やっと職場体験期間が終了した。…まぁ色々あったかしら。
私と芳乃が所属したリュ―キュウの事務所、国内でも上位に位置するドラグーンヒーローが務める事務所として名を馳せている。
特に“女性トップヒーロー”の存在もあってサイドキックも女性が多い。…と言うよりも事務含めて全員女性だった筈ね。
そんな環境もあって私達は不自由なく過ごさせてもらった。
パトロールに同行したり、街中で補導されてる現場に居合わせたりとプロヒーロー見習いとしての第一歩のような体験とも言えるわね。
………そうね、“第一歩”。誰かさんと違って。
『璃亞ちゃん! 声聞くの久し振りだねー!』
『ホントね。職場体験はどうだったかしら?』
『いや~オモロきつかったって感じ? やりがいに関しては凄かったね!』
昨夜の電話で芳乃以外とのクラスメイトを認知した気がするわ。
…アイツは散々テレビで観たからカウントしないでおくけど。
『雷咲は確か海難ヒーロー“セルキー”の所だったわよね?』
『ウチの『個性』的に海って相性イイかなって思ってたけどそんな事より覚えなきゃ駄目な事いっぱいで大変だった~』
『私の方もそんな感じよ。プロヒーローの凄さを知る良い機会になったわ』
本心としては……まぁ半々ってとこね。
憧れのヒーローと一緒に仕事を出来たって点で気分は舞い上がっていたものの、じゃあ現場の仕事量に満足したかどうかは話は別。
結局のトコロこの職業は受動的なモノよ。犯罪件数や規模に依存する為、学生2人が実戦の名目で来ようがスケジュールの大半をパトロールが占めても当然のことよね。緊張しいの芳乃は目立った犯罪も無くホッとしてたけど。
…対して、雷咲の方は話を聞いてる限りこちら以上に充実してたようだ。
海難事件、つまり基本的には市内パトロールとは規模感が違う。海上船などを利用して広大な範囲を捜索する場合もあるだろうし普段習ってるモノとは別物なんだろうな。
以前“USJ”で水面を電気摩擦で滑走するって荒業も魅せてたし向いてるとは思うわね。
グループ上でも大概がやりがいと疲労を吐露してた辺り、私みたいなのは少数派なのは確かでしょう。
『あ! でね? 電話したのは明日暇かどうかを聞きたくてね!』
『明日………ちょっと用事は有るわよ』
『マジ? そっか~……』
『でも夜に天蟲家にお邪魔するってだけよ。昼だったら別に問題無いし』
『昼いける? 良かった~何人か呼んで勉強会兼労いの会を開こうと思ってたんだよねー』
『後者の方が割合高そうね』
『あはは、良いじゃん今後どんどん忙しくなるんだし青春するなら今の内!』
青春ねぇ。…余裕がある内に経験すべきなのはそうね。
今日の予定は番組視聴よ。ある有名番組に飛威炉が呼ばれたから朱寧さんが一緒に観ないかって誘ってくれたんだ。
只の学生招待系のモノだったら私だって幾度もあるけど………コレはレベル違うわね。
もし私だったらぜひ出演したいもの、“彼”に会えるなら。
「………そろそろ始まるわね」
「録画でもしよっか?」
「そこまでしなくて良いんじゃない?」
「ゴホッゴホッ…いずれはあるかも、と想像はしてたけど……」
「…そうですね」
家族が出るって言うのにこの空気感は……如何してかしらね。
それも過去に久悟さんも出演してるのよ? 普通だったら感傷的になっても何ら可笑しくないだろうにテレビを眺める者達の顔色は晴れやかでない。
時期が早過ぎるのよ。…飛威炉は常にそうだけど。
私も朱寧さんも危惧してた“生き急ぎ”。
華々しい番組コールと共に彼の成り上がり具合をまざまざと示されてしまうと、何故だか不甲斐ない気分にさせられてしまうのはテレビの前だと私だけでしょうね。
『さぁ始まりました! “MIGHT-MEET”!!』
『本日も宜しくお願いしますオールマイト!』
『ヨロシクっ!!』
『…では本日のゲスト、お呼びいたしましょう』
『巷で話題の彼! この番組で学生が出演するのは初ですね』
『“燈日綺矩”として活躍する高校1年生の登場です!』
豪勢なセットに似つかない制服姿で現れた飛威炉。
平和の象徴が出演する対談番組でありながら緊張してる素振りは微塵も無さそうだ。
…それなりに長い付き合いだから分かるわ。『オールマイトと対面できるのは嬉しいが俺自身の宣伝をするには丁度良い番組だ。出来るだけ愛想良くしないとな…』って思ってるんじゃないかしら?
どうせまた何か企んでるでしょうね……。
サー・ナイトアイの推薦か久悟さんからの流れなのか、それ以外でも招待される理由なら無数に思い当たるけど飛威炉は憧れとかの感情のみでメディア対応を選ぶ人間じゃないわ。
「父親の出演経験があるとはいえ、飛威炉が出るのは早すぎるとは思うわ」
「そーだね~。別にお兄ちゃんこーゆーの向いてないのに」
「でもオファーの来る道理は理解できるわ。昨今名を挙げ始めた若手ヒーローより人気持ってると云われても過言じゃないからね」
「サー・ナイトアイの存在も関係してそうだけど……それ以上に…ゴホッゴホッ」
菟希ちゃんは何処となくピンと来てなさそうね。…朱寧さんは流石に息子の思惑を疑ってる様子かしら。
『お二人は一度会った事があるそうで?』
『そうですね。自分が13歳に成る年に事件現場で』
『コンビニの立て籠もり犯の件か!! いや~懐かしいな!』
「そう言えば当時はまだ璃亞ちゃんと会ってない頃かしら?」
「オールマイトと会ったと思うと少し恨めしく感じますね」
「雄英に居ればいつか会えるんじゃないの?」
「卒業式とかは来るらしいけど………詳しくはまだ知らないわ」
「へぇー」
何だかんだ私オールマイトと会えた事無いのよ。
雄英に入れば、とも思ってた節は少なくともあるかも。
体育祭の会場の何処かに現れた!とかの話は聞いてたんだけどさ、あの時の私は皆の介抱を受けてた状態だったしそんな噂を信じれる訳も無いじゃない。
現実で見れるものなら……叶ってほしい願いかもね?
まぁそこは良いわ。私は自分の力で……いや、飛威炉は中学時点で会ってるのか。なんか余計腹立ってきたわね。
画面内じゃあ淡々と受け答えしてる人間には迷惑してるのよ。
職場体験期間中で起きた事を挙げてくわ。
初日、大層な事業計画の中心人物を仮免も無い学生として名を挙げる。その日中に起きた凶悪犯奪還事件解決の第一人者となる。
それからの数日間……様々なインタビューや報道番組に出演し更に注目度を高めたり、私が経験できなかったような事件に首突っ込んで当たり前のように解決してみせた。
────……え? 何なの? 私への当てつけかしら?
私は心配する段階をとうに超えた。
…でも貴方を見守ってきた母親は違うでしょ?
なんて、言葉が届く訳も無く番組は進んでいく。
出演者3名の会話は事業計画の話から移り変わって日常的なモノへ。
まぁオールマイトがプライベートな話題を広げる事は無いから飛威炉の学校生活が中心になった。
リアルタイムに届く視聴者の質問を織り交ぜながら、「普段どんな学生と一緒に過ごしてるか?」とか「ヒーロー科の授業で特に辛かった物は?」とかを訊いていく。
…身内としての贔屓目を考慮しても毒にも薬にもならない返答ばかりね。
企み云々は知らないけど、こんな面白味の欠ける姿ではトレンドにも挙がりにくいじゃないかしら?
サー・ナイトアイが知ったら叱られるでしょ。
……………と邪推しながら視聴してた時に、だ。
『続いて視聴者から! お名前“Ms.Teak”さん!』
『「彼女は居るんですか!?」……です!』
『正に青春ッ!! 答えられればで良いぞ!!!』
『いや、居ないです。すみません』
『なんとコレは意外! 引く手数多なのは確かでしょ?』
『そんな事は……俺にその度量も余裕も無いですよ」
「「「────……………」」」
なんて事ない、学生に向けたモノならありがちな質問だ。
ソレに対して飛威炉は淡々と“処理”してみせた。
あっけらかんとした……社交辞令の如く感情の抜け切った台詞。
何も間違ってない。著名人として、不必要に誤解を生まないよう毅然とした対応で質問を切り上げてみせたのだ。
面倒ごとを嫌う我が1-A担任が聞いていれば簡単には否定しないんじゃないかしら?
………いや、言葉に詰まるのは私だけだと思ってたんだ。
私の真意を知ってる菟希ちゃんならまだ納得はいく。
オーラのように怒気を醸し出して空気を支配してるのは紛れも無い朱寧さんだった。
「よ…くもまぁ……無責任に…言ってくれたわね」
「お…お母さん………?」
「(朱寧さんがここまで怒るなんて、初めて見た……)」
微かな声色が今までにない程に冷たい。
体調を考慮すれば過剰な感情の起伏は私達で配慮すべきなのに、今の状況であれば宥める理由も無いし同調さえしてしまう。
オーディエンスの盛り上がりを余所に居間は静まり……気付けば朱寧さんの視線は私に向けられた。
「………璃亞ちゃん、ゴメンね菟希から聞いてるの」
「何の事────……というのは訊く意味も無さそうですね」
「ごめんなさいッ! 私っ、言い触らしたりしちゃって……!」
「大丈夫よ。気にしないで良いから、ね?」
「私にだけだから許してあげてほしいわ……ゴホッゴホッ」
何時かは………確認されると思ってたわ。
菟希ちゃんは何も悪くない。責める権利も無い。
飛威炉に伝わってなければ────……いえ、アイツの場合は伝わってたとしても真面目に取り合わないかもしれないわね。
『息子をどう想ってるの?』と暗に訊かれてると思うと不思議な状況よ。
そんな質問を真剣に訪ねてるんだからこそ、その真意に更なる付加価値を与えているんでしょう。
『“はい”も“いいえ”も超えた複雑さを身勝手に含ませてる』と既に気付かれてるって訳ね。
…返答に困り、正しい台詞を紡ごうとして。
喉元を超え切る前に朱寧さんが更なる独白を続け始めた。
「そして、本当に許してほしいのは“私”の方よ」
「えっ………?」
「訊かなくても分かるわ。あの日、私が打ち明けたせいで璃亞ちゃんが無理に気負い始めてしまった気がするの」
「いや、そんな事……」
否定しようとしたのに、再び私の口は開いたままだ。
キッカケはそうなのかもしれない。
恋心が芽生えたのは初めて天蟲家を訪れた時。
でも、彼の“隣”を志したのは疑いようも無くその日だったんだ。
「体育祭の日に知ってから考えてはいたんだけどさ、お互いの夢の為だとしてもただ我慢してしまうのは良くないんじゃないかなと思っちゃうんだ」
「貴方たちはまだ学生よ。ヒーローになれば個人を優先できなくなるのは正しいとしても今この一瞬は出来る範囲で自由に過ごしてほしいと願ってるの」
「お兄ちゃ……あのバカ兄貴は誰かが止めない限り歯止めが効かなくなるでしょ? 特に“コレ”がまさしくその証拠だし」
「『行き過ぎる息子を引き留めてほしい』と頼んだ私が言える立場じゃないけど、璃亞ちゃんが苦しい思いをしてまで入れ込んでほしくないの」
2人の言葉に、ずっと頷くしか出来なかった。
解ってはいたのにこうも私の事を考えてくれてたと思うと感無量だ。
…我慢してないとまた無様に泣き顔を晒してしまうわね。
だというのに無粋な私は否定から入ってしまう。
「っでもテレビで言うように眼中に無いでしょうし……」
「私が怒ってるのはそこだから」
「ッ………!」
「飛威炉が衆目集まる場であんな情けない言葉を残すとは思ってもみなかったわ」
「そー! ダサいでしょアレは、ねぇ璃亞さん!!」
「えっ…えぇ……そうかしら…」
…ほら? 薄ら笑いしか出来てないじゃない?
勝手に余裕を失ってるのは……自覚してるって事でしょ?
考え過ぎてた、のかしら?
いえ………そもそも間違ってたのかもしれないわ。
ずっと私は捨てられなかったんだ、夢に不必要な筈の恋心を。
『飛威炉からだったら』みたいな幻想にだけ縋って中途半端に生きてきたのが“私”だったんだ。
ヒーロー目指してる癖に告白する勇気は無い。
…その言い訳ばかりを唱えてきたのかもしれない。
「全ての面で恵まれてるのに一人の少女の想いを無下にする気概なら……トップヒーローを目指すとか口にしてほしくないわね」
「チョー鈍感だし璃亞さんをどう想ってるかまでは流石に聞いてないけどさ? 真剣に伝えても碌な対応しないようなら私は絶対にお兄ちゃん許さないから!」
「無理強いするつもりは無いわ。…どう?」
覚悟が揺らごうとも、私はこの場で応えるべきだった。
「もし叶うんだったら……──────
『そう言えばオールマイト?』
『うむ! 如何したんだい?』
『貴方が飛威炉君をインターンで受けるのはどうです?』
『…いや、サーが引き受けるのだろう?』
『まだ仮免もまだじゃないか! それに年ごとに移籍するのも』
『しかし私は学生に教鞭を触れる身では………』
『すみません。その件で提案したい事が』
『おっ! 何だい飛威炉君?』
『俺が体育祭3連覇したら、はどうですか?』
「「「なっ………!?」」」
彼の爆弾発言は……誰も聞き逃せなかった。
願っても無い行動に画面は顕著に色めき立つ。
困った様に口を濁すオールマイトを余所に、エンタメとしての体を為した嬉しくも無い大騒ぎは番組が終了するまで続く。
…少なくとも私は静かに画面を見つける事しか出来なかった。
画面は切り替わり、名も知らない番組の冒頭が始まっている。
たった数分の静寂を終えて口々に切り出す。
…当然のように怒りを込めて。
「ゴメン璃亞ちゃん。今日泊まれる?」
「…はい。私もそう提案するトコロでした」
「よし、全員おんなじこと考えてるみたいだね!」
とびっきりの説教を食らわすって目的は一致してる様ね。
ホッッッッントいつも身内に心配かけて………
そう言う発言が過剰に厄介ごとを生むんだから………
────……とは、今の私じゃあ思えないわね。
結局、また彼の未来に私は隣に居ないって証明されたのだから。
「(やっぱり……飛威炉は………)」
───────………私が静かに来たッ!!!」
……静かではないな。当社比ではまだマシな方か?
暗闇に似合わない貴方のスター性を最小限に抑えてでも来てくれた事にまず感謝すべきか。
さぁ────……この機会を生かさないとな?
「…彼に似てるな。年齢を疑いたくなる程に聡い少年だ」
「来てくれましたか………オールマイト」
「中々無いんだオフの私はな。手短に頼むよ……!」