緋色の英雄   作:kozmo78

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第44話 仮免試験《2》

 

 

 

 

 スタジアムの中にしては………密度が凄いな。

 

 正に試験会場らしい程に質素な造り。

 試験監督が登壇する前方にだけ大型液晶があって他は真っ白な壁に囲まれてるだけ。

 

 試験を開催するに当たって、全くの“用意”が無い。

 

 

 …いや、どんなタネが隠されてるかは知ってるがな。

 

 相澤先生が渡して下さった・・・・課題のお蔭で嫌と言う程に調べが出来てるんだ。

 

 秘匿された試験内容、だがある程度の『傾向』は存在してる。

 

 不運なことに今年は特殊なパターンで………みたいな事が有ったら、まぁその時はその時で何とかするだけだ。

 

 

 

 まだ騒めく生徒を余所に、壇上に黒服姿の試験官が。

 遂に始まるか……自然と892と記された番号札に目が移ってしまう。

 

 室内に重々しい高圧口調な声音を響いた。

 

 

『只今よりヒーロー仮免取得試験を始めます』

 

『…今回の進行を務めるヒーロー公安委員会“公門きみかど安恒やすつね”と申します。どうぞ宜しく』

 

『以後、当試験を通過後に交付致します免許証を“仮免”と呼称の方を統一させて頂きます。お見知り置きを」

 

 

 政府の役人が直々に審査する試験など学生が対象のモノとしては異例の環境でしかない。

 …超常社会において、与えたその証が国内の治安に直結する可能性だってある訳で。

 

 しかしヒーロー公安委員会か、初めて見たな。

 

 ARCで役人らしき人は何度も見てきたから知らず内に会ってるかもしれんが、人名も明らかな状態で認知した経験は無かった筈。

 メディアじゃ表立って登場する存在でもないしな。

 

 

『総勢892名、当会場に集った受験者を二度の課目を経て選抜』

 

『合格者数に関しましては最終的な総数までは決まっていません。ご了承下さい』

 

『また各科目に於いて、プロヒーローに求められる適性を会場ごとに定められた試験で判断致しますが』

 

『ヒーロー飽和社会という昨今の情勢を考慮した上での審査である事は全会場共通です』

 

『“可能性”で見定める気は有りません。実戦でプロヒーローの邪魔をしない程度の実力が無ければ』

 

『仮免を渡す道理は御座いませんので』

 

 

 容赦無い忠告に浮足立ってた空気が凍り付いた。

 

 

 会場に居る多くの学生は“実戦経験”が少ない。

 

 職場体験ぐらいだろうか? プロヒーローと行動を共にできる機会そのものが無い。

 雄英が全国的にも稀有な環境なだけでな……『個性』を自由に行使できない立場では当然だし、だからこそ仮免が必要不可欠となってる。

 

 なのに、この試験は無い筈の能力で決めようとしている。

 

 

 …気付けばまた俺への敵視が増え始めてる気が。

 申し訳ないが、こっちを恨んでも審査が緩くなる事は無いんで。

 

 ってか説明を聞くに俺の番号が最後なんだな。

 

 

『第一次選考、こちらで個人の能力を見定めます』

 

『大型液晶を御覧下さい。ルールの説明です』

 

 

 そう宣言すると照明が段々と薄まっていった。

 

 さぁ何をする気なんだ……───────?

 

 

『試験官が各自に小型インカムと簡易拘束具を配布します』

 

『説明後1分経過したらサイレンと共に第一次選考を開始』

 

『10分間のバトルロワイアル式模擬戦を3度設けます』

 

『装着してもらったインカムで終了時間、そして脱落・通過のアナウンスを行います』

 

『まず脱落条件について、 2回・・ その拘束具を掛けられた場合はその時点で失格』

 

『手錠型ですが腕でも足でも良いので掛けてもらえば“拘束完了”と見なし、その対象者はインターバル迄の一切の行動を許しません』

 

『そして2度の拘束を成功した場合は、全体への静止命令迄に拘束されなければ次のインターバルにて通過をアナウンス致します』

 

『もし拘束されたら前述通りに活動停止。途中での通過は出来ず拘束成功数を持ち越して次ラウンドに参加して下さい』

 

『今、述べた条件だと1つの状況下で問題が生じます』

 

『拘束回数を満たして最終ラウンドに達した場合。…コレだと意図的に拘束されても条件で判断すれば通過できてしまいます」

 

『よって最終ラウンドに関しまして……拘束された場合は問答無用で脱落とします」

 

 

 …成程。複雑ながら単純でもあるルールじゃないか。

 

 ポイント稼ぐタイプの選考方法は歴代でも大半を占めてる。

 しかし今回は条件を満たせば良い訳じゃない、“回避及び逃走”にも努めなければ無駄になる。

 

 配分で言うと2人通過すれば2人脱落で、拘束されるのを怖がって消極的に攻めてたらラウンド全て逃げ切ったとしても通過できないのか。

 

 ある意味で………実戦に通じる要素は随所に散りばめられてるな。

 

 ヒーロー活動に戦闘は絶対じゃない、人命救助が最優先だ。

 ヴィランと対峙する際に戦うことに執心していては守るべきモノも守れないかもしれない。

 状況に合わせた判断を選ぶ。…それが逃げる事だとしても。

 

 当たり前だが、色々考えてるんだな試験ってのは。

 

 

『通過条件を言いますと、第一に無傷のまま2度の拘束を達成した者』

 

『第二に一度拘束されながらも得点を手にして最終ラウンドを逃げ切った者です』

 

『他は全て第一次選考から脱落、速やかに退場して下さい』

 

『…注意事項としてこの試験は常に監視されています。円滑な選考を妨げる行動は減点対象ではなく違反と判断する所存です』

 

『拘束後の戦闘・被拘束者への攻撃・過度な談合など……』

 

『他にもありますが後は各自で考え、健全な試験環境の維持へのご協力お願い致します』

 

 

 「過度な」……か。要するに「ある程度はしても良い」と。

 

 まぁ四面楚歌って感じだし俺には関係ない話なんだが。

 

 

『ルールは以上です。展開・・後に各種配布を始めます』

 

『完了しましたら1分後にカウントダウンと共に開始するのでご注意を』

 

 「「「て、展開?……────っ!?」」」

 

 

 疑問を零す声を掻き消すように光が差し込んできた。

 

 …初見だと驚くのも無理は無いよな。

 狭苦しい部屋が、一瞬で地形様々な都市へと変貌するとは。

 

 スタジアムを利用してるとは言えあまりに大規模な仕掛けだな。

 

 

「拘束具を。予備もありますがご利用は計画的に」

 

「どうも」

 

「只今より準備時間となります。速やかに移動お願いします」

 

 

 よし、移動するか。

 拘束具は3つ。予備も有りながら少し心許ない配布数だが、人によっては戦闘服コスチュームでも手持ち一杯になる事も考慮すれば妥当なのだろう。

 

 …渡してくれた試験官にも一瞥食らったが気にしないでおくか。

 

 

 基本的には………うん、学校ごとに移動してそうだな。

 単独で行こうとしてるのは指で数えられる程だろうか? 大概がチームアップで保守的に動こうとする筈だ。

 

 人数差で有利を作れば、全員は無理でもポイント獲得は楽になる。

 …ラウンドが進むと同級生すら敵と判断せざるを得ないかもな。

 

 

 しかし最初は関係ない、無理に攻めずに隙を窺っていった方が賢明だ。

 

 仮に狙うとしても────……例を挙げるとすれば、

 

 “仲間も居ない『個性』も割れてる奴”、そんな奴だけだ。

 

 

 

「(んー…ギミック等は無し。シンプルな会場だ)」

 

   『10!』

 

「(自分を活かせる地形を選ぶのも審査したい“判断力”かもな)」

 

   『7!』

 

「(被拘束者が溢れる前に決めないとジリ貧、なんだが……)」

 

   『3!』

 

「(フッ、後半の心配はしなくて良いよな?)」

 

 

 開始の合図を前に、忙しなかった会場も一瞬静まり返る。

 

 

 覚悟、期待、思惑。…仮免取得を目指してても人それぞれだ。

 

 

 その筈なんだが──────…………

 

 今この瞬間、“やるべきこと”は確実に一致してしまう。

 

 

 

 

  『STARTッ!!』

 

「「「まずテメェだよなァ! ぶっ潰せェー!!」」」

 

 

 

 あ、さっきのは言葉が足りなかったな。

 

 “仲間が居なくて『個性』も割れてて潰し甲斐のある奴・・・・・・・・”。

 

 

 …先輩方はだから俺を狙うんだよ、当然な。

 

 

 俺を囲んでる数でも15人は居るか。

 これ見よがしに『個性』を構えてるな……火ぃ吹いてる奴やら、手足を触手みたいに変化させてる奴やら多種多様だな。

 施設に隠れて遠方から狙ってる奴も大勢居る。

 

 ……ってことは学校問わずの襲撃だな。

 示し合わせ必要も無しに1ポイントしか取れない俺独りを狙うとは。

 

 俺を潰せるなら合理性とか要らないんだろうか?

 

 

 

 逃げ切れなかろうが、雑に包囲網を搔い潜ろうが危険。

 

 …俺がこの程度のピンチに躓く人間だったら慌てふためいてたよ。

 

 

 

────……あ? 何処行った?」

 

「上だ! あの建物んとこまで飛んで逃げてやがる!」

 

「ってかお前、その腕?!」

 

「は!? 気付かねぇ内に────……オイお前も?!」

 

「えっ────……何っ!?」

 

 『『アナタハ拘束サレマシタ 動カナイデクダサイ』』

 

 

 目眩ましフラッシュと一瞬の脚部ブースト。

 

 予め徒党を組むと決めていたとかな? しっかりとした連携によるモノでもない限り、その2つで如何とでも出来るな。

 ついでにガードの甘い方々にはプレゼント付きだ。

 

 今頃、その耳元で『行動不能』が告げられてるだろう。

 

 

「ノルマは達成、さぁ後は……云わば“鬼ごっこ”だな」

 

 

──────………アイツはもう良い! 時間無ェんだ!

 

「ん? 来ない、のか……?」

 

 

 敵討ち、なんて事はハナから有り得ないが追撃も無しか。

 思ったより諦め早いみたいで気が楽になったよ。

 

 まぁ機動力に秀でた人間を捕り逃がした段階でその判断は正しいかもな。

 

 しかしまぁ、こうなってくると……大勢で因縁吹っ掛けられるって可能性は減ってくれたと願いたい。

 

 

「(しかし、こっから暇だな。不意打ちに気を付けとくk、

 

 

  「ボーっとしてんならボクと話さない?」

 

 

………っ────……言ってる内にだな」

 

 

 屋上から熾烈な戦いを眺めてると気配と共に俺を誘う声が。

 

 …気付くのに遅れてたら危なかった。

 放たれたナニカを無心で避けたが正体が解らないな。鉄や布の類じゃない、液体に近い形状だった気もするが何だ?

 

 何故か回避した瞬間に甘ったるい匂いを感じた事だけは確かだ。

 

 

「(この高さを一瞬で昇ってきたか。何の『個性』だ?)」

 

「驚いたよ。会場に来たらテレビで観てたそのまんまの奴が居てさ」

 

「…自分、2人拘束し終えてるんで戦う理由が無いんですが」

 

「ボクもさっきやって来たよ。ほら?」

 

「………じゃあ何故?」

 

 

 手元の拘束具は1つ……既に2つは使い終えてると証明したいのか?

 初対面で信用する程のお人好しではないんだが………

 

 いや、雰囲気的には只の冷やかしではなさそうだ。

 

 

 「ボク、元々海外住みでさー」

 

 「今年から日本のヒーロー科に編入してきてね?」

 

 「色々カルチャーショックはあったけど一番驚いたのが」

 

 「体育祭での、『君』の活躍なんだよ」

 

 「“緋色世代”だっけ? 君の世代の注目度は凄いよ!」

 

 「ソレは良いんだけどボク達上の世代は……何だかね?」

 

 「…その中でもひと際目立つ君がココに居る」

 

 「だったらさ?」

 

 「大物食いジャイアントキリングはしなきゃ、だろ?」

 

 

 …年下に使う台詞ではないって口挟むべきではないな。

 

 

 緋色世代────……黄金・・世代ならぬ、って感じの駄洒落染みた世評の事か。

 

 まぁ自惚れでも過大評価でもなく、俺達の世代は凄いらしい。

 

 そもそもプロヒーローと学生で圧倒的に差が有るかは対象者による。

 一般論では前者が上、しかしそうだな………体育祭における決勝トーナメントBEST8のメンバーは比較されても何ら可笑しくないと言い切れる。

 で、俺・璃亞・仰木・楓馬4位以上は贔屓目無しに上位層と比べられても変じゃない。

 

 

「あ申し遅れてたね。ボクの名は“リコリッシュ”だ、よろしく」

 

「俺の方は………まぁ名乗らないで良さそうですね」

 

「天蟲飛威炉、だろ?」

 

「…先輩がそう名乗るなら俺の方はこうじゃないですか? “燈日綺矩ヒヒイロカネ”って」

 

「どっちでも良いさ。戦う理由には十分じゃないか?」

 

「………確かに」

 

 

 …俺をどう呼ぼうが、“俺そのもの”に倒す意味を持つ事実は変わらないな。

 

 先程も答えたように戦う『理由』が無い。

 仮に先輩を信用したとして、これ以上お互いが得点を重ねても無駄だ。

 監視してる側もノルマ達成者は身を潜めるモノだと想定したルール設定だと考えられる。

 

 何より、現時点で第二次選考を見据えていきたい。

 

 

────……って事で雑談の途中に悪いんだが、

 

 

「ねぇ前着てたアレは? もしや持ってきt、

 

  「では」

 

「え……ってオイ! 逃げるな!」

 

 

 背中越しに飛び降りて、無様に落下しない程度に勢いを殺す。

 

 追い付けないと悟って勝手に諦めてくれるのが理想………いや無理っぽいか。

 虚を突いて逃げたと言うのに、背後からの怒声交じりながらの呼び止めは遠くなってはいないんだからな。

 

 

 俺を如何にして追ってるかは気になるトコロで…………

 

────……へぇ器用だな、生成物をロープ代わりにしてスイングとは。

 

 手から伸ばすカラフルな物質、匂いも込みで推察するにアレは菓子類に近いナニカだ。

 弾力性や粘性を持つ菓子と言うと………ガムとかか? にしては質感が違う気がする。あの不意打ちでの記憶だと紫色で且つ微かに“透けてた”様に思う。

 

 まるでガラスにも見紛う────……飴、だろうか?

 

 中2のバレンタインの頃、菟希と璃亞に誘われて同行した時の事を思い出す。

 チョコやら何やら色々見て回ったが調理工程の見える菓子店で、粘土みたいな生地を伸ばしながらキャンディが出来上がっていくのに菟希がテンション上がってたな。

 日本だと金太郎飴とかが該当するんだったっけか?

 

 

 強度を保たせる事も、質感を変えて空中機動にも応用可能。

 

 …そう想定しておこう。『個性』に意外も何も無いしな。

 

 


 

 

「久し振りの登場だァ! 『個性』解説と言えばオレだよな⁈」

 

「ヒーロー名“リコリッシュ” 『個性』“飴細工キャンディクラフト”! 飴に纏わるモノなら大体作れるぞ!!」

 

「色種によって味も変わるらしい! あと食べたモノの味も飴に返還出来るゼ!!」

 

 


 

 

 散策がてら飛び回ってるんだが……引き剥がせないな。

 

 そりゃ“Energy-FullCowlエネルギーフルカウル”でも使えば逃げられなくも無いが目立って仕方ない。

 視界から外れた後に室内に……ってのはルール上不可能だ。見世物では無いとは言え、受験者が消極的になって籠り始めるのが増えたら見映えが悪い事この上ない。

 

 

 …試しにそうだな。乱戦に紛れ込んでみようか。

 

 

「ちょっと、逃げるなんてらしくないんじゃないか!」

 

「無理に潰し合うのは嫌なんですよ」

 

 「うぉっ危な!?」 「何……お前あの?!」

 

「潰し合う気は無い! 君を捕まえて有名になりたいだけ!」

 

「俺が抵抗しない訳無いでしょ、仲良くしません?」

 

「ソレは終わってから!」

 

 「待て天m……早ッ!?」 「アイツも何だ? アレに尾いてってるぞ!?」

 

 

 空振りに終わったな……自分達の事で手一杯だったか。

 

 数多の『個性』で混沌と化した戦場だ、プラス俺の存在もあって予期せぬ攻撃しか来ない筈なのに余裕で避けられてる。

 市街地に似た環境だからこその機動性なんだろうが俺の後を追えるのは流石だな。

 

 

 

 しかし────……どう収拾つけるか?

 

 ギア上げて一度振り切ったんだが、60秒も経たずに「見つけた!」だよ。

 ルール上室内には逃げられないしもういっそ会敵して…………

 

 …いや、流石に舐め過ぎだ。短絡的な思考を持つべきじゃない。

 あの『個性』は確実に拘束向きだ。運良く最初は回避できたものの、もし飴の様なアレに掠め取られたら拘束具を装着させられる程度には身動き取れなくなるだろう。

 

 

 そう無駄に思考を巡らせてる内に、景色が様変わりしていた。

 

 工業地帯……だな。雄英のと似た奴だ。

 配管が複雑怪奇に拡がる中、所々で立ち尽くしてる受験者が居る。

 

 

「(結構な人数捕らえられてるな。半分は越えてるか?)」

 

 「はぁはぁ────……今度こそ追いついた!」

 

「うぉっ、………上からか」

 

 

 ココなら身を隠せる、と思ったらもう現れたな。

 まぁ先程よりは疲れてくれたようだが……俺への執着は俄然収まる事は無いって感じだ。

 

 …折角だ。そろそろ弁明しておかないと溜まってる不満がより嫌な方向に爆発してしまいそうだし、このタイミングで応えるべきか。

 

 

「ねぇ! 別に戦っても良くないかな?」

 

「…さっき試験監督が言ってた言葉、覚えてますか?」

 

「ん?」

 

「『個人の力を測る』って奴です」

 

「あぁー……ソレが?」

 

 

 逃げてた奴から急に質問されてもピンと来ないか?

 

 大体の受験者が第一次選考で頭一杯なのに、いざ俺はと言うと進行役の台詞を深読みしてるって訳だ。

 『話の腰を折られた』と気分を損ねてしまわないか心配だな。

 

 

「一次はまぁ各校で結託してますけど基本的に個人戦です」

 

「しかし、二次でほぼ確実に“協力”が必須なんです。数少ない前情報で判る限りでも」

 

「ポイントの為に潰し合うのは仕方ないんですけど……出来ればわざわざいがみ合いたくないんです」

 

「ましてやお互いノルマはクリアしてるんですからね?」

 

 

 一応、コレが俺の理屈だ。

 前情報が信用できないと言えど“歴史”が証明してるモノがある。

 

 十中八九……二次では受験者同士で敵対する内容にはならない。

 

 厳密に言うと一次より実戦を想定した形になり“個人”で解決できるレベルの試練を用意する気は絶対に無い筈だ。

 救助・・への対応力を測る新要素の追加。…他の受験者が何所まで知ってるかは解らないが、ARCの様な超常社会だからこその新興事業には身の上的に詳しくてな。

 

 

 さぁ理解してもらえただろうか?

 

 ただ闇雲に交戦を避けてたんじゃ────……って、不貞腐れた表情を見るに好意的に受け取ってもらえては無さそうだ。

 

 

「ふーん。体育祭じゃ容赦無さそうだったのに、舐められたもんだね」

 

「舐めてないですって。強敵だからこそ……」

 

「まるでボクを倒すのは簡単みたいな言い草じゃないのソレ?」

 

「…ノーコメントで」

 

 

 自分でそう返しておいてアレだが、まるで喧嘩売ってるみたいだな。

 まぁ実際………否定する気も返す言葉も無いが。

 

 深読みも結局は潰し合う事すら眼中に無いだけ。

 それどころか身から出た錆でしか無いのに、この場に不釣り合いな思想を理由に正々堂々と戦わずに逃げてばかりで。

 フッ……人を煽るのも大概にすべきだよな?

 

 だが、やるんだったら納得できる程度に気持ちをノせて差し上げよう。

 

 

「ハハッ! だったらボクも加減知らないからね!」

 

 「居たぞ! 天蟲だ!」「俺が倒して名を挙げてやる!!」

 

「“Candy-Veilキャンディヴェール”っ!」

 

 「何だ?!」「ギャッ!?」

 

 

 突然の襲撃と共に、彼女の腕から虹を描く様に無数の“色”が放たれた。

 カラフルな紐状のソレは配管に囲まれたこの空間に張り巡らされ、気付けば甘美な匂いに塗れた『蜘蛛の巣』が出来上がる。

 獲物も如何してか引っ掛かってるし……。

 

 俺の身一つしかない網目。

 下手に動けば、まぁ拘束具を扱うには訳ないだろうな。

 

 

 「ベタついて離れねぇ!?」「オイ逃げれねぇぞコレ?!」

 

「思わぬ結果だけどまぁ良っか! どー飛威炉クン?」

 

「…成程。上手く囲んでくれましたね」

 

「ボクだってやれるでしょ?」

 

 

 誇らし気に微笑むのも頷ける位、先輩にとっては理想的な展開だろう。

 

 もう俺を逃さない為に囲い込む………捕まった側の様子を見るに粘着性も高そうだ。触れずにこの結界を脱け出すこと自体が厳しいし、被弾覚悟での特攻も危険でしかない。

 

 ってか、コレで終わって静観────……とか在り得ないもんな?

 

 

「この結界を一気に纏めちゃえば流石に捕まえられるよね?」

 

 「「「オイ! こっちは眼中に無いのかよ?!」」」

 

「ごめーん君たちに構ってる余裕は無いんだ! 」

 

「(可哀そうだが、巻き込み事故は致し方ないんじゃないか?)」

 

「君の速さでも避けさせないから! 行くよーー?」

 

 

 四方に放出した糸飴をこれ見よがしに引っ張って蠢き出している。

 360°を囲むこの結界を上手く巻き取るつもりだろう。

 

 …怨嗟の声も聞こえるがもう遅い。

 あの先輩の眼には仰る通りで俺しか映ってない。

 理想として描くは『俺で棒付きキャンディを創る』って感じか?

 

 環境を利用とした見事な作戦だよ、先輩。

 俺を甚く買ってるのも納得の徹底ぶりじゃないか。

 

 

 だったら────……その期待に応えてみせよう。

 

 

 

「綺麗な飴細工にしてあげる!……───────

 

 「(“Blast-Sunブラストサン”!)」

 

────……なっ…………!?」

 

 

 新技だ。体を軸に球体状のエネルギーを瞬間的に放つ。

 “太陽”に見紛う様に、出来るだけの光量と範囲を伴ってな。

 

 触れさえすれば自由を奪える。…その強みを生かした結界だったんだが、じゃあ俺が抵抗もせずに捕まってやるかと言うとソレは別だ。

 自信家がホラ吹いてると思われるのも癪だし派手に吹き飛ばしてやった。

 吹き飛んだのは結界と、勝手に巻き込まれに来た外野の方々だけれども。

 

 

 さぁ、逃げ道は強引に創れたんだ。

 

 このまま逃げても同じ展開になるだけなんで、俺の理屈を貫き通すんだったらハッキリとした実力の証明をしとかないとな。

 

 

「結界が破られt………何処に行った!?」

 

 「後ろですよ」

 

「えっ、────……待ってソレって」

 

「先輩の奴です。盗ませてもらいました」

 

 

 これ見よがしに教えてくれたから楽だったよ。

 まぁ過剰な追い打ちが駄目なだけで『拘束具が無いと戦ってはいけない』なんて規則は無いとしても、だ。

 

 出し抜いても尚、直接手を下そうともしなかったんだ。

 

 

 ……理屈と証明の一挙両得。文句あろうが有無を言わせないぞ。

 

 

「禁止要項に無かったんで。もう俺を追ってくる理由は失くなりましたよね?」

 

「ちょっ!?」

 

「あと今俺が吹き飛ばした方々、その後処理は任せましたんで。じゃ」

 

 「「「ふざけてんじゃねぇよ……舐め過ぎだろうが?!」」」

 

 

 逆に助かったな、怒りの矛先は俺だろうけど連帯責任になっても仕方ないよな?

 そもそも先に手を出したのはそっちだし。

 俺は遥か遠くに逃げさせてもらうんで、ポイント獲得の為にも恨み節を存分に先輩にぶつけて貰って。

 

 …あぁ全員が先輩だしややこしいな。

 ヒーロー名でも良いが後で訊いておこうか、どうせ今回限りの付き合いにはならなそうだし。

 

 無事にお互い一次を抜けれるのを願っておくよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

────……次第に荒れ狂う試験会場の熱も引いていくのを感じる。

 

 誰の目にも届かない路地裏に潜んでいたら、

 

 

  『通過条件をクリアしました。速やかに第1昇降口へ』

 

 

 やっと時間か、意外と長く感じてしまったな。

 

 折り返し地点に立ったと思えなくもないが、寧ろ問題なのは第二次だ。

 不確定要素が極端に増えるだろうし……気を緩めないようにしておかないとな。

 

 ソレに加えて、休憩時間で解決すべき要件が残ってる。

 

 

 「居た!! ねぇ飛威炉クンあのさぁ!!」

 

「おっと……良かった。逃げ切ってたんですね」

 

 

 俺らと同じように条件達成した数十人の中から聞き覚えのある声が。

 

 ココに来てるって事はあの後を切り抜けられたって訳だな。

 見捨てた張本人としては少し安心してしまう。

 

 

「『良かった』じゃないよ! 何とかなったけど危なかったんだからね?」

 

「…試験なんですから危ないも何も、

 

「正論言わないで!」

 

「すっ……みません」

 

 

 『まぁお互い突破できたんで』と、下手に回答しようものなら余計に因縁深めそうだし素直に謝っておこう。

 俺が変に意地張った責任ってだけだ。

 

 気付けば、ぞろぞろと合格者が控室に集まってきたな………全体の1割行かない位か?

 雰囲気を見るにやはり同級生ばかりだな。集団戦に持ち込めた側が有利だってのは事実だろう。

 

 何だかんだトラブルが高じて、俺も今は孤独じゃなくなったが。

 

 

「でも正直、君にどこまで通用するかが目的だったんだ」

 

「通用?」

 

「体育祭観たって言ったでしょ? それで君の実力が生半可なモノじゃないと理解できない程馬鹿じゃないよ」

 

「…お褒めの言葉、嬉しい限りですよ」

 

「学年は下だけど経験値に差があるってこt、

 

  「時雨しぐれ! やっと見つけた!」

 

「ん? ……あっ、良かった2人共通過してたんだ!」

 

 

 この呼び掛けは先輩の知り合いか。

 単独で挑んできたとは言え、他と同じでクラスメイトは一緒に来てるよな。

 

 

「オイ甘照井かんでい! 固まって動くって話だったろ?」

 

「ってあれ? 横に居る人って………」

 

「ゴメンごめん! でね? こっちは天蟲飛威炉クン!」

 

「初めまして」

 

「「いやいや何で一緒に?!」」

 

 

 お二人が疑問に思ってるのは理解できる。

 今更俺の知名度にうだうだ宣う気も無いし、一応敵であろう存在と行動を共にしてたら驚くよな。

 

 ってかその感じだと何も言わず単独行動してたのかよ。

 

 

「急に居なくなったと思ったら、とんでもない奴とお前……」

 

「いや~戦ったんだけど無理だったんだよねー」

 

「時雨負けたの?!」

 

「勝ち負けとかは無かったですよ? 現に俺は逃げてただけなんで」

 

「ふーんじゃあやっぱ負けるの怖かったんだ?」

 

「先輩方は何処の高校なんですか?」

 

「ちょっ無視しないでよ!」

 

 

 …雄英じゃ上学年との関わりが薄いしなんか新鮮だな。

 

 

 しかし、この環境で俺を下手に怨んでくれない事に感謝しか無い。

 

 結託は必須の二次────……こっからを想うと、よりな。

 

 

 まぁ、臨機応変に動いてみせようか。

 

 

 

 

 

 

 





 
【挿絵表示】


新登場の甘照井時雨のイメージ画です。
拙い絵ですが参考までに。



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