緋色の英雄   作:kozmo78

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第46話 要らないものばっか

 

 

 

 

 

────……瞼を開けてやっと、自分が眠ってたのに気付かされた。

 

 

「あら、起きたのね」

 

「…ミッドナイト。自分いつから寝てました?」

 

「試験終わってすぐよ。その感じ、記憶が飛んでるみたいね」

 

 

 辺りを見渡すと……靄がかった空白部分が埋まり始めてきたな。

 時系列としては合否を待つ場に居る筈が何故ココに? 地獄のような状況切り抜けて、意地でも起きて会場に残ると考えていたんだが?

 

 鼻腔で微かに残る甘ったるい匂いにも違和感を覚えつつ、呆れた様子のミッドナイトに。

 

 

「確か、発表待って医務室に行った時にミッドナイトと会って?」

 

「一応憶えてるのね。じゃあほら、この香りは?」

 

スゥ───……………危な、寝かけたんですけど」

 

「寝かしつけてあげたの。あーしなきゃ碌に休む気も無かったでしょ?」

 

「反論できませんね」

 

 

 …繋がってきた。匂いの正体はミッドナイトの『個性』か。

 ある程度体力が癒えた今だからマシでも、息も絶え絶えだったあのタイミングで効果は絶大だってのは身に染みて実感したよ。

 俺の変な意地すら察してるし。

 

 時計の針は────……合格発表の予定時刻を過ぎてるな。

 

 寝かされたのは構わない、ってか俺の為を思った判断に文句言うのが筋違いだ。

 気掛かりは今日俺が会場を訪れた意味そのもの。

 

 

「んで、受かったかどうか聞きたい?」

 

「そりゃ勿論」

 

「ん~~…いや、変に焦らしても面白味は無さそうかしら」

 

「まぁそうかもしれないですね」

 

「そーゆートコよ?」

 

 

 悪戯に微笑んだと思ったら、反応の薄い俺を見かねてすぐ真顔に。

 表情豊かな人だな。我が担任とは大違いだ。

 

 しかしながら勿体ぶられても俺に出来ること無いし、結果を憂う程の内容だと疑うには頑張りが見合ってないとも思いませんか?

 ネガティブ思考は今更が過ぎる。もう俺が陥るのも烏滸がましい。

 

 だって────……2つの『約束』があるんだよ。

 

 死力は尽くした、あとは天命を待つのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「合格よ」

 

 

「────……よし

 

「あら。思ったより青臭い反応、良いじゃない!」

 

 

 望んでた答えに思わずガッツポーズ。

 結果を耳にして一喜一憂するなど何時振りだろうか?

 

 合格………これでインターン参加への障壁は乗り越えられた。

 

 

「補足しておくと点数で言えば結構ギリギリだったわね。ある意味ちゃんと審査してるって事だけど」

 

「独断専行は多かったし納得できるんですが……」

 

「まぁ文句の1つも言いたくなるわよね、あんなの・・・・が居たら」

 

「…知らなかったんですね」

 

「私が知る訳ないでしょ? ホークスが試験官とか」

 

 

 その道程が酷く険しいモノになった理由が彼だ。

 

 試験を終えた今でも尚、あの場でホークスと対峙せざるを得なかったのには納得いってない。

 一応“剛翼”の付け根に制御パーツらしき外装もあったし手加減はしてくれたんだろうが、だったら許すって問題でもないからな?

 

 第三者であるミッドナイトも解せない様子だし、俺だけが間違ってる訳じゃなさそうだ。

 

 

「観てて戦慄したわ。プロヒーローどころ最近話題の第9位と張り合えるなんて、私は貴方で何回驚けばいいのかしら?」

 

「張り合うも何も手加減してくれてやっとでしたかr、

 

「はぁ?」

 

「………すみません」

 

「謙虚とかじゃないからね貴方のソレ。ドン引きしてる人間には無意味よ?」

 

 

 失言だったか。言われりゃその通りだな。

 『トッププロVS高校1年生』の構図を成立させたと言うのに、その当事者に謙遜されても何も好ましくないだろう。

 

 だが、俺だって諭されたいから言葉を選んだつもりじゃない。

 

 

「ってか難易度さえ違ってればちゃんと胸張ってましたから」

 

「そこは同感。教師として今回の意図は何だったか問い質したいトコロよ」

 

「まぁ……良い経験になったと思っておきます。ホークス自体俺をご所望だったみたいだし」

 

「だからって救助演習の仮想敵に召集する? 過剰戦力でしか無いのに?」

 

「そう言われたら謎ですけども」

 

 

 実際、ヒーロー公安委員会は何がお望みなんだろうか?

 

 個人的には“俺への抑止力”説を未だに捨て切れてない。

 コレこそ謙遜しろよって感じだが、似たタイプ且つ俺に付きっ切りだった点を考慮すると可能性は低く見積もっても半分以上はあり得る。

 その場合、ホークスのせいで落ちた人が居たら不憫だけども。

 

 

「もしや公安まで特別視してるの?」

 

「目を付けられてるのはほぼ確実です」

 

「………嫌なのは否定しきれない事ね」

 

「いつか日常生活すら監視するんですかね?」

 

「落ち着いてくれるんだったら私は賛成よ」

 

 

 最悪の想定だな……プライバシーは流石に失いたくない。

 

 もし監視下に置くのなら“HArP/国土武装計画”にも支障が出る。

 政府がそこまでしてでも父さん達の目論見を阻む気かもしれない、そう邪推しても仕方ないレベルの計画規模だしホークスの抜擢はそれ程までに衝撃的だった。

 

 ミッドナイト視点、想定外の行動ばかりの教え子が控え目になれば願ったり叶ったりかもな。

 …だが万に一つも無いさ。高校生相手だし。

 

 

 

 ってか一番大事なこと忘れてた。

 

 合格者になれば終わり、の仮免試験ではない。

 『個性』の使用許可はライセンスが必要不可欠だ。

 

 

「そう言えば仮免発行ってもう始まってるんですか?」

 

「とっくにね。そろそろ終わるんじゃないかしら?」

 

「じゃあ俺は?」

 

「目覚めるまである程度待機する予定と聞いてるわ。番号が最後尾だったのが功を奏したわね」

 

「了解です。…最早この状況を見据えての事だと思いません?」

 

「やめてよ陰謀論みたいなこと……」

 

 

 「合格しても発行時に寝てたら意味無し。追加不合格」って展開も脳裏を過ぎってたんだが、温情ある判断に助けられたな。

 

 寝込むのも想定済みな気がしてならないな、俺が捻くれ者なばかりに。

 

 …まぁこのままベッドで横になってちゃあ話は進まない。

 早速、念願の仮免を貰いに行こうか。

 

 

「動けそうだったら着替えて来なさい。終わったらそのまま向かって良いから」

 

「はい、身体は全然────……っ」

 

「どの口が言ってるのよ。支えましょうか?」

 

「大、丈夫です……!」

 

 

 意地張っただけ、実のトコロ滅茶苦茶キツイ……!

 

 踏み締める力すら引き出せずに腰を下ろしてしまった。

 寝りゃ回復するものでもない。…にしても“Energy FullCowl”の反動は馬鹿にならないな。

 

 差し伸べるミッドナイトの手を断るのも忍びないが、折角待ってもらった受付に肩を借りて現れるのはちょっと情けなさ過ぎる。

 この身一つで歩けない様なら仮免剥奪されたっていいさ。

 

 

戦闘服コスチュームもボロボロじゃない、コレ羽織っていきなさい。後で返してよね?」

 

「ありがとうございます」

 

「無理そうだったら休み休みでね? 次倒れたら知らないから…」

 

「流石にしないですよ。じゃ、行ってきます」

 

「────……待って」

 

 

 不安を煽らない様に平然を装ってると背後から呼び止める声が。

 デジャヴを感じるな、試験前にも似た流れがあった筈。

 

 違うのは………ミッドナイトの纏う雰囲気だ。

 

 

「まずは仮免取得おめでと。でもその前に約束して」

 

「何でしょうか?」

 

「のめり込み過ぎないで」

 

 

 …その一言で、俺をどこまで見透かしてるのかが理解できた。

 

 

 

「…初めて会った時から心配はしてたわ。駄目だったのは圧倒的な行動力ね」

 

「他人に頼るべきこと・失敗しても良いこと、そーゆーのを全部自分の力で乗り越えてきたんでしょ?」

 

「だから貴方は加減を知らないの」

 

「胸にあるソレも万能ではない。代償があるから今の状況でしょ?」

 

「無限の可能性を秘めていようと、貴方の命も学生としての時間も有限なの」

 

「少なくとも、学校生活との両立が無理なら辞めて」

 

「夏休みや文化祭だってあるもの。学生なら遊びなさい」

 

「夢の為だけに生きて他の生き甲斐を失うのは、“教師”として見たくないもの」

 

 

 

 紡がれた言葉は、先生らしい優しさだった。

 

 俺がやってきた事を頭ごなしに否定せず、選択肢を広く持つように促す。

 “高校生”の本分……ソレを絶対条件とさせる為に

 

 渋谷の一件でも我先に怒ってくれたのは今も忘れてない。雄英に入る前から俺が持つ『天蟲久悟の息子』としての側面以外も考えてくれた。

 どこが“18禁”なんだろうな、誰よりも学生に配慮してるじゃないか。

 

 

 

「それだけよ。行ってきなさい」

 

「………ありがとうございました。行ってきます」

 

 

 譲れないモノもある。背負ってる期待もある。

 だからといって、先生ミッドナイトの想いに応えなきゃ生徒失格だ。

 

 

 

 

 …さぁ行くか。一先ず残りの仕事を終えてこよう。

 

 羽織ってるこのトレンチコートを早く返しに行かなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────……以上です。お受け取り下さい」

 

「どうも」

 

 

 結構な行程踏んで、やっと念願のブツがこの手に。

 

 …顔写真が変になってしまったな。

 多少は身だしなみを整えたが、身分証明には不釣り合いの汚れた面構えだ。

 時間も時間だし流れに身を任せたので今更だけども。

 

 

「このまま右手の入口から次の受付に向かって下さい」

 

「案内だとココで受付終了だとあったんですが……」

 

「今回の登録は前例が限りなく少ない為、渡すべき資料を次の部屋で」

 

「成程」

 

 

 言われてみれば確かに。

 ひと時代前なら早期所得も居たらしい。…しかし、その話はヒーロー教育の基盤が定まってなかったのと犯罪率もヤバかった時代の事だ。

 

 俺のせいで受付の方々も待たせてたんだし早く行くか。

 

 

 

 促された方の扉を通り抜けると………やけに暗いな、本当に入っていい場所だったかココ?

 奥に机周辺を照らす小さい照明のみ。到底人を呼び込む空気じゃない。

 

 …まだ身体の節々が痛いってのにサプライズはよしてくれよ。

 

 

「(嫌な予感がすr……──────

 

    ガチャ

 

 

  「お座り下さい」

 

 

 背後で誰かが鍵を閉めた音、加えて着席を促すまた別の誰かの声。

 

 気配は2人。尋常じゃない状況だがさっきの声には憶えがある。

 聞くだけで緊張する様な重苦しい声音、マイク越しに聞かないと更に迫力あるな。

 

 …確認の為に目を凝らしてると思わぬ声が。

 

 

「ほら椅子、立ってるのもやっとって感じでしょ?」

 

「────……ホークス?」

 

「やぁ。まー俺は寝てる間に見舞い行ったんだけどね~」

 

 

 誰が出てきても可笑しくない、なのに政府関係者が創り出した状況にプロヒーローが現れたら違和感を覚えてしまう。

 ニヤニヤしながら着席へと促されたがまずそっちを説明してくれ。

 

 急展開過ぎてまだ夢の中だと勘違いしてしまいそうになる。

 しかし残念な事に頬をつねる必要も無い、ホークスから喰らった傷が疼いて仕方ない。

 

 

「雑談は後で。所用を済ませましょう」

 

「…公門さん、でしたよね?」

 

「お憶えでしたか、自己紹介は必要無さそうですね」

 

「現状は全く吞み込めてないですね」

 

「ハハッ! そりゃそーだわ」

 

 

 会議室に揃った2人。正直、どっちかだけなら別に拒否反応は無い。

 警察に呼び出されて説教受けるパターンと似たような状況と思えば、公安の人間だろうと在り得ない話を持ち掛けてくる事は無いだろう。

 

 …もう試験の都合で“偶然”揃った流れはこの状況が否定してる。

 

 結局、俺の読みは当たってるのか? ホークスを俺に引き合わせたい理由があったのは確かなんだ。

 その説明を今になって種明かし………一旦、無闇な考察は控えよう。

 

 

「ふぅ……よく解りませんが何事ですか?」

 

「まず、此れから話す・伺う要件について。その全てがヒーロー公安委員会の名の下に在る事をご理解して下さい」

 

「じゃあ何故ココにホークスが?」

 

「未公表ですが、彼が公安直属だからです」

 

「────……は?」

 

 

 種明かしにしては斜め上をゆうに超える事実。

 

 ヒーロー公安委員会に属するプロヒーロー? 存在すら聞いたこと無いぞ。

 ソレさえ判れば確かに辻褄合ってくるが────……

 

 

「いきなり言うんすね。飛威炉君ビックリしてますよ?」

 

「立場を明確にしたまでです。別件で躓かれては進行速度を落とすだけなので」

 

「さいですか……まぁそーゆーこと。裏の顔って奴かな」

 

「今更ですがソレは俺如きが知って良いことで?」

 

「機密情報を開示しながら私達が貴方を『いち学生』としての評価に留めてるとお思いですか?」

 

 

 そこまで評価した上で……と気を許す程に単純な思考はしてないな。

 

 似た経験がある、オールマイトの件で。アレもヤバい話だが国家権力に関わる事実は別ベクトルだな。

 …自分が歩く道はいつも振り返るよりも先に危険な領域に踏み入ってしまう。

 

 

「この場に居る者を知るのは公安上層部のみ。先程の受付や貴方と応対した者以外は知り得ない状況となります」

 

「でもアレよ? アントガイ達は無関係だからね?」

 

「ホークスの件はトップヒーローすら知りません。…たとえ“No.1”であっても」

 

 

 えらく含みのある言い方だな、何故無関係のオールマイトの名を挙げた?

 他の情報共有者を探ってる状況でもないのにな。

 

 仮免受け取って終わるものをバレたら終わりの状況にして何が目的だ?

 

 

「天蟲飛威炉さん、貴方は御自身の立場を理解していますか?」

 

「と、言いますと?」

 

「世間では『次代の象徴』とも評される程です。15歳の少年に嘗てない迄の期待が寄せられています」

 

「……驚きましたね。説教されるかと思ったら褒められるとは」

 

「説教の予定は無いですが厳重注意に関しましては幾度も検討しています」

 

 

 次いで放たれたのは誉め言葉。

 袋叩きにされるよりかは良い待遇だが、まぁ何かしらの前振りにしか思えないな。

 

 しかし────……その謂れを公門さんが口にするか。

 

 上げて落とす算段にしても、末尾の言葉が持つ意味は国の上層部こそ理解してる筈だ。

 俺が目標として掲げてるのは最早幼稚な妄言に近い。オールマイトに並ぶには計り知れない道筋があるって目に視えている。

 注意など今更の話、この後の言葉が気になって疲れも吹き飛んだ。

 

 

「ホークス、直接拳を交えた貴方は如何評価しました?」

 

「いや~想像以上でしたわ。ハンデを考慮しても学生基準の遥か上、ってか大概のプロヒーローは歯が立たないレベルですよ?」

 

「具体的にお願いします」

 

「うわ厳し。じゃあ質問」

 

「何でしょうか?」

 

「あの技の時に言ってた『25%』、アレどーゆー意味?」

 

 

 聞かれてたのか俺の技、いつもは技を唱えない主義なんだが。

 

 そもそも自分自身の必殺技が知られてない以上、第三者からしたら25%という中途半端な数字に疑問を持っても変じゃない。

 勿論、適当に付けた値じゃない。“諸刃の剣”である事の証明だ。

 

 

「もしアレが正しいなら上昇率的に俺なんて目じゃないでしょ?」

 

「だと良いんですが、残念ながらそもそも不可能なんです」

 

「『100%』は出せないってこと?」

 

「“Energy FullCowlエネルギーフルカウル”は常時発動の為、引き出せる限界量がまだ低いんです。瞬間的な技であれば多少はイケるんですけどこっちも50%を超えると死が視えてきますね」

 

「聞いてはいたけどそれなりにピーキーな『個性』だねぇ」

 

「まぁその為の機動装甲服アーマードスーツって感じです」

 

 

 “全身に纏う”ってのがキーポイントだ。

 手足での単発発動とは訳が違う。エネルギー効率自体、戦闘面では良いってだけで確定で内訳4分の1を消費してるのと変わらない。

 100%なんて以ての外だ。ってか試した事すら無い。

 

 一度、特訓中に最大出力を試したんだが………放つ事が出来たのは60%いかない位のモノだった。

 マジで心臓が締め付けられた気がした。やはりと言うべきか、意思が如何であれ俺の身体が反射的に抑えようとするらしい。

 “Energy FullCowl”の発動限界もソレが理由だ。

 

 …母さんの件があって、潜在的にブレーキが生まれたのかもしれない。

 

 

 ってか俺の評価についてだったな……1つの技しか説明してないようなものだが、満足そうに頷いてるし十分だったか。

 

 

「ってことで、将来性込みで合格点あげてOKじゃないっすか?」

 

「良いでしょう。貴方がそう言うのならば」

 

「いや俺が認めんでも決めてたでしょ?」

 

「その様な事はありません。実践値は判断材料に最も適してます」

 

 

 堅い印象ながら思ったより打ち解けてるんだな、目の前で話してる人間の役職さえ忘れられれば緊張感も薄れてくれるってのに。

 まぁ第9位に好印象持たれたのは良い要素ではある。

 

 

「『合格』なら既に貰いませんでした?」

 

「仮免許の方ではね?」

 

「私達が述べているのは、貴方が“象徴”に足り得るか如何かです」

 

「…いささか時期尚早な話ですね」

 

 

 『将来有望だね』────……で話が終わると端から考えてなったが、また想像以上の話題に切り替わってしまった。

 

 その2文字、只の称号ではないのを身に沁みて理解してる。

 

 日本の平穏を固辞し続けていられる絶対的理由。

 そして、サーが俺に見据えているモノ。

 

 …彼がたかが高校生に見出そうとした真意を知ってしまったのがな。

 No.1が実はボロボロだったなんて………真っ先に脳裏を過ぎったが口外も出来ない話、言えるとすれば至極単純な反論だけ。

 

 

「第一に、オールマイトが現役ですし」

 

「何年戦士かご存知ですよね? 彼の多くが謎でも不老不死な訳がありません」

 

「それはご尤もですが……だからってその話を学生に持ち掛けるのは違いませんか?」

 

「違うのよ。今だからこそ、確認する価値がある」

 

 

 やけに強調するタイミングの意味が気になる。楽観的なイメージのあるホークスでさえ、面白おかしく評価を述べてたのは一変して真剣そうな目になった。

 誰だって思い当たる返答すら、まるで聞く耳を持たない様子。

 

 『今』? 何を急ぐ必要があるんだ、って……────

 

 

────……あぁ。必要・・は実際あるな。

 

 だが流石にバレては居ない筈、他のナニカが彼らを囃し立ててるんだろう。

 

 

「多分、どーやったってオールマイトみたいな“突然現れたニューヒーロー”は今後出てこないね。飽和状態も相まって目新しさは薄れる一方だし」

 

「ホークスは該当しませんか?」

 

「俺は上に立つタイプじゃないって。ってか仕事柄両立するのは不可能に等しいかな」

 

「No.1に諜報員は酷な任務ですから」

 

 

 キッパリ断られたんだが、別に間違った案では無いと思う。

 事実、この若さで頭角を現したにしては華々しすぎる。

 

 しれっと重要任務の一端を紛れ込まされたのは一旦無視して、俺の何所をそこまで評価してくれるのかに耳を傾けよう。

 

 

「第二次選考や逃亡犯の件でも発揮された俯瞰能力。学生時点であのレベルは類い稀なる力でしょう」

 

「…プロヒーロー2人を寄越さなきゃもう少し上手く動けましたね」

 

「ハハハッ! 言うねぇ~」

 

「現状を理解した上で臆さず居れるその胆力も評価しています」

 

 

 皮肉だな、だからと言ってへりくだる気も無いが。

 

 単に俺の戦闘面のみを評価してる訳ではない様だな。

 ソレこそ人の上に立つって話なら語るべき要素は沢山、褒めてくださった判断力・メンタルが正にその通りだ。

 寧ろ……俺が誇れるのはまだそっちの方だと思ってる。

 

 

 しかしながら、俺だってそんなモノで辿り着く域だと思ってない。

 

 一息ついて公門さんが続きを話し始める。

 

 

「第一に、純粋な実力について。判断基準を設けていましたが最優先ではありませんでした」

 

「重要なのは支持される程の“求心力”があるか」

 

「『平和の象徴』に成るならソコ抜きでは語れません」

 

 

 求心────……言わばカリスマ性か。

 

 

 オールマイトには溢れんばかりに秘めたソレ。

 

 太陽のような明るさに由来する力が、この国の平穏に直結してると言っても過言ではない。

 

 

 …絶対に俺は手に入れられないモノと自覚してるんだがな。

 

 

「人を惹きつける力は一朝一夕で手に入るモノではありません。ましてやトップに立つなら尚更です」

 

「俺だってオールマイトとスタートラインは同じ、でもあの人の持つ“華”には到底及ばないってのは解るでしょ?」

 

「プロヒーローになってから日の目を浴びるのでは遅い。学生時点で相当な認知度は不可欠、出来れば生まれも育ちも知られてる程度には」

 

「大企業“A.R.C”発足者の息子、雄英入る以前から事件解決、体育祭ダントツ優勝。他にもあるけどコレだけやってやっと世間に後釜の風潮が生まれたのよ?」

 

 

 気分良く捲し立てられたが、唱えたい理屈は解った。

 …伊達にこの名・・・を背負って生きてきていないんでな。

 

 サーだって俺に可能性を見出そうとしたキッカケは同じ。

 知名度を上手く利用する腹積もりであれば、『悪目立ちもしてる将来有望の2世』こそ求めてたモノに相応しいってのは否定できない。

 まぁ、その程度で釣り合ってくれるなら目標達成も楽だが。

 

 色々と疑問が湧いておいて、どーでもいいトコロから突こうとしてしまう。

 

 

「テレビじゃ大多数が過大評価と言ってましたが……」

 

「んなの気にせんでいいって、それに君ってばり面白か! 公の場で謙虚に振る舞ったと思ったら大口ビッグマウスかますし。そーゆー奴だから良いも悪いもメディアは好むのよ」

 

「君に近い年齢で似た言動を執る者も多数存在しましたが、大概が実力も伴わずに世間からの注目を失います」

 

「『夢にオールマイトの名を語る若手ルーキーは大成しない』。そんな定説も界隈にはある訳でね~」

 

「俺の夢は聞かないんですか?」

 

「君はそもそも私情を優先しないタイプでしょ?」

 

 

 ………間違ってはいない。

 人を救う為ならエゴは捨てるべきだと思ってる。

 

 出来るかは置いておいて・・・・・・・・・・・だがな?

 

 結局のトコロ、俺の意思など鉄の掟とは程遠い。

 好きな人を諦める道を進む勇気は湧いてこなかった。…勿論、全く後悔はしてないってのもあるし。

 

 しかし、国を想っての提案をして下さってる方々は知る由も無い話。

 

 

「“象徴”とは自然発生的に生まれる者であるのは事実ですが、政府が全く関与しなかった存在に情勢が傾くのは好ましくない展開です」

 

「オールマイトはそんなタイプじゃなさそうですね」

 

「まずヒーローへの政治的介入はご法度……まぁ正確な法律は無いけど」

 

「じゃあ俺への関与は問題になるのでは?」

 

「『介入』とは当人の意思を捻じ曲げる行為。私達の話を聞いても、貴方の目指すモノ自体は変わらないでしょう」

 

 

 だいぶ屁理屈が過ぎないか?

 犯罪スレスレみたいな口振りだし大層な提案にしてはある意味歪んだ形じゃないか。

 

 そこまでして何故………いや、期待の表れでもないなコレは。

 

 

「…要するに聞き分けの良い俺を早めの内に言い包めたい訳で」

 

「いやいや、そんな悪い風に考えんでいいって」

 

「何らかの契約を取り付ける気はありません。元々、思慮深い貴方であれば素直に頷くとも思っていません」

 

「秘密保持契約書は必要だけど。この話バレたら終わりだし、主に俺が」

 

 

 だろうな。全員ヤバいが特にホークスは沽券に係わる筈、『2つの顔を持つ』みたいな格好良い捉え方する様な能天気社会ではない。

 俺だって失うモノがない訳じゃないし秘密は守るさ。

 

 ……ホント、隠し事ばっかりで困るよな。

 

 

 

 強制もしない。洗脳する気も無い。

 

 ただココで駄弁って終わりか?

 出た情報とやり口にしちゃ、俺の肩身を狭くさせただけだな。

 

 

「今回は天蟲飛威炉本人の心中を訊ねるのが目的です。精神性こそ最も英雄に必要な素質、開示した上で貴方が『何』を思うかを伺いたい」

 

「……………」

 

「勘繰られても致し方無い状況ですし、悪く捉えられても構いません」

 

「『迷惑です』とかで良いからね? でもまぁ……君なら面白い返答しちゃうんだよなー」

 

「…見世物気分の者は気にしないで、貴方の率直な想いを今。今後の展望でも覚悟でも何でもどうぞ」

 

 

 まるで面接だ。それも面白いモノ見たさ満々の面接官も一緒のな。

 

 『何でも』ってのが特に厄介な話。

 求めている言葉を推測する隙も無いし、サー相手でも然り人を楽しませるユーモアセンスに毛ほども自信が無い。

 さぁ、どう答えりゃ角が立たないか………──────

 

 

 

 …違うな。遠慮が一番要らないんだよ。

 

 

 

「率直に言うと────……特に何も思わないです」

 

「俺の人生の最優先事項は自分で決める、そう決めてるんで」

 

「“HArP”も俺の意思を尊重した前提がある計画です」

 

「現状、敷かれたレールの上の人生っていう自負はあるんですが」

 

「圧し掛かる多くの重責も全て応えて且つ、俺のやりたい事やるべき事も全部やる」

 

「その道筋の先にあるのであれば……甘んじて引き受けますよ」

 

「ですが、政府だろうが俺を只の言いなりに出来ると思わないで頂きたい」

 

「『国の傀儡に成っても人を守れるなら』」

 

「ってのはソレこそ“象徴”に相応しくない考えだと思ってます」

 

 

 

 挑発と思われたって良い。舐められたら終いだ。

 

 俺は元より……国に命を捨てる為にヒーローを志していない。

 家族が安心して過ごす為の存在を目指したまで。

 

 ましてや“象徴”を密かに掲げるようになったのはサーからの受け売りだ。

 そっちは知らないだろうが先客がいるんだ、もし提案通りの事を公言したとしてソレを自分たちの手柄だと思われるのは癪だな。

 

 向かう方角は同じでも二つ返事での肯定は要らない従順精神を示すだけ。

 

 指示すれば従うと見做されて今後のプロヒーロー人生、ひいては計画も込みの父さん達の未来予想図に支障を来したくない。

 …少しでも政府の匂いを勘付かれたらサーに見抜かれかねないってのもある。

 

 まぁ重要なのは俺の意思だ。誰の為に生きるか、その証明だった。

 

 

 

 

 

 後は適当に受け答えして、暗闇に包まれた部屋から解放された。

 

 満足する回答だったかは知らん。

 つまらなくはない様に応えたつもりだ。ここ最近の経験が活きたかもしれない。

 

 振り返る事無く退出したが────……頑なに表情を変えない公門さんの口元が微かに緩んだ様に見えたのは、俺の希望的観測かもな。

 

 

 そして、離れた後に『何』を話してるかも知る筈が無い。

 

 

 

 

「どーです? 突っぱねられましたけど」

 

「私達の審美眼に曇りは無かった様ですね」

 

「おぉ……初めて見ましたわ、そんな嬉々とした顔」

 

「期待しておきましょう。いずれ来たる新時代に」

 

「公門さんって思ったよりポエマーっすね」

 

「仕事、増やしておきましょうか?」

 

「ハハッ。さーせん」

 

 

 

 

 

 

 

 

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