緋色の英雄   作:kozmo78

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 間空いて申し訳ありません。

 今後は出来るだけペースを取り戻してきたいと思います。








第45話 仮免試験《3》

 

 

 

 

 

「────……ってか、ちょっと驚いてるわ」

 

「如何したんです?」

 

「いやな? 天蟲って思ったより………

 

「普通でした?」

 

「いや、普通では絶対にないんだけど」

 

 

 俺と何故かクラスの集まりに戻らない甘照井先輩の元へお二人が戻ってきた。

 帰ってきて早々に答えの見えた告白をされたが。

 

 雄英ですら居る、悲しいまでの“偏見”を持つパターンだ。

 

 

「アレでしょ? テレビとかだと天才過ぎて誰にでも厳しいみたいな、そんな感じに想像してたって事?」

 

「そーだな。まぁもっとクールで、言葉を選ばずに言うならいけ好かないタイプかと」

 

「うわっ首藤しゅどうひど~」

 

狢備むじなびもそんな感じに思ってただろ?!」

 

 

 試験に来る前は思いもしなかったな。

 未だに存在する殺伐とした空気感、そんな状況でココで知り合った人と他愛のない会話を楽しんでるとは。

 

 話のタネが俺への誤解を解けるなら尚更良いのかもしれない。

 

 

「実際に戦った時雨はどうなの? 学校でも結構話題にしてたじゃん」

 

「コイツお前にゾッコンだったんだぜ?」

 

「ちょっと? 何その言い方ー?」

 

「先程は幻滅させてしまったんですけどね」

 

「いやいや気にしないで! アレは気が昂ってただけでさ? ってか逆に容赦無かったし?」

 

 

 慌てた様に手を振る甘照井先輩。

 まぁあのまま逃げ続けてたなら兎も角、応戦はしたし嫌な印象を与えていないと思おうとしたんだが安心した。

 

 容赦は────……如何だろうな。

 

 

 しかし俺って内面上でも悪い印象を与えてるのか?

 

 メディア露出が悪目立ちして変に嫌われるのは仕方ないにしても、いざ面と向かって「いけ好かない」などの印象を聞くと哀しくなる。

 もっと外面良く振舞わないとって事かもな。

 

 

「…よくある事なんで慣れたんですけど、評判が先行し過ぎというか俺をヤバい奴と見做し過ぎじゃないですか?」

 

「ヤバくはあるわよ」「ヤバいだろ」「ボクも同感」

 

「……そうですか」

 

「でも! こっちが勝手に考え過ぎてたんだなーとは思ったよ」

 

 

 じゃあ良かっt────……良くはないな。

 

 なんか周り観てもこの会話を盗み聞きしてたのか、気付かない程度に頷いてたのは何でだよ。

 だったら狢備先輩みたいに考えを改めてもらえません?

 

 制限時間は刻一刻と迫っていく。

 こうやって雑談を楽しむのも良いが、一難去って緩くなった空気を再びヒリつかせるのはもうすぐらしい。

 

 

 

 

  『第一次選考 最終ラウンド終了致しました』

 

 ざわざわ ざわざわ ざわざわ

 

「お! 遂に時間か……!」

 

「どれだけ合格したのかな?」

 

「今部屋に居ないのも含めると300人いかないってトコロじゃないですか?」

 

「3分の1以下………結構減ったね」

 

 

 そう呟くように、最初よりも寂しくなった人数ではある。

 『1人の合格に2人の拘束が必要』。条件的には今の割合で正しいんだが、如何せん受験者同士で潰し合った結果と思うとやるせない気分になっても仕方ない。

 

 俺からしたら落ちてしまった人全員が先輩である。

 …罪悪感を抱くのはもう手遅れだ、この場で誰かの不幸を思い返そうがやる事は変わらない。

 

 

 続々と控室に揃って来て、当初の殺伐とした空気感に戻りつつある。

 第二次選考────……気付けばもう始まるって訳だな。

 

 

 ただ、何事も無く普通に進行するんだろうか?

 

 

 『合格者は直ちに控室の各モニター前にお集まり下さい』

 

「えっマジ、もう始まるの?」

 

「いや流石に説明ぐらいはあるだろ」

 

「……どうですかね?」

 

「え?」

 

 

 俺の零した疑問符に気付いたのは甘照井先輩だ。

 

 淡々と指示が進められるせいで不安が募り始めてる。

 しかし誰もが思う筈だ、『ルール説明も無しにやる訳が無い』と。

 

 ………まぁ俺だって楽観視してたいんだがな。

 

 

「やけに不安そうな顔してるけどどーしたの?」

 

「いや、勝手に深読みしてしまっただけで」

 

「深読み?」

 

「最早憶測ですが仮免試験ならやりそうだなって」

 

 

 自分自身、雄英の常識に毒されてる気もするんだがな。

 

 “USJ”でサバイバルを強制されたり、校内放送で突然目的地をアナウンスされて制限時間に間に合わなかったら除籍だったり、体育祭の種目含めてその他etc……

 ヒーロー科に居ると常に異常事態を装ってくる。

 

────……じゃあ何が起きても不思議じゃないよな?

 

 

「だからって何も説明も無く始まる?」

 

「だったらまだマシですね」

 

「え?」

 

「こうやって俺達が集められてる内に下手したr、

 

 BOMBッ!! BOMBッッ!! BOMBッッッ!!

 

 「「「何だ!? 爆発?!!」」」

 

 

 ほら、んな事言ってたらこう・・だよ。

 

 

 外から尋常じゃないまでの爆破音、備え付きの映像では先程の戦場はもう半壊状態だ。

 コレが故意に起こしたと思うと理解に苦しむ事実ではある。

 

 …試験会場を用意するのに何億掛かってんだかな。

 

 

 当たり前だが、突然の出来事に控室が混沌と化してきた。

 前情報も無く大規模な崩落が乱発したら偶発的な事態だと考えるだろう。ってか学生側の危険とかは度外視なんだな。

 

 

 『只今から第二次選考を始めます』

 

 『救助演習です。直ちに要救助者を避難させて下さい』

 

「オイあそこ!!」

 

「瓦礫の中に人!? どうして急に?!」

 

「行きますよ!」

 

 

 画面にはボロボロになりながら倒れ込む人影が。

 どう見ても試験官の姿ではない、それどころか各エリアに点在している。

 

 …やはり来たか。知る人ぞ知る“Help.Us.Companyヘルプアスカンパニー”の登場だ。

 

 略して“H.U.C”────……云わば救助演習における一般市民バイスタンダーのプロ。

 ARC発足後に様々なヒーロー産業が後続として誕生、その中でも教育現場で重用されるようになったのがこの企業団体だ。

 画面上では怪我だらけの老若男女が放ったらかしに観えても演技だから変に心配する必要は無い。

 

 まぁとは言っても急過ぎて立ち止まって仕方ないが、先を急ごう。

 

 

 

 

 控室に戻る前と比べて……えらい様変わりしたじゃないか。

 行く彼処で黒い煙が立ち昇り、移動するのも一苦労なレベルで住居も道路も崩れている。

 

 コレ自体も狙いだな?

 救助に迅速な移動は不可欠だ、事件発生時の危険な足場に戸惑わないってトコロも求めてるのだろう。

 

 

「(発生源は……1つじゃない。各エリアで起きたって感じか)」

 

「(意図的だとは言え、実際にあった様な造りだな)」

 

「(“機動装甲服アーマードスーツ”があればAISA頼りになってたであろう状況………)」

 

「(…まぁ分析してる暇じゃないな。気合入れてこう)」

 

 

 俯瞰してる場合じゃないが、景色だけで先月のあの事件を思い出す。

 規模が違っても実体験を想起させるには十分な荒れ具合だし。

 

 実際、死傷者ゼロで抑えられたのはスーツありきなのは事実。

 

 今の俺との手札の違いは天と地の差である。

 …こんな状況に見舞われるとは思ってもみなかったが、だからこそ自分の真価が試されるというものだ。

 

 

 微かな声を頼りに急げば、倒れ伏せた壮年の男性が。

 服装は傷だらけ。息も絶え絶えで助けを求める様に震える手を俺に向けている。

 

 さぁ、幾らか経験を積んだ俺の本領発揮だ。

 

 

「たっ、助けて……くれぇ…」

 

「大丈夫ですか? 今すぐ救助します!」

 

「足が……立ち上がれないんだよォ」

 

「動かないで、足元失礼します!」

 

「ッ待ってくれェ! あそこで家族がァ……!?」

 

 

 第一に“不安を煽らない”こと。

 

 慌てずにそして明るく、救助者の身の安全を保障できる事を態度で示しなければいけない。

 この姿が演技だと思うと余りの迫真さでビビるけどもこっちだってやる事やるだけ………だったんだがな。

 

 指差す方向は崩落したマンション。

 …如何するか。強引に運べば複数人行けるにしても負傷者にする事じゃない。

 

 

 数秒、逡巡してる内に救いの声が届く。

 

 

 「飛威炉クン居た‼」

 

「(来てくれたか先輩────……“リコリッシュ”、手前の建物に向かって下さい!」

 

「え!?」

 

「救助者のご家族が居ます。俺はこの人を連れてくんで!」

 

「わっ、分かっ………た!」

 

 

 よく突っ走って行った俺の居場所を突き止めてくれた。

 一次がこの形で生きるとはな……。

 

 独りで解決できる問題かは俺も残って判断すべきだが、瓦礫の補強や負傷者移動に向いたあの『個性』であれば大丈夫だ。

 狢備先輩たちも後で来てくれる筈だし。

 

 …振り返ってみると何人かが近くの救助者の応対に来てる様だ。

 

 最初こそ出遅れても、第二次選考の意図に気付いた者から行動に移せている。

 一次と違ってどうやっても協力を仰がなければいけない。一人ひとりに課せられた命題こそ、“自分に適した判断によって救助活動を円滑に進める”……だろう。

 

 

 と言う訳で、俺が一番向いてるのは『先導』だ。

 

 単独で良いからさっさと未発見の負傷者の元へ行き、その救助で第二次への『解答例』を指し示す。

 今も周りを視つつこの人の運び終えないとな………

 

 

「(甘照井先輩ならば倒壊させずに救助できるはz、

 

 「評判に違わぬ行動力だな」

 

「………どうも」

 

 「だが、言葉が足りん。負傷者が高所恐怖症だったら?」

 

 

 …先程までの満身創痍の姿が嘘のようだな。

 

 腕に抱えられたまままで真剣に忠告されるとは思ってもみなかった。

 それに内容も凄い事言うじゃないか。いや、間違ってはいないにしても極論が過ぎないか?

 そうだな……もっと配慮してかないとな。

 

 そのままセーフティゾーンまで送り届けても尚いい点悪い点の指摘を貰い続けた。

 いざ試験官の前行ったら負傷者らしい演技に戻ったが、やはり“H.U.C”の仕事ぶりは流石と言ったトコロだろう。

 

 

 

────……他の救助者を運んでる内に見逃せないモノが。

 

 開幕して5分も経てば受験者も順応し始める。

 実力は一次を突破できた事で証明しているんだ、“戦闘”と“救助”は別物だとしても応用できる点は必ず存在する。

 甘照井先輩の『飴』とかがそうだ。

 

 しかし、如何なる時でも・・・・・・・出来るかは本人次第だ。

 

 

「オイどーするんだよ…」「どこか行かないと、でもどこに?!」「もう何人も救助されてるってのに!」

 

「(そりゃ居るだろうな。パニックになってても変じゃない)」

 

 

 昇降口の手前で……全体の2割だろうか? そこが固まって立ち止まっている。

 余りにも弱気で焦りを混じらせた言葉も共に。

 

 …全員が全員、状況を飲み込めてる訳じゃない。

 

 疑似的なモノだと解っていても上辺は大規模な事件現場ではある。

 もし出遅れてしまったら、実戦経験の無い人に現状は只の無理難題に成り果ててしまう。

 

  何処でどうやって助ければいいのか?

  何人助ければ合格点を貰えるのか?

  事件の被害は受験者自身にも及ぼすモノなのか?

 

 数多くの疑問に怒涛の展開も加わって、試験中でも足を竦ませるには事足りる話だ。

 同級生なかまを多く失ったトコロほどガタついているかもしれないな。

 

 一次もあったしな? いがみ合ってきた他校と手を取り合うとか考えてる余裕も義理も無い。

 

 

 

 ………だがしかし、俺にはもう関係ない話だ。

 

 

────……皆さん! 今から言う所に向かって下さい!」

 

「中央の市街地エリア、被害範囲が特に広く救助者多数! 優先して向かうように!」

 

「第三昇降口近くの工業エリアはどこよりも倒壊しやすい、ので瓦礫除去や補強が可能な『個性』所持者は名乗り出てから向かってください!」

 

「ココから一番遠い自然エリアでは分断された箇所があります! 俺も次向かうんで降ろした後の運搬、手伝いお願いします!」

 

「他もあるんですが出来る限り複数人で向かってください! お互い協力し合いましょう、頼みます!!」

 

 

 …怨み辛みが為に無視するのだって構わないがな。

 

 各々が雑に独走して解決できる規模じゃない。

 だから、情報交換は絶対的な価値を持つ。

 

 俺を“利用”してみろよ。その為なら全力で手を貸すから。

 

 

 

 そして────……現実はどう動いてくれるだろうか?

 

 

 「………………オイ、行くぞォ!!」

 

 「俺等は市街地向かうわ! 行ける奴は?!」

 

 「アタシ工業のトコ行く!」

 

 「仕方ねぇ! 天蟲ィ!! 不本意だが尾いてくぞ!!」

 

 

 ふぅ……良かった。無意味じゃないみたいだな。

 

 たじろいでた面子以外も騒ぎを聞きつけて、気付けば大所帯と化していた。

 恨み節呟いてても俺に味方してくれるなら万々歳だ。…これで無駄にいがみ合わずに二次選考に向き合える。

 

 

 爆心地は大きく分けて5つ。先程伝えたエリアの中心部から余波で全体を包む様に被害を広げている。

 俺が救出した人数とその配置で会場に存在する全体数を推測すると………そうだな、エリアの特色も考慮すると約200人ってトコロとしよう。

 

 今から行く自然エリアは遠目で判断する限り倒木や土砂崩れで受験者側ですら移動がままならない。

 …セーフティゾーンから一番遠いのがキツイ状況だが、後ろに並ぶ協力者も居りゃ何とかなる気がする。

 

 それに────……嬉しい声も久方振りに聴こえてきた。

 

 

 「天蟲っ!」「天蟲くん!」

 

「2人共……来てくれましたか」

 

「こっちのクラスメイト集められるだけ呼んできた!」

 

「やっぱお前って目立ちたがり屋気質なのかもな!」

 

 

 背後には見覚えある方々が小さく手を振っている。

 味方は幾ら増えたって有難いものだ、『個性』さえ知れば俺とでも連携取れそうだ。

 

 …教えてもらえるか、だが────……

 

 

「そういや紹介しといた方が良いかもな!オレの『個性』は“ろくろっくび”、あの妖怪みたく首とか腕とか伸ばせるぞ!」

 

「私は“鬼火”! 火の玉を何個か出せるよ!」

 

「おれは“軟体”、タコみてぇだろー?」

 

「“スケート”でねー地面を自由に滑れるよー!」

 

「ちょっ、じゃあこっちも教えなきゃ……──────

 

 

 すんなりとイケたな。よし、大体分かった。

 

 

 

 

 

 

 …で、エリアへの案内を終えて。

 

 

「(……よし。俺居なくてもこのエリアは何とかなりそうだな)」

 

「オッケー連れてくね! 他の人はまだ居る?」

 

「来てくれた方々にもう1周してもらえれば……、

 

────……ッBooooooOOOOOOM!!!

 

「うぇっ!? 今度は何ィ?!」

 

 

 やっと救助活動が形になってきたトコロで、またひと波乱が。

 

 試験開始と似た様な爆音が再び鳴り響いた。

 救助で手一杯だった受験生には寝耳に水、危険分子など無いと思っていた状況で新たな異常に対応させようとする気か……。

 

 まぁ、伏線に近いモノは有ったんだ。

 アナウンスで“原因”を全くと言っていい程に述べなかった。

 実戦リアルを表現するんだったら『何故起きたかは判っていないが負傷者を移動させろ』なんて正直限定的でしかないモノを試験問題にしないな。

 

 やるんだったら一番ありふれた奴、って事だろ?

 

 

 ヴィランに襲撃されています。救助者を防衛して下さい』

 

「こんな時に!?」

 

「正に“実戦”重視だな────……ココは任せます!」

 

「あっ、ちょっと!?」

 

 

 『こんな時』だからこそやるんです。弱音吐きたくなる狢備先輩の気持ちも重々理解できますが。

 丁度このエリアはあと数分で終わりそうだし……────

 

────……問題は敵の正体だ。

 

 勿論、本物は来る筈も無い。ロボットの類は可能性はあるにしても、先程も考えた通り仮免試験ならばより現実味のある状況を生む目論見だろう。

 “H.U.C”みたいな奴の戦闘可能版とかの話は知らないしな……

 

 

 じゃあプロヒーローだろうか? 無難な落とし処とも思えるな。

 

 規模的に単独ではなく事務所の大半が参加、とすれば一次突破の対抗勢力に十分足り得る。

 ってかその評価が失礼な位な存在が担う気もする。

 

 …とか考えてたら現場はすぐそこか。

 

 

「(さぁ、誰のお出ましだ?)」

 

 「出て来いヒーロー見習い共!!」

 

 「人質も居るからねぇ? 早う来んしゃーい?」

 

「は? あの人達って……!?」

 

 

「────……っマジか」

 

 

 

 思わず声が漏れた。人だかりの中で嫌でも目立つ“彼ら”に。

 

 1人は黒光りする鎧を纏う『働き蟻ヒーロー』。

 

 

 そしてもう1人、『ウイングヒーロー』として名を馳せた新人ルーキー

 

 “速すぎる男”が挑発する様に嗤っていた。

 

 

「“ホークス”!?」

 

「それに“アントガイ”ぃ!? ヒーローの中でも超有名ドコが何で?!」

 

「驚いてる場合か? 差し迫った時に動かすのは口ではないが!」

 

「ハハッ手厳しいっすねー、まぁその通りですけども」

 

「ぐわっ!?」「早過ぎるって!?」

 

 

 アントガイは実直な統率力が評価されてビルボードチャートJP現在31位。

 俺的には蟻明の父親としてのイメージが強い、ってか面識は限りなく薄いが番組で会った事が有る。

 事務所揃って登場か……高校生には過ぎた壁ってのは確かだろう。

 

 だが、戦闘スタイルとかシンプルってのもあり仮想敵を担うにはうってつけの存在とも言える。

 

 …問題は飄々と受験生を薙ぎ払う『彼』だ。

 『実働1年も経たずにトップ10入りした』……衝撃的な話だよな。

 活動拠点が九州でありながら全国を股に駆ける“剛翼”。実際、彼の活躍は俺の目指すべきモノに近いと考えている。

 

 

────……1回落ち着こうか。今を見ろ。

 

 何をすべきかを“考える”のは得意じゃないか。

 全体を俯瞰して最善手を導き出せ。

 

 

「(まず人質だな。正面から戦いに行く方が馬鹿らしい)」

 

「(あそこで囲んでるのは見た目的にアントガイ事務所のサイドキック……)」

 

「(いやトップヒーロー2人の事務所と戦え、とか難易度跳ね上がり過ぎだろ)」

 

「(彼らの目を盗んで救助に向かわなk、

 

 

 気付かれない程度の距離で順番に2人の動向を探っていた時だった。

 

 ホークスの目線が突然、物陰に隠れていた筈の俺に向けられる。

 余裕を醸す眼差しを瞬く間に獲物を見つけたが如く鋭利に。

 口元はナニカを呟いている。

 

 

 …読唇術も無いのに「待ってたよ」と読み解けたと共に、俺の鼓膜は微かな風切り音を捉えていた。

 

 

────……あっぶな…!」

 

 「いや流石だねぇ。じゃあ次はどーだい?」

 

「(っ!? やっぱ来るのかよ………!)」

 

 

 回避した空間を橙色の羽根が突き抜ける。

 この僅か5秒の間に、聞こえる筈も無い誰かの声で挑戦状を言い渡された。

 

 威力がどの程度か? “Blast-Sunブラストサン”で叩き落とせるか?

 …対抗策を考える隙も与えない速度だ。反撃とか捨ててでも雑に避けるしか出来ない。

 

 

「二の矢も躱すかい。『次代の象徴』と謂われるだけあるねぇ?」

 

「ふぅ───…『速すぎる男』って話はホントでしたね……っ」

 

「おっ、言うねぇ♪」

 

 

 口振りで証明されたな、何がホークスをけしかけたのかが。

 

 …評価してもらってるのは知ってた。

 職場体験での指名、大量の事務所名の中に名を連ねていた。

 結果論ではあるが……サーの話が無ければ選んでた可能性は高い。

 

 そこで俺が断った事の当てつけなのか、この身を貫かんとばかりに羽根の弾幕は留まる事を知らない。

 

 回避にも限界があるしエネルギー放出以外で防御は出来そうにない、ガントレットの無い腕を何度も掠めてる。

 ココに来て戦闘服コスチュームに如何に守られてきたかを身を以て感じさせてくれるな……っ。

 

 

「(次は上下で挟みに───…っもしや、なんですけど!」

 

「質問かな? まだまだ余裕だねぇ」

 

そもそも、俺が狙いだったんすか?」

 

 

 窮地に立たされてる時に質問。…対話をご所望だからな。

 

 まずプロヒーロー2組ってのが馬鹿げてる。

 アントガイ事務所だけでもキツイんだぞ? 難易度を不必要に高めてでもホークスを招致したのには理由があると思わざるを得ない。

 で、当試験が異端であるとすれば………その要因は明白だ。

 

 他の会場だって実力やら経験やらで抜け出た奴はいる?

 …まぁそうだな。勝手に己を特別視するなってか。

 

 じゃあ雄英の先輩のトコロでも同じだって言うのか?

 BビルボードCチャート9位に襲われなきゃいけない展開が何処でもあるんだったら世も末だな。

 

 

「と言うと?」

 

「アントガイ事務所で……も難敵だってのに、ホークスも出張ってきたのは突然この試験に参加した俺への抑止力の為ですかっ!」

 

「ははっ! オイオイそりゃ過信が過ぎないかい?」

 

「だったら、俺に付きっ切りは判断違うんじゃないですか?」

 

「危険人物を放っとくのは学生たちへの教育に悪いってだけだよ!」

 

 

 羽根を刀身にして斬りつける気か、喰らったらひとたまりも無さそうだ。

 …目の前を過ぎていく剣先は多少の手加減を滲ませている。たかが模擬演習で重傷者を出すには事足りないモノではあるけども。

 

 無数の羽根と斬撃の嵐。

 避けても避けても終わらない、機能性のみの戦闘服では幾つもの掠り傷を創り出している。

 反撃なんて以ての外だ。

 

 

 初めてかもしれない……“格上”と戦り合うこの感覚は。

 

 

 駄目だ、このままでは無抵抗で終わるだけだ。

 じゃあ如何すれば────……ってタイミングで運良く長い連撃は止んでいた。

 

 …助かったな。お蔭でやっと息を整えられる。

 

 

「……すぅ────……」

 

「んーやっぱ機動装甲服アレが無いと厳しいかい?」

 

「…厳しいですね。職場体験のオファーもくれましたし手心あっても良いのでは?」

 

「おぉご存知だったんだね! 俺と似た立ち位置だからこそ興味持つと思ってたんだけどねぇ~?」

 

 

 腹いせって訳か? にしては馬鹿げた仕打ちだよ。

 ホークス自身もそう考えていたからって納得性は生めないぞ。

 

 

 …まぁ良い。期待の表れだと受け入れよう。

 

 何分経ったんだ……1分位は稼げたか?

 ただ逃げ回ってても意味は無い。

 救助演習が終わるまでの時間稼ぎになってやっと価値を見出せる。

 

 

 いや、人質が居るんだぞ? 怠けた事考えるな。

 

 臨むべき道筋が困難を極めようとやるんだろ?

 父さんと『約束』したじゃないか。

 

 

 ホークスと対等に抗い、仮想敵の隙を突いて人質確保。

 

 …やって魅せろよ。ソレこそ最初に掲げた存在証明だろ。

 

 

「じゃ、裏切らないように頑張りますよ」

 

「お」

 

「……“EnergyFullCowlエネルギーフルカウルー25%”」

 

 

────……コレが今の俺が満足に動ける限界量だ。

 

 四肢が軋み、巡る血管は浮き出る程に迸る。

 “コア”はグツグツと煮え滾っているみたいだ。

 

 制限時間タイムリミットさえも視えてない。

 下手に延ばせば心身共に危険が及ぶ『奥の手』である。

 

 

 御託は良い。…まずは見かけじゃないと解らせる。

 

 

「眩しいねぇ~そんなに目立っても世話無いよ?」

 

「それじゃ……っ、いきますよ!」

 

んっ────………!」

 

 

 初めての攻めによる接触。

 正面衝突を図り────……放出状態の俺の掌底を掠めて、後方へ威力を受け流すかのように押し飛ばす。

 

 しかし離れたのが束の間、羽根の弾幕が視界を埋め尽くす。

 

 避けても無駄なのは経験積みだ。

 今の状態の俺なら小規模の“Blast-Sun”を間に合わせられる。

 肌を貫く数コンマ前にこの身を光で包んで………

 

 …第一波を凌いだだけだ。

 

 このまま先程と同じ、羽根と斬撃による攻めの姿勢を崩せないのであれば作戦もクソも無い。

 だから主導権を握らせない。

 

 何十、何百の橙色の刃だろうと掻い潜れ。

 目にも留まらぬ速度にしがみつけ。

 暖簾に腕押し、ソレでも構わない。脅威を示せ。

 

 

「(ギリ追えるがなんて速さだ……っ!)」

 

「いやはや、キツイ仕事を任されたよ……!」

 

 

 無様に避けるしかない時よりかはマシだな。

 碌にエネルギー弾も当たってないが余裕ぶった面に冷や汗かかせられた。

 

 …明確に存在してた『差』、多少は縮まったと思ってくれたか。

 

 焦ってくれたならこっちのものだ。

 試験の後とか知ったこっちゃない、死に物狂いで耐えてみせろ。

 

 

「さぁどれぐらい保てるのソレ! 体育祭の時から克服できたかい?」

 

「どーですかね? 貴方に一矢報いるまではやる気ですが!」

 

「おっと、この状況でその選択は正しいかな!」

 

「他の方々がアントガイ達と戦り合ってるんで! 少しの間、俺だけを見てもらいますよ!」

 

「足止めにしちゃけったいな台詞だねぇ!」

 

 

 体力は擦り減っても口数まで減らす気は無いな。

 虚勢を張るのは昔から得意なんだ。

 …ここ最近、いとも簡単に見抜かれたのは別として。

 

 飛び交う羽根も苛烈さを増している。

 しかし、迎撃として纏ったエネルギーで叩き落した分もあって翼は小さくなっている気がする。

 機動力は相変わらずであろうと可能性の芽は出てきた。

 

 “Texas-Blasterテキサスブラスター”で強引に打ち抜いて包囲網の穴を創ったが、その一瞬でホークスは5時方向……死角に回り込んでいた。

 すかさず回し蹴りを放つもまたも掠りもしない。

 だが、解りきった事に驚くかよ。本命は構えたままのこの腕だ!

 

 エネルギー弾を放つ技で瞬間的な速さに長けた手銃、放出口を狭めた事で威力は低くとも人間1人を怯ませるには十分だろう。

 この距離ならば当たってくれよ……───────

 

 しかし、羽根が束になって受け止める。

 弾け飛んでくれたもののホークスには届かない。

 

 

 違う。コレを避けなかった・・・・・・んだ。

 

 中距離以上の技を意図して受け止めたのが良いんだ。

 一の矢・二の矢………波状攻撃を仕掛ける為の奥の手だろうが。

 

 エネルギーの弾丸が霧散したと同時に、背面のブーストを限界ギリギリまで引き上げる。

 目測5メートルの間合いを一気に詰めて

 

 

────────…………ズガッ!!

 

 

 手応えのある感触。直接ではないにせよエネルギーの方は直撃だ。

 今の発勁はガード越しでも威力を掻き消せない。

 

 …やっと有効打を与えた。畳みかけるなら今だ。

 

 

今度こそ……っ!」

 

「やってくれたねぇ、でもまだ甘いかな!」

 

 

 ここぞと攻めてくるってのは相手からしても予測しやすい流れ、のらりくらりと躱してきたホークスも行く手を阻む様に羽根を浮かせて待ち構えてる。

 鋭利な刃が如くその先を俺の身に刺し向けて。

 

 このまま突っ込めば針のむしろだな。間違いなくな……。

 

 

 気付けば、もうココは会敵した座標とズレている。

 

 思考の片隅には絶対に失くさなかった行動原理が『他の戦闘に巻き込まない』こと。

 たとえ自分が得意でも空中戦に勝ち目が無いのは当然、その覚悟で空へと逃げ続けてきた。

 

 加えて最初の掌底と今の発勁。

 押し飛ばしてきた方向は………“あの”場所の対角線上。

 

 

 

 “25%いま”だからこそ出来る、超高速からの急ブレーキ。

 

 踵を返す様にホークスに足を向け、“New Hampshire-Blasterニューハンプシャーブラスター”を蹴り放つ。

 

 

  「ではまた今度っ!!」

 

 

 捨て台詞を残して、人質の居るエリアへと急ぐ。

 

 爆発にも近い目眩ましと会場中央上空からの移動距離。

 ここまでしても……稼げる時間は10秒と少しと言ったトコロだろう。

 

 だとしても成し遂げるしかないんだ。

 

 久方振りに戻ってきたのに、眺める景色は変わっていない。

 幾人かの人質が後ろ手のまま蹲っている。

 集った受験生は挑もうにもアントガイの指揮の下、黒い人壁に弾かれて足並み揃えたまま助ける手立てに踏み込めない。

 

 …奇襲に面食らってるトコロ悪いが邪魔するぞ!

 

 

「何だおm────っ?!」

 

「(1、2……3人目!)」

 

「人質がァっ!? 早く捕まえろ!」

 

 

 どのサイドキックも蟻を模した硬い装甲を纏ってる、が!

 統率された動きだろうとホークスと比べりゃ鈍重極まりない。

 

 囲む円陣を半壊させ、人質と遂に目が合う。演技らしい演技もしていない、「何でお前ここに居るの?」と訴えてる感じの眼差しだ。

 二次合格の為に万全を表現すべきなのに……その余裕も無い。

 

 限界は来てるってのに魔の手はすぐそこに迫ってる。

 …もう後先考えずにエネルギーを放つしかないと考えた矢先に、

 

 

「(ヤバいそろそろ────……っだがさっき視界の端に居た!)」

 

  「助けるよ飛威炉クン! “Candy-Rocherキャンディロシェ”!!」

 

「「ぐはぁッ!?」」

 

 

 甘照井先輩、来てくれたか!

 

 最初の救助からずっと別行動だったがこの騒ぎで来ない訳無いよな。

 アントガイを軸に防がれてた包囲網、俺の狙いを汲んで微かな隙を突けるのは先輩だけだと思ってたよ!

 

 俺と先輩で2人ずつ、すぐさま脇腹に抱え込む。

 人質を熱さない為に“Energy-FullCowl”を一度解除して突破口を………くっ!?

 

 体の震えが止まらない。脳も肺も燃えるように疼いて仕方が無い。

 抱えた2人は離さなかったものの踏み込んだ足が凍り付く。

 

 

「(解ってたのに反動が……ッ!)」

 

「飛威炉クン!? ちょっ、皆助けて!」

 

「人遣い荒いなオイ!」「“火魂鳥ひだまどり”!」

 

 「何だコレ、身体をすり抜けて!?」

 

 

 …本当に有り難い。これ以上無い救いの手だ。

 

 首藤先輩の腕が俺を人質ごと簀巻きにしてくれた。

 それに青白い火の鳥、アレは狢備先輩のか……。よく判らんが幽里のカクリヨみたいな能力って事だろうな。

 

 お蔭で第二の目的を達成でk……───────

 

 

  「俺から逃げながら人質確保? そりゃ贅沢じゃない?」

 

  「部下をこう易々と……逃がさないぞッ!」

 

 

────……肝の冷える台詞じゃないか。

 

 忘れる筈は無いんだが、聞きたくも無かった声が2つ。

 まぁホークスに関しては黙って羽根を仕向けられてたら終わってたしまだマシだな。

 

 陣形こそ崩したのも束の間、距離を取って振り返ったら既にサイドキック共々引き締め直した面構えで勢揃いだ。

 対してこちらは……おぉ先輩たちのクラスも駆けつけてくれたか。

 

 

 じゃあ、俺だけが死にそうな感じ出すのは駄目だろ。

 

 駆け寄ってくれたクラスメイトの方に人質を譲り渡し、冷め切った身体を奮い立たせる様にエンジンを引き絞る。…よし、滅茶苦茶キツイが何とか立ってられる。

 

 

「勿論、殿を務めさせてもらいますよ」

 

「その身体で!?」

 

「4人の運搬は任せます! 俺が抑えておくんで!」

 

「────……ボロボロな後輩にそんな事言われて簡単に頷くと思うー?」

 

「私達も残るから! 時間稼ぎなら何とか……!」

 

「オイ、この人達運んでくれ! 残りは邪魔させないように守るぞ!」

 

 

 ………思い上がってたな。今の俺こそ“不安を煽る”姿そのものだろ。

 

 救助者4人をセーフティゾーンまで運べば任務完了だ。

 他のエリアは仮想敵を出来るだけココで押し留めてた甲斐あったと信じたい。

 

 人数差もそこまで無い、俺がホークスさえ抑えれば良い。

 

 

「さぁ────……第2ラウンドですよ?」

 

「そんなに気張ってどーしようって訳かね……!」

 

 

 手招きして、再び空へと誘いだす。

 やせ我慢だろうが……張り切んなきゃ倒れそうだからな。

 

 

 “Energy-FullCowl”再発動。

 

 気怠かった全身が逆に1周して血沸き肉躍るって感じだ。

 

 

 

────……さぁ行くぞ、残り火イケるだけ吐き出してやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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