してヒーロー向きじゃない能力でトップヒーローに届く程に活躍したってのが凄いんだ!
番組で解説されたのだと戦闘向きでは決してない、蚕の名の通りに微細な絹糸と高精度ではないらしい危機感知だけ。今でこそ天才外科医としての一面が有名だからその点納得できるんだけどいざ戦うってなったら不利でしかない。過去の映像を見るに本人由来の身のこなしとマジックみたいな早業で手足を縛ってみせる位に強かったみたいだ、じゃなきゃ今以上に犯罪発生率が高かった時代の最前線に立てない………
────……待て待て、今そんな場合じゃないな!
この映像に現れるなんて思わなかった! サーナイトアイが出るって知ったから視に来たのに………如何いう事なんだろう?
それも天蟲さんと一緒に降りてきたのって……!
「ん? 隣の人って誰なの?」
「栗衛糸穂さん! 最近話題によく挙がるサポートアイテム会社の社長だよ!」
「あぁ~なんか聞いた事あるかも」
「でも何で……? 2人共サーと交友があるなんて初めて知ったかも……」
凄い人だかりだ。緊急だってのに事務所前が人で溢れ返ってる。
…近年のヒーロー業界で欠かせない2人も居るんだし、これ程までに注目を集めても何ら可笑しくないよな。
オールマイトの元相棒と“ドクターヒーロー”と新進気鋭のSI会社社長。
う~ん……これから何が始まるんだろう?
────……質問ある人~?』
「なんかスゴイ壮大な話ねー……ちょっと興奮しちゃったわ」
「そっ…そうだね……」
「天蟲飛威炉くん、だっけ? 体育祭でも凄かったしホント一躍有名人ね~」
…僕の事もあって今ではあまりヒーローの話をしなくなったお母さんが呆気に取られる位、テレビの中で繰り広げられたモノには驚かされた。
機動装甲服を纏って登場してきた彼、天蟲飛威炉。
“英雄武装計画”の協力者である天蟲久悟の息子、小・中学生の頃から重犯罪を独断で解決してしまった問題児、『個性』“エネルギーコア”を有する類を見ない天才、雄英体育祭を圧倒的な成績で優勝してみせた次世代ヒーローの超有望株…………
彼に付随する評価を上げればキリが無いってのは確かだ。
比較的世代が近い人ではあるんだけど、僕なんかが憧れるには……ちょっと程遠い存在なんだ。
………僕が心打たれたのは彼の登場以上に、
「────……英雄武装計画、かぁ」
簡潔に纏めれば“新たに『個性』を与えてヒーローを強化する計画”。
機動装甲服……途轍もなく格好いいその機械製スーツがあれば、たとえ叶わない筈の敵であっても戦える能力を手に入れられるってことだ。
もし、所有者が『無個性』であったとしても…………
…………いやいや! 条件は厳しいらしいしさ?
僕じゃそのスタートラインにすら立てないって解ってるけど!
────……ちょっぴり、希望を持てた気がしたんだ。
「緊急速報も出てるじゃない! ちょっと…大丈夫かしら……?」
「…デッドホッグが逃げたんだ。ヒーローも向かってるだろうし大丈夫だと思いたいけど」
「出久が待ってる番組、このせいでやれないんじゃないかしら……?」
「流石にどうだろう………」
次の会見を心待ちにしてたのに何でこんなタイミングで事件は起こるんだろう?
うん、超常社会なんだから納得は出来るけどさ。
折角の一大事に水を差されるなんて誰が想定していただろうか。
って、悲観してたのも束の間だった。
『こちら現場の状況です! デッドホッグ移送中を敵に襲撃されました‼』
『犯人の方は現在ヒーロー達が応戦中です! …ですが』
『襲撃された高架橋ではまだ逃げ遅れてる人が居る状況ですッ!』
『ヒーローも未だ到着が遅れ……………
『アレはまさか、先程ニュースにもなってた⁈』
「“燈日綺矩”………?!」
報道番組に切り替えて眺めてたら見覚えのある姿が。
飛威炉さん改めヒヒイロカネが瞬く間に飛び立ち、現場上空を旋回するヘリコプターが捉えた映像に突如として現れた。
…プロヒーローですら辿り着いていない中でこの速度、絵空事とネットで叩かれても仕方ない程の事を唱えられたその自信は確かに間違っていないのかもしれない。
でも、そんなのは序章に過ぎなかった。
『ねぇ、彼って学生よね? 仮免も無かった筈じゃない?』
『法律的に止めた方が良いんじゃ……えっちょっと⁉』
『車ごと運んで、いや待って止めれる訳ないじゃないあの速度⁈』
『もしや全員移動させる気⁈ ねぇアレ絶対撮ってて‼』
そこからは凄かった。
約5分で16人、プロヒーローが手出しする暇も無く救出した。
それどころか逃走したデッドホッグも独りで捕まえたんだ。
…後に色々と議論を生んだけど僕に気にする余地はない。
だって成し遂げた事が余りに凄すぎないか?
前から将来有望な学生だってのは知ってた。父親が『超』のつく有名人で偉大な人だし、直近の活躍を含めても彼の功績は良い意味でも悪い意味でも注目を集めてきたのは百も承知だ。
しかしその評価の多くは“学生にしては”が付随してた。
いや、僕は「優秀過ぎて怖いな……」位に前々から思ってたんだけどね?
国内最大級のイベント“雄英体育祭”で圧倒的な優勝から次代を担うと称された才能の片鱗を示し、“英雄武装計画”の試乗者として更なる注目を集め………極めつけは今日だ。
『あのパワードスーツが有るから出来たんだろ?』
……ってコメントも見たけど、僕は違うと思う。
大事件が起きて人はそう簡単に動けるだろうか?
幾らヒーロー科に属する人間だろうと救助の為に危機に踏み込めるかは別だと思う。それも高1で初めての実戦だったら尚更じゃないか!
誰よりも早い敵との戦闘経験が理由かもしれないし、本人が恐怖に打ち勝つ精神を持ち合わせていたのかもしれない。
少なくとも今日活躍できた訳は飛威炉さん本人の能力に由来するモノだ。
僕としては彼の救助活動……何故か昔の景色を幻視した。
子供の頃に何百回も見返したあの動画。
救った人数も災害規模も違えどこの感覚は違和感じゃない。
飛威炉さんが示した力は只物じゃないってこと。
…オールマイトはどう想ってるんだろう。
『視聴者の皆さん! 聞かれましたか⁈』
『学生でありながらこの活躍! 正しくニューヒーローの誕生ですよ⁈』
『記事でもありましたインターンの件、質問宜しいでしょうか?』
『今日の活躍もあって他のトップヒーローとの契約の可能性は⁈』
『機動装甲服について語れる情報があれば是非‼』
俗に言う『手の平返し』って奴かもしれない。
最初の会見では否定派ばかりだったのに気付けばコレだ。
色んなプロヒーローのデビュー以前以後を知ってる僕としては見慣れた光景ではあるけども……。
まぁ、ああも実力と性能を証明させられたら納得せざるを得ないよね。
「ご質問ありがとうございます。…ですがまだ仕事が」
『その才覚あってこその活躍! 今後の夢などコメントを‼』
「────……では、この場を借りて」
確かに犯人の再逮捕もあるし悠長してる場合じゃないんだろうけど、アナウンサーや記者が止め処なく質問を浴びせたがるのも仕方ない。
でもどこか面倒臭そうに対応する姿に本人の性格が少し透けて見える様だ。
そして、今から語る言葉が僕の心を貫いた。
「いずれこの戦闘服が完成し、誰もが装備できるようになる」
「………条件こそ厳しいですが可能性として」
「機動装甲服がヒーローを目指す契機になる」
「当計画の目的にはそう言う視点も含まれてます」
「まず第一に、才能や環境で俺はヒーローを目指してません」
「志したのは……誰にだってあり得る悲劇が原因」
「家族が襲われる。もしそんな時に誰が守る?」
「当然、俺が守るべきだ。そう考えた迄です」
「苦労はするでしょうけど、当計画は誰でも挑めます」
「覚悟と弛まぬ努力さえ有ればコレは手に入る」
「理論上、『個性』の有無関係なくヒーローに成れる」
「…代表の方々はそう考えています」
「そしていずれ国防の主軸を担う俺が保証します」
「まぁ、生半可な鍛錬で目指すのは身の周りの迷惑です」
「死ぬ気で頑張れば、って前提を肝に銘じておいて下さい」
「お互い夢目指して頑張っていきましょう」
────……以上です。失礼します」
『『『ちょっと! 待って、まだ質問が⁈』』』
マイクを向けた人々に混乱を残して、飛威炉さんは後にした。
正直、耳を疑った。
生まれてきて約12年。一度も云われたことが無かった。
“『無個性』でもヒーローになれる”って。
「………っど、どうしたの出久……?」
「ちょっと走ってくるね」
「良いけど……お昼ご飯そろそろ出来ちゃうわよ?」
「…ゴメンお母さん。帰ったらすぐ食べるね」
「うっ、うん……」
「今は────……体を動かさないと落ち着かないんだっ!」
たった一縷の可能性でも夢を叶えられる道がある。
…今の僕じゃそのスタートラインにすら立ってないんだ。
じゃあ如何すべきだって?
当然ッ、死ぬ気で頑張んなきゃ!!
──────………思い返せば、この時に初めて意識し始めたんだ。
天蟲飛威炉……いずれ僕の“兄弟子”にもなる存在を。